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米1月雇用統計・NFPは鈍化も、失業率は改善し賃金の伸びも加速

by • February 7, 2025 • Finance, Latest NewsComments Off523

U.S  Job Growth Slows, But Unemployment Rate Declines In January.

米1月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を下回りました。しかし、労働参加率が上昇し、失業率は低下。年次基準改定を経て下方修正されたものの、速報値からは下げ幅を縮小し、全体的な堅調な労働市場を印象づけています。

米1月雇用統計の結果を受け、FF先物市場では6月利下げ観測が前日の45.7%→42.2%へ低下し据え置き予想が前日の35.4%→47.2%と逆転しました。

画像:FF先物市場、6月は据え置き予想が逆転

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(出所:Fedwatch)

ドル円は堅調な結果を受け一時152.43円まで本日高値を更新しながら、その後は上げ幅を縮小。151円割れから買い戻されただけに、上げ余地が限定的だったと考えられます。日米首脳会談を控え、ベッセント米財務長官が前日にインタビューで、貿易黒字国に対し為替レートや金利抑制がその要因となっている国もあると発言していたため、一部で円安是正を行うとの観測がくすぶり上値を抑えた可能性があります。加えて、米2月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値のセンチメントが急低下し、トランプ大統領が早ければ7日中にも「相互関税」を発表する方針との報道もあって、不確実性の高まりから売りが再燃しました。米10年債利回りはミシガン大の1年先インフレ期待の上昇や相互関税の報道もあって高止まり、米株は買い先行後、まもなく下落し「相互関税」報道を受け下げ幅を広げました。

5分足チャート:ドル円は米12月雇用統計後、米10年債利回り(緑線、左軸)につれ上昇も上げ幅を打ち消す

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(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、好材料が目立ちました。

(労働市場にポジティブ)

・NFP、年次改定の下方修正は速報値より小幅
・NFP、過去2カ月分は上方修正
・平均時給の伸び、前年比で生産労働者・非管理部門含め伸び鈍化(インフレ抑制の観点ではネガティブ、購買力の観点でポジティブ)
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比の伸び加速
・失業率は8カ月ぶりの低水準
・労働参加率、4カ月ぶりの水準を回復
・完全解雇者の労働力人口の割合が低下
・就業率は改善
・長期失業者の割合が低下

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFPが市場予想や前月を下回る
・週当たり労働時間は短縮
・不完全雇用率が横ばい
・失業者のうち失職者は小幅増加

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米1月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比14.3万人増となり、市場予想の17万人増を下回った。前月の30.7人増(25.6万人増から上方修正)からは、概ね半減した。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比11.1万人増と市場予想の14万人増を下回った。前月の27.3万人増(22.3万人増から上方修正)を超えた。民間サービス業は11.1万人増と、前月の27.5万人増(23.1万人増から上方修正)を下回った。

チャート:NFPは堅調な伸びを維持、失業率は2カ月連続で低下

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(出所:Street Insights)

24年11月分の4.9万人の上方修正(21.2万人増→26.1万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で10万人の上方修正となったこれで、2023年以降では、24回のうち8回目の上方修正(16回は下方修正)となる。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

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(出所:Street Insights)

年次基準改定により、24年3月までの1年間で58.9万人の下方修正となった。2024年8月の速報値の81.8万人の下方修正から、下げ幅を縮小した。ただし、月平均では2024年につき2024年の月平均の伸びは18.6万人増→16.6万人増へ下方修正、2023年は25.1万人増→21.6万人増へ下方修正された。

チャート:年次基準改定に伴いNFPは修正、過去2年間は月平均でそろって下方修正に

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で8業種で増加し、速報値ベースでの前月の9業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は16カ月連続で教育・健康、前月に続き小売、政府が並んだ。一方で、年末商戦の終了が一因か娯楽・宿泊の他、専門サービスが減少した。

(サービスの主な内訳)

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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比横ばい、前月の0.2万人減(修正値)からマイナス幅を打ち消した。業種別をみると、鉱業・伐採が3カ月連続で増加したほか、製造業が増加に転じた。これは、ISM製造業の雇用の改善と整合的だ。一方で、建設は豪雪の影響もあって、減少した。I

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.5%上昇の35.87ド ル(約5,420円)と市場予想の0.3%を上回り、前月の0.3%を上回った。5カ月ぶりの強い伸びとなり、2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.1%と上方修正された前月と一致、市場予想の3.8%を超えた。生産部門・非管理職の前年同月比は4.2%と、3カ月ぶりの強い伸びだった。

