Headline Growth Masks a Stalling Labor Market.
米3月雇用統計では、非農業部門就労者数(NFP)が予想以上に増加しました。積雪などの悪天候からの回復や、ヘルスケア部門のストライキ終了が数字を押し上げた格好です。失業率も改善しましたが、労働参加率の低下が失業率を(見かけ上)押し下げた側面も否定できません。また、平均時給は減速傾向をたどっており、全体として労働市場は「買い手優位」の地合いが強まっている印象です。
トランプ政権がイラン軍事作戦を開始後、労働市場は持ちこたえているようにみえます。しかし、労働力人口の減少は、モメンタムの低下を示唆したとも言えるでしょう。
統計発表直後、強いNFPを受けてドル円は上値を試したものの、平均時給の弱さや過去分の下方修正が意識されると一転して下落。一時159.82円まで本日安値を更新しました。結局、節目の160円台を維持できず、チャート上では長い上ヒゲを形成。依然として160円超えのハードルの高さが意識される結果となりました。
チャート:ドル円、21時からのドル円の5分足

(出所:Street Insights)
今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、NFPの好結果に反しネガティブが優勢だった。
(労働市場にポジティブ)
・NFPは予想以上に増加
・失業率は低下
・フルタイムは増加
・完全解雇者の労働力人口の割合、2021年10月以来の高水準から改善
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・NFP、過去2カ月分は合計で下方修正
・平均時給の伸び、前月比と前年同月比そろって減速
・週当たり平均労働時間は短縮
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前月比と前年比ともに加速
・労働参加率は低下
・就業率は低下
・不完全雇用率は上昇
・パートタイム、複数の職を持つ者そろって減少
・長期失業者の割合は上昇
以下は、今回の雇用統計の詳細。
〇非農業部門就労者数
米3月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比17.8万人増となり、市場予想の6.5万人増を上回った。2024年12月以来の強い伸びとなる。前月は9.2万人減→13.3万人減に下方修正された。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比18.6万人増と市場予想の6.5万人増に反しマイナスとなった。前月の12.9万人減(8.6万人増から下方修正)に反し、プラスに転換。民間サービス業は同14.3万人増と、前月の10.9万人減(6.1万人減より上方修正)から大きく切り返した。

(出所:Street Insights)
チャート:民間就労者数、3月は大幅改善

(出所:Street Insights)
過去2カ月分の修正幅は、0.7万人の下方修正となる。
・1月 12.6万人増→16.0万人増、3.4万人の上方修正
・2月 9.2万人減→13.3万人減、4.1万人の下方修正
チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

(出所:Street Insights)
サービス部門のセクター別動向は11業種中で6業種で増加、速報値ベースでの前月の5業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は教育・健康で、医療保険大手カイザー・パーマネンテのストライキ終了を受けで3万人超が職場復帰したとみられる。続いて娯楽・宿泊、輸送・倉庫、小売、卸売が並んだ。一方で、金融、その他サービス、情報、公益が弱い。政府は5カ月連続で減少した。
(サービスの主な内訳)

(出所:Street Insights)
チャート:政府は前月比0.8万人減。連邦政府が同1.8万人減と、5カ月連続で減少。州・地方政府は同1.0万人増と4カ月連続で増加も、連邦政府の押し下げを相殺できなかった。

財生産業は前月比4.3万人増と、改善。業種別をみると、建設が同2.6万人増、製造業も同1.5万人増、鉱業・伐採も0.2万人増と、そろってプラスへ戻した。

(出所:Street Insights)
チャート:業種別、雇用の増減

(出所:Street Insights)
〇平均時給
平均時給は前月比0.2%上昇の37.38ドル(約5,960円)で、市場予想0.3%を下回った。前月の0.4%にも届かなかったが、2021年2月以降の上昇トレンドは維持。前年同月比は3.5%、市場予想の3.7%と前月の3.8%を下回った。生産労働者・非管理職も同3.4%となり、全米と合わせて21年5月以来の低い伸びだった。
チャート:生産労働者・非管理職の平均時給、低迷続く

(出所:Street Insights)
〇週当たり労働時間
週当たりの平均労働時間は34.2時間と、前月を下回り3カ月ぶりの低水準だった。財部門(製造業、鉱業、建設)が40.0時間と、前月の40.1時間を下回った。コロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下を保ったままだ。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.1時間と、1年ぶりの低水準。2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。
チャート:週当たり平均労働時間

(出所:Street Insights)
〇総労働投入時間、民間の総賃金
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間の就労者数が前月比で増加したものの、週当たり労働時間が減少したため、前月比0.2%減と3カ月連続でマイナスだった。
民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は、前月比0.1%と3カ月連続でプラス。前年同月比は3.9%増と、3カ月ぶりに4%を割り込んだ。3カ月平均は4.3%増と、前月の4.2%増を上回った。
チャート:民間部門の総賃金、前年比で4%割れ

