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米8月雇用統計後、ウォラーFRB理事発言で年内0.5%利下げが視野

by • September 6, 2024 • Finance, Latest NewsComments Off2441

Fed’s Waller Backs Rate Cut In September, Open To Larger Moves After The Mixed-Bag Jobs Report.

米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)を始め、ヘッドラインを軸に前月からの改善が目立ちました。労働参加率が前月と横ばいのところ失業率は2021年10月以来の高水準だった前月から、市場予想通り低下。平均時給は前月比と前年比で市場予想を上回っています。全体的に、米景気後退入りの懸念を低下させる内容だった一方で、NFPの過去2カ月分の下方修正や、完全解雇者の労働力人口に占める割合など、強弱まちまちの感は否めません。

パウエルFRB議長が8月23日のジャクソンホール会議で「政策調整の時が来た」と発言したため、9月利下げは決定的ですが…。FF先物市場では、結果を受けて9月FOMCでの0.5%利下げ織り込み度が59%やら47%などへ上下しました。結局、一時77%へ揺り戻しています。ただし、タカ派のウォラーFRB理事が日本時間午前12時に行った講演で、新たな入ってくるデータ次第で継続的利下げだけでなく、大幅利下げを支持する可能性言及。結果、11月6~7日のFOMCの0.5%利下げ織り込み度が一時52.7%へ急伸。12月FOMCの利下げ織り込み度も、年内0.5%2回の利下げ予想が上昇しました。FF先物市場の数字は、全て日本時間午前2時頃となります。

チャート:FF先物市場、11月の0.5%利下げ織り込み度が一時50%超え

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(出所:Street Insights)

チャート:FF先物市場、12月の0.5%利下げ確率が上昇

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(出所:Street Insights)

ドル円は米8月雇用統計の結果を受け、文字通り乱高下。米8月雇用統計発表直後に米8月雇用統計直後に144.09円へ急伸→141.98円へ下落→143.80円台へ切り返し→ウォラーFRB理事の発言を受け141.77円台へ下落と、恐ろしい展開を迎えております。米株はテクノロジーや通信が押し下げ、上昇していたダウも下落に転じ執筆時点で一時400ドル超の下げ幅となりました。

1分足チャート:ドル円は米8月雇用統計後に地獄の乱高下、米10年債利回りは緑線(左軸)

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(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、強弱まちまちとなりました。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが市場予想や前月を上回る
・週当たり労働時間、財部門が主導し2020年4月以来の低水準から改善
・平均時給の伸び、前月比と前年同月比で市場予想超え(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比は5%台を回復
・失業率、前月の4.3%を下回り4.2%

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFP、過去2カ月分は2.9万人の下方修正
・労働参加率は横ばい
・就業率、2022年11月以来の低水準を維持
・失業率は8月に低下も、サーム・ルールで景気後退のサインとなる0.5ポイント超えを維持
・失業者のうち失職者は2021年11月以来の高水準(ただし、イオフはハリケーンの影響で急増した前月の100万人超えから改善)
・完全解雇者の労働力人口の割合、高水準を維持
・不完全就業率は2021年10月以来の高水準
・フルタイムの雇用が再び減少

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比14.2万人増となり、市場予想の16.0万人増を上回った。2021年1月以降の増加トレンドで最小の伸びとなった前月の8.9万人増(11.4万人増から下方修正)からも、改善した。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比11.8万人増と市場予想の13.9万人増を下回った。2021年1月以降の増加トレンドで最小の伸びとなった前月の7.4万人増(9.7万人増から下方修正)からは、改善。民間サービス業は10.8万人増と、2021年1月以降の増加トレンドで最小の伸びとなった前月の5.4万人増(7.2万人増から下方修正)を上回った。

チャート:NFPの伸びと失業率、前月から改善

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(出所:Street Insights)

チャート:民間サービスの雇用の伸びも、前月から改善

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(出所:Street Insights)

