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米11月雇用統計、失業率は労働参加率が低下でも上昇

by • December 6, 2024 • Finance, Latest NewsComments Off1425

Unemployment Rate Rose Despite Labor Force Participation Rate Nudged Down.

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、事前予想通りハリケーンを受けた減少の反動と航空大手ボーイングのストライキ終了を受け、20万人を超える増加を遂げました。しかし、想定範囲内に。むしろ、労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率が市場予想通り4.2%と前月の4.1%から上昇。しかも、小数点2位でみれば4.3%に近い結果となりました。加えて、失業者の内訳をみると失職者(会社都合での解雇、契約終了)や完全解雇者数(会社都合の解雇者)が増加しており、労働市場は未だ調整過程にあると言えます。

米11月雇用統計の結果を受け、FF先物市場では12月追加利下げの織り込み度が事前の71%→86.9%へ上昇。それだけでなく、2025年は2回の利下げ見通しが優勢だったところ、3回にシフトしつつあります。

画像:12月追加利下げの織り込み度が上昇

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(出所:Fedwatch)

ドル円は12月の追加利下げ期待が高まったように、下落で反応し一時149.36円まで本日安値を更新。米10年債利回りも低下しましたが、日本時間午前1時50分時点で、米株はまちまちです。

1分足チャート:ドル円は米11月雇用統計後、米10年債利回り(緑線、左軸)につれ下落

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(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、弱い材料が増えました。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが市場予想や前月を上回る
・NFP、過去2カ月分は上方修正
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比が6カ月ぶりの強い伸び
・サーム・ルールで景気後退のサインとなる0.5ポイント割れを維持

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・失業率は上昇
・労働参加率は2カ月連続で低下
・失業者のうち失職者は3年ぶりの水準に増加
・完全解雇者の労働力人口の割合、2021年11月以来の水準へ上昇
・就業率、2022年2月以来の低水準
・不完全雇用率が上昇
・長期失業者の割合が上昇
・平均時給の伸び、前年比で市場予想と一致も生産労働者・非管理部門が減速(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・週当たり労働時間は横ばい

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比22.7万人増となり、市場予想の20万人増を上回った。前月の3.6万人増(1.2万人増から下方修正)を上回り、20万人台へ戻した。

NFPの内訳をみると、間就労者数は前月比19.6万人増と市場予想の16万人増を上回った。2020年12月以来の減少を迎えた前月の0.2万人減(2.8万人減から下方修正)から改善。民間サービス業は16万人増と、前月の4.2万人増(0.9万人増から下方修正)を超えた。

チャート:NFPは大幅改善、失業率は低下

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(出所:Street Insights)

9月分の3.2万人の下方修正(22.3万人増→25.5万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で5.6万人の上方修正となったこれで、2023年以降では、22回のうち6回目の上方修正(16回は下方修正)となる。なお、8月21日にNFPは年次基準改定を受け、2024年3月までの1年間で81.8万人の下方修正となった。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で8業種で増加し、速報値ベースでの前月の5業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は14カ月連続で教育・健康、次いで娯楽・宿泊、政府が並んだ。一方で、ホリデー商戦を控えながら小売は2カ月連続で減少し、年末商戦が軟調となる可能性を示唆する。公益も小幅ながら減少した。

(サービスの主な内訳)

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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比3.4万人増と、6カ月ぶりに減少した前月の4.4万人減(修正値)を上回った。業種別をみると、建設が増加トレンドを維持したほか、鉱業・伐採が3カ月連続で増加。前月に減少した製造業は4カ月ぶりに増加した。航空大手ボーイングのストライキ終了が影響したとみられる。

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の5.0%増→5.2%増と32ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は10業種。輸送・倉庫、専門サービス、情報、金融、公益、卸売、教育・健康、小売、政府、娯楽・宿泊となる。その他サービスのみ、マイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

財部門は前月の3.4%増→3.6%増と、31ヵ月連続でプラス圏を維持。建設、製造業はプラス圏を維持したが、鉱業・伐採は引き続きマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.4%上昇の35.61ド ル(約5,340円)と10月の伸びと変わらず、市場予想の0.3%を上回った。2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.0%、市場予想と一致し、前月とも変わらなかった一方で、生産部門・非管理職の前年同月比は3.9%と、4カ月ぶりに4%割れを迎えた

チャート:平均時給はまちまち、生産部門・非管理職部門は鈍化

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.3時間と市場予想と一致し、前月の34.2時間(34.3時間から下方修正)を上回ったとはいえ、2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けたままだ。財部門(製造業、鉱業、建設)は39.7時間と、前月と変わらず。引き続きコロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスで33.2時間と8カ月連続で変わらず2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。