(出所:Street Insights)
〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者
失業率は4.3%と、市場予想と前月の4.4%を下回った。四捨五入前では4.256%。労働参加率が61.9%と前月の62.0%を下回っており、職探しをする人々が減少したことが一因とみられる。失業者数は同33.2万人減だったが、就業者数も同6.4万人減と、そろって減少していた。
チャート:失業率の四捨五入前の推移

(出所:Street Insights)
自発的離職者数は前月比3.1万人増の89.8万人だった。前月比で増加した。自発的離職者数に占める失業者の割合は、前月の11.4%→12.4%へ上昇した。
チャート:自発的離職者数の推移

(出所:Street Insights)
失業率が上昇するなか、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比16.8万人減の252.6万人と、2025年7月以来の低水準となった。失職者数の割合は前月の35.4%→34.7%へ低下したが、3カ月連続で1位を維持。失職者のうち、完全解雇者(会社都合や非自発的な事情で雇用が終了し、求職活動を開始した失業者)が労働人口に占める割合は1.11%と、2021年10月以来の高水準だった前月の1.19%から低下した。
一方で、労働市場への再参入者は前月比6.6万人減の225.4万人と、減少に転じた。再参入者が失業者に占める割合は、前月の30.5%→31.0%へ上昇した。新規参入者は同9.1万人減の71.4万人だった。前月比で結果、失業者に占める割合は前月の10.6%→9.8%へ低下した。
レイオフ(一時解雇)は前月比4.8万人減の87.7万人。失業者に占めるレイオフの割合は前月の12.2%→12.1%に低下した。
チャート:失業者の割合は失職者トップを維持

(出所:Street Insights)
チャート:失職者数は2021年9月以来の高水準から減少

(出所:Street Insights)
チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合、2021年10月以来の高水準だった前月から低下

(出所:Street Insights)
チャート:レイオフは減少

(出所:Street Insights)
労働参加率は前述したように61.9%と、前月の62.0%を下回り、2021年11月以来の水準に低下した。20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した23年11月の62.8%以下が続く。
就業率は59.2%と、前月の59.3%を下回り2021年10月以来の低水準だった。
チャート:労働参加率、就業率はそろって2021年以来の低水準

(出所:Street Insights)
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は8.0%、4カ月ぶりに上昇した。これはパートタイムの雇用が減少しただけに、企業の軟調な採用意欲を示唆する。
チャート:不完全雇用率、4カ月ぶりに上昇

(出所:Street Insights)
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は2021年12月の水準に並んだ前週の11.1週から11.5週へ延びた結果、2022年11月以来の水準となった。27週以上にわたる失業者の割合も前月の25.3%→25.4%。2025年12月は26.0%と、2022年2月以来の水準へ上昇していた。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、22年2月以来の高水準近くに

(出所:Street Insights)
〇病気が理由で働けないとする人々
「病気が理由で働けない」とする人々は、前月比5.3万人減の108.2万人。ただし、5カ月連続でコロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を上回った。
チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値超え

(出所:Street Insights)
〇家計調査の就労者内訳
今回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、家計調査の就業者数は前月比6.4万人減と、NFPの17.8万人増に反し減少した。
チャート:NFPと家計調査の就業者数の推移

(出所:Street Insights)
家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比33.5万人増と3カ月ぶりに増加した。パートタイムは同18.8万人減と、2カ月連続で減少。複数の職を持つ者も同1.4万人減と、4カ月連続で減少した。
チャート:フルタイムは増加、パートタイムは2カ月連続で減少

(出所:Street Insights)
チャート:複数の職を持つ者、4カ月連続で減少

(出所:Street Insights)
なお、NFPで下方修正が続く理由は、回答率の低迷が一因と考えられる。また、回答率の低迷に伴い、業績が堅調で、回答する余裕のある企業の偏りが出るリスクも見込まれ、WSJ紙もその点を問題視していた。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、コロナ禍を経て他指標と同様に回答率は芳しくない。
今年とコロナ禍直前の結果を比較すると、以下の通り。
・CES(事業所調査、NFPや平均時給など)→25年3月に42.6%、20年2月は59%
・CPS(家計調査、失業率や労働参加率など)→25年4月に68.1%、20年2月は82.3%
・雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)→25年3月に35.2%と、20年2月は56.4%
CPSは対面と電話での聞き取り調査により実施され、他と比較して高いとはいえ、それぞれ低迷したままだ。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは2025年1月から6万世帯→5.5万世帯へ削減した。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。なお、連邦政府職員削減の影響か、直近では更新が滞っている。
チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

(出所:Street Insights)
(カバー写真:Tentaran There’s more to life…/Flickr)
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