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6月ベージュブック、下方修正が目立ち利上げをサポートせず

by • June 5, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off3061

Et tu, Beige Book? Probability Of June Rate Hike Falls.

6月1日に公表されたベージュブックを、遅ればせながらおさらいしていきます。

米連邦準備制度理事会(FRB)が13日に公表したベージュブック(4月8日から5月23日までカバー)は、引き続き経済活動の拡大を確認した。ミネアポリス地区連銀がまとめた今回のベージュブックでは総括として、地区連銀は経済活動が「控え目(modest)に成長した」と明記した。前回の「控え目からゆるやか(modest to moderate)」から変更し、2014年12月以降続けている「経済が拡大し続けた(continued to expand)」から小幅に下方修正した。全般的に個人消費をはじめ製造業、労働市場など前回から下方修正が目立つ。米5月雇用統計が予想外に減速したように6月14~15日開催のFOMCで利上げを行う可能性は、ほぼゼロと判断されよう。

(経済全般)
地区連銀は概して「控え目(modest)」なペースを報告していたという。「控え目(modest)」と表現した地区連銀はフィラデルフィア、クリーブランド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリスの6地区連銀と半数を占め、「ゆるやか(moderates)」な拡大ペースを報告した地区連銀はサンフランシスコのみだった。カンザスシティは「鈍化した(slowed)」とも指摘。ダラスは「ごくわずかなペース(marginally)」とし、NYは「横ばい(flat)」にとどまったという(筆者注:ボストン、リッチモンド、アトランタは明記なし)。一方、企業が現状あるいはそれ以上のペースで業績が拡大すると報告したため、複数の地区連銀は概して明るい見通しを描いていた。

(ドル高をめぐる表記)
ドル高をめぐるネガティブな表記は総括を含め2回にとどまり、前回の3回から減少した。貿易加重平均でのドル実効相場が3月1日の123.56から5月2日に118.18と2015年7月以来の水準へ低下するなど、ドル高圧力が幾分後退したためとみられる。地区連銀からのドル高への言及は2行のみで、前回の3行から減少。以下のように言及されており、今回はクリーブランドとダラスが消えたもののサンフランシスコが新たに登場した。

・ボストン「製造業の11社のうち5社がドル高を売上を減少させたあるいは向かい風要因と指摘した」
・サンフランシスコ「ドル高が農業の輸出を全般的に押し下げ続けた」

ドル実効為替レートは、上昇に一服感。
dollar
(作成:FRBよりMy Big Apple NY作成)

(中国)
中国というキーフレーズが登場した回数は2回で、前回の1回から増加した。ただ2015年7月に初めて中国が盛り込まれた当時の8回、以降2015年12月までの6回を下回り続けている。前回に続き言及したボストンは、9月に予定する20ヵ国(G20)地域首脳会合を控え、6〜8週間にかけ大気汚染改善を目指し工場が閉鎖される影響を懸念していた。新たに中国の名前を挙げたアトランタは好材料として挙げ、中国の安定的な需要を背景に豚肉の価格が上昇したと説明した。

(全体のキーワード評価)

今回、総括部分で使用されたキーワードの登場回数(同じ単語の変化形を含む)は以下の通り。全体的に「増加した」、「強い」が減少し、 「弱い」や「控え目」が増加するなど楽観的な評価が後退した。3月から投入された注目の「不透明(uncertain)」は、2回連続でゼロとなった。初めて挿入された当時は金融市場に対して3回登場したが、米株高を背景に懸念が後退したようだ。ただ地区連銀では、2行が使用。フィラデルフィアが小売に関して、クリーブランドが製造業と銀行から経済をめぐって明記していた。

「増加した(increase)」→23回<前回は27回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→8回<前回は11回
「緩やか(moderate)」→10回>前回は8回
「控え目(modest)」→13回>前回は8回
「弱い(weak)」→8回>前回は4回
「底堅い(solid)」→1回<前回は4回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不透明性(uncertain)」→ゼロ=前回はゼロ回

主な項目の詳細は、以下の通り。

(個人消費)
個人消費と観光は多くの地区連銀で「控え目に増加した(up modestly)」とし、ほとんどの地区連銀が「穏やかに拡大した(increased modestly)」から地区連銀の報告数が増加した可能性を示唆した。もっともボストン、クリーブランド、ミネアポリス、ダラスの4行は「まちまちあるいは横ばい(mixed or flat)」に過ぎない。NYのみ「弱まった(weakened)」という。平年を下回る春の気温が売上を押し下げたとの報告はボストンをはじめNY、フィラデルフィアで聞かれた。

(製造業)
製造業活動は全体的に「まちまち(mixed)」となり、前回の「殆どの地区連銀で拡大した(increased)」から下方修正された。リッチモンドは「概して増加した(increased on balance)」と報告し、アトランタは「力強さを維持した(remained strong)」だったとはいえ、クリーブランドをはじめシカゴ、ミネアポリスは「控え目(modest)」にとどまった。ダラスは「わずか(slightly)」に拡大したに過ぎず、サンフランシスコは「横ばい(flat)」で、NYやフィラデルフィア、セントルイス、カンザスシティの4行に至っては「低下した(fell)」という。製造業の見通しはフィラデルフィアやクリーブランド、アトランタ、カンザスシティの4行で「改善(improved)」した。ボストンやセントルイスでも、「前向き(positive)」だった。

