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世紀の米朝首脳会談、注目ポイントとランチ・メニュー

by • June 12, 2018 • Latest News, NY TipsComments Off2500

Trump-Kim Summit : Where Do They Go From Here?

歴史が動きました。

6月12日開催の米朝首脳会談で署名された共同声明の骨子は、以下の通り。

1.米国と北朝鮮は、両国の人民が望む平和と繁栄に沿い、新たな米国−北朝鮮の関係を構築する

2.米国と北朝鮮は、恒久的かつ安定的な体制を築く努力で連携する

3.北朝鮮は2018年4月27日に採択された”板門店宣言”を再確認し、朝鮮半島の完全なる非核化に向け取り組む

4.米国と北朝鮮は、戦争捕虜や戦闘時行方不明兵(POW/MIA)をめぐり、身元判明済みの即時引き渡しを含め、遺骨回収に努める

固い握手を交わすトランプ大統領と金正恩委員長。
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(出所:Twitter/Flickr)

単独で記者会見に応じたトランプ大統領は、史上初の米朝首脳会談が「率直で、まっすぐで、生産的だった(honest, direct, and productive)」と振り返りました。会見の冒頭で読み上げた原稿では「誰もが戦争を起こすことが可能だが、最も勇敢な者こそ平和をもたらす」と発言。金正恩委員長を称賛し、「前代未聞の会合だった」、「素晴らしく、心のこもった対話だった(great / heartfelt)」と評価したものです。

冒頭の原稿読み上げはわずか7分35秒で終了したものの、会見時間はC-SPANで1時間6分18秒とあって、いかに質疑応答に時間を割いたかが分かります。40分20秒を過ぎたあたりで、ご機嫌なトランプ大統領が「もう少しやろうか、サラ・ハッカビー・サンダース、続けるべきかな?」とサンダース報道官の了承を得て、延長されたんですよね。至極ご満悦な様子で、記者に「おめでとう」の言葉を掛けられた後に同じ言葉を贈っていたものです。ちなみにトランプ大統領の口から飛び出した「おめでとう」の回数は4回と、「非核化」の5回に引けをとっていませんでした。

質疑応答でのポイントは、以下の通り。

トランプ大統領は軍事演習を「戦争ゲーム(war game)」と言及、「非常にコストが掛かる(tremendously expensive)」と述べたほか、米国の重い負担を強いられていると発言。北朝鮮との交渉中における軍事演習実施は「不適切」で、演習中止により「米国は節約でき」、北朝鮮(theyと表現していたが、北朝鮮以外も含む?)も「大いに感謝する」と回答。

・トランプ大統領は選挙公約で示した通り、駐留米軍の撤退を望むと発言。「いずれかの時点」で、「実現すると望む」と言及。

・共同声明に「検証可能な(verifiable)や不可逆の(irreversible)」の言葉がなかったの記者の質問に、トランプ大統領は「朝鮮半島における完全なる非核化をめぐり、保証や断固とした確約について協議した」と回答。2回目に同じ質問が飛び出した時には、「時間がなかった」と吐露しつつ、北朝鮮による核施設破壊が非核化プロセス開始の証左との見解を示唆。

・北朝鮮の大使館創設など外交関係樹立につき、トランプ大統領は「時期尚早」と回答。

・北朝鮮の制裁解除に、トランプ大統領は「著しい改善(significant improvement)」が必要と回答。

・トランプ大統領は2017年8月、北朝鮮のミサイル発射を受け同国が「炎と憤怒(fire and fury)に直面する」と述べたが、今回の会見では「米国の立場ではそのような可能性を受け入れられず、日本も間違いなく受け入れない」と回答。

・今後につき、ポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官(安全保障担当)をはじめとしたチームが来週にも次の段階について詳細を協議する(米朝首脳会談に同行しており、他にはケリー首席大統領補佐官、アジア上級部長のマット・ポッティンジャー氏が参加)。

・北朝鮮の非核化につき、トランプ大統領は長い時間がかかると発言し早急に進むと想定せず。

・トランプ大統領は、米国が朝鮮半島の非核化費用を負担しないとの発言。「隣国である韓国、そして隣国も同然である日本」が負担する見通しで、両国は「寛大に対応するだろう(generous job)」と予想。

記者会見は、ご覧の様子。

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(出所:CSPAN

——やっぱり、朝鮮半島非核化の請求書は日本にまわってくる予感。日本が費用負担するならば、非核化を精査する役割をどこまで担えるのか、世論の関心が集まることでしょう。多国間協議が実現するか否かも、注目されます。しかし、米韓軍事演習の中止に言及するとは、想定外でした・・。全体的な内容を俯瞰すると、米朝首脳会談の最大の勝者は歴史的なイベントを実現させたトランプ大統領や体制保証の文言を勝ち取った金正恩委員長ではなく、中国と考えられます。中国は北朝鮮と国境を接する「隣国」 ながら①経済支援や非核化の費用を求められず、②米韓軍事演習の中止――という甘い果実を勝ち取りました。

米国の専門家は6カ国協議で学んだ教訓を忘れず、慎重姿勢を崩していません。保守系シンクタンク、アトランティック・カウンシルのシニア・フェロー、ロバート・マニング氏は米朝両首脳が「歴史を作った」と評価しつつ、「戦争捕虜や戦闘時行方不明兵の遺骨回収以外に具体策は示されなかった」、「米国が朝鮮半島の非核化という目的を進展させたと信じる理由に乏しい」と辛口です。カーネギー国際平和財団上席研究員のジェームズ・アクトン氏も「米朝首脳会談は茶番だった」、「非核化に関わる文言はこれまでの合意より弱く、確実なリターンを得られないままトランプ大統領は米韓軍事演習の中止という譲歩を差し出した」と辛辣そのもの。個人的には、トランプ大統領が金正恩委員長の帰国スケジュールを知ってから帰国日を設定したとのニュースを聞いて嫌な予感がしたものですが、「世紀の首脳会談」の成功に、急ぎ過ぎた感は否めません。

いずれにしても、北朝鮮は何度も合意を破棄した過去があり、米国も核放棄の引き替えに体制保証を約束したリビアのカダフィ政権崩壊を支援しました。ウクライナは、対核兵器放棄後に確約された米露など核保有国からの安全保障を反故にされましたよね。メジャーリーグの名選手、ヨギ・ベラの言葉「予想することは難しい、とりわけ未来はね」を思い出してしまうのは、筆者だけでしょうか。

歴史的な米朝首脳会談と言えば、ワーキングランチを挟みましたよね?米朝関係の新たなスタートとお腹を満足させたはずのメニューは、このようになっていました。

前菜1:車海老のカクテル、アボカドサラダ添え

前菜2:マンゴのグリーンサラダ、ハニーライム・ドレッシングと新鮮なタコを添えて

前菜3:オイソン(韓国料理、キュウリの詰め物)

主菜1:牛骨付き肉のコンフィ、ポテト・ドーフィノワ(仏風ポテトグラタン)、ブロッコリー、レッドワインソースを添えて

主菜2:酢豚を載せた揚州チャーハン(五目チャーハンのようなもの)、XOソース和え

主菜3:テグジョラム(韓国料理、タラと大根の煮付け)

デザート:ダークチョコレートのタルト・ガナッシュ、ハーゲンダッツ・アイスクリームのさくらんぼソースがけ、トロペジェンヌ

フランス料理に韓国料理、東南アジア系料理、中華料理などの逸品が並びました。ここで和食の出る幕はなかったのでしょうが、朝鮮半島非核化ヘ向けた対応では日本が加わることを期待したいところです。

(カバー写真:The White House/Flickr)

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