Beige Book Shows Slight To Modest Growth, And Uncertainty Remains.
米連邦準備制度理事会(FRB)が10月21日に公表したベージュブック(8月後半から10月初め)によると、米経済活動をめぐる表現が前回9月の「経済活動は拡大したが、概して控え目なペースにとどまり、引き続き新型コロナウイルスのパンデミック以前の水準を大きく下回ったままだ」から、「経済活動は、わずかから控え目なペースで拡大し続けた」との表現に修正された。9月に再びコロナ感染者数が増加に転じ、追加経済対策も失業保険を始め給与保護プログラム(PPP)の申請期限切れを迎えるなかでも、「コロナ禍の水準を大きく下回ったままだ」が削除され、上方修正されたと言えよう。
見通しをめぐっては「概して楽観的あるいはポジティブ」だったが、「大いなる不確実性を伴う」とまとめた。前回の「回答者は控え目ながら楽観的」、「数地区連銀は幾分、悲観的だった」から明るさが見えつつ、不確実性に「大いなる」との表現が復活し、引き続き慎重な見方が優勢であることを示す。
ただし、経済活動全般の表現が上方修正されたように、「新型コロナウイルス」というキーワードの登場回数は全体で36回と前回の50回を下回った。「不確実性」の登場回数も23回と、前回の27回以下にとどまる。ただ、10月後半に新規コロナウイルス感染者数が最多を更新しており、景気回復の鈍化を通じ再びこうしたキーワードが増加する余地を残す。セントルイス地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。
<総括:経済全般、見通しのセクション>
経済活動はほとんどの地区で「拡大し(increased)」、概して「わずかから控え目なペース(with the pace of growth characterized as slight to modest)」だった。活動の状況の違いは、それぞれ異なる。各地区連の報告によれば、回答者は見通しについて「概して楽観的あるいはポジティブ(generally optimistic or positive)」だったが、「大いなる不確実性(considerable degree of uncertainty)」を伴う。
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前回:経済活動はほとんどの地区で「拡大した(increased)」が、概して「控え目なペースにとどまり(gains were generally modest)」、新型コロナウイルスのパンデミック「以前の水準を大きく下回ったままだ(remained well below where it was)」。全体的な見通しをめぐり、回答者は「控え目ながら楽観的(modestly optimistic)」だったが、「数地区連銀は幾分、悲観的だった(a few Districts noted some pessimism)」。パンデミックをめぐる不確実性とボラティリティが残存し、消費者と企業の活動に負の影響を与えているとの指摘が全米各地から聞かれた。
<個人消費>
個人消費の伸びは「ポジティブなまま(remain positive)」だが、複数の地域は、小売売上高につき「横ばい(leveling off)」と「観光活動の「わずかながらの上向き(sligt uptick)」を報告した。自動車の需要は「安定的(remained steady)」だが、在庫ひっ迫が販売を抑え売上は「まちまち(varied)」だった。多くの地域で、レストランは(コロナ禍で)店外でのサービスに頼らざるを得ない状況下、平年を下回る気温による売上鈍化を懸念した。
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前回:個人消費は力強い自動車の売上動向や観光、小売部門での幾分の改善を支えに「回復を続けた(continued to pick up)」。しかし、多くの地区連銀はこれらの分野での売上の伸びが「鈍化した(slowing pace)」と指摘、全体の支出額は未だにコロナ禍以前の水準を引き続き下回っていると報告した。
チャート:新車販売台数は9月に1,634万台と2月の水準に接近
<製造業、非製造業の活動>
製造業活動は、概して「ゆるやかなペースで拡大した(at moderate pace)」。
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前回:製造業活動は、港湾業を始め輸送、配送業の活動が強まるに合わせ、ほとんどの地区連銀で「拡大した(rose)」。
<不動産市場>
住宅不動産市場は、中古と新築ともに「安定的な(steady)」需要を確認したが、在庫ひっ迫により販売が抑えられた。
