The Reasons That Traders Still Bets On Fed Rate Cuts After Strong Jobs Report.
<本稿のサマリー>
米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は市場予想を超え、堅調なペースを維持しました。労働参加率が改善したにも関わらず失業率は3.4年以来で1969年5月以降で最低となった1月の数値に並び、労働市場は引き続き健全なようにみえます。
NFPを業種別でみると、これまで牽引してきた娯楽・宿泊の比率は今回9.8%と、過去3カ月平均の18%から半減しました。雇用増加の偏りが後退し、幅広く増加したように見えます。一方で、家計調査での就業者数は13.9万人増とNFPの25.3万人増を下回りました。ただし、フルタイムが4カ月連続で増加し、労働市場の堅調ぶりを示します。この背景には、起業数の増加が挙げられますが、これは後述しましょう。
労働参加率は前月と変わらず62.6%と、2020年3月以来の高水準を維持しました。それでも、平均時給はむしろ前月から加速し、賃上げ圧力が再燃した可能性を示唆する半面、GMによる早期退職募集にみられるように、退職金などによる押し上げ効果も否定できません。そういえば、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長率いるFeⅾは、賃上げ圧力について過大評価しない方向と伝えられ、2022年12月時点の「賃金インフレを重要視する」構えから撤回したようですが、これが一因かもしれませんね。なお、米景気後退前に平均時給が退職金などで上昇する傾向があるとは、こちらでお伝えした通りです。
週当たり労働時間は前月と変わらず、サービス部門のみ改善したとはいえ低水準が続きます。
米4月雇用統計を受け、米株高・米債安(利回りは上昇)・米ドル高の展開を迎えました。ドル円は一時135.12円まで上昇し他後、34円後半で終えました。ファースト・リパブリック・バンク破綻後の米株安を受けた5月4日の133.50円から回復しています。
チャート:ドル円5分足、135.12円を付けた後も134円後半を中心に推移
米4月雇用統計が堅調だったものの、FF先物市場では6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で据え置きの織り込み度が91.5%へ上昇しました。
チャート:FF先物市場では、6月FOMCでの据え置き予想が大勢
年内は5月FOMCの利上げでピークアウトし6月の据え置きの後、引き続き7月の利下げ転換、11月と12月を含め年内3回の利下げを織り込みます。
チャート:年内のFF金利織り込み度、利下げ転換予想は変わらず
米4月雇用統計のポイントは、以下の通り。
(労働市場にポジティブ)
・NFPは堅調なペースで増加
・平均時給、前年同月比の伸びが加速(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・失業率は低下
・労働参加率は2020年3月以来の水準を維持
・就業率は2020年2月以来の高水準を維持
・フルタイムの労働者が増加
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・過去2ヵ月分のNFPが大幅に下方修正
・過去2カ月分の下方修正を経て、民間就業者数の過去3カ月平均は18.2万人増と2021年1月以来の低水準
・失業者に占める解雇者の割合が引き続き最大、自発的離職者数は低下(景気減速懸念から自発的離職者は減少)・週当たり労働時間が低水準
・雇用増加の一因に、起業数の増加あり(後述)
チャート:民間就業者数の3カ月平均、2021年1月以来の低水準
米4月雇用統計の詳細は、以下の通り。
米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比25.3万人増となり、市場予想の18.0万人増を上回った。2021年1月以降続くプラス圏で最小だった前月の16.5万人増(23.6万人増から下方修正)を超え、28カ月連続で増加するなか堅調な伸びを維持。2022年平均の40.1万人増は下回った。
2月分の7.8万人の下方修正(32.6万人増→24.8万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で14.9万人の下方修正となった。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比23.0万人増と市場予想の16.0万人増を上回った。前月の12.3万人増(18.9万人増から上方修正)を超え、28ヵ月連続で増加した。民間サービス業は19.7万人増、前月の14.0万人増(19.6万人増から下方修正)を上回った。
チャート:NFPは堅調なペースを維持、失業率は低下
サービス部門のセクター別動向は、11業種中で10業種が増加し速報値ベースの前月の9業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は教育・健康、続いて専門サービス。前月1位だった娯楽・宿泊は3位に転落した。一方で、卸売のみ5カ月ぶりに減少した。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・教育/健康 7.7万人増と15ヵ月連続で増加、前月は6.0万人増、6ヵ月平均は8.0万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は6.4万人増と15カ月連続で増加、前月は4.8万人増、6ヵ月平均は6.7万人増)
・専門サービス 4.3万人増と5カ月連続で増加、前月は2.3万人増、6ヵ月平均は2.6万人増(そのうち派遣は2.3万人減と3カ月連続で減少、前月は1.9万人減、6ヵ月平均は2.3万人減)
・娯楽/宿泊 3.1万人増と28ヵ月連続で増加、前月は4.0万人増、6ヵ月平均は0.6万人増(そのうち食品サービスは2.5万人増、前月は2.8万人増、6ヵ月平均は4.9万人増)
