April Showers And May Flowers : Payrolls Rise And Unemployment Rate Drops.
米5 月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比250.9万人増となり、市場予想の800万人減を遥かに上回る好結果となった。1939年に統計が開始して以来で最悪となった前月の2,068.7万件(2,053.7万件から下方修正)からも、予想外の急速な改善に。米労働統計局は、今回の劇的な改善につき「新型コロナウイルス・パンデミック感染拡大と感染防止策で3~4月に抑制された経済活動が、限定的ながら再開に動いた結果」と説明した。
3月分の49.2万人の下方修正(88.1万人減→約140万人減)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で64.2万人の下方修正となった。3~5月の3ヵ月平均は651.7万人減となり、2019年平均の17.5万人増からかけ離れた数字に終わった。
NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比309.4万人増と市場予想の675万人減に反し、増加に転じた。統計開始以来で最大の減少幅となった前月の1,972.4万人減(1,955.7万人減から下方修正)からも、当然ながら大幅に改善。民間サービス業も242.5万人増となり、前月の1,735.1万人減(1,717万人減から下方修正)から劇的な増加を達成した。
チャート:NFP、失業率ともに統計開始以来で過去最悪だった前月から急旋回
サービス部門のセクター別動向は、主要業種が全て減少した前月から一転し11業種中7種で増加した。外出禁止措置の影響を全面的に受けレストラン利用状況が回復するなか、4月の雇用減の約4分の1を担った飲食店を含む娯楽・宿泊が急改善、5月の雇用増の約半分を占めた。次いで教育・健康、小売が雇用を牽引している。詳細は、以下の通り。
(サービスの主な内訳)
・娯楽・宿泊 123.9万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は753.9万人減、6ヵ月平均は115.3万人減(そのうち食品サービスは123.8万人増>前月は549.1万人減、6ヵ月平均は456.2万人減)
・教育・健康 42.4万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は259.0万人減、6ヵ月平均は36.6万人減(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は39.1万人増>前月は212.9万人減、6ヵ月平均は29.1万人減)
・小売 36.8万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は228.6万人減、6ヵ月平均は32.7万人減
・その他サービス 36.8万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は228.6万人減、6ヵ月平均は32.7万人減
・専門サービス 12.7万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は218.9万人減、6ヵ月平均は35.1万人減(そのうち、派遣は3.9万人増>前月は84.1万人減、6ヵ月平均は14.3万人減)
・金融 3.3万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は26.4万人増、6ヵ月平均は3.5万人減
・卸売 2.1万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は38.3万人減、6ヵ月平均は6.1万人減
・公益 0.2万人減、3ヵ月連続で減少>前月は0.4万人減、6ヵ月平均は0.1万人減
・輸送/倉庫 1.9万人減、3ヵ月連続で減少>前月は55.3万人減、6ヵ月平均は9.4万人減
・情報 3.8万人減、3ヵ月連続で減少>前月は27.2万人減、6ヵ月平均は4.9万人減
・政府 58.5万人減、3ヵ月連続で減少>前月は96.3万人減、6ヵ月平均は24.7万人減
財生産業は前月比66.9万人増と、過去最悪だった前月の237.3万人減(修正値)から大幅増に反転した。経済活動の再開に伴い、建設と製造業が牽引している。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・建設 46.4万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は99.5万人減、6ヵ月平均は8.3万人減
・製造業 22.5万人増、3ヵ月ぶりに増加>前月は132.4万人減、6ヵ月平均は19.4万人減
・鉱業・伐採 2.0万人減、3ヵ月連続で減少(石油・ガス採掘は6,900人減)>前月は5.4万人減、6ヵ月平均は1.5万人減
チャート:全てのセクターが記録的な減少に
平均時給は前月比1.0%下落の29.75ドル(約3,210円)と、市場予想の1.0%の上昇に反する結果となった。前月の4.7%の上昇からも、下落に反転。2017年10月以来の下落となる。3~4月に反し、娯楽・宿泊など低賃金職が雇用回復を牽引した結果、統計上の理由で押し下げられた。前年比は6.7%上昇と、市場予想の8.5%並びに前月の8.0%(7.9%から上方修正)に届かず。なお、4月は前月比と前年比そろって過去最高だった。とはいえ、前年比の3%超えは22ヵ月連続となる。
チャート:平均時給は前月比で2017年10月以来のマイナスに反転
