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米8月雇用統計、人種別・学歴別は労働市場の「変曲点」接近を示唆

by • September 8, 2024 • Latest News, NY TipsComments Off1871

The August Jobs Report Signals U.S. Labor Market Is Nearing An Inflection Point.

米8月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、強弱町的の結果となりました。ただ、ウォラーFRB理事が9月FOMCでの利下げへの支持を表明しただけでなく、データ次第で継続的かつ大幅な利下げに前向きな姿勢を打ち出し、年内の0.5%利下げ期待が強まる状況です。

さて、非農業部門就労者(NFP)での業種別の動向をみると、裁量的支出動向を示す娯楽・宿泊は前月比4.6万人増と5カ月連続で増加し、2023年平均の4.7万人増と概ね変わりませんでしたこに含まれる食品サービスが同3.0万人増と押し上げ、2カ月連続で増加し2023年平均の2.6万人増も上回りました。夏季休暇終了前にもう一押しの雇用増となったのか、9月の結果が待たれます。また、政府は同2.4万人増と4カ月連続で増加し、引き続きNFPを下支えしました。年初来での伸びは3.3万人増と、2019年平均の1.8万人増を倍近くとなります。

チャート:娯楽・宿泊と食品サービス、政府の雇用の伸び

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(出所:Street Insights)

筆者がもうひとつ、注目する業種が専門サービスに含まれる派遣です。派遣は、労働市場の先行指標とされ、景気後退前に減少トレンドをたどる傾向があります。8月の結果を見ると、前月比2.9万人減と、今年1月を除き2022年4月以降のマイナストレンドを維持。マイナス基調をたどりながらも景気後退に陥っていないのは、ウーバーのドライバーを含め個人事業主の増加が一因と考えられます。

チャート:派遣、今年1月を除き2022年4月以降のマイナストレンドを維持

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(出所:Street Insights)

そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。

〇平均時給

平均時給は前月比0.4%上昇の35.21ド ル(約5,000円)と、市場予想と前月の0.3%を上回った。2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は3.8%、市場予想の3.7%と2021年5月以来の低い伸びだった前月の3.6%を上回り、6月の伸びに戻した生産労働者・非管理職の前年同月比も4.1%と、2021年5月以来の4%割れを迎えた前月の3.9%(修正値)を上回った

業種別を前月比でみると、平均時給の伸びが0.4以上だったのは13業種中で7業種で、前月の速報値ベースと変わらず。今回の1位は金融で前月比1.0%上昇し、続いて雇用が減少した公益を始め小売と製造業、その他サービス、専門サービス、輸送・倉庫となった。一方で、卸売と鉱業・伐採はマイナスだった。

チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(出所:Street Insights)

チャート:前年比では引き続きインフレ目標値2%超えが目立ち、財部門はそろって強い伸びとなった半面、サービス業はNFPで増加を主導したヘルスケアを含む教育・健康を中心に平均時給の前年比3.8%以下が優勢

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(出所:Street Insights)

〇労働参加率

労働参加率は全米で62.7%と前月と変わらず。ただし、働き盛りの男性(25~54歳)をみると,全米と白人ですべて低下た。(ただし、白人は季節調整前の数字)。

・25~54歳 89.5%、前月は90.0%と2009年8月の90%乗せ
・25~54歳(白人) 90.3%、前月は90.7%と2019年3月以来の高水準
・25~34歳 89.1%、前月は90.3%と2009年8月以来の高水準
・25~34歳(白人) 91.3%と2019年3月以来の水準に並ぶ、前月は90.7%

チャート:働き盛りの男性の労働参加率

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(出所:Street Insights)

働き盛りの女性はそろって上昇

・25~54歳 78.4%と1997年のデータ公表以来の最高記録更新、前月は78.1%
・25~34歳 78.2%、前月は77.9%と3ヵ月ぶりの低水準、なお2022年8月は78.8%と1997年のデータ公表以来で最高

