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9月ベージュブック:供給網の制約で、物価高止まり長期化も

by • September 10, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2111

Beige Book : Supply Chain Disruptions Could Keep Prices Elevated For A While.

米連邦準備制度理事会(FRB)が9月8日に公表したベージュブック(7月初めから8月後半)によると、米経済活動をめぐる表現が前回7月分の「経済は一段と強まり、ゆるやかから活発な成長を遂げた」から、「ゆるやかなペースへわずかに減速した」との表現に修正された。8月に再びコロナ感染者数や入院者数が急増したため、前回から全体のトーンが下方修正されたと言えよう。

見通しをめぐっては「大半の地区連銀の企業は短期的な見通しに楽観的だったが、引き続き供給網の制約や資源不足の問題に幅広く懸念を寄せた」といい、前回の「需要の見通しは一段と改善したが、多くの回答者は不確実性や供給網の制約をめぐる悲観を示した」と概ね変わらなかった。

ただし、経済活動全般の表現が下方修正され、米8月雇用統計がデルタ株感染拡大による就労者の伸びを減速させたように「新型コロナウイルス」というキーワードの登場回数は全体で30回と前回の9回を大幅に上回った。「不確実性」の登場回数も17回と、前回の11回を上回る。NY地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済成長は7月初めから8月にかけ、ゆるやかなペースへわずかに減速した(downshifted slightly to a moderate pace)。力強く拡大した業種は製造業、輸送、非金融サービス、居住者向け不動産で、逆に経済活動の減速を招いた業種は、大半の地区連銀で外食、旅行、観光となり、デルタ株感染拡大による安全性への懸念や一部での海外渡航制限が影響した。その他、鈍化あるいは減速した業種は、需要鈍化に加え供給網の制約や人手不足により活動が押し下げられ、自動車販売台数の減少は在庫ひっ迫と半導体不足によるもので、住宅販売の減少も在庫薄によってもたらされた。大半の地区連銀の企業は短期的な見通しに楽観的だったが、引き続き供給網の制約や資源不足の問題に幅広く懸念を寄せた

<個人消費、建設活動、融資、農業、エネルギー>

自動車を除く小売売上高は複数の地区連銀で小幅に鈍化し、非住宅建設活動は控え目ながら回復した。融資は地区によって様々で、緩慢ながら減少した地区があった一方で、力強く増加した地区もみられた。農業やエネルギーの活動はまちまちだったが、概ねポジティブだった。

<雇用、賃金>

全ての地区連銀で雇用が全体的に増加したが、雇用創出のペースへの表現は「わずかから力強い」などに分かれた。人材への需要は引き続き力強かったものの、全ての地区は人手不足により雇用が抑制され、多くの場合、企業活動の障害となった。離職率の上昇や早期引退(特にヘルスケア)、託児所不足、内定をめぐる交渉、失業保険給付上乗せなどが人手不足に寄与した。複数の地区連銀は、デルタ株の感染拡大を理由にオフィス復帰を遅らせたとの報告が上がった。幅広く執拗に続く人手不足により、部の地区で賃上げペースの加速を報告し、中西部や西部などでは力強い伸びが報告された。一部の地区連銀では、特に低賃金職で急速な賃上げがみられた。雇用主は賃上げの頻度引き上げ、賞与、職業訓練、柔軟な就業体制などで従業員確保に努めた。

<物価>

物価は継続的に高止まりしたペースで上昇し、地区の半分は値上がりペースが「力強い」と表現し、残りは「ゆるやか」とした。原材料が不足が蔓延するなか、仕入れ価格の圧力は引き続き幅広く確認された。大半の地区では、金属や金属関連製品の大幅な上昇がみられ、木材のみ例外で足元の異例の高値から下落した。価格が大幅に上昇するなかでも、多くの企業にとって原材料の調達が困難に。複数の地区で、企業は容易にコスト負担を価格転嫁できるようになった。一部の地区では、企業が数ヵ月先に販売価格大幅に引き上げる見通しと示唆した。

<経済活動に関するキーワード評価>

経済活動の表現に関するキーワードの登場回数は、「拡大(increased)」や「力強い」を始め、全体的に減少が優勢。一方で、一方で「弱い」、「低下」、「減退」、「不確実性」などネガティブな表現の増加が目立った。詳細は、以下の通り。

「拡大(increase)」→193回<前回は228回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→90回<前回は99回
「ポジティブ(positive)」→11回<25回
「ゆるやか(moderate)」→75回<前回は94回
「緩慢、控え目など(modest)」→47回<前回は57回
「安定的(stable)」→8回<前回は11回
「弱い(weak)」→8回=前回は8回
「低下(decline)」→33回>前回は16回
「減退(decrease)」→17回>前回は7回
「不確実性(uncertain)」→17回>前回は11回

<関税、中国、不確実性、新型コロナなどのキーワード評価>

米中で第1段階の通商合意が成立したほか、バイデン政権が始動した事情もあり、引き続き「関税」と「中国」の登場回数はゼロとなった。一方で、デルタ株感染拡大を背景に「不確実性」は前述の通り17回と、1月以来の水準へ増加「新型コロナウイルス」の言葉自体も30回と、同じく1月以来の高水準だった。

チャート:デルタ株感染拡大により、感染者数が増加すると共に不確実性が高まる

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(作成:My Big Apple NY)

<その他のキーワード評価>

サプライチェーン制約が企業活動拡大に制約となるように、「不足」との言葉は今回77回と7月分の62回を超え、少なくとも過去25年間で最多を更新した。今回のベージュブックで「一部の地区では、企業が数ヵ月先に販売価格を大幅に引き上げる見通しと示唆した」とあったように、物価が高止まりするリスクに注意したい。

チャート:「不足」の登場回数は、右肩上がり

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(作成:My Big Apple NY)

――デルタ株感染拡大と雇用鈍化に直面するとはいえ、インフレ高止まりのリスクを抱えるだけに、Fedは年内のテーパリングに向けて準備するのでしょう。9月12日付けのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、当局者の話として、9月FOMCで意見の収束を試み、11月FOMCで開始する見通しと伝えます。

一方で、インフレ加速という問題は、バイデン政権に重く圧し掛かります。3.5兆ドルの育児・医療支援策に国境炭素税を財源の一つとして盛り込まれていますが、イデン政権は態度を決めかねているとか。サプライチェーンの制約を受ける状況で、対中追加関税に加え国境炭素税が重なれば、企業にとってコスト負担は増し、最終的に消費者に跳ね返ってくるだけに、決断は容易ではないのでしょう。

もうひとつ、バイデン政権にとって悩ましいのは食費の物価上昇です。ご覧の通り、20年2月と比較すると、肉類・魚・卵を始め食費の物価上昇が著しい状況。

チャート:主な食品の物価動向

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(作成:My Big Apple NY)

例えば、今回のベージュブックでは4地区連銀が肉類の物価上昇などを報告していました。クリーブランド地区連銀は鉄鋼、包装、電化製品、オフィス機器に加え、肉類の物価上昇を指摘。その他、カンザスシティ地区連銀は食肉産業での人手不足に伴う生産制限を報告。サンフランシスコ地区連銀も、物価上昇が著しい商品としてエネルギーや航空運賃、情報技術に加え、肉類を挙げたほか、国内外の需要の高まりも指摘していました。しかし、バイデン政権にとっては物価高止まりは支持率低下に直結し中間選挙の行方に影響するだけに、慎重な決断が迫られます。

(カバー写真:Ken Lund/Flickr)

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