Why Do U.S. Move to Ease Tariffs On Imported Steel, Aluminum Now?
バイデン政権は足元、国際社会における主導権の回復と多国間の協力関係を強固とすべく奔走中です。その一環として、EUとは鉄鋼アルミ追加関税をめぐり、5月17日から過剰生産をめぐる対応を含めた協議を開始。当時、タイUSTR代表とレモンド商務長官、EU欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長が共同声明が以下の内容の声明を発表していましたよね。
あれから4ヵ月、10月末の米欧首脳会談では、①米国は鉄鋼やアルミに対し一定数量まで追加関税措置を講じない関税割当(TRQ)を導入、②EUは米国の一部輸入品に賦課していた報復関税を停止――で合意に至ったのは報道の通りです。
その他、中国への目配せも忘れません。今回の合意では、世界的な鉄鋼の過剰生産と二酸化炭素排出量(CO2)の多い鉄鋼産業のサステナブル化に向け、米欧が設立する枠組みに価値観を共有する各国を招く案が盛り込まれました。さらに、声明によれば、上記の取り組みに向け①市場志向の条件を満たさず、且つ過剰能力をもたらし、米欧の枠組みに加わらない、非市場主義的な生産活動を行う国に対し市場アクセスを制限、②排出量の削減で基準に満たない各国の市場アクセスを制限、③国内の政策が炭素排出量の削減を支援、④非市場主義的な各国が炭素排出量に配慮せず生産することを抑制、⑤政府支出における脱炭素について協議、⑥国内法の枠組みに従い、非市場主義的な各国からの対内投資を審査――といった柱が明記されました。
レモンド商務長官は、別の声明で「今回の合意により、米国の雇用を保護しただけでなく、ハーレー・ダビッドソンやケンタッキー・バーボンのような米国を代表するブランドへの報復関税を回避し、さらに自動車、トラック、電気製品、缶詰などといった製品へのインフレ圧力を低減し、米国内供給制約を緩和させる」とアピールしていました。
そう、バイデン政権の鉄鋼・アルミ追加関税をめぐる交渉の真の狙いは、供給網の制約緩和とインフレ抑制ということが分かります。なぜなら、バイデン政権の支持率はインフレ加速が主因とされていますから。実際、米10月消費者物価指数が約31年ぶりの高い伸びを記録してからわずか3日で、支持率は42%と過去最低を更新しました。
チャート:バイデン大統領の支持率
さらに11月15日から、レモンド商務長官とタイUSTRが来日し日米の鉄鋼アルミ追加関税措置をめぐり交渉を開始したわけですが、鉄鋼・アルミ生産の価値観を共有する各国での協力関係構築と共に、関税措置の緩和が期待できます。
バイデン政権が鉄鋼・アルミ追加関税措置を見直すほど、価格は高騰していました。熱延鋼板価格は7月に20年3月比215%急伸の1,825ドルと過去最高値を更新、在宅勤務やステイホームの影響で冷蔵庫やグリル、BBQセットなど、金属加工製品、鉄鋼製品の需要が急拡大したほか、経済活動の正常化による影響も後押ししていました。
足元では1,680ドル台まで落ち着いているとはいえ、生産者物価指数(PPI)の金属製品をみても、10月に前年同月比101.5%上昇、PPIの前年同月比8.6%と比べると上振れが際立ちます。
チャート:金属製品のPPI、前年比2倍も急騰
バイデン政権の追加緩和措置の見直しをめぐっては、イエレン財務長官の11月1日、ロイターとのインタビューが注目されます。イエレン氏は、対中追加関税措置をめぐり「互恵的な形で引き下げることを検討するかもしれない」と発言。また、関税は鉄鋼やアルミなど原材料を通じ国内物価を押し上げると指摘し関税を下げれば「ディスインフレ」効果を与えるとまで言及し、政権として追加関税の引き下げに前向きな姿勢をちらつかせました。
この発言の直前にあたる10月26日、イエレン財務長官は劉鶴副首相とオンラインで会談していましたよね?中国は一貫して関税引き下げを求めており、両者ウィンーウィンとなる対中追加関税緩和をめぐり、妥協に到達するシナリオに留意すべきでしょう。
その一方で、追加関税対策から1.75兆ドルの歳出法案まで、あらゆる局面でバイデン政権の障害となるウエストバージニア州のマンチン上院議員が懸念材料。マンチン議員はかつて、トランプ前政権の対中追加関税措置を「米国の鉱業を復活させる」と称賛していました。米中追加関税措置は1974年通商法に基づき、知的財産権の保護などで協定違反とUSTRが判断し賦課され、米議会が決定権を有するわけではありません。しかし、安易な対中追加緩和措置はマンチン議員の怒りを買うと想定され、無暗に中国と妥協すれば、同議員の反発により法案可決が一段と困難になりかねません。
仮に緩和措置を講じるなら、国境炭素税との合わせ技が考えられますが、マンチン議員は1.75兆ドルの歳出法案に含まれる労働組合をもつ米工場で組み立てられたEVの購入者向け税控除4,500ドルすら反対する有様です。ウエストバージニア州の基幹産業は約16%を占める鉱業なだけに、マンチン議員の説得に苛烈な火花が飛び散ること必至です。
(カバー写真:Billy Wilson/Flickr)
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