Job Growth More Than Expected, But There Are Still Some Concerns In Labor Market.
<本稿のサマリー>
米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、ワクチン接種を完了した米国人が人口の40%を超え、カリフォルニア州やNY市など、経済活動を全面再開するなかで、市場予想を上回る増加を遂げた。米6月ADP全国雇用者数や米6月チャレンジャー人員削減予定数(採用予定数)と整合的な内容となる。
一方、共和党知事の25州で失業保険給付上乗せの早期終了を決定したものの、雇用統計では6月12日を含む州をサンプルとするため、労働参加率の改善にはつながらず。NFPが増加したものの失業率は上昇、背景に自発的離職者数や労働市場への再参入組の増加が挙げられ、求人数が過去最多であるにも関わらず企業が希望するスキルと労働者の需要がマッチしていない実態を浮き彫りにした。一方で、平均時給も市場予想以下とインフレ加速を示す内容でもなかった。米連邦準備制度理事会(FRB)が早期利上げに踏み切る内容と言えず、米株の主要3指数は7月2日にそろって過去最高値を更新して引け。米債市場は買いで反応(米長期金利は低下)した。今回のポイントは、以下の通り。
(労働市場にポジティブ)
・NFPは前月比85万人増、市場予想を上回り前月分も上方修正
・経済活動小売の再開に合わせ、小売の就労者数は2ヵ月連続で増加し今回は20年10月以来の高い伸び
・労働市場の先行指標とされる派遣が4ヵ月ぶりに増加
・不完全就業率は9.8%、20年3月以来の10%割れ
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・NFPは市場予想超えも、そのうち約2割は政府
・政府(公立の学校)と教育は、季節調整で押し上げられた公算大(筆者注:WSJ紙をご参照)
・失業率は5.9%、20年3月以来の低水準だった前月から上昇
・失業率の上昇は自発的離職者数の増加と、労働市場への再参入者の増加
・平均時給は前月比と前年比ともに市場予想以下、さらに前月分が下方修正
・労働参加率は前月通り61.6%と、改善進まず
・週当たり労働時間は34.7時間と、人手不足が指摘される割りに4ヵ月ぶりの低水準
・長期失業者の割合は42.1%、前月の40.9%から上昇
・失業期間の中央値は19.8週と、再び2012年1月以来の高水
・米5月小売売上高の結果の通りコト消費拡大が指摘されるなか、娯楽/宿泊のうち食品サービスは前月の伸び以下
・家計調査でフルタイムの雇用が減少しただけでなく、パートタイムが2ヵ月連続で増加
米6月雇用統計の詳細は、以下の通り。
米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比85.0万人増となり、市場予想の70万人増を上回った。前月の58.3万人増(55.9万人増から上方修正)を超え、6ヵ月連続で増加した。増加幅は、2020年8月以来の高い伸びとなる。7月3日時点で1回以上のワクチン普及率が54.9%へ上昇し、経済活動の再開が進む過程で、堅調な増加トレンドを維持した。
4月分の0.9万人の下方修正(27.8万人増→26.9万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で1.5万人の上方修正となった。4~6月の3ヵ月平均は56.7万人増と、コロナ禍前の2019年平均である16.8万人増を大幅に上回った水準を維持した。
今回までで20年5月以降、1,560万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,236万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと676.4万人必要となる。
チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと762.9万人増加する必要あり
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比66.2万人増と市場予想の60.0万人増を上回った。前月の21.9万人増(49.2万人増から上方修正)を含め、6ヵ月連続で増加した。民間サービス業は64.2万人増、前月の49.7万人増(48.9万人増から上方修正)を上回った。
チャート:NFPは6ヵ月連続で増加も、失業率は上昇
サービス部門のセクター別動向は、政府を含め11業種中9種が増加し、前月通りだった。今回最も雇用が増加した業種は2~5月に続き娯楽・宿泊で5ヵ月連続で全体を支え、NFPの約4割を占めた。2位に政府が入り、3位は専門サービスとなった。小売は上方修正された前月に続き、今回も増加。一方で、金融は2ヵ月連続で減少した。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・娯楽/宿泊 34.3万人増、5ヵ月連続で増加>前月は30.6万人増、6ヵ月平均は26.7万人増(そのうち食品サービスは19.4万人増、6ヵ月連続で増加<前月は20.1万人増、6ヵ月平均は17.4万人増)
・政府 18.8万人増、4ヵ月連続で増加>前月は6.7万人増、6ヵ月平均6.4万人増
・専門サービス 7.2万人増、2ヵ月連続で増加>前月は3.6万人増、6ヵ月平均は4.8万人増(そのうち派遣は3.3万人増、4ヵ月ぶりに増加>前月は0.7万人減、6ヵ月平均は0.8万人増)
・小売 6.7万人増、2ヵ月連続で増加>前月は2.7万人増、6ヵ月平均は2.4万人増
・教育/健康 5.9万人増、5ヵ月連続で増加=前月は5.9万人増、6ヵ月平均は4.8万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は2.0万人増、5ヵ月連続で増加=前月は2.0万人増、6ヵ月平均は1.4万人増)
・その他サービス 5.6万人増、6ヵ月連続で増加>前月は0.8万人増、6ヵ月平均は2.9万人増
・卸売 2.1万人増、11ヵ月連続で増加>前月は1.7万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・情報 1.4万人増、7ヵ月連続で増加<前月は2.8万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・輸送/倉庫 1.1万人増、2ヵ月連続で増加<前月は2.1万人増、6ヵ月平均は1.0万人増
―横ばいの業種
・公益 横ばい=前月は0.1万人減、6ヵ月平均は横ばい
―減少した業種
・金融 0.1万人減、2ヵ月連続で減少>前月は0.3万人減、6ヵ月平均は0.4万人増