65歳以上の高齢者の労働参加率は、男女そろって上昇するなか女性は2020年2月以来の高水準だった。

・男性 23.5%と5カ月ぶりの高水準に並ぶ、前月は23.3%、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.7%と2020年2月以来の高水準、前月は16.4%

チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率

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(出所:Street Insights)

労働参加率を16~19歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、55歳以上のみ上昇した。

・16~19歳 35.7%と2021年1月以来の低水準、前月は36.4%、3月は38.2%と2009年6月以来の高水準
・20~24歳 70.5%と2022年4月以来の低水準、前月は71.3%、1月は72.7%と2020年2月以来の高水準
・55歳以上 38.5%と5カ月ぶりの水準を回復、前月は38.3%

チャート:16~19歳、20~24歳、55歳以上の労働参加率

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(出所:Street Insights)

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が前月と同じく62.7%で推移するなか、前月比0.7%増の563.7万人と2カ月連続で増加。男性が同1.4%増の276万人と3ヵ月ぶりに増加したためで、女性は横ばい287.7万人だった。ただ引き続き、縁辺労働者は3ヵ月ぶりに女性が男性を上回った。

チャート:職を望む非労働力人口

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(出所:Street Insights)

〇男女別の労働参加率と失業率

男女別の労働参加率は、まちまち男性は若年層から働き盛りが低下した影響で、前月の68.2%→67.9%と4ヵ月ぶりの低水準だった。女性は逆に前月の57.5%→57.8%へ上昇、2020年2月(58.0%)の高水準に接近した。

チャート:男女別の労働参加率

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(出所:Street Insights)

男女の失業率は、そろって前月と変わらず。しかし、男性は労働参加率が低下したにもかかわらず、前月と同じく4.4%で2021年10月以来の高水準を維持女性は労働参加率の改善を受けつつも、前月と同じく4.1%と2021年11月以来の高水準を保った。なお、女性は2023年1月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。

チャート:男女別の失業率

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(出所:Street Insights)

〇人種・男女別の就業者、20年2月比

人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、概して弱含み。ヒスパニック系女性のみ伸びが拡大し、黒人女性で前月と伸びが変わらなかった程度で、白人の男女は下げ幅を広げ、黒人男性とヒスパニック系男性の伸びが鈍化した。全て季節調整前の数字である点に留意しておきたい。

チャート:男女別の就業者数の20年2月との比較

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(出所:Street Insights)

人種別の週当たり賃金は2023年5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。

チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い

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(出所:Street Insights)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、民族であって人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。

人種別の労働参加率は、まちまち。白人は横ばい、黒人とアジア系は低下、ヒスパニック系は上昇しコロナ禍出の経済活動停止前にあたる2020年2月以来の高水準だった。なお、データはアジア系を除き全て季節調整済みとなる。

・白人 62.3%と前月と変わらず、なお2023年8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 62.7%と1年ぶりの低水準、前月は63.2%、なお2023年3月は64.0%と2008年8月の高水準に並ぶ
・ヒスパニック系 67.8%と2020年2月の水準に並ぶ、前月は67.3%
・アジア系 65.7%、前月は65.9%と2009年9月以来の高水準 2020年2月は64.5%
・全米 62.7%と前月と変わらず、なお2023年11月は2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ

チャート:人種別の労働参加率

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(出所:Street Insights)

人種・男性別の労働参加率はヒスパニック系のみ上昇し、白人と黒人は低下した。

・白人 70.0%、前月は70.1%と8カ月ぶりの高水準、2020年3月は71.0%
・黒人 68.2%と10カ月ぶりの低水準、前月は69.7%、なお2023年3月は70.2%と2010年3月(70.4%)以来の高水準
・ヒスパニック系 80.4%、前月は80.1%、6月は80.6%と2020年2月(80.8%)以来の高水準

チャート:人種・男性別の労働参加率

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(出所:Street Insights)

