弱い米8月雇用統計を受け、年内3回利下げの予想が優勢に

by • September 5, 2025 • Finance, Latest NewsComments Off on 弱い米8月雇用統計を受け、年内3回利下げの予想が優勢に3505

Soft U.S. August Jobs Report Fuels Expectations for Three Rate Cuts by Year-End .

米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を大きく下回る結果となりました。2カ月連続で、米労働市場の減速を確認した格好です。失業率は労働参加率につれ、2024年7月以来の水準へ上昇。就業率は2021年12月以来の低水準が続きます。平均時給は前月比と前年同月比が市場予想通りながら、賃上げ圧力の後退を示唆しました。

振り返れば、パウエルFRB議長は今年のジャクソン・ホール会合の講演「リスク・バランスはシフトしている」と指摘。米労働市場は「奇妙な種類の均衡」にあり、下振れリスクが高まっていると述べた上で、リスク・バランスのシフトが「政策スタンスの変更を保証する可能性がある」と言及しました。今回の米8月雇用統計は、まさに「奇妙な種類の均衡」が崩れ、米労働市場が変曲点に到達したように見えます。

米8月雇用統計の結果を受け、FF先物市場で9月の利下げ織り込み度は前日の96.4%→100%へ上昇し、そのうち0.5%利下げ予想は前日のゼロから一時11.8%をつけました。年内の利下げ予想も、前日の2回→3回利下げと毎回にシフトしています。市場で9月の0.5%利下げ観測が広がる一方で、米8月雇用統計発表直後にCNBCのインタビューに応じたゴールドマン・サックスのチーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏は9月から12月まで毎回、3回の利下げを予想しつつも、0.5%利下げに言及しませんでした。

チャート:FF先物市場での年内利下げ織り込み度は、毎回利下げに転換

(出所:Fedwatch)

ドル円は米雇用統計の結果を受け、前月に続き急落。発表後もジリジリと値を下げ、日本時間の午前2時までに一時146.82円と4日ぶりの安値をつけました。ただ、146円割れは引き続き下値が堅い状況です。米株は利下げ期待に胸を躍らせ過去最高値を更新。米10年債利回りは4.1%を割り込み、米株高・米債高・ドル安の展開を迎えています。

30分足チャート:ドル円は急落し、今週の上昇を打ち消し

(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、全面的にネガティブな結果がそろいました。

(労働市場にポジティブ)

・労働参加率は2022年11月以来の低水準だった前月から、改善

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFPが市場予想以下、前月も下回る
・NFP、過去2カ月分は合わせて下方修正
・平均時給の伸び、前月比と前年同月比そろって市場予想と一致
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比と前月比は鈍化
・週当たり労働時間は横ばい、財は短縮
・失業率が上昇
・失職者と再参入者が失業率を押し上げ
・就業率は2021年12月以来の低水準
・フルタイムが2カ月連続で減少
・不完全雇用率が上昇
・完全解雇者の労働力人口の割合が2021年11月以来の高水準近く(労働力人口の減少に伴う)
・長期失業者の割合が上昇

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比2.2万人増となり、市場予想の7.5万人増を下回った。前月は7.3万人増→7.9万人増に上方修正された。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比3.8万人増と市場予想の7.5万人増を下回った。前月の7.7万人増(8.3万人増から下方修正)よりも弱い。民間サービス業も同6.3万人増と、前月の8.5万人増(9.6万人増から下方修正)を下回った。

チャート:NFPと失業率

(出所:Street Insights)

チャート:民間就労者数、8月は増加も6月はマイナスに反転

(出所:Street Insights)

6月の2.7万人の下方修正(1.4万人増→1.3万人減)と合わせ、過去2カ月分で2.1万人の下方修正となったこれで、2023年以降では、31回のうち22回目の下方修正となる。しかも、バイデン前政権下の2023-24年は平均下方修正幅が2.5万人に対し、トランプ政権では6.9万人と下方修正幅が拡大した。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で5業種で増加し、前月の速報値ベースの6業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は教育・健康で前月比4.6万人増と、けん引した。その他、娯楽・宿泊やその他サービスが下支え。一方で、前月に続き専門サービスを始め、政府、卸売など6業種が減少した。専門サービスは4カ月連続、卸売は3カ月連続で減少した。

(サービスの主な内訳)

(出所:Street Insights)

財生産業は前月比2.5万人減と、4カ月連続で減少した。業種別をみると、建設が同0.7万人増と過去分の下方修正もあって3カ月連続で減少した。鉱業・伐採も0.6万人減と4カ月連続で減少。製造業は関税の影響も重なり、同1.2万人減と4カ月連続で落ち込んだ。

(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.3%上昇の36.53ドル(約5,370円)で、市場予想と前月と一致した。2021年2月以降の上昇トレンドを維持。前年同月比3.7%と市場予想通りで、前月の3.9%を下回り、6月に続き2021年5月以来の低い伸びに並んだ。生産部門・非管理職は前年同月比3.9%、3月や5月と同じく21年5月以来の4%割れを迎え、彼らの賃金の伸びが抑制されたことが分かった。

チャート:全米と生産労働者・非管理職の平均時給は低迷

(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.2時間と前月と一致した。財部門(製造業、鉱業、建設)は39.8時間と、前月の39.9時間を下回った。とはいえ、コロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下を保ったままだ。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.2時間と、前月と一致。とはいえ、2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。

