8292045991_7bda52137d_z (1)

IMF:追加関税の副産物は世界経済見通しの下方修正

by • October 11, 2018 • Finance, Latest NewsComments Off2635

Blame It On The Tariffs: IMF Sees The Expansion May Have Peaked In Some Major Economies.

国際通貨基金(IMF)は10月9日、世界経済見通し(WEO)の最新版を公表した。タイトルに「ゆるぎない成長への挑戦(Challenges to Steady Growth)」を掲げた今回、2018年と2019年の世界成長見通しを、それぞれ3.9%増→3.7%増へ下方修正した。これまで1月、4月、7月と2011年以来の高水準となる見通しを維持してきたが、2016年7月以来の下方修正となる。先進国の2018年見通しにつき前回の2.4%増で維持したが、2019年は2.2%増→2.1%増へ小幅に引き下げた。新興国・途上国は2018年につき4.9%増→4.7%増2019年も5.1%増→4.7%増へ大幅に下方修正した。

IMFは、2018~19年の成長率が2017年の水準と変わらないと断りつつ、前回通り「成長は同調性が失われている」と指摘。見通し下方修正の背景について、BREXIT交渉が難航するユーロ圏と英国など先進国での成長鈍化、エネルギー価格上昇に伴う資源輸入国の需要低迷、その他、政治面並びに産業面における不確実性を挙げた。もちろん、トランプ政権が太陽光パネル・洗濯機を皮切りに対中追加関税まで広げた通商政策を取り上げることも忘れない。金融安定報告(GFSR)で盛り込んだように、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げや欧州中央銀行(ECB)の資産買入縮小路線などを経て、金融環境が世界的に引き締め方向へシフトしたとの見解も表明、エマージング諸国からの資金流出にも懸念を寄せた。

IMFは、WEOで前回と同じく「短期的にリスクは下方向へシフトした(The balance of risks to the short-term global growth forecast has now shifted to the downside )」と明記した。しかし、4月時点で挙げた一部のリスクは「一段と明白になった、あるいは部分的に実現した(more pronounced or have partially materialized)」という。中期的には前回の「下方向に傾いている(skewed to downside)」との見方を繰り返した。

リスク要因には、以下を挙げる。

1)通商上の緊張と不確実性
→米国の通商政策に端を発した通商上の緊張が進展すれば、政治的不確実性を高め、ビジネスと金融市場のセンチメントを低下させる可能性あり。また、サプライチェーンの混乱をきたし、新たな技術の普及を遅らせ、世界全体の生産性の低下をもたらす。米政権による発動済みあるいは提案中の追加関税措置は、経済下押しへ。米国の成長は最大で2019年に0.9%ポイント中国は1.6%ポイント押し下げられる見通し

imf-us
imf-china

(作成:My Big Apple NY)

選挙後の政治的な不確実性も、民間投資や経済活動の障害となりうる。イタリアで発足した政権は、改革の逆行あるいは債務持続性を損なう政策実施(予算案を指す)が同国の国債利回り上昇を促した。トルコでは政策課題の実現性や米国との政治的緊張で、同国通貨が急落した。中国ではマクロ経済政策が緩和寄りへ転じ、デレバレッジの動きも鈍化した結果、政策当局者は成長と安定性の間で困難に直面しつつある。米国と通商関係が強い各国に対しては、2019~20年の成長見通しを4月時点から下方修正した。

2)金融上の緊張
→長年にわたり金融環境が成長を大いに支援する状態だった結果、世界経済は突如とした引き締め状態に脆弱でありうる。4月と10月のGFSRで指摘した通り、一部の市場で「株式は割高(equity valuations appear stretched)」で、利回り追求の観点から投資家はリスクの高い資産へ資産を移し、先進国において格付けが低い企業の債券のシェアが拡大した。エマージング国では、債務増加に伴うバランスシートのミスマッチが懸念される。リスクの引き金は、7月のWEOで指摘したように①物価上昇に伴う、米国の利上げ観測の上方修正、②リスク選好度の悪化を促すネガティブなリスク、③米国とトルコのような、通商上並びに政治的なリスク、④イタリア債利回上昇が示すような国債価格の下落と伝播のリスク、⑤中国での信用の伸び鈍化への取り組みなど規制強化が引き起こす資産価格への影響、⑥サイバーセキュリティ――など。

3)その他要因
→中東やサハラ以南のアフリカを中心とした地政学的リスク、リビアやベネズエラ、イエメンなどの経済的困窮、またこれらの要因によって引き起こされる移民の流出など。

こうした状況を踏まえ、IMFは政策と改革につき以下の通り提示した。

1)先進国
→循環的に成熟した経済段階に合ったマクロ経済政策を講じるべき。金融政策はその国ほどの経済指標に基づき、市場との対話を十分に行って推進することが肝要。次の経済減速局面に備え、財政上のバッファーも必要。高齢化に直面するなかでは、構造改革を通じ貧困と格差問題に対応しつつ、中期的な潜在成長を高めるべき。

