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12月FOMC議事録で、3月利上げ織り込み度は後退

by • January 6, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off3085

March Rate Hike Is In Question After December FOMC Minutes Release.

2015年12月15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で約10年ぶりの利上げを決断しましたが、議事録では、運命の利上げが複数の参加者にとって「際どい判断」だったといいます。利上げの決定は全会一致だったものの、ハト派寄りのブレイナード米連邦準備制度理事会(FRB)理事、タルーロFRB理事のほか、シカゴ連銀エバンス総裁が躊躇した可能性を残しました。今後の利上げをめぐっては低インフレへの警戒、金融市場への懸念、経済見通しが慎重な色を帯び、12月FOMCで公表された経済・金利見通しにおける年内4回の利上げ予想に疑問を残します。

▽利上げをめぐる協議

・ほぼ全員が労働市場とインフレ目標値2%への回帰をめぐり、金利正常化の基準に適うと判断。
・参加者は「ゆるやかな(gradual)な利上げ」が適切とする根拠として、1)労働市場とインフレの改善を支える上で緩和的な効果を与え、2)多くの参加者は低インフレ環境を理由に挙げ、3)政策担当者に利上げ効果を吟味する時間を付与し、4)均衡実質金利は未だゼロ付近に過ぎない、5)景気を冷やす不測の事態が発生した場合、慎重な金融政策こそリスク最小化に適切と判断する――と説明。
・経済動向次第で利上げを調整できるよう正常化ペースの確約を回避する配慮、また成長及びインフレ動向に合わせ、従来予想より利上げの頻度が減速あるいは加速する可能性を伝える必要性を重要視。
複数の参加者は利上げが際どい判断と言及、低インフレ動向が背景。

▽経済動向

・FOMC参加者は、世界経済及び金融動向を通じた経済活動の下方リスクが残るも減退したと判断
・個人消費は所得の増加や家計のバランスシート改善を支えに拡大へ、複数の参加者は低水準にあるガソリン価格などが家計を支援すると予想。
・複数の参加者は住宅価格の上昇、住宅在庫の逼迫、世帯形成率との格差、鈍い建設ペースを指摘。
・ビジネス活動はエネルギー以外で堅調、多くの参加者がハイテク、輸送、娯楽、宿泊、ヘルスケア関連などでの力強さに言及。ただ海外エクスポージャーの高い鉄鋼、農業、掘削機器関連は弱く、エネルギー関連はリストラや設備投資削減などに直面。
・ドル一段高に伴う輸出減少や商品先物の下落に加えて、中国が構造改革転換で困難に陥るリスクを意識。
・複数の参加者は経済が上振れする可能性も指摘、特にエネルギー価格の下落が個人消費を促進させる可能性に言及。

・ほぼ全員が、エネルギー価格と商品価格の安定によりインフレ改善を予想し中期的にインフレ目標値2%へ回帰すると予想。しかし足元の原油安再燃で多くの参加者は低インフレが従来見通しより長引くと見込み、多くの参加者はエネルギーと商品価格の下落が継続する場合にはインフレに下方リスクを与えると想定。
・未だ低水準にあるインフレと見通しへの不透明性及びリスクを受けて、委員会はインフレ目標値へ向けた進展を注意深く精査する姿勢を声明文に反映させることで合意。

・多くの参加者は労働市場が一段と改善したと判断し賃上げを予想するも、複数の参加者は最大限の雇用を達成するまでに労働市場のたるみを吸収する必要があると認識。その上で、経済的な理由でパートタイムを余儀なくされている労働者を含む不完全失業率の改善など経済成長が労働資源の余剰を減退させる水準で推移すべきと指摘。

・スタッフ見通しでは、景気減速局面で金融及び財政で支援できる態勢にはなく実質GDP見通しはダウンサイドに傾くと認識。
・スタッフ長期インフレ見通しを小幅に下方修正、ドル高への影響を意識。

▽海外動向、金融市場

・(サード・アベニューが発行する投信の)換金停止によりハイイールド債市場での緊張高まる、リスク資産の価格算定の動きが背景。
・数人の参加者は、金融安定に甚大なリスクが発生した場合に政策の道筋の変更を余儀なくされる可能性を指摘。

中国株発の世界同時株安で、Fedはどう動く?
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(出所:blake.thornberry/Flickr)

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番であるジョン・ヒルゼンラス記者による「際どい利上げ決定を経て、2016年の引き上げペースを協議(After ‘Close Call’ to Raise Rates, Fed Starts 2016 With Debate on Pace)」と題した記事を配信(当初のFed Minutes Show Officials’ Concern About Low Inflationから変更)。FF先物市場では2016年の利上げが1%以下、年内2回を想定し始めるなかで(筆者注:2015年12月FOMC後は3回の予想が優勢)、Fedはインフレが3年半にわたって目標値2%割れで推移しているだけに「大いなる懸念」を抱いていると指摘する。その上でFRBスタッフもインフレ、失業率、成長の3つの重要指標が下振れするリスクを認識したとも伝えた。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、議事録を受けて「インフレをめぐる見解がダウンサイド・リスク一方向に傾いている」と指摘し、上振れリスクを言及するタカ派の存在を確認できなかったと振り返る。ただ、労働市場の改善が利上げへの確信を強めるとも判断。3月FOMCでは「従来の見方通り、追加利上げを行うと見込む」と結んだ。

BNPパリバも、議事録を受けて「3月FOMCの利上げは80%」と予想。年初からは原油安をはじめベース効果が剥落しインフレが上向くとみられるため、年内利上げは10-12月期のみ小休止し3回との見通しを据え置いた。

――エコノミスト諸氏は3月利上げ予想を据え置きつつも、FF金利先物動向の3月追加利上げは40.5%と、2015年12月末の50.8%から大幅低下していました。

議事録では「経済動向次第で利上げを調整できるよう正常化ペースの確約を回避する(to avoid appearing to commit to any specific pace of adjustments)」との文言に加えてあり、経済・金利見通し及びイエレンFRB議長の記者会見を予定しない1月FOMCをスキップを経て、機械的に3月に追加利上げに踏み切るか疑問を残します。4日に続き7日も中国CSI300が7%安に見舞われ取引停止の憂き目に遭ってしまい、米株も一段安のリスクが台頭中。Fedが2015年9月利上げを見送ったように、金融市場に配慮する可能性が浮上してきました。

ただし、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁をはじめフィッシャーFRB副議長は2015年12月FOMCで公表された経済・金利見通しに沿い年4回の利上げが「予想の範囲内(see in the ballpark)」と明言しています。現段階で四半期ごとの利上げに言及する理由は市場を不安にさせないためなのか、ベース効果剥落に伴うインフレ上昇を視野に入れているのか見極めが必要ですね。

(カバー写真:Martin Jones/Flickr)

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