チャート:週当たり平均労働時間、財が短縮も全米は横ばい

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(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は就労者数の伸びが前月を大きく上回っため、週当たり平均労働時間が前月比0.4%上昇し、10月の小幅マイナスから改善した。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は前月比0.8%増、3カ月ぶりの強い伸びだった。前年同月比は5.1%増と小数点2位でみると6カ月ぶりの強い伸び。3カ月平均も5.1%と5カ月ぶりの伸びとなった。

チャート:民間部門の総賃金、前年比で6カ月ぶりに強い伸び

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(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.2%と市場予想と前月と一致したが、過去2カ月の4.1%から上昇。7月は4.3%と、2021年10月以来の高水準だった。労働参加率が前月の62.6%から62.5%と2カ月連続で低下したが失業率が上昇したのは、失業者数が前月比16.1万人増と増加し、就業者数の35.5万人減したため。しかも、四捨五入前でも4.245%と、前月の4.145%から上昇し4.3%に迫っていた。

自発的離職者数は85.3万人と4カ月ぶりに増加。自発的離職者数に占める失業者の割合は、前月の11.5%→11.9%へ上昇した。今回の自発的離職者数の増加は、アマゾンなど一部企業が週5日の出勤を義務化した影響がありそうだ。

チャート:自発的離職者数は3カ月連続で減少

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(出所:Street Insights)

失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比7.3万人増の262.7万人と2カ月連続で増加した結果2021年10月以来の高水準だった。失職者数の割合は前月の36.7%→36.8%へ上昇、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は1.12%と、2021年11月以来の高水準をつけた。一方で、レイオフ(一時解雇)は78,0万人と2カ月連続で減少した。結果、失業者に占めるレイオフの割合は前月の12.2%→10.9%へ低下した。再参入者と新規参入者は、それぞれ前月の31%→30.7%へ低下、前月の8.6%→9.7%へ上昇しまちまちだった。

チャート:失業者の割合、失職者が引き続きトップに

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(出所:Street Insights)

チャート:失職者は2021年10月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合は2021年11月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

チャート:レイオフは前月比で2カ月連続で減少

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(出所:Street Insights)

サーム・ルール(失業率の直近3ヵ月移動平均と過去1年間での最低水準の差が0.5pt以上なら、1年以内に景気後退入りするとの説)を確認すると、11月は失業率が前月の4.1%→4.2%へ上昇したが、0.43ポイントで変わらず。2カ月連続で景気後退のサイン点灯の節目となる0.5ポイントを割り込んだなお、7月FOMC後の会見で、パウエルFRB議長は作家マーク・トウェイン氏も名言を引用し「歴史は繰り返さない、韻を踏む… 統計的な規則性というのは、経済的なルールではない」とサーム・ルールを重視していない姿勢を強調していた。

チャート:サーム・ルール(直近3カ月の移動平均と過去1年間の最低水準の差)、0.5ポイント割れへを維持

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(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように、前月の62.6%を下回り6.25%と2カ月連続で低下した結果、6カ月ぶりの低水準だった20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%から遠のいた。

就業率は前月の60%→59.8%へ低下、2022年2月以来の低水準に並んだ2020年2月(61.1%)以下が続く。

チャート:労働参加率と就業率はそろって低下

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(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は、前月まで2カ月連続で7.7%で横ばいを経て、7.8%へ小幅上昇8月は2021年10月以来の高水準だった前月の7.9%予防的利下げを行った2019年平均の7.2%を上回ったままだ。

チャート:不完全雇用率、ら2019年平均を上回る水準を維持

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(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は10週から10.5週へ延び、2021年12月以来の水準に延びた。一方で、27週以上にわたる失業者の割合は23.2%、2022年2月以来の高水準だった23.7%からに接近した。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合

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(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比2.6万人増の104.6万人となり、引き続きコロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を上回った。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値を上回る

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが22.7万人増に対し、家計調査の就業者数は35.5万人減と、2カ月連続でNFPの結果に反し大きくマイナスだった

チャート:NFPと家計調査の就業者数、2カ月連続で乖離

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイム、パートタイムが減少、複数の職を持つ者のみが増加フルタイムは前月比11.1万人減と2カ月連続で減少し、年初来で8回目の減少となった。パートタイムは同26.8万人減となり、年初来で5回目の減少に。複数の職を持つ者は同27.5万人増と増加に転じ、過去2番目の高水準だった。

チャート:フルタイムとパートタイムは減少、複数の職を持つ者は増加

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は過去2番目の高水準

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下してきた。直近のデータをみると、CESは2024年3月に43.5%、雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は33.2%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか、2024年4月に69.7%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

NFPを算出する上で、複数の職を持つ者の押し上げのほか、起業・廃業モデルに注目すべきだろう。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、2023年7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。ただ、足元は労働市場は冷え込みつつある。

今回を振り返ると、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比36.8万人増と、前月の12.8万人減に反し増加。今回でいえば、NFPを下支えした可能性を残す。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増減(季調前)の推移

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(出所:Street Insights)

(カバー写真:infradept/Flickr)

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