6月分の6.1万人の下方修正(17.9万人増→11.8万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で8.6万人の下方修正2023年以降では、19回のうち16回目の下方修正を迎えた。以前から筆者が指摘し2023年7月に入ってウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も記事で取り上げたように、NFPは労働市場を過大評価している可能性が引き続き意識される。なお、8月21日にNFPは年次基準改定を受け、2024年3月までの1年間で81.8万人の下方修正となった。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で8業種で増加し、速報値ベースでの前月の6業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は11カ月連続で教育・健康、次いで夏季休暇シーズン中を背景に娯楽・宿泊、そして政府が並んだ。一方で裁量的支出の縮小を背景に小売の他、情報、公益が減少した。

(サービスの主な内訳)

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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比1.0万人増と、4カ月連続で増加。ただし業種別をみると、建設が増加トレンドを維持しただけで、鉱業・伐採は横ばい、製造業は減少に転じた。

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の4.7%増→4.8%増と29ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は10業種。輸送・倉庫、専門サービス、情報、金融、公益、卸売、教育・健康、小売、政府、娯楽・宿泊となる。その他サービスのみ、マイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

財部門は前月の3.6%増→3.6%増と、28ヵ月連続でプラス圏を保つなかで伸びは変わらず。建設、製造業はプラス圏を維持したが、鉱業・伐採は引き続きマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.4%上昇の35.21ド ル(約5,000円)と、市場予想と前月の0.3%を上回った。2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は3.8%、市場予想の3.7%と2021年5月以来の低い伸びだった前月の3.6%を上回り、6月の伸びに戻した生産労働者・非管理職の前年同月比も4.1%と、2021年5月以来の4%割れを迎えた前月の3.9%(修正値)を上回った

チャート:平均時給、生産部門・非管理職と合わせ前年比での鈍化トレンド一服

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.3時間と市場予想と一致し、2020年4月以来の低水準に並んだ前月の34.2時間を上回った2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けたままだ。財部門(製造業、鉱業、建設)が39.8時間と、前月の39.7時間から改善し、全体を支えたとはいえ、引き続きコロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは5カ月連続で33.2時間と、低迷が続く。2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。パートタイムの雇用増加が短縮の一因と言えよう。

チャート:週当たり平均労働時間、財が支え前月から改善

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(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は就労者数の伸びと週当たり平均労働時間が前月を上回ったため、前月比で0.4%増と3ヵ月ぶりに減少した前月から改善した。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は前月比0.8%増、横ばいにとどまった前月から改善。6カ月ぶりの強い伸びだった。なお、4月分は同0.1%減に下方修正されたため、2020年5月以降の増加トレンドに終止符を打っていた。前年同月比は5.0%増と、2021年3月以来の5%割れとなった前月の4.8%を上回った。3カ月平均は逆4.9%増と、前月の5.1%増を下回り2021年3月以来の5%割れを迎えた。

チャート:民間部門の総賃金、2021年3月以来の5%割れ

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(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.2%と市場予想と一致し、2021年10月以来の高水準だった前月の4.3%を下回った労働参加率は前月の62.7%で変わらず。失業者数が前月比4.8万人減だった一方で、就業者数の同16.8万人増と増加したため、失業率を押し下げた。

自発的離職者数は84.5万人と小幅に3ヵ月ぶりに減少しつつ、2019年平均は上回った。自発的離職者数に占める失業者の割合は12.0%と、4カ月ぶりの水準に並んだ。

チャート:自発的離職者数は、小幅に3カ月ぶりに減少

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(出所:Street Insights)

失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比2.9万人増の245.6万人と2カ月連続で増加し、2021年11月以来の高水準だった。失職者数の割合は他の増加幅が大きかったため前月の33.9%→35.0%と35%台へ戻しつつ、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は1.0%と、2021年11月以来の高水準をつけた5月の1.05%ににじり寄った。その他、レイオフ(一時解雇)は87.2万人と、ハリケーンの影響で2021年9月以来の水準へ急増した前月の106.2万人を下回ったが、年初来で3番目の高水準。結果、失業者のうち2021年8月以来の高水準だった前月の14.8%→12.4%へ低下した。一方で、再参入者と新規参入者は、それぞれ前月の30.2%→30.4%、前月の9.1%→10.2%へ上昇した。