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前回:商業建設活動は広く「落ち込み(down)」、商業不動産は「縮小したままだ(remained in contraction)」。逆に住宅不動産は好調で、多くの地域で成長と(コロナ禍に対する)耐性を示した。住宅不動産の販売動向は特に「上振れし(higher)」、価格も需要と在庫不足につれ上昇し続けた。
<貸出需要>
銀行部門は、融資全体の牽引役である住宅ローンの需要が「拡大した(increased)」と報告。反対に、商業不動産の状況は多くの地域で悪化し続けたが、倉庫や建設用地は例外で建設部門やリース部門は安定し続けていた。多くの地域の銀行は、様々な理由を背景に今後数ヵ月における延滞率の上昇を懸念したが、足元では「安定的だった(stable)」。
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前回:銀行部門は全体的に融資需要が低水準のなか、住宅不動産をけん引し「わずかに強まった(increased slightly)」。
<農業、エネルギー>
農業の状況は「まちまち(mixed)」で、複数の地域は干ばつに直面した。
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前回:農業部門の動向は、価格の下落を背景に「すべての作物で困難な状況が続き(continued to suffer)」、エネルギー活動は「低水準で抑制され(subdued at low levels)」、どの部門でも短期的な改善を予想しなかった。
<雇用と賃金>
雇用はほとんど全ての地域で「増加したが(increased)」、伸びは「鈍化したままだ(remained slow)」。雇用の増加は、製造業で最も断続的にみられるが、製造業の企業は引き続き新規の一時帰休や一時解雇に踏み切っていた。大半の地域は「労働市場のひっ迫」を指摘し、健康への不安に加え、託児所の確保への懸念が背景にあり、多くの企業は結果的に柔軟性をもった勤務スケジュールを提示していた。しかしながらいくつかの地域では、複数の企業が労働者の確保が容易と回答していた。賃上げペースは大半の地域で「わずか(slightly)」にとどまり、需要が高い低賃金職では人材不足が指摘された。複数の企業は、賃金を正常な水準へ戻し(賃上げし)たが、多くの賃金の伸びは横ばいだった。
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前回:雇用は全ての地区連銀で「増加し(increased)」、特に製造業で頻繁に言及があった。しかしながら、複数の地区連銀は雇用の伸びが鈍化し、特にサービス産業を中心として採用活動に「波が出てきた(hiring volatility)」と指摘、例えば需要が軟調な状況で一時帰休となった労働者が、恒久的な解雇を余儀なくされた。企業は必要な人材を確保する上で引き続き困難に直面し、理由として託児所の空き状況を始め、不透明な新学期の開始時期、失業保険などが挙がった。賃金は「横ばいからわずかに上昇(flat to slight higher)」し、低賃金職で賃上げ圧力が高まった。複数の企業は、賃下げの取り下げを決定。その他の企業は対人サービス関連職向けの危険手当について引き下げを検討したが、一部の企業は職員の士気低下や採用難を目的に見送った。
チャート:米9月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)は、3ヵ月連続で上昇
<物価>
物価は前回から地域全体で「控え目に上昇した(rose modestly)」。仕入れ価格は全般的に消費財より「値上がりが加速した(increased faster)」が、複数の業種、特に建設、製造業、小売、卸売は、仕入れ価格の上昇が最終価格に上乗せされた。全体的に、全体的に最終価格は「控えめに上昇(rose modestly)」したが、例外は食品、自動車、電気製品で、それぞれ「大幅に値上がりした(increased significantly)」。小売のガソリン価格は下落した半面、仕入れ価格は「まちまちながら上昇し(increased at varying degrees)」、鉄鋼や木材を含め材料費の上昇によるものだ。一部の地域では、引き続き個人防護具(PPE)や衛生関連機器、試験装置、在宅勤務で必要とされるテクノロジーなどが新型コロナウイルスの影響で値上がりしていた。穀物価格はまちまちだったが、動物タンパクの価格は下落した。
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前回:物価は全体的に「ほとんど変わらず(a little changed)」。地区全体を通じ、回答者は概して仕入れ価格と販売格が「横ばい(flat)」と回答した。仕入れ価格は実際に変化したが、増加した項目が下落した分をわずかに上回った程度だった。一部の地区連銀の回答者は、サプライチェーン問題により、新型コロナウイルスの感染を抑制する健康と安全に関わる製品の価格を「押し上げた(pushed up)」と指摘。食料や飲料の価格が「上昇した(rising)」との報告も上がっており、特に牛肉で目立った。販売価格の変動をみると、下落した項目がわずかながら上昇分を上回り、一部の回答者は「弱い需要と限定的な価格決定力(weak demand and limited pricing power)」を挙げた。複数の地区連銀が挙げた例外は新車と中古車で、それぞれ在庫の取り崩しに合わせ「押し上げられた(boosted)」。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
