Afghan Falls, President Biden Backlash Grows.
2021年8月15日、アフガニスタンの首都カブールが反政府勢力タリバンにより陥落し、世界を震撼させました。
ここで、米国側のアフガン関連のタイムテーブルを振り返ってみましょう。
- 2001年9月11日、米同時多発テロ事件発生
- 2011年5月2日、米海軍特殊部隊「シールズ」、タリバンの支援を受けていた国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビン・ラディンを殺害。
- 2020年2月29日、トランプ前大統領、タリバンと交わした合意上の特定の条件と引き換えに、アフガンから2021年5月1日までに撤退すると発表。国務省が合意内容を公開。
- 2021年4月14日、バイデン大統領、同時多発テロ事件20周年の9月11日までにアフガン駐留米軍の完全撤退を表明。
- 2021年5月2日、ビンラディン殺害10周年に「米本土への攻撃を防ぎ、米国民の安全を守るという約束は決して揺るがない」、「アルカイダは弱体化した」との声明をリリース。
- 2021年7月8日、バイデン大統領は記者会見で、1975年のサイゴン陥落のように「アフガンの米国大使館屋上から人々を救出するような状況ではない」、「タリバンがアフガン全土を支配する可能性は非常に低い」と発言。
- 2021年8月14日、バイデン大統領は外交官など米国人の安全な退避を支援すべく、同国への米兵追加派遣を承認したとの声明を発表、駐留米軍のアフガン撤収の必要性にも言及。
- 2021年8月15日、ブリンケン国務長官がABCニュース“This week”に出演し「明らかにサイゴンではない(this is manifestly not Saigon)」と強調、その他、CNNにも出演。
- 2021年8月16日、共和党全国委員会は「アフガンが陥落する間に、バイデン氏は雲隠れ」と、カブール陥落時点で、キャンプデービッドで夏季休暇中にあるバイデン大統領を猛批判。
トランプ前政権でアフガニスタン撤退が規定路線になっていたとはいえ、メディアは保守派も左派も、バイデン政権のアフガン政策は失敗だったとレッテルを貼ります。NYタイムズ紙では「For Biden, Images of Defeat He Wanted to Avoid」との題した分析記事を掲載、CNNも「Biden’s botched Afghan exit is a disaster at home and abroad long in the making」と伝えていました。8月16日付けの米主要紙の一面は、以下の通りで、星条旗新聞以外はリンクをご参照下さい。
星条旗新聞
(出所:Stars And Stripes)
NYT紙 The New York Times/Twitter
USAトゥデー Nico Maounis/Twitter
WSJ紙 The Wall Street Journal/Twitter
トランプ前大統領とバイデン大統領が責任のなすりつけ合いを行っていますが、有識者からは辛口コメントが相次ぐ状況。主なコメントは以下の通り。
〇ライアン・クロッカー元アフガニスタン大使(オバマ政権)=「既に(アフガン問題は)バイデン政権の消せない汚点となっている」
〇ペトレイアス元アフガニスタン駐留アメリカ軍司令官(オバマ政権)=「撤退は重大な間違いだった」
〇ダグ・ルート元陸軍大将(元陸軍中将、ブッシュ政権でのイラク・アフガン問題担当の国家安全保障担当副補佐官)=「コンティンジェンシー・プランの欠如に驚愕している」
個人的に理解できないのは、バイデン政権がタリバンの電光石火の侵攻を予想できなかったのか、という点です。
そもそも、バイデン氏は2001年の時点からアフガンへの派兵に反対し、オバマ政権発足した2009年もアフガン増派を声高に要請していました。アフガンに愛息子、ボー・バイデンが同地に派遣されたことも背景にあるのでしょう。BBCによれば、オバマ政権1期目にアフガニスタン特使を務めたリチャード・ホルブルック氏は、回顧録でバイデン氏が「(アフガニスタンの)女性の権利のために、自分の息子を命の危険にさらしてまで行かせるつもりはない」と声を荒げて訴えたと明記していました。また、バイデン氏自身、1973年に上院議員に選出されてからベトナム戦争、イラク戦争、コソボ問題、そしてテロとの戦争に直面し、米国の関与の必要性を見出せなくなっていたのかもしれません。
タリバンの政権掌握で、中国は「タジキスタン→アフガニスタン→イラン」の一帯一路のルートを確保できました。その先にはトルコやアルメニア、ジョージア、ウクライナを挟んでベラルーシが控えます。
個人的には、クーデターが発生したミャンマー、ジャーナリスト逮捕のため旅客機を強制着陸させたベラルーシ、そして今回のアフガニスタンのように、バイデン政権後、中国の一帯一路と繋がるor 繋がり得る国々が世界に混乱をもたらしている点は気掛かり。黒幕として中国が動いているかは判然としませんが、バイデン政権が多国間主義で中国包囲網を構築するなら、中国も手段を選んでいられないでしょう。王毅外相は7月28日にタリバンの幹部と天津で会談、タリバンが政権を奪回した暁には中国がアフガンを正式な政府と認める代わりに、①タリバンが一帯一路構想に与し、②タリバンはウイグル問題に関与しない(“東トルキスタン・イスラム運動、ETIM”を支援しない)という取引を交わしていても、おかしくありません。王毅外相がその2日前の7月26日にシャーマン国務副長官と会談した事実も、見逃せない。米国が中国とタリバンの接近を把握していたのか、様子見を決め込んでいたのか、米国のインテリジェンスの意義が問い質されそうです。
※追記
バイデン政権はアフガン陥落後、以下の3つの点でダメージ・コントロールの評価が分かれるのではないでしょうか。
1)アフガン陥落の余波、民主主義の影響
→バイデン政権の難民受け入れ、女性の権利保護など、民主主義サミットを12月に控えどこまでリカバリーできるか
2)インド太平洋+一帯一路
→タリバンが一帯一路に加わり、ウイグル問題で「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)に関与しないとなれば、レッドチームが形成される。バイデン率いるブルーチームすなわち民主主義のLike-mind statesは、インド太平洋を軸に一枚岩で対応できるか
3)米国内対応
→権威失墜した米国としては、国内の目をそらすべく経済対策、コロナ対策の強化が必要
果たして、バイデン政権はどのように対応してくるのか、世界が固唾を呑んで見守っているに違いありません。
(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)
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