Unemployment Rate Declines In All Races, While Reasons Are Totally Different.
米6月雇用統計は、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想以上でしたが、労働参加率が横ばいながら失業者が上昇、さらに平均時給の伸び率は予想以下で、週当たり労働時間も短縮しました。結果、市場関係者が予想したほど景気過熱が進んでいるとは言えず、米連邦準備制度理事会(FRB)が早期利上げに傾くリスクは後退したと捉えられます。イエレン財務長官がかつて総裁を務めたサンフランシスコ地区のデイリー総裁が年末あるいは年明けのテーパリングを予想していましたが、8月26~28日開催のジャクソン・ホール会合でのテーパリング発表、9月FOMCでのテーパリング開始との見方もしぼんだことでしょう。それに伴い、前月に続きゴルディロックス経済万歳というわけで米株高・金利低下で反応したものです。
労働市場が市場が期待したほど急速に回復していない可能性を示すなか、業種別の平均時給を始め、人種や学歴別などでどのような結果になったのでしょうか?以下、詳細を追っていきます。
〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給
生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は0.4%上昇の25.68ドル、前年比は3.7%上昇し、管理職を含めた全体の前月比0.3%、前年同月比3.6%を超えた。
業種別を前月比でみると、0.4%以上だったのは13業種中で5月通り7業種だった。1位は娯楽・宿泊で2.3%、2位は情報で1.1%、続き小売(0.9%)、製造業(0.6%)、建設(0.6%)、輸送・倉庫(0.5%)、公益(0.4%)となった。一方で、金融のみ前月比で下落、5月の4業種(教育・健康、公益、情報、鉱業・伐採)から減少した。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
娯楽・宿泊はNFPの約4割を占め人手不足が深刻とされるなかで、前月比の伸びは5月の1.1%から2.3%へ加速し統計を開始した1964年以降で最高を記録した。小売も、前月の0.1%を超え0.9%と、2ヵ月ぶりの高い伸びに。両部門が足元賃上げを主導してきたことが分かる。共和党知事州を軸に5州で失業保険給付上乗せなど特例措置を撤廃しており、娯楽・宿泊や小売など人手不足が深刻とされる業種に労働者が再参入すれば、賃上げ圧力が後退するか注目される。一方で、金融が下落したほか、専門・サービス(前月は0.6%→今月は0.2%)や輸送・倉庫(前月は2.4%→今月は0.5%)、その他サービス(前月は0.5%→今月は横ばい)など、賃上げ圧力が減退している業種が増えてきた点に留意する必要もありそうだ。
〇労働参加率
働き盛りの男性(25~54歳)の労働参加率は、全米が88.1%と上昇、2020年3月以来の水準へ回復した。全米が61.6%と前月と横ばいだった動きと対照的だが、25~34歳の若い世代は前月と変わらず、白人のみの場合は25~34歳、25~54歳共に低下した。白人で増えた背景としては、引退を含めた自発的離職者数の増加が考えられる。以下、季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 88.1%、20年3月以来の高水準>前月は87.8%、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 88.8%、5ヵ月ぶりの低水準<前月は89.0%、20年2月は90.6%
・25~34歳 87.4%=前月は87.4%、20年2月は89.0%
・25~34歳(白人) 88.1%、6ヵ月ぶり低水準<前月は88.6%、20年2月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、労働参加率はそろって5ヵ月ぶりの水準を回復
働き盛りの女性は、25~54歳は2020年3月以来の水準を回復し、25~34歳に至ってはコロナ感染拡大直前である20年2月の水準へ改善した。
・25~54歳 75.4%、2020年3月以来の水準を回復<前月は75.0%、20年2月は76.8%
・25~34歳 76.4%、2020年2月以来の水準を回復>前月は75.8%、6ヵ月平均は78.2%
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で2.6%減の642.8万人(男性は336.5万人、女性は306.3万人)。過去最多をつけた20年4月でピークアウトし、20年3月以来の低水準となる。男女別では、働き盛りの女性の労働参加率が著しい改善を示したように男性が2ヵ月連続で女性を上回った。
チャート:就職を望む非労働力人口、ゆるやかに減少中
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年を比較すると、ご覧の通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。