今回はその他がなくなり、「拡大、成長」などに大部分が集約されたほか、「回復、改善」も増えた。
●「回復(rebound、pick up)」、「改善(improve)」と表現した地区連銀→3行>前回は1行
ボストン(改善し続けた)、アトランタ(幾分改善した)、ダラス(回復した)
●「拡大(expand、increase、grow)」と表現した地区連銀→9行>前回は6行
NY(わずかに成長した)、フィラデルフィア(わずかに成長した)、クリーブランド(ゆるやかに拡大した)、リッチモンド(控え目に拡大した)、シカゴ(力強く拡大したが、伸びは前回から鈍化)、セントルイス(わずかに拡大した)、ミネアポリス(わずかに拡大した)、カンザスシティ(拡大し続けたが、夏よりは鈍化した)、サンフランシスコ(わずかに)
●その他の表現を使用した地区連銀→0行<前回は5行
チャート:地区連銀ごとの景況判断に関わる文言
<キーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、経済活動の再開に合わせ「拡大(increased)」を始め「ポジティブ(positive)」など明るい文言で増加がみられた。併せて「減退(decrease)」や「縮小(contract)」の文言は、前回通りゼロのままで、経済活動が緩やかなペースながら改善している様子が伺える。ただ、感染者数の増加を受け「不確実性」の登場回数は7月と9月の4回から、今回は5回へ増加した。詳細は、以下の通り。
「拡大(increase)」→25回>前回は20回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→4回<前回は6回
「ポジティブ(positive)」→4回>1回
「ゆるやか(moderate)」→5回<前回は7回
「緩慢、控え目など(modest)」→12回>前回は11回
「弱い(weak)」→2回<前回は4回
「底堅い(solid)」→0回<前回は1回
「安定的(stable)」→6回>前回は0回
「低下(decline)」→4回>2回
「減退(decrease)」→0回=前回は0回
「縮小(contract)」→0回=前回は0回
「不確実性(uncertain)」→5回>前回は4回
地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は18回と、前回の23回を下回った。前回はボストン(3回)、フィラデルフィア(1回)、クリーブランド(5回)、リッチモンド(5回)、アトランタ(1回)、セントルイス(2回)、カンザスシティ(1回)、ダラス(5回)だった。
・ボストン 3回=前回は3 回
→(総括)見通しはまちまちだったが、大半は不確実性を合言葉に幾分ポジティブだった。
→(ソフトウェア・IT)米国経済に不確実性を感じる回答者が複数みられたが、企業のパフォーマンスに対して楽観的だった。
→(商業不動産)政治的な不確実性と将来の景気刺激策への混乱を受け、回答者は2020年残りと2021年初めの見通しをめぐり大半が悲観的だった。追加刺激策なしでは、家主がテナント賃料の補填ができず立ち退きの増加や空室率の上昇につながると、多くが予想した。
・フィラデルフィア 1回=前回は1回
→(総括)企業の間で向こう6ヵ月先について控え目ながらポジティブな見通しが広がった半面、感染者の増加や平年を下回る気温、一時解雇の増加を受け一様に極度の不確実性を表明した。
・クリーブランド 6回>前回は5回
→(総括)大半の企業は無効数ヵ月先につき一段の需要の高まりを指摘したが、企業がパンデミック下の不確実性を受けて現金を積み上げるなか、設備投資は軟調だった。
→(個人消費)回答者は見通しにつき、慎重ながら楽観な姿勢にあり個人消費が回復し続けると予想、ただしウイルスと追加財政刺激の道筋をめぐる不確実性を受け、幾分の懸念を表明した。
→(製造業)自動車生産や特に中国からの外需の高まりが、回復の一助となっていると報告した。しかし、一部の回答者はコロナ以前の水準以下にとどまると指摘。将来について、ほぼ3分2の製造業関連回答者が10~12月期の需要拡大を見込むも、ウイルスと米大統領選をめぐる不確実性が残存するとコメントした。
→(不動産)見通しをめぐり、非不動産建設業とリース関連の企業は冬到来に合わせ典型的な季節上の減速を報告したが、不確実性が残存するなかで建設計画の決定が一段と遅れる可能性があると指摘した。
