Beige Book Shows Stronger Concerns Over U.S.-China Trade War.
米連邦準備制度理事会(FRB)が6月5日に公表したベージュブック(4月初めから5月半ばまでカバー)によると、米経済の拡大ペースは、3~4月の「わずかからゆるやか(slight-to-moderate)」から、「緩慢(modest)」に若干ながら上方修正された。また「前回からわずかながら改善」がみられたという。景況判断に関わる文言は小幅に明るさを取り戻したとはいえ、不確実性への懸念は高まった。トランプ大統領が2,000億ドル相当の対中追加関税措置の税率を10%から25%へ引き上げを決断しただけでなく、残り約3,000億ドル相当にも賦課する可能性を示唆した影響が及んだとみられる。また、トランプ政権が5月15日付けの米大統領令で盛り込まれた華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置についても売上などへの打撃を憂慮する声が聞かれ、具体的にある地区連銀は“ファーウェイ”と明記していた。全般的に、米中間の貿易戦争を懸念し、米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げを協議してもおかしくない内容と言えよう。ミネアポリス地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般、見通しのセクション>
経済活動は、4月初めから5月半ばにかけ「緩慢なペース(at a modest pace)」で拡大し、「前回よりわずかながら改善した(a slight improvement over the previous period)」。数ヵ月先の見通しは全般的に「ポジティブ」で、地区連銀の間であまり変わらなかった。
<個人消費>
個人消費は「概してポジティブ(generally positive)」だったが、「和らいだ(tempered)」。観光活動は特に南東部で力強さを増したが、自動車販売は「減速(lower)」した。
<製造業、非製造業の活動>
製造業活動は「概してポジティブ(generally positive)」だったが、「数(a few)」地区連銀で「鈍化の兆し(signs of slowing)」がみられ、こうした地区連銀の多くの回答者が見通しに「不確実性(uncerntainty)」を挙げていた。
<不動産市場>
住宅建設と住宅不動産は全体的に成長を示したものの、センチメントは地区連銀によって「多様(wide variation)」だった。
<貸出需要>
借入需要は「まちまち(mixed)」だったが、成長を示した。
<農業、エネルギー>
農業活動は全体的に「弱いまま(remained weak)」だったが、数地区連銀は幾分の改善を報告した。
<雇用と賃金>
雇用は全米で「拡大し続け(continued to increase)」、ほとんどの地区連銀が「緩慢、あるいはゆるやか(modest or moderate)」な伸びを報告した。人材派遣会社によれば、小売、をはじめビジネスサービス、専門技術、製造業、建設などで「堅調(solid)」な採用意欲を確認。しかし、労働市場の逼迫により力強い雇用の伸びは抑えられ、地区連銀はスキルの高低問わず人材不足を指摘した。「一部の(several)」地区連銀によれば、人材確保に向けた競争が広範囲にわたる職種での幾分の賃金上昇につながったほか、現状の人員維持を狙った福利厚生の改善をもたらしたという。しかしながら、全体の賃金上昇圧力は低い失業率を踏まえれば「比較的抑制的(relatively subdued)」で、「大半(majority)」の地区連銀の賃金上昇ペースは「緩慢かゆるやか(modest or moderate)」にとどまった。
米5月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)、10ヵ月連続で3%乗せも加速せず。
<物価>
物価は概して、ほとんどの地区連銀で前回から「緩慢に(modestly)」上昇したとの報告が聞かれた。一部の地区連銀は販売価格より仕入れ価格における上昇ペースの加速を指摘し、企業は仕入れ価格の上昇について「緩慢からゆるやか(modest to modereat)」と報告した。一部の地区連銀の回答者は、配送価格の上昇を指摘した。製造業は仕入れ価格について「まちまち(mixed)」と報告し、「複数の(some)」地区連銀は鉄鋼など金属価格の下落を指摘した一方で、その他の回答者は原材料価格の上昇に言及した。木材を含む建設資材価格は、複数の地区連銀で「ゆるんだ(eased)」。小売業は販売価格につき概して「横ばいからわずかな上昇(flat to slight increased)」を報告した。一部の農産品で価格が上昇したものの、過去の水準と比較して低位を保った。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
