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WSJのヒルゼンラス記者が明かす、イエレンの秘密

by • March 7, 2016 • Finance, Latest NewsComments Off3903

What WSJ’s Hilsenrath Knows About Janet.

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙が誇る屈指の米連邦準備制度理事会(FRB)担当記者と言えば、ジョン・ヒルゼンラス記者。ギリシャ彫刻を思わせる甘いマスクに、鋭い分析が光ります。

そのヒルゼンラス記者に、会ってきました。残念ながら個人的に取材したわけではなく、”WSJプロ・セントラル・バンキング”という中央銀行の情報に特化したサービスのプロモーションで開催されたイベントに参加して、名刺交換するチャンスをもぎ取ったというわけです。トーク後の質疑応答で質問をぶつけられなかった分、イベント後に突撃して直接お話を聞くことができました。

ヒルゼンラス氏、演壇では「ありがとう」と日本語を披露。
Economic Forecast Agenda held in John R. Clayton Hall Conference Center
(出所:University Of Delware

イベントでの注目点は、以下の通り。

▽日銀の金融政策
・日銀のマイナス金利導入はサプライズだったが、円高はもっと驚きだった。米当局は、黒田総裁のアグレッシブな決断に満足しており、日銀の政策に口出しするようなことはない
・上海での20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で景気刺激を目的とした財政出動の必要性が取り沙汰されたように、日本や中国も行動が求められる。日本の消費税増税をめぐっては景気支援が先決であるため、仮に先送りしたとしても当局が反対するとは考えられない
・非常事態には、第2次世界大戦当時のフランクリン・ルーズベルト大統領のような存在が必要とされる。力強さを発揮し決断力のある指導者という意味で、黒田総裁の評価は高い。

→日銀のマイナス金利導入はG20で欧州などから批判の声が上がったと報道されていますが、Fedが外圧を加える様子はないとの認識です。消費税先送りにも理解を寄せるなんて余程、先進国経済にコケて欲しくないんですね。黒田総裁への評価は”あらゆる策を講じる”ブラック・マジックの使い手とあって上々でしたが、ヒルゼンラス記者のリップ・サービスだったのでしょうか?

▽Fedの金融政策
・3月の利上げはない、今後は経済指標次第。
FRB理事で最もハト派寄りの理事はブレイナード氏。同理事の部屋はイエレンFRB議長の横で、しょっちゅうエレベーターなどで顔を合わせて意見を交わしている。
反対に最もタカ派寄りのメンバーは、フィッシャーFRB副議長。同議長の部屋は奥にあり、イエレン議長と顔を合わす機会はあまりない。
・マイナス金利を採用する可能性は、極めて低い。ただし、未曾有の事態が発生した場合の緊急措置として温存している。
・日銀は10bpの利下げに踏み切った歴史がある一方、Fedは利上げを25bp以下にとどめるような行動には出ない。FOMCは奇をてらう日銀とは違って市場と対話する傾向にあり、想定外の行動に出てマーケットを混乱させないよう努めている。

→3月FOMC以降の金融政策をめぐっては言葉を濁し明確に予想しなかったとはいえ、ブレイナードFRB理事がイエレンFRB議長に近いという情報はヒルゼンラス記者ならではですね。フィッシャーFRB副議長がタカ派という認識はさほど持っていませんでしたが、1月初めに年4回の利上げが「想定内」と言及していただけにFRB理事の面々ではそう判断しても差し支えないでしょう。25bp以下の利上げ、あるいはマイナス金利についても否定的な見解で、Fedはサプライズを回避しながら舵取りしていく見通しです。

個人的には、イエレンFRB議長の性格を物語るエピソードが大変興味深かったですね。同議長は非常に慎重な方で、スイスのバーゼルなど海外へ向かう際には3時間前に空港で待っているタイプなんだとか。何事にも万全の態勢を整えて臨むため遅れるということが大嫌いで、ホワイトハウスでの記者晩餐会でも、誰よりも早くカクテル・アワーに姿を現したといいます。ヒルゼンラス記者は、イエレンFRB議長の性格を熟知しているため「僕も早めに参加して、議長とおしゃべりする時間を勝ち得たよ」とウィンクしていました。

筆者が投げかけた質問はズバリ、イエレンFRB議長の去就です。2014年2月にFRB議長に就任したイエレン氏は、一期目の折り返し地点を過ぎました。イエレンFRB議長に、2期目はあるのか。

ヒルゼンラス記者は共和党から米大統領が誕生すれば、イエレン氏は1期満了となりうる」と予想。2月の議会証言でも厳しい質問が飛び交ったように、共和党を中心にFedの政策運営には包囲網が迫ります。イエレンFRB議長自身が民主党に属す事情もあり、党派対立が激化するなかでは新たな米大統領が共和党出身者であれば再任の可能性は低いと言わざるを得ません。ヒルゼンラス記者は、イエレンFRB議長自身が今年70歳と現在62歳であるバーナンキ前FRB議長より高齢である点も理由に挙げました。2015年9月の講演途中で体調を崩し、緊急治療を受けていたことが思い出されます。

反対に、民主党出身の米大統領、特にクリントン候補であれば「続投する」公算です。しかし、仮にサンダース候補が当選すればイエレン議長の再任の可能性は低い。2009年12月には、バーナンキFRB議長(当時)の2期目の指名承認を阻止すべく行動していました。共和党が掲げるFRB監視法案も支持しており、イエレンFRB議長が2期目には決して低くはない障害が立ちはだかります。

(カバー写真:FederalReserve/Flickr)

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