2)新興国市場と途上国経済
→先進国が利上げに向かい、通商上の緊張も高まるなかでは、急激な為替変動や資本流出など、ボラティリティの高まりに備える必要あり。財政上のバッファーを築き、構造改革を通じた成長押し上げも肝要。

3)多国間の政策協調
→保護主義的な政策対応を回避し、世界経済拡大の維持に必要な貿易の発展を継続させる上で、協力的な解決手段を模索すべき。その上で①通商、②移民、③税制、④その他(気候問題など)――に取り組む必要あり。

IMFのモーリス・オブストフェルド首席エコノミストは、記者会見で「2019年の見通し下方修正は、米国が最近発表した対中追加関税措置2,000億ドルによるもの」と発言した。米中という2つの大国の対立により、「誰もが打撃を受ける」と警戒を鳴らす。中国人民元の足元の下落に対し「懸念していない」と言及。もっとも、WEOで明記されたように中国には成長促進を金融安定のバランスを取る必要性があると付け加えた。イタリアについては、足元の同国の国債利回り上昇が市場への信頼感を損なっていると指摘し「欧州が定めた枠組みに基づいて行動することが重要」と語った。

各国別の成長見通しは、以下の通り。

IMFは今回、米国の成長見通しを2018年につき2.9%増で据え置いたが、2019年は2.7%増→2.5%増へ下方修正した。2020年は1.8%増を見込む。2019年の下方修正は、追加関税措置に対する報復措置の影響に加え、税制改革法案成立後の減税効果の低減を挙げた。

中国は、2018年(前回6.6%増→6.6%増)で据え置いた一方、米中貿易摩擦を背景に2019年(前回6.4%増→6.2%増)は下方修正した。

日本に対し、2018年(前回1.2%増→1.1%増)を下方修正した。2019年は(前回0.9%増→0.9%増)で維持。2018年の成長率見通しは、年初の成長鈍化を反映したとみられる。

ユーロ圏に対し、2018年(前回2.2%増→2.0%増)は上半期の成長鈍化を受け下方修正したが、2019年(前回1.9%増→1.9%増)は維持した。2018年の下方修正は、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの1~3月期成長率の鈍化が背景。イタリアをめぐっては、リスクの側面から政治的不確実性の台頭で国債利回りスプレッドが拡大した点に警戒を表明した。

英国は、2018年(前回1.4%増→1.4%増)と2019年(前回1.5%増→1.5%増)ともに据え置いた。BREXITについて警戒を示しながら、2019年は、1月、4月、7月の水準で維持した格好だ。

インド2018年(前回7.3%増→7.3%増)を据え置いた半面、2019年(前回7.5%増→7.4%増)は下方修正した。

世界貿易動向では、2018年につき前回の4.8%増→4.2%増、2019年も前回の4.5%増→4.0%増へそれぞれ大きく下方修正した。そろって2017年の5.2%増(従来から4.9%増から上方修正)を大きく下回る。貿易量の見通し下方修正は、オブストフェルド氏の発言にあった通り、保護主義的な政策の影響と考えられる。

以下は、各国・地域の成長見通しで()内の数字は前回7月分あるいはその後の改定値。米国での保護主義的な通商政策や政治的リスクを反映し、全般的に下方修正が目立つ。

2018年成長率

世界経済→3.7%(3.9%)
a先進国→2.4%(2.4%)
aa米国→2.9%(2.9%)
aaユーロ圏→2.0%(2.2%)
aaa独→1.9%(2.2%)
aaa仏→1.6%(1.8%)
aaa伊→1.2%(1.2%)
aaa西→2.7%(2.8%)
aa日本→0.9%(1.0%)
aa英国→1.4%(1.6%)
aaカナダ→2.1%(2.1%)

a新興国・途上国→4.7%(4.9%)
aa中国→6.4%(6.6%)
aaインド→7.3%(7.3%)
aASEAN5ヵ国→5.3%(5.3%)

ブラジル→1.4%(1.8%)
メキシコ→2.2%(2.3%)
ロシア→1.7%(1.7%)

2019年成長率

世界経済→3.7%(3.9%)
a先進国→2.1%(2.2%)
aa米国→2.5%(2.7%)
aaユーロ圏→1.9%(1.9%)
aaa独→1.9%(2.1%)
aa a仏→1.6%(1.7%)
aaa伊→1.0%(1.0%)
aaa西→2.2%(2.2%)
aa日本→0.9%(0.9%)
aa英国→1.5%(1.5%)
aaカナダ→2.0%(2.0%)

新興国→4.7%(5.1%)
a中国→6.2%(6.4%)
aインド→7.4%(7.5%)
aASEAN5ヵ国→5.2%(5.3%)

ブラジル→2.4%(2.5%)
メキシコ→2.5%(2.7%)
ロシア→1.8%(1.5%)

(カバー写真:jen dubin/Flickr)

Comments

comments

Pin It

Related Posts

Comments are closed.