・金融 2.3万人増と増加に反転、前月は0.1万人減、6ヵ月平均は0.6万人増
・政府 2.3万人増と10カ月連続で増加、前月は4.2万人増、6ヵ月平均は5.1万人増
・輸送/倉庫 1.1万人増と2カ月連続で増加、前月は1.4万人増、6ヵ月平均は横ばい
・小売 0.8万人増と増加に反転、前月は2.0万人減、6ヵ月平均は0.7万人増
・その他サービス 0.5万人増と15ヵ月連続で増加、前月は1.5万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・公益 0.1万人増と2カ月連続で増加、前月は0.2万人増、6ヵ月平均は横ばい
・情報 0.1万人増と2カ月連続で増加、前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.3万人減
―横ばいの業種
なし
―減少した業種
・卸売 0.2万人減と5カ月ぶりに減少、前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.4万人増
財生産業は前月比3.3万人増と、23ヵ月ぶりに減少に転じた前月の1.7万人減(修正値)から回復した。業種別をみると、建設と製造業が増加に転じたほか、油価が70ドル割れを迎えつつ、鉱業・伐採が増加トレンドを保った。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・建設 1.5万人増、前月は0.8万人減と14ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は1.5万人増
・製造業 1.1万人増、前月は0.8万人減と23カ月ぶりに減少、6ヵ月平均は0.6万人増
・鉱業/伐採 0.2万人増(石油・ガス採掘は400人増)と8カ月連続で増加、前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.4万人増
チャート:セクター別、就労者の増減
チャート:20年2月との比較、民間サービス部門はベンチマーク改定を受け前月の2.7%増→2.9%増と13ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は速報値ベースの前月の7業種から8業種へ戻した。今回、小売(0.1%増)が過去の修正値と合わせプラスに戻した。その他、種は輸送・倉庫(16.6%増、30ヵ月連続)、専門サービス(7.0%増、20ヵ月連続)、情報(6.5%増、20ヵ月連続)、金融(2.9%増、19ヵ月連続)、公益(1.4%増、17ヵ月連続)、卸売(2.6%増、14カ月連続)、教育・健康(2.1%増、7カ月連続)となる。過去2カ月間の数値が火防修正された影響もあり、8業種のうち小売以外全てが前月の伸びを上回った。一方で、娯楽・宿泊を始めその他サービス、政府は引き続きマイナスをたどった。
財部門は2.2%増と前月の2.0%増を上回り、12ヵ月連続でプラス圏を守った。建設(3.9%増)が15ヵ月連続でプラスとなったほか、製造業(1.6%増)も11ヵ月連続で増加。鉱業・伐採のみ、6.4%減と20年2月以降で最も小幅な下げながらマイナス圏を保った。
(作成:My Big Apple NY)
平均時給は前月比0.5%上昇の33.36ド ル(約4,500円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.3%も超え、27カ月連続で上昇している。前年同月比は4.4%上昇、市場予想の4.2%を上回り、前月の4.3%(前月の4.2%から上方修正)を超えた。生産労働者・非管理職の前年同月比は5.1%上昇、前月の5.3%に届かず、2021年6月以来の5%割れに迫った。
チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う
週当たりの平均労働時間は34.4時間と、市場予想と前月の34.4時間と一致した。コロナ禍で経済活動が停止した2020年4月以来の低水準から急回復した前月の34.6時間を下回った水準を維持した。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた格好だ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.9時間と、前月と一致。引き続き、コロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.4時間と、3カ月ぶりの低水準だった前月を上回った。それでも、2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。
チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向が続く
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は労働時間が前月と一致したものの、民間就労者数が増加したため、前月比0.2%増と増加に転じた。平均時給の伸びが加速した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.7%増と増加トレンドを維持しつ小幅にとどまった。
失業率は3.4%と、市場予想と前月の3.6%を下回り1969年5月以来の低水準を記録した1月の水準に並んだ。失業率の低下は、失業者が前月比18.2万人減少したことが寄与した。自発的離職者数は2カ月連続で減少し79万人となり、失業率を押し下げた。自発的離職者数に占める失業者の割合は13.8%と11カ月ぶりの低水準だった。
チャート:自発的離職者数は2カ月連続で増加
解雇者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比18.4万人減の193.3万人となった。3カ月ぶりの低水準だったが、再参入者の増加が届かず、解雇者数の割合は33.8%と前月の35.6%から低下しつつ失業者の中で最多となった。