チャート:週当たり平均労働時間、8月は財が前月比で短縮

(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間の就労者数の伸びが前月以下、週当たり労働時間が7月と変わらなかった結果を受け、前月比横ばいとなった。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は、前月比0.3%増と前月の0.7%増に届かず。前年同月比は過去分の修正もあって4.4%増、2024年7月に並ぶ低い伸びだった。3カ月平均は4.6%増と、3カ月連続で伸びが鈍化した。

チャート:民間部門の総賃金、前月比と前年比ともに鈍化

(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.3%と市場予想と一致し、前月の4.2%から上昇したFOMCが2024年9月に利下げを決断させた2024年7月の水準に並んだ。四捨五入前では4.324%と、年初来で最も高く明確な上振れが見て取れる。労働参加率が62.3%と前月から上昇したように、労働市場への再参入者など職探しをする失業者が増加したためだろう。また、家計調査での就業者が同288万人増だった一方で、失業者数が同14.8万人増となったことも、失業率の上昇につながった。

チャート:失業率の四捨五入前の推移

(出所:Street Insights)

失業率は上昇したものの、サーム・ルールは発動せず。サーム・ルールとは、直近3ヵ月間の失業率の移動平均と過去12カ月間の最低値の差が0.5pt以上なら、景気後退入りするとの説だが、8月の失業率は4.3%へ上向くも、移動平均と最低値の差は0.13ptと前月の0.1ptから小幅上昇にとどまった。

チャート:サーム・ルール発動の水準に距離を残す

(出所:Street Insights)

自発的離職者数は前月比横ばいの78.4万人だった。企業の採用意欲の低下を受け、人々が転職に慎重な様子が伺える。自発的離職者数に占める失業者の割合は前月の10.7%で変わらなかった。

チャート:自発的離職者数、横ばい

(出所:Street Insights)

失業率が上昇した一方で、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比8.7万人増の255.2万人と、3カ月ぶりに250万人台へ戻した。失職者数の割合は前月の33.5%→35.0%へ上昇、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は前月の1.10%と、2021年11月以来の高水準を維持した。

失職者数と同じく失業率を押し上げたのは労働市場への再参入者で前月比10.7万人増の228.7万人と、2021年8月以来の高水準に近い水準。再参入者が占める失業者の割合は前月の29.6%→31.3%へ上昇した。新規参入者は逆に2017年4月以来の水準へ増加した前月から減少、19.9万人減の78.6万人だった。結果、失業者に占める割合は1988年4月以来の水準へ急伸した前月の13.4%→10.8%へ低下した。

レイオフ(一時解雇)は前月比5.4万人減の88.6万人、1年ぶりの100万人乗せに迫った前月から減少した。失業者に占めるレイオフの割合は10カ月ぶりの高水準だった前月の12.8%→12.1%に低下した。

チャート:失業者の割合は失職者が引き続きトップ、再参入者と共に割合上昇

(出所:Street Insights)

チャート:失職者は2カ月連続で250万人割れ

(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合、2021年11月以来の高水準近くを維持

(出所:Street Insights)

チャート:レイオフは前月比で増加に転じ、1年ぶりの高水準

(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように2022年11月以来の水準に落ち込んだ前月の62.2%→62.3%へ小幅改善。ただし、20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%以下が続く。

就業率は前月まで2カ月連続で59.6%と、2021年12月以来の低水準を保った。

チャート:労働参加率は改善、就業率は低水準を維持

(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は、前月の7.9%→8.1%と2021年10月以来の水準へ上昇したコロナ禍後の改善を吐き出した格好だ。

チャート:不完全雇用率、21年10月以来の水準へ上昇

(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前週の10.2週から9.5週へ短縮した。一方で、27週以上にわたる失業者の割合は前月の24.9%→25.7%2022年2月以来の水準へ上昇した。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、22年2月以来の高水準

(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は、前月比13.9万人増の103.7万人へ増加。前月はコロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を下回ったものの、再び増加した。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値を再び上回る

(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

今回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、家計調査の就業者数は前月比28.8万人増と前月の26.0万人減から反転、NFPの2.2万人増を上回る結果となったた。

チャート:NFPと家計調査の就業者数、NFPより強い伸びに

(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比35.7万人減と年初来で4回目の減少となった。一方で、複数の職を持つ者は同44.3万人増と、増加に反転。パートタイムは同59.7万人増と2カ月連続で増加し、年初来で5回目の増加を迎えた。

チャート:フルタイムのみ減少

(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者、8月は前月の減少を打ち消し

(出所:Street Insights)

過去2カ月分のNFPの大幅修正は、回答率の低迷が一因と考えられる。また、回答率の低迷に伴い、業績が堅調で、回答する余裕のある企業の偏りが出るリスクも見込まれ、WSJ紙もその点を問題視していた。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、コロナ禍を経て他指標と同様に回答率は芳しくない。

直近のデータをみると、以下の通り。

・CES(事業所調査、NFPや平均時給など)→3月に42.6%、20年2月は59%
・CPS(家計調査、失業率や労働参加率など)→4月に68.1%、20年2月は82.3%
・雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)→3月に35.2%と、20年2月は56.4%

CPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか他と比較して高いとはいえ、それぞれ低迷したままだ。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは2025年1月から6万世帯→5.5万世帯へ削減した。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

(出所:Street Insights)

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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