(労働市場、賃金、物価)
労働市場は、「控え目に増加した(grew modestly)」とし、前回の「力強さが続いた(continued to strengthen)」から下方修正された。ただし、地区連銀の間で労働市場のひっ迫は幅広く指摘された。リッチモンドは求人の伸びは「ゆるやか(moderately)」だった一方、一定の労働者の不足が続いた。ボストンでは派遣需要が「活発(robust)」で、特殊技能職で顕著だあった。アトランタやリッチモンドでは特殊技能職のほか、低賃金の職でも人材不足を報告している。NYでは、製造業とサービス業で採用増かの可能性を指摘した。一方でクリーブランドをはじめアトランタ、ミネアポリス、カンザスシティ、ダラスではエネルギー関連での採用が「軟調(soft)だった。

賃上げ圧力は全般的に「ゆるやか(moderately)」で、労働市場のひっ迫が確認される分野で説くに目立った。ただし、前回の「アトランタを除く全ての地区連銀で拡大(increased)」し、複数の地区連銀は前回から賃金の伸び改善(pickup in wage)を挙げた」から下方修正された。表現が引き下げられたとはいえ、新人から低賃金まで賃上げが確認された地区連銀はリッチモンドとアトランタの2行だった。サンフランシスコでは最低賃金の引き上げが低賃金の職業に波及したという。NYではサービス産業の多くで賃上げを確認、セントルイスでは3分の2以上の人事担当から過去数年間で最大幅で賃上げを実施したとの報告が上がった。もっともカンザスシティでは「ごくわずか(only slight)」で、ダラスはエネルギー関連が抑制し「最低限(minimal)」にとどまった。

物価上昇圧力は「わずかに(slightly)」に収まり、前回の「控え目(modestly)」から下方修正された。多くの地区連銀は建築材の物価上昇を挙げており、クリーブランドはその一つ。フィラデルフィアは消費者向け販売価格が「大差なかった(no significant change)」とまとめている。NYは製造業とサービスともに「ほぼ変わらず(little changed)」。サンフランシスコはネット小売進出に伴う競争圧力の拡大から、食料品店などでの価格が「抑制された(held down)」。

(建設、不動産)
建設と不動産活動は、「全般的に拡大した(generally expanded)」。見通しも全体的に「前向きであり続けた(remained positive)」。商業不動産活動はフィラデルフィアをはじめリッチモンド、ミネアポリスの3行で確認された。また、開発計画を数多く報告した地区連銀はクリーブランドで、アトランタは受注残が1〜2年間に及ぶと指摘した。住宅販売はボストンのほかクリーブランド、カンザスシティ、サンフランシスコで「力強い(strong)」動きをみせた。住宅不動産は「前向き(positive)」だったものの、その他の地区連銀では「低下(lower)」したという。

(銀行、ファイナンス)
全般的にローン需要は、ダラスを除き「ゆるやかに上昇した(up moredately)」。アトランタは、エネルギー関連を除いて「力強い需要(strong demand)」を報告。シカゴの企業融資需要は前回とほぼ変わらず、住宅不動産ローン需要はNYをはじめリッチモンド、セントルイス、サンフランシスコで確認できた。

(エネルギー、農業関連)
エネルギー関連は原油価格が50ドル台を回復する過程にあったにも関わらず「弱いまま(remained weak)」で、前回の「まちまち(mixed)」から下方修正された。石油・ガスの掘削活動はミネアポリスをはじめカンザスシティ、ダラスで「減少(decrease)」した。クリーブランドなど天然ガスの掘削は「ほぼ変わらず(little changed)」だった一方、需要が高まるなか生産は過去最高水準近くにある。リッチモンドでは前回から天然ガスの掘削が「増加した(increased)」。リッチモンドでの石炭生産は「変わらず(unchanged)」だったものの、セントルイスとカンザスシティでは「減少(decrease)」した。クリーブランドとダラスは、天然ガスと原油の価格が戻り局面にあることから、「底打ち(bottomed out)」を見込み楽観的な声が聞かれた。

農業は多くの地区連銀で「明るい見通し(promising)」との報告が聞かれた。前回の全般的に「まちまち(mixed)」から、上方修正されている。ただし、商品先物価格が下振れしているため、農業収入を圧迫した。

――全般的に各項目の総括は下方修正されており、5月にサンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁やアトランタ地区連銀が6月利上げを示唆するほど強い内容でありませんでした。確かに詳細を拾うと明るい記述もあるため一概に悲観的とは言えませんが、それでも6月利上げをサポートする表現とは言い難い。年1回の利上げで慢心するマーケットに喝を入れたかっただけ、と解釈されてもおかしくありません。

特に、米5月雇用統計が目も当てられない数字であれば尚更です。英国の国民投票も控えるなか、6月利上げの可能性は遠い地平線の向こうへ消えてしまったも同然。米6月雇用統計が余程強い数字でなければ、7月利上げすら怪しい状況です。

(カバー写真:Raymond Cunningham/Flickr)

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