チャート:失業者に占める解雇者の比率、引き続きトップに
労働参加率は62.6%、前月と一致し2020年3月以来の水準に並んだ。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である
就業率は60.4%と前月と一致し、2020年2月(61.1%)以来の高水準を維持した。
「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比12.1人減(過去5カ月間で4回目の減少)の108.5万人だった。ただし、コロナ後の平均値だけでなく、2015‐19年の平均値に迫り、労働参加率を支えた。
チャート:「病気が理由で働けない」とする人々、コロナ禍後の平均以下に
足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の数字を比較すると、今回はNFPが25.3万人増に対し、家計調査の就労者数は13.9万人増にとどまった。
チャート:家計調査の就労者数がNFPを上回る
家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、フルタイムが16.1万人増と4カ月連続で増加し、就労者数の増加を支えた。景気減速懸念から、労働者がフルタイムを希望している、あるいはパートタイムからフルタイムにシフトした可能性を示唆する。パートタイムは3カ月連続で減少した。複数の職を持つ者は、3カ月連続で減少した。
チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、フルタイムが3カ月連続で増加
チャート:フルタイムの雇用は、4ヵ月連続で増加
チャート:複数の職を持つ者は2020年2月以来の高水準から、4月は小幅減
今まで筆者は、複数の職を持つ者が雇用がNFPを押し上げた可能性を指摘しておりました。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるためです(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。
しかし、今回の結果を踏まえると起業の増加による雇用増が背景と考えられます、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると、前月比37.8万人増と2022年10月以来の高い伸びを記録していました。ここで大注目は、業種別で専門サービスが13.3万件と、ベンチマーク改定を行った2022年4月以降で、全体と同じく2022年10月に次ぐ高水準だった事実です。専門サービスはエンジニアなどIT専門職が含まれるだけに、2022年後半からのIT大手企業のリストラに合わせ、起業の増加に伴い雇用が押し上げられた可能性を示唆します。
チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増(季調前)は、4月に2022年10月以来の高水準
(出所:My Big Apple NY)
チャート;専門サービスの起業・閉鎖調整ベースの雇用増減は、2022年4月以降で同年10月に次ぐ高水準
さらに、荒っぽいことを承知で起業・閉鎖調整ベースの雇用増がNFP(季調前)比でどれほどだったかをみると、今回37.4%でした。2022年4月以降で最高だった1月の54.2%以下が続くとはいえ、2022年末以降、2019年の平均値の30%を上回る水準を維持しています。起業による雇用増加は決して悪いことではありませんが、IT企業のリストラによる副産物と想定され、米景気減速局面且つ米銀の2022年Q4の銀行融資単調者調査で貸出基準と貸出金利引き上げの回答が44.8%とリセッションの前兆となる40%超えの状況下、こうした雇用増が続くかは不透明と言えるでしょう。FF先物市場で引き続き9月の利下げ転換、さらに年内3回の利下げが織り込まれているのは、米銀破綻が及ぼす米経済への悪影響、米債務上限引き上げ交渉の難航に加え、こうした雇用増加の脆弱性が意識されているのかもしれません。
チャート:NFP(季調前)と起業・閉鎖調整ベース、22年3月をゼロとした累積の雇用増
チャート:起業・閉鎖調整の雇用増、NFP比は4月に37.4%と、2022年末以降から2019年平均の30%超えを維持
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.7%と前月の6.8%を下回った。22年12月は、1994年の統計開始以来で最低を更新し6.5%だった。
2)労働参加率 採点-〇
労働参加率は62.6%と、前月の62.3%から上昇し20年3月の水準に並んだ。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善
3)長期失業者 採点-×
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.4週と前月の8.1週から延び、3カ月ぶりの水準へ上昇した。27週以上にわたる失業者の割合は20.6%と、前月の18.9%を超え10カ月ぶりの水準へ上昇した。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年8月以来の低水準
4)賃金 採点-〇(インフレ抑制の観点では×)
今回は前月比0.5%上昇し、前月の0.3%を上回った。前年比は4.4%と、2021年7月以来の低い伸びだった前月の4.3%を超えた。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%と前月と一致。前年比は5.0%上昇し、2021年6月以来の5%割れが再び近づいた。
(カバー写真:Taber Andrew Bain/Flickr)
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