Connecting With ‘her’, A Touching Experience.
つい最近、フェイスブック上でこんな動画が話題をさらっていましたね。スマートフォンで目的地を探る男性が女性に助けを求めるところから始まるラブストーリー・・・に見せかけ、「スマホを見つめていただけでは出会わなかっただろう2人」とのオチを用意していた、あの動画です。スマホ中毒の現代人に、ネット上の誰かではなく身近な人とつながる重要性を伝えていました。
6月1日時点でユーチューブにて4158万回を超えるビュー数を数え、フェイスブックでも125万回シェアされたこの動画を見て、映画「her 世界でひとつの彼女」を思い出した方も少なくないでのは?ビーステイ・ボーイズ、REM、ビョークなどのミュージック・ビデオで頭角を現した奇才スパイク・ジョーンズ監督自身が初めてシナリオも書き下ろし、見事アカデミー「脚本賞」を受賞した、あの作品ですね。
場所は、近未来のロサンゼルス。長年連れ添った妻から離婚を突きつけられた代筆ライターのセオドアは、ひょんなことから人工知能(AI)型のOSを購入する。サマンサと名乗るOSはセオドアとのやり取りを通じ知能が改良され人間味を増し、いつからか惹かれ合う1人の人間とOS。奇想天外なラブストーリーが始まる。
日本で話題の二次元恋愛にインスパイアされたのか想像してしまう今作品(ジョーンズ監督は菊池凛子の元彼)、恋はスペックで始まるものではないと教えてくれます。主人公セオドア扮するホアキン・フェニックスの表情は、サマンサを演じるスカーレット・ヨハンソンの声でどんどん生きる喜びを見出す。サマンサ自身も身体がないだけで人間のように「感じる=feel」ことを覚え、あたかも女性のように振る舞う。必要なのはお互いを知ろうとする意欲、他愛のない会話、相手を思いやる心——恋、もっと言うなら「つながり」の意味を考えさせてくれます。
撮影場所に選んだ上海は浦東(プドン)の近未来的な街並とあえて対照的に、なぜか登場人物の髪型からファッションまで、ジョーンズ監督が多感な子供時代を過ごした70年風ノスタルジーに満ちています。どれほど時が流れてテクノロジーが進化しても、まるで「人は変わらない」と訴えかけているかのよう。
とはいえ上海の浦東の空にかかるスモッグのごとく、人間とOSとの恋の見通しは良好はとはいえず。理解してくれる周囲に恵まれても「1対1」で向き合えないなら、リレーションシップは成立しない。映画は、普遍的な真理を突きつけます。
セオドアの笑顔と対照的に、空はあくまで混濁したまま。
(出所 : MSN movies)
テクノロジーは毎日進化し続け、フェイスブックが「聞き耳」機能を加えたように人々の生活は快適さを増していきます。しかし、人間はいつまでも人間なのです。ジョーンズ監督は、やわらかい描写とやさしい目線で主人公セオドアを描きながら、「つながり」の意義を問い掛ける。出演者がジョーンズ監督作品なだけに豪華なせいもあって、何度も観たくなる良作です。
見終わってから、ふつふつとわき起こる疑問が、これ。AI型OSの名前が、なぜ「サマンサ」だったのか。
アップル・ファンならピンときましたか?そう、Mac上にて音声認識機能のうち選べる声のひとつが「サマンサ」。iPhoneのiOS「Siri」が、「サマンサ」に相当するんですね。気になる方は、こちらをご覧下さい。
音声認識の声は、以下のように選べます。
(出所 : Redmondpie)
もうひとつの理由として、サマンサ役に最初に抜擢された女優が映画「マイノリティ・レポート」で知られるサマンサ・モートンだったことが挙げられます。全編を通じ吹き替えを行ったものの、ジョーンズ監督は納得できず、スカーレットに変更してしまったんですね。それでも、役柄はサマンサに敬意を表して残したんだとか。確かにセオドアの隣人役の女優エイミー・アダムスもそのままの名前で登場していますし、ありえるお話です。
(カバー写真 : IGN)
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