チャート:人種別、25歳以上の大卒以上の割合
人種別の労働参加率は、白人とアジア系で低下した一方で、黒人とヒスパニック系で上昇し正反対な結果となった。働き盛り世代の白人男性で労働参加率が低下したように、引退を含めた自発的離職者数の増加が背景として考えられよう。
・白人 61.3%、20年5月以来の低水準<前月は61.4%、20年2月は63.2%
・黒人 60.9%>前月は60.9%、20年2月は63.1%
・ヒスパニック 65.5%、4ヵ月ぶりの水準を回復>前月は65.3%、20年2月は68.0%
・アジア系 63.2%<前月は63.4%と20年8月以来の高水準、20年2月は64.1%
・全米 61.6%=前月は61.6%、20年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率
人種別の失業率は、全ての人種で上昇した。黒人とヒスパニック系の失業率上昇は労働参加率の改善が背景にある一方で、白人とアジア系は自発的離職者数の増加が一因とみられる。いずれにしても、コロナ直前となる20年2月の水準回復がまた遠のいた。
・白人 5.2%>前月は5.3%と20年3月以来の低水準、20年2月は3.0%
・黒人 9.2%>前月は9.1%と20年3月以来の低水準、20年2月は6.0%
・ヒスパニック 7.4%>前月は7.3%と20年3月以来の低水準、20年2月は4.4%
・アジア系 5.8%>前月は5.5%と3ヵ月ぶりの低水準、20年2月は2.4%
・全米 5.9%>前月は5.8%、20年3月以来の低水準、20年2月は3.5%
チャート:人種別の失業率
白人黒人の失業率格差は4.0ポイントと前月と変わらず、トランプ前政権で記録した19年8月の1.8ポイント超えの水準を保つ。
チャート:黒人と白人の失業率格差
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、経済活動が全面再開を受けて対面サービス需要が拡大したとみられ中卒と高卒で上昇した。一方で、大卒以上はが低下、引退を含む自発的離職者数の増加が考えられよう。
・中卒以下 44.1%>前月は42.8%と20年5月以来の低水準、20年2月は47.7%
・高卒 55.9%、20年3月以来の水準を回復>前月は55.5%、20年2月は58.3%
・大卒以上 72.3>前月は72.5%と20年8月以来の水準を回復、20年2月は73.2%
・全米 61.6%=前月は61.6%、20年2月は63.3%
学歴別の失業率は、人種別と同じく全て上昇。中卒と高卒は労働参加率の上昇が背景と解釈されよう。大卒と大学院卒は労働参加率が低下したにも関わらず上昇しており、自発的離職者数の増加が一因と捉えられる。
・中卒以下 10.2%、20年9月以来の水準に悪化>前月は9.1%、20年2月は5.8%
・高卒 7.0%、4ヵ月ぶりの水準に悪化>前月は6.8%、20年2月は3.5%
・大卒 3.5%>前月は3.2%と20年3月以来の水準を回復、20年2月は1.9%
・大学院卒以上 2.9%>前月は2.5%と20年3月の水準と一致、20年2月は1.7%
・全米 5.9%>前月は5.8%と20年3月以来の低水準、20年2月は3.5%
チャート:学歴別の失業率
--6月の雇用統計を詳細にみると、①NFPの54.8%が経済活動の全面再開を背景に娯楽・宿泊や小売、その他サービスなど対面サービスが必要とされる低賃金職だったように、黒人やヒスパニック、女性の間で労働参加率が改善、それに伴い失業率も上昇、②白人やアジア系、大卒以上などは自発的離職者数が増加し労働参加率が低下すると共に、失業率も上昇、③自発的離職者数の増加は、特に働き盛り世代のうち25~34歳で顕著、特に白人とアジア系など高学歴の割合が高い人種で高い可能性あり――といった実態が浮かび上がりました。
つまり、白人とアジア系など大卒以上の割合が高い人種では、引退を含め自発的離職者数が増加したように、選択肢がある一方で、黒人とヒスパニック系は労働参加率が上昇し職を求めていても失業者が増えてしまったわけです。失業率の上昇は、教育水準ではっきり明暗が分かれてしまいました。パウエルFRB議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)で毎回「コロナ禍という打撃は、全ての人々に等しく襲ったわけではない」と発言するはずです。
黒人、ヒスパニック系、女性の間での労働参加率の改善はグッドニュースである一方で、失業者数が増加しており、労働市場が再参入組を吸収できるか疑問を呈します。何より、自発的離職者数の増加はFedの「雇用の最大化」のかく乱要因と言えます。自発的離職者数の増加は景気改善の証左と捉えられる一方で、失業率を押し上げてしまいますから。悩ましい環境が続くのか、Fedはデータを精査する必要があり、テーパリングに急ぐ可能性はやはり低いのではないでしょうか。あるいは、過熱する住宅市場に配慮し、ひとまず住宅ローン担保証券(MBS)に絞って行う可能性も残します。
(カバー写真:CongressmanBobbyRush/Flickr)
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