人種・女性別の労働参加率はそろって上昇した。特にヒスパニック系は1976年6月からのデータ公表以来で最高、白人も2020年2月以来の高水準だった。

・白人 58.0%と4月に続き2020年2月以来の高水準(58.3%)、前月は57.8%
・黒人 63.2%と6カ月ぶりの高水準、前月は63.0%、2023年4月は63.9%と2009年7月(64.0%)以来の高水準
・ヒスパニック系 62.4%と1976年6月からのデータ公表以来で最高、2020年2月の62.2%を上回る、前月は61.1%

チャート:人種・女性別の労働参加率

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(出所:Street Insights)

人種別の失業率はまちまち白人は労働参加率と同じく失業率は2021年10月以来の高水準だった前月と変わらず、黒人は労働参加率に伴い失業率は低下した。一方で、労働参加率が上昇したヒスパニック系は失業率が上昇し、2021年10月以来の高水準となった。アジア系は労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率は白人やヒスパニック系と同じく2021年10月以来の水準へ上昇した。

・白人 3.8%と前月と同じく2021年10月以来の高水準を維持、なお2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 6.1%、前月は6.3%、2023年4月は4.7%と過去最低
・ヒスパニック系 5.5%と2021年10月以来の高水準、前月は5.3%、なお2022年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 4.1%と2021年10月以来の高水準、前月は3.7%、なお2023年7月は2.3%と2019年6月(2.0%)以来の低水準
・全米 4.2%、前月は4.3%と2021年10月以来の高水準、なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準

チャート:人種別の失業率

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(出所:Street Insights)

人種・男女別の失業率は、まちまち。労働参加率が低下した白人男性は失業率が上昇した一方で、労働参加率が上昇した白人女性は失業率は横ばいだった。労働参加率が低下した黒人男性は失業率が低下も、黒人女性は労働参加率につれ失業率も上昇。労働参加率が上昇したヒスパニック系の男性は失業率が上昇も、女性は低下した。なお、黒人女性とヒスパニック系男女は季節調整前の数字となる。

・白人男性 3.6%と2021年10月以来の高水準、前月は3.5%、なお2022年12月は2.8%と2020年2月以来の低水準
・白人女性 3.4%と2021年10月以来の高水準を維持、前月は3.4%、なお2023年6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 5.9%、前月は6.6%と2022年1月以来の高水準、なお2023年12月は4.6%と2023年4月につけた過去最低に並ぶ
・黒人女性 6.3%と2022年8月以来の高水準、前月は6.2%、なお2023年4月は3.8%と過去最低
・ヒスパニック系男性 4.7%と6カ月ぶりの高水準、前月は4.1%、なお2022年9月は3.0%と2019年11月以来の低水準
・ヒスパニック系女性 5.2%、前月は5.7%と2021年8月以来の高水準、なお2023年5月は3.1%と過去最低

チャート:人種・男女別の失業率

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(出所:Street Insights)

白人と黒人の失業率格差は2カ月連続で縮小。白人の失業率が前月比で横ばいだった一方で、黒人が低下したため、失業率格差は前月の2.5ptから2.3ptへ縮小し、2019年平均の2.8pt以下を保った。

チャート:白人と黒人の失業率格差

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(出所:Street Insights)

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の大卒で上昇、中卒と高卒は低下した。

・中卒 48.1%、前月は49.0%と1992年にデータが公表されて以来で最高、なお2023年11月は48.3%と2023年2月と並び過去最高
・高卒 56.9%、前月は57.0%なお2023年11月は57.3%と2020年2月(58.3%)以来の高水準
・大卒以上 73.0%と2023年9月以来の高水準、前月は72.7%、なお2023年8-9月は73.5%と2020年1月(73.7%)以来の高水準に並ぶ
・全米 62.7%と前月と変わらず、なお2023年11月は2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ

