Business Contacts Concern About Tariffs, But Outlooks Remain Positive.
米連邦準備制度理事会(FRB)が7月18日に公表したベージュブック(5月半ばから6月末までカバー)によると、米経済の拡大ペースは「緩慢、あるいはゆるやか(modest to moderate)」とし、前回の「緩やか(moderately)」から下方修正した。トランプ政権による鉄鋼・アルミ関税措置により仕入れ価格の上昇を訴える報告が目立ち、センチメントを押し下げたとみられる。とはいえ概して見通しは「ポジティブ」で、9月25~26日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決定する公算が大きい。ボストン地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般のセクション>
(今回)
経済活動は5月半ばから6月末にかけ「拡大し続け(continued to expanded)」、12地区連銀中で10地区連銀が「緩慢、あるいはゆるやか(modest to moderate)」な成長を報告した。むしろダラスはエネルギー部門に牽引された部分もあり、「力強い拡大(strong growth)」を示す。セントルイスは逆に「わずか(slight)」にとどまった。
(前回)
経済活動は4月後半から5月初めにかけ「緩やかに拡大(expanded moderately)」し、成長パターンのシフトは概して確認されなかった。ダラスのみ例外で、全体的な経済活動は「堅調なペースで加速した(sped to solid pace)」。「複数(some)」の回答者から外の通商政策に対し不確実性への懸念が聞かれたものの、短期的な見通しは概して「上向き(upbeat)」だった。
<個人消費>
(今回)
個人消費は多くの地区連銀で「上向き(up)」、特にダラスとリッチモンドで「力強さ(strength)」がみられた。
(前回)
対照的に、個人消費は「軟調(soft)」だった。非自動車の売上は「いく分、ゆるやか(somewhat moderate)」となり、自動車の販売は「横ばい(flat)」だったが、地区連銀と自動車によって大きな違いを確認している。
<製造業、非製造業の活動>
(今回)
製造業は全ての地区連銀で関税への懸念がみられ、多くの地区連銀は新たな通商政策に伴い価格上昇や供給上での混乱に見舞われた。全ての地区連銀は労働市場が「逼迫(tight)」し、多くの地区連銀が人材不足により「成長が抑制されている(constrained growth)」と報告。企業側は、仕入れ価格の値上がりと利鞘縮小を指摘。6地区連銀は特にトラック運転手不足によるトラック稼働率の問題を挙げた。
(前回)
製造業は「加速に転じ(shifted into higher gear)」、半分以上の地区連銀が産業活動の「回復(pickup)」を報告、3分の1の地区連銀が「力強い(strong)」と評価した。組み立て金属、重機、電子機器で特に力強さがみられた。財の生産拡大を受け、輸送企業の配送料が増加した。
<不動産市場>
(今回)
「一部(several)」の地区連銀は、中古住宅販売で「鈍い伸び(slow growth)」を報告したが、金利上昇にさほど懸念は示していない。商業不動産は、概して変わらなかった。
(前回)
住宅の建設と販売の動向は「緩慢に拡大し(modestly increased)」、非住宅の建設活動も「ゆるやかなペース(at moderate pace)」で広がった。
<貸出需要>
(今回)
総括で表記なし。
(前回)
銀行では、融資需要が「若干上昇(ticked higher)」し、また銀行は競争の高まりを受けて預金金利を引き上げた。債務の未払い率はほぼ「低水準で安定している(stable at low levels)」。
<農業、エネルギー>
(今回)
総括で表記なし。
(前回)
総括で表記なし。
<雇用と賃金>
(今回)
雇用は、ほとんどの地区連銀で「緩慢からゆるやかに(modest to moderate)」拡大し続けた。労働市場は「逼迫している(tight)」と表現され、大半の地区連銀で条件に見合った人材を見つけることが困難と報告した。人材不足は大部分の職種で指摘され、高い技術をもつエンジニア、特殊建設業、製造業、IT専門家、トラック運転手で確認、「複数の(some)」の地区連銀は、成長押し下げ要因に人材不足を挙げた。地区連銀は、企業が労働時間を引き延ばし、同時に従業員確保の努力を強化するほか、地元の学校との提携、派遣社員から正社員への移行を進め、同時に従業員維持のため賃金を引き上げている。総じて、賃金は「緩慢からゆるやかに(modest to moderate)」伸び、2つの地区連銀で賃金の伸びの回復を言及するなど地域によって違いがみられた。
