Clinton’s Acceptance Speech And Trump’s Mistake.
東京都知事に小池百合子氏が選出される約1週間前、民主党全国大会でヒラリー・クリントン前米国務長官が正式に大統領候補として指名されました。女性として、初の快挙です。
演説では、トランプ候補のスピーチを意識した構成となっていました。例えばトランプ候補の「I alone can fix it(私一人で解決できる)」との発言を踏まえ、「『私一人で解決できる』という人間を我々の多くは信じない・・・アメリカ人は『私一人で問題を解決できる』とは言わない。『私たちは共に解決するだろう』と言う」。また、イスラム教徒の入国禁止案に対し「我々は宗教を禁じない。全てのアメリカ人は同盟諸国と協力してテロと戦い、打ち勝つだろう」と語ります。
遅ればせながら、受諾演説のファクトチェックはこちら。ニューヨーク・タイムズ紙から取り上げます。
(経済)
「民主党が政権を取ってから経済は力強くなり、新たに民間の雇用を1500万人創出した」・・・○
→2010年9月で雇用統計の非農業部門就労者数は減少に歯止めを掛け、これまでに1480万人増加し過去最長の増加トレンドを形成している。
(医療保険制度改革)
「これまでに2000万人以上が医療保険制度に加入している」・・・△
→米保健福祉省の調査では、2000万人近いアメリカ人が医療保険制度改革を受けて加入済み。しかし、同法の影響で加入済みの負担が著しく上昇したとの批判にもさらされている。
(格差社会)
「90%以上の富が上位1%へ向かった」・・・△
→2009年から2012年の間ならば、カリフォルニア大学バークレー校のサエズ教授によると上位1%は全米世帯の所得の伸びの91%を占めた。しかし、2009〜15年に上位1%に流れた富は全体の52%に縮小する。
(自動車業界)
「自動車業界は、過去最高(の販売台数)を記録した」・・・△
→2015年に米国の新車販売台数は前年比5.4%増の1740万台と、過去最高を達成した。しかし年初に入ってからは販売台数のペースは鈍化し、米自動車メーカーのビッグ3のシェアや従業員数は過去と比べ低い。
間違いはありませんでしたが、全体的に事実を引き合いに出すことが少なかったのも勝因でしょう。
民主党大会と言えば、イラク戦争で命を落としたパキスタン系イスラム教徒の米兵フマユン・カーン大尉のご両親が登場し大いに注目を集めましたよね。父親で弁護士のキズル・カーン氏は壇上で「あなたはアーリントン墓地に行ったことがあるのか?あらゆる信仰、性別、民族を見ることができるだろう。あなたは何も、誰も犠牲にしていない」と発言。トランプ候補に痛烈な一撃を放ちました。
心を揺さぶるスピーチに、メディアがこぞって取り上げたものです。
(出所:CNN)
トランプ候補の切り返しは、非常にまずかった。確かに亡くなったカーン大尉を英雄と讃えたものの、「(父親であるキズル・カーン氏の)奥さんが何を言うのか聴きたかったね」とイスラム教徒が女性蔑視であると言外に盛り込んでしまい、非難轟々の嵐を招いたのは言うまでもありません。
ミッチ・マコーネル上院院内総務とポール・ライアン下院議長は、声明でカーン大尉と家族に称賛、感謝、尊重の意を表明し火消しに動いたものです。トランプ候補の名前は、一度も登場していません。ベトナム戦争で負傷した経験を持ち2008年の米大統領候補だったジョン・マケイン議員に至っては、トランプ候補を非難する声明を発表。「(トランプ氏の)発言が共和党並びに幹部、候補者を代表する見解ではないと、アメリカ市民が理解することを望む」と明確に線引きしています。マケイン議員は、トランプ候補が正式指名された場合に支持する意志を表明していたのですが・・。
マケイン議員の声明より、個人的にはこちらのニュースも見逃せません。共和党の支援者として有名な大富豪のチャールズ・コック氏がトランプ候補を支持しないと明言しただけでなく、大統領選ではなく上院選に注力すると方針を打ち出したというではありませんか。強力な後ろ盾を失いながらトランプ陣営がどのように立て直しを図るのか、お手並み拝見といったところです。
(カバー写真:neverbutterfly/Flickr)
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