チャート:失業者に占める失職者が再び上昇、レイオフ(一時解雇)の減少が一因

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(出所:Street Insights)

チャート:失職者は2021年11月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の比率は1%台を維持、引き続き2019年平均を上回る

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(出所:Street Insights)

チャート:レイオフ(一時解雇)は7月に2021年9月以来の水準へ急増したが、8月は87.2万人に減少

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(出所:Street Insights)

解雇者数の増加などが失業者数を押し上げるなか、サーム・ルール(失業率の直近3ヵ月移動平均と過去1年間での最低水準の差が0.5pt以上なら、1年以内に景気後退入りするとの説)を確認すると、8月は失業率が4.2%へ低下も0.57ポイントへ上昇前月の0.53ポイントを上回り景気後退入りのサインとなる0.5%を突破し続けた。なお、7月FOMC後の会見で、パウエルFRB議長は作家マーク・トウェイン氏も名言を引用し「歴史は繰り返さない、韻を踏む… 統計的な規則性というのは、経済的なルールではない」とサーム・ルールを重視していない姿勢を強調していた。

チャート:サーム・ルール(直近3カ月の移動平均と過去1年間の最低水準の差)、コロナ禍後で最高に

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(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように、前月と変わらず62.7%20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%に近づいた。

就業率は60.0%と、2022年11月以来の低水準だった前月と変わらず2020年2月(61.1%)以下が続く。

チャート:労働参加率は小幅改善、就業率は低水準を維持

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(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は前月の7.8%から7.9%へ上昇し、2021年10月以来の高水準だった。家計調査でパートタイムが再び増加するなか、予防的利下げを行った2019年平均の7.2%を上回ったままだ。

チャート:不完全就業率、2021年10月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は9.8週から9.4週へ短縮した。2022年2月以来の水準に長期化した。また、27週以上にわたる失業者の割合は21.6%と、2022年5月以来の高水準だった前月から低下した。ただ、米新規失業保険申請件数の継続受給者数の増加が高止まりするように、小幅な低下にとどまった。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合

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(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比15.6万人増と6カ月ぶりに増加し108.6万人となり、コロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を上回った。労働参加率の改善と整合的だ。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値を上回る

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(出所:Street Insights)

〇天候が理由で働けなかった人々

7月にハリケーンが直撃した結果「悪天候が理由で就業できなかった」とする人々は今回、前月比37.8万人増の46.1万人と6カ月ぶりの高水準だった。8月は2.8万人に減少、失業率の低下につながったと考えられる。

チャート:「天候が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値に接近

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが14.2万人増に対し、家計調査の就業者数は16.8万人増、NFPの結果と整合的だったNFPと家計調査の就業者数がそろって増加したのは、3カ月連続となる

チャート:NFPと家計調査の就業者数、8月はそろって増加

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比43.8万人減と減少に反転し、年初来で6回目の減少となった。一方で、パートタイムは同52.7万人増となり、年初来で6回目の増加に。複数の職を持つ者は同6.5万人増と2カ月連続で増加した結果、854万人と過去2番目の高水準となった。

チャート:フルタイムは年初来で6回目の減少、パートタイムは逆に年初来で6回目の増加

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は8月に増加、過去2番目の高水準

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下してきた。直近のデータをみると、CESは2024年3月に43.5%、雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は33.2%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか、2024年4月に69.7%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

これまで筆者は、複数の職を持つ者がNFPを押し上げた可能性を指摘していた。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるため(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。最近では、NFPを算出する上での起業・廃業モデルにも注目。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、2023年7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。

今回を振り返ると、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比10万人増と、前月の24.6万人増に続き増加。NFPをある程度、押し上げた可能性を示唆した。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増減(季調前)の推移

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(出所:Street Insights)

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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