(前回)
雇用は、全地区連銀の間で「緩慢からゆるやかに(modest to moderate)」拡大した。ここでもダラスは例外で、雇用は「広範囲にわたって堅調(solid and widespread)」に拡大していた。労働市場は全米で「逼迫(tight)」した状態で、回答者はあらゆる技能水準で人材確保が困難と伝えていた。特殊技能職の人材不足はあらゆる職にわたり、トラック運転手から営業担当者、大工、電気技術士、塗装工、情報テクノロジーなどで確認されている。多くの企業は、人材確保に向け賃金引き上げや報酬プランの拡充で対応したという。とはいえ、賃金上昇率はほとんどの地区連銀で「緩慢であり続けた(remained modest)」。
<物価>
(今回)
物価は、全ての地区連銀で概して「緩慢からゆるやかな(modest to moderate)」ペースで上昇、報告からは一部の地区連銀から「上向き(upticks)」が確認された。仕入れ価格は「一段と上昇(rose further)」し、燃料をはじめ建設資材、空輸コスト、金属が挙げられ、数地区連銀(a few Districts)」は仕入れ価格の伸びが「高まりをみせている、あるいは力強い(elevated or strong)」と報告した。関税は金属と木材の価格を上昇させた。しかし、仕入れ価格から消費価格への波及効果は「わずかから緩慢(slight to modest)」にとどまった。農業商品価格は、商品と地区連銀によって「まちまち(mixed)」だった。価格圧力は、将来的に複数の地区連銀で「一段と高まる(intensify further)」見通しだが、その他の見通しは「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」と見込む。
(前回)
物価はほとんどの地区連銀で「ゆるやかに(moderately)」上昇し、その他は「わずかに、あるいは緩慢な上昇(slight and modest increases)」にとどまった。しかし鉄鋼、アルミ、石油、石油派生商品、木材、セメントなど、一部の素材価格で上昇が指摘された。数地区連銀は、こうした素材価格の上昇が回答者の間で広く波及しつつあると報告した。複数のセクターでの労働不足や需要の強まりと共に、仕入れ価格の上昇は輸送をはじめ建設、製造業のセクターに値上げ圧力を加えている。複数の地区連銀によれば、小売業者は以前より仕入れ価格の値上がりを販売価格に反映しやすくなったと報告していた。
それぞれの地区連銀が経済活動全般を表現するために使った形容詞、比較チャート。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
●「緩慢」と表現した地区連銀、3行=前回は3行
フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
シカゴ(前回は“ゆるやか”→今回は“緩慢”へ下方修正)
●「ゆるやか」と表現した地区連銀、7行=前回7行
ボストン(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
NY(前回は“緩慢”→今回は“ゆるやか”へ上方修正)
クリーブランド(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
リッチモンド(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
ミネアポリス(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
カンザスシティ(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
サンフランシスコ(前回は”ゆるやか“→今回据え置き)
●それ以外、2地区連銀=前回も2行
セントルイス(前回は“わずかに改善”→今回据え置き)
ダラス(前回は“堅調なペース”→今回据え置き)
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は今回3 回登場、前回と変わらず。内容も前回通りで 1)国際間の通商政策、2)通商政策によるサプライチェーンの混乱、3)貿易と金利上昇――の3点が指摘された。
「増加した(increase)」→15回<前回は20回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→9 回>前回は3回
「ポジティブ(positive)」→14回=14回