週当たりの平均労働時間は3~4月の34.2時間を経て34.7時間となり、市場予想の34.3時間を上回った。外出禁止措置を受け生産活動を停止した事情から、需要に追いつくべく稼働した証左と言え、統計が開始した2006年以来で最長となる。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.0時間と、過去最低だった前月の36.2時間で一旦底打ち迎えた。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.8時間と、前月の33.4時間を超え過去最長となった。
失業率は13.3%と、市場予想の19.7%だけでなく過去最悪だった前月の14.7%を下回った。失業者は前月比209.3万人減の2,099万人となっただけでなく、就労者も同383.9万人増と大幅増に転じている。労働参加率は60.8%と、コロナ禍を受け1973年1月以来の低水準だった前月の60.2%から改善。就業率は過去最低だった前月の51.3%を上回り52.8%だった。
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比1.9%増の1億1,652万人、前月から220万人増加した。パートタイムは同8.6%増の2,074万人となり、前月から164万人増加した。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が予想外に増加したほか平均労働時間も延びたため、前月比2.1%増と3ヵ月ぶりにプラスに転じた。平均時給が前月比で下落に転じたものの、雇用増が支え労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比1.1%増と、こちらも3ヵ月ぶりに改善した。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全失業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は21.2%と、統計開始以来で最悪だった前月の22.8%を下回った。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は前月比2.3%減の1,063万人と減少に転じた。
チャート:不完全失業率は小幅ながら改善し、労働参加率も1975年以来の低水準から上昇、就業率もわずかながら回復
2)長期失業者 採点-〇
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要があるため、長期失業者に関連する項目が前月を上回った点は、労働参加率の改善が示すように長期失業者が経済活動の再開に合わせ労働市場へカムバックしつつある証左と言える。失業期間の中央値は7.7週と、統計開始以来で最短となった前月の2.0週から延びた。27週以上にわたる失業者の割合は5.6%と、過去最低だった前月の4.1%から小幅改善。平均失業期間は9.9週と、こちらも統計開始以来で最低だった前月の6.1週を上回った。
3)賃金 採点-×
大幅悪化が続く雇用統計の数字のなかで、3~4月に反し前月より鈍化した数字は、平均時給である。今回は前月比1.0%の下落と、過去最高だった前月の4.7%上昇から反転。前年比も6.7%上昇と、過去最高だった前月の8.0%以下に終わった。前年比は22ヵ月連続で3%超えとなったが、低賃金職の雇用が回復したため、全体の賃金の伸びを抑えた。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比0.6%下落の25.00ドル。前月の4.3%上昇に届かず、17年11月から続く上昇トレンドにピリオドを打った。前年比でも6.7%の上昇と、前月の7.7%を下回った。
4)労働参加率 採点-〇
労働参加率60.8%と、1973年1月以来の低水準だった前月の60.2%を上回った。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。軍人を除く労働人口は前月比1.1%増の1億5,823万人と増加に反転、非労働人口は同1.5%減の1億182万人と減少に転じた。
――労働統計局は、3~4月に続き特別枠を設けて影響について詳述していました。データ取得などの内容は過去2ヵ月とほぼ変わらずながら、今回は3~4月に反し「現在働いていないものの、雇用されている(一時解雇を指す)」との回答が「就業者」に分類されていたケースが増えたそうです。過去2ヵ月間はコロナ禍で閉鎖された企業の従業員は「一時解雇」の「失業者」だったことと対照的ですが、労働統計局はこうした乖離が生じた理由を解明中だとか。その上で、仮に「その他の理由で現在働いていないが、雇用されている」との回答が「失業者」に分類されたなら、失業率は5月の13.3%を3%上回っていたと分析していました。
チャート・:一時解雇者数は減少に反転
今回の予想外の改善は喜ばしいサプライズながら、米失業保険申請件数や連邦政府からの失業保険給付600ドル上乗せを含む緊急措置(パンデミック失業支援、PUA)の受給者と比較すると、首をかしげたくなるのは事実です。特にPUAは、雇用統計算出時を含む12日週に近い5月16日週時点でPUAの受給者数は前週比37.8%増の1,074万人でしたから。
それでも、給与明細をベースにカウントされるNFPが増加に転じたことは紛れもない事実です。こちらでお伝えしたように、5月20日までに全米50州が経済活動再開に着手する過程で、レストラン利用状況は改善傾向にありました。需要回復を受け、労働者が早々に職場に復帰したのでしょうね。失業保険は魅力的ですが、7月末で終了となれば職の確保に動いてもおかしくありません。
その他の詳細は、またあらためて追加します。
(カバー写真:Steven Lilley/Flickr)
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