July Jobs Report Has Good And Bad Parts.
米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比176.3万人増となり、市場予想の160万人増を上回った。前月の479.1万人増(480.0万人増から下方修正)を含め、3ヵ月連続で増加。3~4月の記録的な減少(2,216万人)を回復するにはあと1,288万人必要となる。
チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと1,288万人増加する必要。
5月分の2.6万人の下方修正(269.9万人増→272.5万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で1.7万人の上方修正となった。5~7月の3ヵ月平均は309.3万人増となり、コロナ禍を受けた大幅減から回復をたどるなかで、2019年平均の17.5万人増を大幅に上回った。
NFPの内訳をみると、民間就労者数も前月比146.2万人増と市場予想の147.4万人増をわずかに下回った。前月の473.7万人増(476.7万人増から上方修正)に届かなかったものの、改善をたどる。民間サービス業は142.3万人増となり、前月の422.2万人増(426.3万人増から下方修正)を上回った。
チャート:NFP、失業率ともに3ヵ月連続で改善
サービス部門のセクター別動向は、11業種中9種が増加し前月の10種を下回った。経済活動再開を一時停止した州が全米で半分以上を占めたものの、残りはサービス業などを開始したため、5~6月に続き7月も娯楽・宿泊が大部分を占め雇用増全体の33.6%を占めた。その他、続いて政府が2位に入ったほか、2位に前月3位だった小売が並んだ。詳細は、以下の通り。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・娯楽・宿泊 59.2万人増、3ヵ月連続で増加<前月は198.1万人増、6ヵ月平均は71.4万人減(そのうち食品サービスは50.2万人増<前月は147.7万人増、6ヵ月平均は256.6万人減)
・政府 30.1万人増、2ヵ月連続で増加>前月は5.4万人増、6ヵ月平均は22.7万人減
・小売 25.8万人増、3ヵ月連続で増加<前月は37.2万人減、6ヵ月平均は21.2万人減
・教育・健康 21.5万人増、3ヵ月連続で増加<前月は56.7万人増、6ヵ月平均は26.0万人減(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は19.1万人増<前月は46.3万人増、6ヵ月平均は19.9万人減)
・専門サービス 17.0万人増、3ヵ月連続で増加<前月は31.8万人増、6ヵ月平均は27.4万人減(そのうち、派遣は14.4人増=前月は14.4万人増、6ヵ月平均は9.4万人減)
・その他サービス 14.9万人増、3ヵ月連続で増加<前月は34.9万人増、6ヵ月平均は10.4万人減
・輸送/倉庫 3.8万人増、2ヵ月連続で増加<前月は8.7万人増、6ヵ月平均は7.8万人減
・金融 2.1万人増、3ヵ月連続で増加<前月は2.3万人増、6ヵ月平均は3.2万人減
・公益 横ばい、減少を4ヵ月でストップ>前月は0.3万人減、6ヵ月平均は0.2万人減
―減少した業種
・卸売 0.5万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は6.3万人減、6ヵ月平均は5.3万人減
・情報 1.5万人減、過去5ヵ月間で4回目の減少<前月は1.0万人増、6ヵ月平均は5.5万人減
財生産業は前月比3.9万人増と、前月の過去最悪だった前月の51.5万人増(50.4万人増から上方修正)を含め3ヵ月連続で増加した。経済活動の再開に伴い、前月に続き製造業と建設が牽引したが、油価が徐々に回復しているとはいえ鉱業は減少基調を保つ。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 2.6万人増、3ヵ月連続で増加<前月は35.7万人増、6ヵ月平均は12.2万人減
・建設 2.0万人増、3ヵ月連続で増加<前月は16.3万人増、6ヵ月平均は6.6万人減
・鉱業・伐採 0.7万人減、5ヵ月連続で減少(石油・ガス採掘は1,300人増)>前月は0.5万人減、6ヵ月平均は1.5万人減
チャート:サービス11業種中9種が増加
平均時給は前月比0.2%上昇の29.39ドル(約3,160円)と、市場予想の0.5%下落に反しプラスとなった。前月の1.3%(修正値)から転じ、3ヵ月ぶりに上昇に転じた。前年比は4.8%上昇し市場予想の4.1%を超え、前月の4.9%(5.0%から下方修正)に届かなかったとはいえ、高い水準を保ち前年比の3%超えは24ヵ月連続となる。
