Prepare For The Future Economic Downturn Before Reaching Natural Rate.
遅ればせながら、7月31〜8月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨をサラッとおさらいしていきます。
議事要旨の冒頭では、いつもの「金融市場と公開市場オペの動向(Developments in Financial Markets and Open Market Operations)」ではなく、「実効金利が低にある場合の金融政策における選択肢(Monetary Policy Options at the Effective Lower Bound)」を掲げた。FOMC参加者の間では、①フォワード・ガイダンス、②保有資産の拡大——が有効との認識で一致。ただし、低金利の状況では効果が限定的との認識も示した。多くの参加者は、非伝統的な政策が多大な負担をもたらすと言及、こうした負担が保有資産の拡大の規模を限定的とさせかねないとの見方を表明した。コミュニケーション手法についても協議され、世間が非伝統的な政策手段を理解し、その効果を予想できることが重要とみなしつつ、複数(several)の参加者は過度に具体的な説明を与えることに慎重だった。また、複数年に及ぶ資産買い入れ策など金融政策の確約は、将来の政策選択肢を狭めると指摘。次の景気減速局面で、どのように対応するか詳述を避けた。
▽金融政策
・参加者は総じて、現在の金融政策は緩和的と判断し、力強い労働市場と物価目標2%への到達を支援しているとみなす。
・多くの参加者は、経済指標が現状の経済見通しに添えば、まもなくの利上げは適切と判断。
・多くの参加者は、経済指標と見通しに従って金融政策を運営していくとの認識を繰り返す。
・参加者は、ゆるやかな利上げの根拠を与える経済的な要因とリスクのほか、長期的に適切なFF金利について協議。
・参加者はゆるやかに利上げを行う理由として、長期的に適切と想定されるFF金利水準をめぐる不確実性のほか、低金利環境での緩和的状況を挙げた。
・一部の参加者は成長上振れリスクを見込むものの、大部分の参加者は国際貿易上の不和が潜在的な下方リスクと判断。
・複数の参加者は、通商上の不和が深化した場合、生産や物価のあらゆる範囲にわたる影響を含め、適切な金融政策での対応を困難にさせると示唆。
・多くの参加者は、将来の政策姿勢の見直しに着手すべきと言及。
・声明文にある「金融政策の姿勢は緩和的であり続ける(the stance of monetary policy remains accommodative)」との文言は、早い段階で適切とならないと指摘。
・参加者は、FF金利が均衡実質金利に近づいてきたと指摘。ただ多くの参加者は、減税策や支出拡大、過去の資産買入策の影響で、均衡実質金利の予測に不確実性が横たわるとの認識を示す。また、FF金利の予測値を提供することで、均衡実質金利に対する錯覚を与える場合も。
▽経済動向、見通し
・下半期の成長率は4〜6月期のペースを下回る見通しだが、潜在成長率を超え続けると予想。要因としては、力強い労働市場、減税や支出拡大などの措置、緩和的な金融環境、家計と企業の高い信頼感を挙げた。
・FOMC参加者は、経済見通しのリスクを均衡と判断。
潜在成長率を上回る経済拡大と稼働率の状況を眺めた上で、複数の参加者は4〜6月期の個人消費について大いに力強かったと評価し、1〜3月期の鈍化は一時的だったとの確信に至ったと言及。
・企業活動では、エネルギーや製造業、建設などの拡大ペースが力強さを増した。ただし、住宅建設活動はいく分軟調となり、住宅の値ごろ感の低下、住宅金利の上昇、売り出し物件の減少、建設許可の遅れなどが理由として指摘された。
・様々な業種は生産の停滞につき、人材不足と(追加関税の影響による)入荷遅延が背景と説明。また、追加関税措置の発動を受け、仕入れ価格の上昇圧力が強まったとも指摘。
・いくつかの(a few)地区連銀は、追加関税措置の発動により通商政策の不透明性を背景に企業が設備投資の縮小や先送りを行ったと報告。
・一部の参加者は、商品先物や家畜の価格が急落し、農業セクターの打撃となっていると指摘。2人の参加者は、理由に貿易における緊張を挙げた。
・数人の参加者は、労働市場のたるみを指摘。労働参加率を背景に挙げ、特に働き盛りの男性で過去のサイクルと比較し改善していないとの見方を示す。
当サイト、働き盛りの男性における労働参加率の問題は何度か取り上げておりました。
・その他の参加者は、自己都合での離職率や求人率などを背景に労働市場が逼迫していると判断。
