クレジット・カード規制、米消費者保護が裏目に

by • September 13, 2010 • NY TipsComments (0)1266

私のお仕事アーカイブ

※仕事向け原稿を時間差で更新したものです。通常の書き込みとは全く異なりますので、あしからず。


~規制の目をかいくぐり、カード会社は収益確保を目指す~

オバマ米大統領は5月22日に「クレジット・カード責任・責務および開示法」、通称カード・アクトに署名した。消費者保護が目的であるため、1)適切な理由なしでの金利引き上げ、2)金利手数料の引き上げを45日前までに通知、3)新規発行の金利を6カ月維持、4)請求書送付は従来の14日前から21日前――が盛り込まれている。しかし、クレジット・カード会社は金融危機から派生した景気鈍化および労働市場の減速を受け、引き続き債務滞納に悩む状況。規制厳格化がさらなる収益の落ち込みを示唆するなか、カード会社は規制の網の目をくぐる苦肉に策をろうしており、消費者にとって裏目に出る結果を招いている。

クレジット・カード平均金利、9年間で最高を示現

 米国債の利回りは足もとブルフラットニングが一服したとはいえ低下基調にあり、企業や消費の支出も利回りに正比例して下向きが懸念されている。しかしこれらに反比例して上昇を示すもの、それがクレジット・カードに課される金利だ。

23日付けウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙によると、5月22日にオバマ米大統領が署名したクレジットカード支払い遅延に関する罰則金制限に対応するため、クレジットカード会社は金利を引き上げることで収益確保を目指しているという。すでに4-6月期のクレジットカード平均金利は14.7%となり、前年同期の13.1%から上昇。9年の間で最高を示現しており、今後も上昇する可能性が高い。

消費者保護を目的としたカード・アクトでは、金利引き上げに規制を掛ける内容を盛り込んだ。たとえば債務不履行に関する罰則金は35ドルに制限され、また残高繰越や不払いにおける金利引き上げも45日前に警告する必要がある。一方で銀行をはじめ、カード発行会社は債務不履行にも悩まされている状況に変わりはない。

オーリーマ・コンサルティング・グループのデータによると、カード会社は2009年に10億ドルもの損失に直面した後、2010年は規制強化に加え、景気鈍化に伴う消費減速を受け収益は40億ドルにとどまる見通しだ。2006年や2007年で達成した四半期ベースでの最高収益である180億ドルには、遠く及ばない。

従ってカード会社側は、新規発行のカードにおける金利の引き上げ、年会費の引き上げなど、収益を確保するため規制の網の目をくぐる苦肉の策をろうしている。ここに、消費者の信用枠を縮小させるような罠がひそんでいるのだ。

↓カード・アクト、カード社会の米国を変えるかも?

My Big Apple

カード会社、無知な消費者を狙い撃ち

7月31日付けのWSJ紙やケーブルTV局CBSなどが問題として取り上げていることの第一に、低信用向けのクレジット・カードがある。学生や低所得者層など、米国消費者の信用枠を決定する信用スコアが低い消費者へのクレジット・カードなだけに、限度額は数百ドルと非常に設定が低い。しかし、クレジット・カードを始動させるにあたって査定額が課され、これがすでに100ドルオーバーとなってしまうというのだ。つまり設定してすぐに限度額を超えるリスクが隠されており、罰金まで課されるという憂き目に遭いかねない。

カード・アクトによって支払い遅延の厳格化に伴う弊害も発生しつつある。これまで支払い予定日が日曜だった場合は翌月曜に適用されていたが、今後は金曜日までに支払わなければならない。遅延した場合は罰則金につき30ドル以上支払う必要が生じる上、将来課される金利も引き上げられてしまう。 さらに使用していないカードに手数料を徴収する合法的な仕組みも出来上がっており、カード・アクトの詳細を知らない無知な消費者から利益をむさぼることが可能となっている有様だ。

ストア・カードと呼ばれる小売店と提携したカードにも、トリックが隠されている。小売店で買い物する場合、対象の小売店提携のクレジット・カードを発行すれば15%オフなどが売り文句となっているため、さらに消費者の誤解を招きやすい。なぜなら、金利は実に20%を超える場合が多いためだ。割引で買えた商品に、割引率以上の金利が課されてしまっては本末転倒だろう。また低信用スコア向けのカードとほぼ同じことだが、利用枠の低いカードが多いこともあって信用スコアに打撃を与えかねない。

フェア・アイザック・コーポレーション(FICO)など、信用スコアを計算する手法にカギが隠されている。仮に利用枠が1万ドルで500ドル使用するなら問題はないが、限度額500ドルで500ドル使用してしまえば、FICOは不払いリスクのある消費者として判断されるためだ。信用スコアが低下すればカードに付与される金利の引き上げに加え、設定枠の引き下げという負のスパイラルに落ち込みかねない。消費者保護という大義を受け鳴り物入りで導入されたカード・アクトだが、知らず知らずに消費者に負担を強いる皮肉な結果をもたらしつつある。(了)

↓地下鉄の駅にあるゴミ箱に、「Debt=債務」の重いメッセージ。

My Big Apple

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