チャート:平均時給は前年比で4月をピークに鈍化しつつ高水準を維持
週当たりの平均労働時間は34.5時間と、前月の34.6時間を下回った。ただし、統計が開始した2006年以来で最長となる5月の34.7時間には届いていない。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.5時間と、前月の39.1時間を上回り過去最低だった4月の38.1時間で一旦底打ち迎えた。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.5時間と、前月の33.6時間と共に過去最長となった5月の33.8時間から短縮した。
失業率は10.2%と、市場予想の10.5%を下回った。前月の11.1%からも低下し、過去最悪だった4月の14.7%でピークアウトを示す。失業者は前月比141.2万人減の1,634万人となっただけでなく、就労者も同135.0万人増の1億4,353人と2ヵ月連続で増加した。
労働参加率は61.4%と、前月の61.5%から低下した。コロナ禍を受け1973年1月以来の低水準だった4月の60.2%、5月の60.8%から改善をたどったとはいえ、改善ペースが鈍化した。就業率は、過去最低だった4月の51.3%→5月の52.8%→6月の54.6%を経て、7月に55.1%へ上昇した。
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.5%増の1億1,953万人、前月から59.1万人増加した。パートタイムは同3.5%増の2,318万人となり、前月から80.3万人増加した。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が増加を続けたため、平均労働時間がわずかに鈍化したものの、前月比1.0%増と3ヵ月連続でプラスとなった。平均時給が前月比で上昇に転じるなか、雇用増が支え労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比1.2%増と、こちらも3ヵ月連続で増加した。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全失業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は16.5%と、前月の18.0%から改善した。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は前月比6.8%減の844.3万人と大幅に3ヵ月連続で減少した。
チャート:不完全失業率、労働参加率、就業率はそろって改善
2)長期失業者 採点-×
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均は17.9週と前月の15.0週を超え、コロナ禍直前の2月以来の高水準へ戻した。失業期間の中央値は前月の17.9週と、前月の15.7週から延びた。27週以上にわたる失業者の割合は9.2%と前月の7.9%から上昇した。
3)賃金 採点-△
今回は前月比0.2%上昇し、前月の1.3%(修正値)から転じ3ヵ月ぶりに上昇。前年比は4.8%上昇、伸びは鈍化しつつあるとはいえ高水準を保ち、前年比で3%超えは24ヵ月連続。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比0.4%下落の24.63ドル。前年比でも5.2%の上昇と、前月の5.6%を下回った。
4)労働参加率 採点-×
労働参加率は61.4%と前月の61.5%を下回った。1973年1月以来の低水準だった4月の60.2%、5月の60.8%から着実な改善を遂げた。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
――全般的に経済活動の一時停止を確認する割に、対面のサービス業に集中しそれ以外は比較的通常の活動が続く事情もあり、雇用は回復軌道を維持しました。気掛かりは3つ。1つは、生産労働者・非管理職の賃金で、今回下落に転じてしまったのですよ。娯楽・宿泊が雇用を牽引する構図が変わらなかったので、不確実性を背景に賃上げできなかった事情が伺えます。
2つ目に、長期失業者の指標は軒並み悪化していました。経済活動が一部の週で再開を続けつつ、職を見つけられなかった様子が伺えます。労働参加率が低下していた事実も、長期失業者の増加は懸念材料です。
さらに付け加えれば、季節調整という統計マジックで増加した可能性も否めず・・・その他の詳細は、また次回にご紹介しますね。
(カバー写真:Los Angeles District USACE/Flickr)
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