●「緩慢からゆるやか」と表現した地区連銀 1行=前回は1行
ボストン:前回”緩慢からゆるやか“→今回据え置き
●「緩慢」と表現した地区連銀、4行>前回は2行
フィラデルフィア:前回は“わずかに拡大”→今回“緩慢”へ上方修正
クリーブランド:前回”緩慢“→今回据え置き
リッチモンド:前回“ゆるやか”→今回“緩慢”へ下方修正
アトランタ:前回“緩慢ながら改善”→今回“緩慢”へ上方修正
●「ゆるやか」と表現した地区連銀、3行=前回3行
NY:前回” わずかに拡大“→今回”ゆるやかに拡大“へ上方修正
ダラス:前回“ゆるやか”→今回据え置き
サンフランシスコ:前回”ゆるやか“→今回据え置き
●そのほか 4行<前回は6行
シカゴ:前回“わずかに拡大”→今回据え置き
セントルイス:前回は“変わらず”→今回据え置き
ミネアポリス:前回“緩慢”→今回“わずかに拡大”へ下方修正
カンザスシティ:前回は“わずかに拡大”→今回は“わずかに拡大”で据え置き
経済活動拡大ペースの表現は、「ゆるやか」が一段と減少。
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は今回4回と、前回の1回を上回った。また、2018年10月の2回、同年5月と同年7月の3回も超えた。
「増加した(increase)」→17回<前回は20回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→4回<前回は5回
「ポジティブ(positive)」→6回>3回
「ゆるやか(moderate)」→14回<前回は15回
「緩慢、控え目など(modest)」→21回>前回は15回
「弱い(weak)」→2回<前回は6回
「底堅い(solid)」→2回>前回は0回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不確実性(uncertain)」→4回>前回は1回
総括で「不確実性」をめぐる文言は前回から増加したように、地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は前回の12回から17回へ増えた。前回はボストン(1回)、NY(1回)、フィラデルフィア(2回)、クリーブランド(2回)、リッチモンド(1回)、ミネアポリス(1回)、ダラス(4回)だった。
・ボストン 2回>前回は1回
→(製造業)半導体のほか自動車でも弱さを確認しており、自動車産業に機器を供給する1社は、通商政策の不確実性を受け、新型モデルの発売を遅らせるなかで設備投資が低迷していると報告した。
→(人材派遣)対中貿易戦争への脅威から生じる不確実性を反映し、人材派遣会社の一部は派遣契約の長期化と直接雇用の需要低下といった変化について言及した。
・NY 1回=前回は1回
→(製造業)複数の業界では、貿易をめぐる不確実性のほか、最低賃金引き上げへの懸念を表明した。
・フィラデルフィア 4回>前回は2回
→(景況感)回答者は、引き続き追加関税措置が懸念を募らせ、不確実性を与え、設備投資を遅らせていると指摘した。
→(雇用、賃金)ある企業は、不確実性により採用を遅らせていると回答した。
→(個人消費)観光業界は、消費者が裁量所得で旅費を補填しつつある事情のほか、不確実性により出張が抑制されている点に懸念を表明した。
→(非金融サービス)多くの企業は、追加関税措置を中心に、その他の政治的問題と合わせビジネス動向に不確実性を与えていると言及した。
・クリーブランド 1回<前回は2回
→(製造業)通商協議をめぐる不確実性や世界景気減速に直面するにも関わらず、受注残は安定的で、製造業は比較的「活況(upbeat)」だ。
・リッチモンド 2>前回は1回
→(港湾・輸送)複数の港湾関連企業の回答者は、追加関税引き上げによる潜在的な影響をめぐる不確実性に懸念を表明した。
→(港湾・輸送)複数のトラック輸送企業の回答者は、不確実性と業績鈍化を受け設備投資計画を当初から縮小した。
・アトランタ 2回>前回はゼロ
→(個人消費)小売業者と自動車ディーラーのセンチメントはまちまちで、追加関税措置の影響を受けた回答者は通商政策の不確実性に対し懸念を表明した。
→(輸送)通商政策の不確実性への対応として、複数の輸送業者は追加関税措置による売上減少の相殺を狙い、設備投資と人員の削減を盛り込んだ非常事態対策を策定した。