→(金融サービス)将来につき、銀行は10~12月期の融資需要は横ばいにとどまると予想したが、ウイルスをめぐる不確実性が見通しを曇らせていると指摘した。
→(専門サービス)専門サービスの需要の強まりに関わらず、数社の回答者は不確実性の高まりの結果、企業が購入活動を遅ら始める可能性に懸念を示した。
・リッチモンド 2回<前回は5回
→(製造業)多くの回答者はウイルスや米選挙による不確実性を受け投資に慎重だったが、ウエストバージニア州の一社は稼働率引き上げを狙い工場の敷地を拡大する計画だ。
→(港湾・輸送)回答者は市場における高い不確実性について言及し、設備投資を行いつつも慎重であり続けた。
・アトランタ 1回=前回は1回
→(個人消費と旅行)回答者は政治的な不確実性やコロナ感染者の増加が販売の伸びを損ねる場合に備え、年末商戦をめぐり懸念を共有した。
・ダラス 4回>前回は5回
→(総括)見通しは概してポジティブだったが、米大統領選や不透明なパンデミックの進展など、高い不確実性がある。
→(製造業)精製所や化学関連製造業の利鞘は、落ち込んだ状態が続いた。全体的に景況をめぐる製造業間のセンチメントは引き続きポジティブだったが、特に選挙をめぐる不確実性が残存している。
→(非金融サービス)娯楽・宿泊は売上で幾分の回復がみられたが、回答者はコロナ感染拡大への不確実性を挙げ、足元で客足にほとんど変化がないと指摘した。
→(エネルギー)回答者は、石油関連消費の回復が最大の短期的な懸念材料とし、また国内や海外の動向をめぐる不確実性を指摘、特に米選挙が懸念材料として挙げた。
・サンフランシスコ 1回>前回はゼロ
→(金融機関)冬期に活動が減速する見通しから、回答者の間で数カ月先の融資需要をめぐる不確実性が高まった。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月、20年1月、3月、4月、5月、7月、9月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では今回もゼロ、2019年9月にサンフランシスコが指摘してから、ゼロが続く。なお、過去3年間でドル高を挙げた地区連銀は、2017年5月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)、2019年9月分(サンフランシスコ)など。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、3月、4月、5月、7月、9月に続き総括部分でゼロとなった。1月は1回、3月の3回からゼロに転じたままだ。これまでは2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月にわたりゼロだった。
地区連銀別では、新型コロナウイルス感染者が最多を更新するなか、前回の1回から3回へ増加した。前回はセントルイス(1回)のみだった。なお、中国というキーワードは2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月、7月、9月、10 月、11月、20年1月、3月、4月、5月、6月に続き言及された。
・クリーブランド 1回>前回はゼロ
→(製造業)自動車生産や、特に中国からの外需の高まりが、回復の一助となっていると報告した。しかし、一部の回答者はコロナ以前の水準以下にとどまると指摘。
・シカゴ 1回>前回はゼロ
→(農業)前年以下にとどまる在庫を一因にコーンや大豆、小麦の価格が上昇した。特に中国からのコーンと大豆の輸出拡大も、価格を押し上げた。
・セントルイス 1回=前回は1回
→(物価)農家の回答者は、米中第1段階の合意が木綿価格の上昇に寄与したと報告した。
――新型コロナウイルスの登場回数は全体で36回(総括3回、地区連銀別33回)と、前回の52回(総括7回、地区連銀別43回)を下回りました。今回、ベージュブックの総括部分と地区連銀を合わせたキーワードの数は以下の通り。
チャート:ベージュブックのキーワード数
今回、各地区連銀の景況につき「回復、改善、拡大」の表現に収斂された通り、米経済はコロナ禍でも前進していることが分かりました。しかし、コロナ感染者数が最多を更新し、いつ欧州のようにロックダウンを余儀なくされるか不透明です。唯一の希望は米大統領選と議会選の投票日を11月3日に迎え、ある程度見通しが晴れること。少なくとも上下院の過半数情勢は判明するでしょうから、大統領に選出される候補ごとにシナリオが描けるようになります。ただ、やはり再集計など2000年の悪夢の繰り返しとなれば、企業が設備投資や雇用の先送りせざるを得なくなるのでしょう。平年を下回る気温も、レストランを始めスキーリゾート以外の慣行に影響しかねず、不確実性が高いと指摘されるのも致し方ありません。
(カバー写真:Paul Sableman/Flickr)
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