チャート:平均時給、全米と生産部門・非管理職部門は伸び加速

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.1時間と市場予想と前月の34.2時間を下回った豪雪の影響で短縮した公算が大きい。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けたままだ。財部門(製造業、鉱業、建設)は39.6時間と、前月の39.7時間を下回り2024年1月以来の低水準。引き続きコロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスで33時間と、2020年3月以来の低水準だった2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。

チャート:週当たり平均労働時間、全て短縮

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(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は就労者数の伸びが前月を下回り、週当たり平均労働時間も短縮したため前月比0.2%低下とマイナスに転じた。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は前月比0.3%増と、前月の0.2%増を下回った。前年同月比は5.0%増と5カ月ぶりの低い伸びだった前月の4.6%を上回った。3カ月平均は4.88%と前月の4.93%以下だった。

チャート:民間部門の総賃金、前年比は伸び加速

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(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.0%と市場予想と前月の4.1%を下回り8カ月ぶりの低水準だった労働参加率が62.6%と前月の62.5%から改善しながら失業率は改善し労働市場には朗報となる。

自発的離職者数は91.2万人と、3カ月ぶりに減少。自発的離職者数に占める失業者の割合は、前月の13.8%→13.2%へ低下した。今回の自発的離職者数の増加は、アマゾンなど一部企業が週5日の出勤を義務化した影響がありそうだ。

チャート:自発的離職者数は3カ月ぶりに減少

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(出所:Street Insights)

失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比2.4万人増の240万人と小幅に増加した。失職者数の割合は前月の36.7%→34.6%へ低下しつつ、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は1.00%と前月の1.01%からわずかに低下、2021年11月以来の高水準だった2024年11月の1.11%以下が続く。レイオフ(一時解雇)は年末商戦の終了もあって、83.5万人と小幅ながら減少加した。結果、失業者に占めるレイオフの割合は前月の12.5%→12.0%へ低下した。再参入者は前月の29.5%→30.7%へ上昇、新規参入者は前月の9.5%で変わらなかった。

チャート:失業者の割合は失職者が引き続きトップだが、自発的離職者数がレイオフを2カ月連続で上回る

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(出所:Street Insights)

チャート:失職者は前月比で小幅増

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(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合は前月から小幅低下

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(出所:Street Insights)

チャート:レイオフは前月比で3カ月ぶりに増加

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(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように前月まで3カ月連続で62.5%を経て、今回は62.6%へ上昇した。もっとも、20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%には遠い。

就業率は60.0%→60.1%へ改善2020年2月(61.1%)以下が続く。

チャート:労働参加率と就業率は改善

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(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は、前月と同じく7.5%だった。ただし、予防的利下げを行った2019年平均の7.2%を上回ったままだ。

チャート:不完全雇用率、2019年平均を上回る水準を維持

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(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前週に続き10.4週で、2021年12月以来の水準近くを保つ。一方で、27週以上にわたる失業者の割合は21.1%と、前週の22.4%から低下した。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合

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(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、厳冬・豪雪などを受け前月比299万人増の129.1万人となり増加に反転、引き続きコロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を上回った。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値を上回る

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(出所:Street Insights)

「悪天候が理由で働けない」とする人々は今回、厳冬・豪雪などを受け前月比47.9万人増の59.1万人と2カ月連続で増加した引き続きコロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を上回った。

チャート:「悪天候が理由で働けない」とする人々は2カ月連続で増加

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

毎年1月分の家計調査は、新たな人口推計結果が反映される一方で、過去データの遡及改定はなく、24年12月との連続性はない。従って、1月の数字は前月比で上下に振れる場合がある。以上を踏まえた上で今回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPの増加に対し家計調査の就業者数は急増。これはあくまでも人口推計の変更によるものだが、家計調査でも増加した公算が大きい。

チャート:NFPと家計調査の就業者数、今回の大幅増は統計上の影響が大きい

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムと複数の職を持つ者が増加し、パートタイムは減少ただしここも新たな人口推計が反映され振れが大きくなっている点には留意すべきだ。

チャート:フルタイムと複数の職を持つ者は増加、パートタイムは減少

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は過去最多も、人口推計の変更が主因

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下してきた。直近のデータをみると、CESは2024年3月に43.5%、雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は33.2%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか、2024年4月に69.7%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

NFPを算出する上で、複数の職を持つ者の押し上げのほか、起業・廃業モデルに注目すべきだろう。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、2023年7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。ただ、足元は労働市場は冷え込みつつある。

今回を振り返ると、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比10.5万人減と、2カ月連続で減少した。今回でいえば、NFPにはマイナスに影響したと言えよう。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増減(季調前)の推移

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(出所:Street Insights)

(カバー写真:WOCinTech Chat/Flickr)

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