学歴別の失業率は高卒以外で全て上昇し、大卒は2021年9月以来、大学院卒は2021年7月以来の高水準だった。

・中卒以下 7.1%と2021年以来の高水準に並ぶ、前月は6.7%、なお2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.0%と4カ月ぶりの低水準、前月は4.6%と2022年1月以来の高水準に並ぶ、なお2023年7月は3.3%と2000年4月以来の低水準に並ぶ
・大卒 2.5%と2021年9月以来の高水準、前月は2.3%、なお2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒 3.0%と2021年7月以来の高水準、前月は2.7%、なお2021年12月は1.2%と2000年4月の低水準に並ぶ
・全米 4.2%、前月は4.3%と2021年10月以来の高水準 なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準

チャート:学歴別の失業率

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(出所:Street Insights)

チャート:大卒以上は2021年9月以来、大学院卒は2021年7月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。

①NFPの増加の業種別では、夏季休暇に入り裁量的支出と関連の深い娯楽・宿泊の伸び拡大、そこに含まれる食品サービスも増加。また、政府の雇用も引き続きNFPを下支え

②平均時給は、13業種別では全米平均を上回ったのは7業種で、前月の速報値ベースの11業種を下回る。

③働き盛りとされる25~54歳の男性の労働参加率は低下、逆に女性は上昇

男性の労働参加率は白人と黒人で低下、ヒスパニック系のみ上昇女性の労働参加率は全て上昇

人種別での失業率は白人男性、黒人女性、ヒスパニック系男性で上昇しそろって2010年10月以来の高水準、白人女性も前月横ばいで2010年10月以来の高水準を維持労働参加率が低下した黒人男性は失業率も低下、ヒスパニック系は労働参加率が上昇したにもかかわらず低下。

⑥学歴別では、労働参加率につれ大卒と学院卒の失業率が上昇

――米8月雇用統計のヘッドラインは強弱まちまちな印象を与えましたが、詳細を見ると米労働市場が調整地合いを強めたと言えるでしょう。特に働き盛りの男性の労働参加率の低下は雇用の機会が喪失しつつある実態を反映しているかのようです。しかも、労働参加率が低下したにもかかわらず白人男性の失業率が2021年10月以来の高水準だったほか、ヒスパニック系男性は労働参加率の上昇につれ6カ月ぶりの水準へ上昇。全米での失業率の低下が、労働市場の改善を示したとはとても言えそうにありません。その他、女性の労働参加率の上昇は介護や子育てなどに直面しつつも生活苦で働かざるを得ない状況を示唆しているかのようです。特にヒスパニック系女性の労働参加率は1976年6月以来で最高でした。

また、夏季は失業率が上昇する傾向にありますが、大卒や大学院卒も労働参加率の上昇につれ失業率が弱含んでいます。これは企業が新規採用に及び腰になっているどころか、半導体大手インテルを始めメディア大手パラマウント、通信機器大手シスコシステムズ、自動車メーカー大手GMなどの大手企業などが発表したように、人員削減に取り組む実態が影響しているのでしょう。

リセッションのサインが点灯しているのも、気掛かり。米8月ISM製造業景況指数の50割れや景気先行指標も低下継続、米7月JOLTSの弱含んでいます。何より、米10年債と米2年債の利回り逆転(逆イールド)が解消しプラスに反転、いよいよ米景気後退が意識されます。

チャート:逆イールドの解消→プラス反転は景気後退入りと失業率上昇のサイン

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(出所:Street Insights)

9月発表の地区連銀報告(ベージュブック)では、景況の弱含みに加え、フィラデルフィア連銀やシカゴ連銀、ミネアポリス連銀などで労働市場の減速を確認しました。米労働市場は、デイリーSF連銀総裁がいう「変曲点」を迎えつつあります。米8月雇用統計直後のウォラーFRB理事、そして8月19日のミネアポリス連銀総裁、それぞれタカ派による「9月利下げ」支持への転換が「変曲点」の到達への一段の接近を感じさせます。

(カバー写真:World Relief Spokane/Flickr)

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