Biden Tries To Get The Lead On Climate Change By Setting 2030 Greenhouse Gas Pollution Reduction Target.
※国境炭素調整措置について追記します。
バイデン政権の肝煎りで22~23日に開催された気候変動サミットが、無事閉幕しました。Zoomを活用したオンライン開催だったところ、障害が発生する場面も。マクロン仏大統領の発言中に音声が途切れ次に登場予定だったプーチン露大統領の当惑した顔が投影され、メルケル独首相の録音演説がジョンソン英首相のコメント中に放送されるなど、多少の波乱が確認されましたが、それもご愛敬と言えるでしょう。
バイデン大統領は、気候変動サミット主催にあたり「共に向かう旅路への最初の第一歩となる」と発言し、11月開催の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を通じ、世界を安全で豊かで、且つ持続的な未来へつなげていくべきとの見解を表明しました。また、それぞれの削減目標に対し「一連の挑戦に向け、迅速に行動しなければならない」と呼び掛けたものです。
今回のサミットでのポイントは、以下の4つと考えられます。
1)米国、気候変動対策における主導的立場に返り咲きを狙う、国境炭素調整措置も「検討」
→米国は、2030年目標を大幅に上方修正。バイデン氏は「地球の環境保全のためだけではなく、あらゆる人々により良い未来を与えるべく行動しなければならない・・・だからこそ、気候について語る時、私は雇用について考える」と言及した通り、インフラ計画の”米国雇用計画”と合わせ、気候変動に取り組む姿勢を強調した。なお、共和党も気候変動対策として、4月18日に”エナジー・イノベーション・アジェンダ”を発表。国際的な原子力発電の推進の他、植林活動、レアアースなど鉱物資源のサプライチェーン強化、再生可能エネルギーへの転換促進策などを掲げる。
また、ケリー特使は“国境炭素調整措置”の導入について「検討中」と言及した。選挙公約や民主党の政策綱領、3月に公表された通商報告では、”国境炭素調整措置”の導入を提言。同措置は、パリ協定を順守しない国からの輸入品に対する課徴金で、EUの炭素国境調整税に相当。世界の輸入の約半分を占める米欧が対応すれば、中国への圧力としての効果も期待される。
これまで、米国はカーボン・プライシングを導入していないためEUより及び腰で、ケリー特使はかつて「最後の手段」とも述べていた。一方、バイデン氏の選挙公約や大統領令では鉄鋼など素材産業を中心としたエネルギー集約型産業の規制措置の検討は盛り込まれず。素材産業への規制や排出量取引導入の検討開始が、国境炭素調整金導入の合図か。
2)日英加伯など、温室効果ガス削減に向け新たな目標を導入
→英国は20日、日加などは気候変動サミットに合わせ、2030~35年の目標を上方修正。ブラジルも2030年までに違法伐採の禁止を発表するなど、温室効果ガス削減に向け前進。
チャート:主要国・地域の2030~35年目標
3)中ロは気候変動目標を更新せず
→中国の習首席やロシアのプーチン露大統領は目標を修正しなかったものの、ロシア高官は25日にプーチン露大統領とバイデン米大統領が6月頃に会談する可能性について言及。バイデン氏は6月11~13日に英国コーンウォールで開催されるG7首脳会議に出席する予定で、14日には北大西洋条約機構(NATO)首脳会議のため、ベルギーを訪問する予定。
4)インドも気候変動目標を更新しなかった半面、米国と二国間でパートナーシップの立ち上げを発表
→インドは、米国と二国間で”気候・クリーンエナジー・アジェンダ2030・パートナーシップ”の創設を発表。パリ協定での目標を達成する上で、両国の高官が力強い行動で協力する体制となり、①戦略的クリーンエナジー・パートナーシップ、②クライメート・アクション・ファイナンス・モビライゼーション・ダイアローグの2つの柱で構成される。①では、米エネルギー長官のグランホルム氏が、②ではケリー米大統領特使が共同議長を務める。このパートナーシップは、ケリー大統領特使が4月7日にインドを訪問しモディ首相と会談した際、再生可能エネルギーへの移行過程での損失回避を目指し、譲許的融資について言及しており、それがパートナーシップとした結実した格好。なお、米国は日米首脳会談後に日本とも”日米気候パートナーシップ”を立ち上げており、気候変動対策で米印との二国間パートナーシップへ広がりを見せるか注目。
今回の気候変動サミットをめぐっては、米国を始め先進国やエマージング国の一部が温室効果ガス削減に向け新たなコミットメントを表明、政治的な見解の相違を超え、一丸となって気候変動対策に取り組む姿勢を確認しました。米国の専門家は、結果を受け歓迎ムード。ブッシュ(子)政権で気候変動に関わる環境クオリティ評議会を主導していたジム・コナートン氏は「政権発足早々に、首脳陣を率いてサミットを開催したことで、コミットメントを表明する良い機会となった」と評価しています。また、ブルッキングス研究所の環境問題専門家も、米議会での共和党との足並みの乱れを指摘しつつ、米国が気候変動対策で国際社会で指導的立場に復帰する機会になったとのコメントが目立ちました。
問題は米国が温室効果ガス削減を実現できるか否かで、環境保護庁(EPA)によれば2019年の1年間で1.7%削減するにとどまり、単純計算すれば現状では2030年までに17%程度しか減らせない見通しです。2009~19年までの10年間では9.3%減だったものの、これは金融危機直後の2009年に6.3%削減できたことが大きい。それにも関わらず、残り9年間で50%以上削減するというのですから至難の業でしょう。しかも、米国での温室効果ガス排出量のトップは自動車を含む輸送で29%を占めるなか、未だガソリン車は新車の98%を占める状況です。
さらに、米国を始め温室効果ガス削減の上方修正に踏み切ったとはいえ、1990年比で均した場合、米国は43%と英国(68%)やEU(55%)と比較すると野心的とは言い難い。日本は、40%に過ぎません。
チャート:温室効果ガス削減目標、1990年換算では英国とEUがリード
課題は山積みながら、パリ協定遵守に向け米国を始め各国が仕切り直しできました。6月11~13日のG7首脳会談、10月30~31日開催のG20首脳会談では、11月開催のCOP26に向け、あらためて実現へ向けた協議が進展していくことでしょう。
(カバー写真:U.S. Department Of State)
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