・ダラス 5回>前回は4回
→(景況感)見通しは概してポジティブ度合いが後退し、追加関税措置や通商協議が不確実性をもたらした。
→(製造業)通商交渉や追加関税措置、政治的環境、人材不不足などが企業の信頼感の重石となるなかで、製造業の見通しはわずかに悪化し不確実性が高まった。
→(個人消費)見通しは悪化し不確実性は高まった。小売業者は追加関税措置とそれに絡む物価への影響が今後の主な懸念材料と指摘した。
→(非金融サービス)複数の回答者は中国との通商協議が決裂すれば需要が低下すると言及したが、数人の回答者はいずれ妥結し長期的に米国の利点になるとの楽観的な見方を示した。
→(建設業)年内は計画通りとするなど建設業の見通しは楽観的だが、複数の回答者は通商政策をめぐる不確実性を受け利益率の圧迫を懸念した。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別でも、2回連続でゼロとなった。なお、過去2年間でドル高を挙げた地区連銀はゼロだったが、2017年5月分(クリーブランド)、7月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)はそれぞれ1行が報告していた。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年10月、11月、2018年1月、3月、4月、5月、7月、9月、10月、12月、2019年1月、3月、4月に続きゼロだった。地区連銀別では前回に続き8回登場したが、3月の12回を下回ったままだ。前回はボストン(1回)、クリーブランド(1回)、リッチモンド(1回)、シカゴ(3回)、セントルイス(2回)が報告していた。なお地区連銀別での中国言及数は2017年10月と11月にゼロで、中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、2017年4月分まで6回連続でゼロとなった後、同年5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。
・ボストン 3回>前回は1回
→(物価)ある製造業関連企業は、対中追加関税を相殺するための上乗せ料金を課したといい、顧客も受け入れたものの別の供給先が見つかり次第、上乗せ料金を撤廃すると報告した。
→(製造業)ネガティブな側面で頻繁に登場したキーワードは3点あり、その1つが中国で、2つ目が追加関税措置、3つ目が半導体サイクルだった。例えば、中国の携帯電話製造業者が半導体の大手顧客であり(一例:ファーウェイ)、半導体製造業者にとって中国は最も打撃の大きな材料となっている。同時に、半導体企業は横ばいとなっているビジネスサイクルを指摘した。
→(人材派遣)中国との貿易戦争への脅威から生じる不確実性を反映し、人材派遣会社の一部は派遣契約の長期化と直接雇用の需要低下といった変化について言及した。
・クリーブランド 2回>前回は1回
→(製造業)多くの回答者は、中国製品への追加関税引き上げにより、中国の製造業活動を一段と鈍化させ、米国への中国需要が低下する懸念を表明した。
・セントルイス 2回=前回は2回
→(製造業)包装業者は、足元の中国との貿易摩擦が業績鈍化の原因と指摘。
→(農業)回答者は、引き続き農産品価格の低迷のほか、新たに高まる中国との通商摩擦の影響につき懸念を表明した。
・ダラス 1回>前回ゼロ
→(非金融サービス)複数の回答者は中国との通商協議が決裂すれば需要が低下すると言及したが、数人の回答者はいずれ妥結し長期的に米国の利点になるとの楽観的な見方を示した。
——というわけで、ファーウェイに直接言及した地区連銀はボストンでした。ボストン地区連銀のローゼングレン総裁と言えば、今年のFOMC投票メンバーです。彼は5月21日に、金利を上下にいずれの方向に動かすべき「明確なサインは現れていない」と発言しましたが、同地区連銀の企業センチメントが貿易摩擦で悪化するなか、近い将来の利下げを支持する陣営にまわる可能性を残します。しかも今回、「関税(tariff)」の登場回数は37回と、前回の19回の2倍近くとなりましたし・・。
ちなみにローゼングレン氏はもともとハト派として知られ、物価水準目標(物価が一定期間にわたって目標値2%を下回った場合、未達分をその期間にわたり許容する手法)を提唱する人物ですから、インフレ・ターゲット変更の議論でも目が離せません。
(カバー写真:Wayne Hsieh/Flickr)
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