財生産業は前月比2.0万人増と、前月の1.9万人増(修正値)を上回った。業種別をみると、製造業が2ヵ月連続で増加したほか、油価が2018年10月以来の75ドル乗せを達成する過程で、鉱業・伐採も2ヵ月連続で増加した。しかし、建設は住宅市場の過熱により販売件数が伸び悩むなか、人手不足の影響もあって3ヵ月連続で減少した。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 1.5万人増、2ヵ月連続で増加>前月は3.9万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・鉱業/伐採 1.2万人増(石油・ガス採掘は100人増)、2ヵ月連続で増加>前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・建設 0.7万人減、3ヵ月連続で減少<前月は2.2万人減、6ヵ月平均は0.2万人増
チャート:6月のセクター別増減
平均時給は前月比0.3%上昇の30.44ドル(約3,380円)と、市場予想の0.4%を下回った。前月の0.4%(0.5%から下方修正)を含め3ヵ月連続で上昇した。前年比は3.6%上昇し、市場予想の3.7%以下に。5月の1.9%(2.0%から下方修正)を超えたが、賃上げ圧力は市場が警戒したほどではない可能性を示唆した。
チャート:平均時給は前年比、前月比でも賃上げ圧力を示唆
週当たりの平均労働時間は34.7時間と、市場予想の34.9時間だけでなく前月の34.8時間(34.9時間から下方修正)を下回った。大寒波の影響を受けた2月以来、4ヵ月ぶりの低水準となる。需要拡大と人手不足が報じられる半面、2006年以来の最長を記録した1月の35時間を3ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.8時間と、前月までの2ヵ月連続で40.1時間だったが4ヵ月ぶりの水準に短縮した。新型コロナウイルス感染拡大直前の20年2月以来の水準に延びた3月の40.2時間(修正値)に届かず。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.7時間と、前月の33.8時間を下回りこちらも4ヵ月ぶり低水準。2006年以降で最長を記録した1月の33.9時間からまた一歩遠ざかった。
失業率は5.9%と、市場予想の5.6%を下回るどころか、2020年3月以来の低水準となった前月の5.8%から上昇した。失業者が16.8万人増加していた。失業中の背景として、4月雇用動態調査で自発的離職者数が過去最多を記録するように、引退を含めた解雇以外の離職者数が前月比16.4万人増だったことが一因として挙げられる(筆者は日経CNBC、ラジオNIKKEIでも指摘させて頂いておりました)。また、職探しを再開した労働者数も同14.9万人増だった。労働統計局によれば、引き続き一時解雇された労働者が「雇用されているが休職中」として扱われるなど正確に反映されていない場合があり、これを考慮すると失業率は6.1%だったという。
チャート:自発的離職者数は足元増加中
チャート:再参入者も増加傾向、労働市場が彼らを吸収できるかがカギに
労働参加率は61.6%と、前月と変わらず。ワクチン普及が進んだ半面、労働参加率は20年6月以降、61.4~61.7%の狭いレンジにとどまり、コロナ感染拡大直前の20年2月の63.4%以下で推移し続けた。
就業率も58.0%と、前月と変わらず。20年3月以来の水準を保つが、コロナ前の61.1%を下回ったままだ。
在宅勤務を行ったとする労働者の割合は14.4%と、前月の16.6%を下回りコロナ禍での最低を更新した。
チャート:在宅勤務を行う労働者の割合
コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は6月に156万人と、コロナ禍以降で最低となった。
チャート:職探しをしなかった非労働人口は減少をたどるも、労働参加率を押し上げず
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.1%減の1億2,620万人、前月から18万人減少した。一方で、パートタイムは同1.6%増の2,568万人と前月から41万人増加、2ヵ月連続で増加した。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月を上回る伸びだったため、平均労働時間が短縮したものの、前月比0.2%増と4ヵ月連続で増加した。平均時給は3ヵ月連続で上昇した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.6%増だった。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全就業率は9.8%と、前月の10.2%を下回り20年3月以来の10%割れとなった。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は、前月比12.2%減の462.7万人と減少に転じた。
チャート:不完全就業率と労働参加率はゆるやかに改善続く
2)長期失業者 採点-×
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均値は31.6週と前月の29.9週を超え、2015年1月以来の高水準だった。失業期間の中央値は19.8週と、再び2012年1月以来の高水準に並んだ。27週以上にわたる失業者の割合は42.1%と前月の40.9%から伸び、2011年以来の高水準だった3月の43.4%に接近した。全体的に長期失業率は高止まりしており、追加経済対策で失業保険の上乗せ300ドルが9月6日まで延長されたことが影響した可能性を残す。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、6月に再び上昇
3)労働参加率 採点-×
労働参加率は61.6%と、前月と変わらず。1973年1月以来の低水準だった20年4月の60.2%を上回った水準を保つが、20年6月以降、61.4~61.7%のレンジを保つ。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
4)賃金 採点-△
今回は前月比0.3%と3ヵ月連続で上昇し、前年比は3.6%と伸びたが、それぞれ市場予想以下に。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%上昇の25.68ドル、前年比は3.7%の上昇と管理職を含めた全体を上回った。
(カバー写真:Justin Lynham/Flickr)
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