・名目賃金が伸び悩む理由は、低い労働生産性のほか、労働市場の逼迫に対する感応度の低下、経済指標に反映されない業種での雇用拡大——と分析。
・あるいは、賃金伸び悩みは労働市場のたるみを示唆する可能性も。
・いずれにしても、FOMC参加者は名目賃金が上向くと予想。
・物価が目標値の2%の水準に回帰した点について、数人(a few)の参加者は持続的な目標達成に自信を深めた。その半面、一部の参加者は一定の製品の価格上昇について追加関税の影響を挙げ、短期的に物価上振れ要因となりえると指摘。もっとも、通商政策の負の効果が物価上昇分を相殺するとも予想。
・中期的な経済見通しのリスクに対し、複数(some)の参加者は減税効果などが想定より長く、力強く成長を支える上方リスクを指摘。数人の参加者は反対に、予想より早い段階での減税などの効果はく落や、財政引き締めを下方リスクに挙げた。
・参加者全員は不確実性の根源として、通商政策の不和のほか、追加関税・報復措置の拡大あるいは長期化のリスクを指摘。さらに、追加関税などの措置が広範に及ぶ場合、米家計の購買力低下につながる可能性があり、生産性の低下やサプライチェーンの混乱ももたらしうると見込む。その他のリスク要因として、①住宅市場の減速、②原油価格の急上昇、③エマージング諸国の深刻な経済減速——を挙げた。
▽スタッフの経済見通し
・経済は、潜在成長率を上回るペースで拡大を予想。下半期は、上半期をわずかに下回るペースとなる。
・2020年にかけても、スタッフが想定する潜在成長率を大きく上回るペースを維持し、失業率も長期見通しを大幅に下回ると見込む。ただし、労働参加率が循環的な改善を受け上昇すれば、低下ペースは弱まる見通し。
・成長見通しは、6月時点から小幅に上方修正。失業率は若干上向きへ修正したが、それほど変わらず。
・2018年のインフレ見通しは若干引き下げたが、消費者向けエネルギー価格の上昇が予想以下にとどまったほか、下半期の予想を下方修正したことが大きい。
・2019〜2020年にかけ、PCE価格指数は目標値の2%を小幅に上回るペースで推移し、コアPCEは僅かに全体を上回る水準となる見通し。コアPCEが全体を小幅に上回る理由は、消費者向けエネルギー価格の予想を引き下げたため。
・実質成長率、失業率、物価の不確実性は、過去20年間と変わらず。
・家計と企業の支出は、減税効果を追い風に予想を超えるペースで拡大する可能性があり、上振れ要因と認識。
・下方リスクに通商政策を挙げたほか、減税など財政政策が潜在成長率を押し上げない可能性を指摘。
・物価のリスクは、均衡。
▽金融市場、海外動向
・金融安定性の観点から、バリュエーションは高水準にあると指摘。企業の融資基準は緩和的とみなす。
・金融危機後の規制強化により、(負の影響などに対する)金融セクターの感応度を低下させたと判断。
・ただし、数人の参加者は大手銀に資本積み増しの必要性ありと言及。資本積み増しにより、金融安定リスクは一段と低下すると強調。
・フラット化をめぐり、一部の参加者は過去を振り返ると景気後退の前触れだったと言及。その他の参加者は必ずしもそうではないと指摘、中銀の資産買入がターム・プレミアムの低下をもたらしたと説明。
——大方の予想通り、9月利上げを示唆してきました。その一方で、均衡実質金利が近づいてきたメッセージを送ると共に、景気減速局面での対応について協議を開始するとは、さすが弁護士出身のパウエルFRB議長率いるFOMCで、抜かりありません。6月FOMCでの経済金利見通しに従うなら、2.9%付近で利上げを終了させるとして、2019年内の打ち止めもあり得る。同時に、減税効果の剥落も想定されるだけに、ヘッジを掛けたのでしょう。
引き続き、経済の下方リスクで最も重要視しているのは通商問題のようです。米中を軸に関税合戦がエスカレートしていくなかで、当然の成り行きですよね。
賃金伸び悩みの説明として、経済指標に反映されていない雇用の増加を挙げてきたのは、驚きました。ある意味、日銀が物価が上昇しない理由にアマゾン効果を引っ張ってきたような既視感を感じます。
個人的には、足元で声高に指摘していた働き盛りの男性における労働参加率の低下が登場したことは、感慨もひとしお。いわゆるニートも増加中で、人手不足の企業が作業の自動化や効率化に注力する動きを速め、さらに格差拡大をもたらしかねないと懸念しています。ポピュリズムの台頭や社会不安、人口の減少をもたらしかねず、引き続きウォッチしていきたい分野です。
(カバー写真:Federalreserve/Flickr)
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