「ゆるやか(moderate)」→22 回>前回は18回
「緩慢、控え目など(modest)」→15回>前回は14回
「弱い(weak)」→0回<前回は2回
「底堅い(solid)」→3回<前回は6回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不確実性(uncertain)」→1回<前回は3回
地区連銀の詳細報告での「不確実性」登場回数は前回の10回から9回へ減少した。前回はボストン(1回)、クリーブランド(3回)、アトランタ(1回)、シカゴ(1回)、ミネアポリス(1回)、ダラス(3回)が指摘した。
・NY 1回>前回はゼロ
→特にカナダとの貿易が盛んなNY北部の製造業関連から、将来の通商政策における“不確実性”が主な懸念材料との指摘が聞かれた。
・アトランタ 1回=前回も1回
→多くの企業が関税や関税をめぐる発言を受けた不確実性によりセンチメントが低下したと報告するも、下半期に活動拡大を予想するように全体的な企業の見通しはポジティブ。
・シカゴ 1回=前回も1回
→農業部門は、米国と海外の関税措置を受けた価格変動の高まりに言及した。
・カンザスシティ 2回>前回はゼロ
→農業の状況は、通商の不確実性と収穫量拡大の見通しが農作物価格に下落圧力を加える見通しを受け、わずかに弱まった。
→通商面での不確実性と収穫量拡大の見通しから、農作物価格に下落圧力を加える。
・ダラス 4回>前回は3回
→見通しは極めて楽観的だが、関税と通商をめぐる懸念が不確実性を生んでいる。
→価格上昇圧力は仕入れ価格の上昇を受け高まり続けており、鉄鋼とアルミで顕著となっている。新たな関税措置は、製造業の活動や価格の見通しに不確実性を高めたものの、全体的に製造業の見通しは引き続きポジティブだ。
→非金融企業の見通しは燃料価格の上昇、費用負担の増加、人手不足、通商政策の不確実性にも関わらず、引き続き楽観的だ。
→建設・不動産業者は金利上昇の他、通商政策や移民政策がもたらす将来的な事業活動とコストをめぐる不確実性を受け、不安を表明した。
<ドル高をめぐる表記>
IMFが7月に公表した世界経済見通しでドル高に言及したものの、ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11分、2018年1月分に続き総括ではゼロだった。地区連銀別でも、前回に続きゼロとなる。2017年9月、10月、11月、2018年3月、5月に続きゼロだった。なお2017年5月分(クリーブランド)、7月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)はそれぞれ1行が報告していた。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年10月、11月、2018年1月、3月、4月、5月に続きゼロだった。地区連銀別では2回登場し、前回の3回から減少。前回はクリーブランドとセントルイスに加え、ボストンが入っていた。なお2017年10月と11月はゼロで、中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、2017年4月分まで6回連続でゼロとなった後、同年5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。
・クリーブランド 1回=前回も1回
→非金融サービス業者は、設備投資は安定的と報告したが、ある金融コンサルタントは中国の資本規制が一部の投資中断を招いたと指摘した。
・セントルイス 1回>前回はゼロ
→中国が関税措置を提案した結果、農業商品価格が全般的に下落し、特に大豆価格で顕著となった。
――今回のベージュブックで「関税(tariff)」の登場回数は3回(5月分は22回、4月分は36回)にとどまったものの、「懸念(concern, worry)」は32回(5月分は27回、4月分は22回)に及びました。随所で鉄鋼・アルミ関税発動の影響についての記述がみられるなか、「鉄鋼・アルミ」の登場回数は3回、「鉄鋼関税」は3回、「鉄鋼」は15回、「アルミ」も7回となります。特に仕入れ価格の上昇の文脈で使用された半面、最終価格への上乗せは限定的。とはいえ製造業を中心にトラック運転手不足、港湾設備や空港設備の稼働率の上昇が指摘され輸送コストの負担も被さり、さらにこちらでご紹介したように賃上げにも直面しています。
これまで当サイトでは建設業でのコスト負担を指摘してきましたが、製造業にも利鞘縮小の波が押し寄せ始めています。
(カバー写真:Ezio Armando/Flickr)
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