米7月雇用統計・NFPの減少はW杯など特殊要因も、にじむ労働市場の弱さ

by • August 7, 2026 • Finance, Latest NewsComments Off on 米7月雇用統計・NFPの減少はW杯など特殊要因も、にじむ労働市場の弱さ641

NFP Decline Reveals Labor Market Weakness Beyond the World Cup Hangover.

米7月雇用統計は、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想に反し5カ月ぶりの減少となりました。しかも、過去2カ月分も下方修正。失業率は低下しましたが、6月に続き労働参加率の下振れにつれたことが一因で、労働市場が堅調とは言えません。平均時給の前年比での減速も、労働市場の曲がり角を感じさせます。英フィナンシャル・タイムズ紙は米雇用統計前夜、ウォーシュFRB議長関係者の発言とした、インフレ加速なら9月利上げと報じましたが、少なくとも現時点では賃上げの足音は聞こえず、インフレに粘着性があるようには見えません。

結果、FF先物市場での9月利上げ確率は前日の55%から一時41.9%へ低下し、据え置き予想が58.1%と逆転しました。とはいえ、10月へ先送りされた程度で、利上げ織り込み度は一時57.3%(25bp+50bp)と過半数を維持しています。

画像:FF先物市場、9月利上げ織り込み度が低下

(出所:Street Insights)

米7月雇用統計の結果を受けて、ドル円は再び200日移動平均線を割り込み一時156.67円まで下落し、過去3営業日の上昇分を打ち消す展開。ただし下値は堅く、午前0時50分時点で一時157.70円台と雇用統計発表直前の高値と安値の半値戻しを達成する場面が見られました。

チャート:ドル円、21時からのドル円の5分足、半値戻しは黄緑線、緑線は米10年債利回り

(出所:Street Insights)

今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、全体的にネガティブ/ニュートラルが優勢です。

(労働市場にポジティブ)
・失業率は低下
・完全解雇者の労働力人口の割合は低下
・パートタイム、複数の職を持つ者は増加
・長期失業者の割合は高止まりも低下

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・NFPが予想外に減少
・過去2カ月分は下方修正
・平均時給の伸び、前年同月比でまちまち
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比で鈍化
・週当たり平均労働時間は前月と変わらず
・労働参加率は低下
・就業率は低下
・不完全雇用率は横ばい
・家計調査の就業者数は減少
・フルタイムは年初来で5回目の減少

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比2.3万人減となり、市場予想の8.5万人増を下回った。前月は5.7万人増→2.0万人増に下方修正された。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比3.0万人増と市場予想の7.8万人増を下回った。前月の3.0万人増(4.9万人増から下方修正)と変わらず。民間サービス業は同0.5万人増と、前月の1.1万人増(3.9万人増より下方修正)以下となり、民間就労者数と合わせ過去5カ月間で増加したなかで最小の伸びに終わった。

チャート:NFPと失業率

(出所:Street Insights)

チャート:民間就労者数、4カ月連続で伸び鈍化

(出所:Street Insights)

過去2カ月分は10.3万人の下方修正
・5月 12.9万人増→6.3万人増、6.6万人の下方修正
・6月 5.7万人増→2.0万人増、3.7万人の下方修正

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で7業種で増加、速報値ベースでの前月の6業種を上回った。今回最も雇用が増加した教育・健康、次いで前月に続き専門サービス、そして情報が並んだ。一方で4業種で減少し、娯楽・宿泊と政府、小売は2カ月連続でマイナス、金融は4カ月連続で弱い結果となった。

(サービスの主な内訳)

(出所:Street Insights)

娯楽・宿泊は同4.0万人減、前月に続きW杯の特需はく落を示唆。夏季休暇の需要が相殺することはできなかった。

チャート:娯楽・宿泊は2カ月連続で減少

政府は同5.3万人減と、2カ月連続で減少。州・地方政府のうち、地方政府の教育=公立学校が夏季休暇を受けて押し下げた。ただし、1999年以降、州・地方政府の減少は9回のみである。

チャート:政府は州・地方政府が押し下げたほか、連邦政府も軟調

(出所:Street Insights)

財生産業は前月比2.5万人増と、5カ月連続で増加。業種別をみると、引き続き建設が伸びを主導したほか、製造業も2カ月連続で増加。ただし、鉱業・掘削が2カ月連続で減少した。

(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.1%上昇の37.62ドル(約5,900円)、市場予想並び前月の0.3%を下回った。それでも、2021年2月以降の上昇トレンドを維持。前年同月比は3.2%と、市場予想の3.5%や前月の3.4%(3.5%から下方修正)にも届かず。2021年5月以来の低い伸びとなった。生産労働者・非管理職も同3.2%と、同じく2021年5月以来の低い伸びだった。

チャート:平均時給の前年比

(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は、4カ月連続で34.3時間だった。財部門(製造業、鉱業、建設)は40.2時間と2023年1月以来の高水準。コロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下を保ったままだ。ただし、全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.2時間と、4カ月連続で変わらず財の伸びを抑えた。2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。

チャート:週当たり平均労働時間

(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は週当たり労働時間が変わらず、民間の就労者数が前月比で鈍化した結果、前月比横ばいに終わった。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は、前月比0.1%上昇と4カ月連続でプラス。前年同月比は4.0%増と、前月の同4.2%を下回った。3カ月平均は4.1%増と、前月を小幅に下回った。

チャート:民間部門の総賃金、前年比で辛うじて4%台を維持

(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.1%、市場予想並びに前月の4.2%を下回り、2024年12月以来の水準に低下した。四捨五入前では4.090%。ただし、好調な労働市場を表すとは言い難い。労働参加率は61.4%と前月の61.5%を下回り、2021年2月以来の低水準となった動きを反映したためだ。職探し中の失業者が労働市場から退出した可能性がある。また、失業者数が同17.8万人減しただけでなく、就業者数も同8.7万人減だった。

チャート:失業率の四捨五入前の推移

(出所:Street Insights)

自発的離職者数は前月比1.7万人増の79.3万人だった。失業者に占める自発的離職者数の割合は、前月の11.0%→11.3%へ上昇した。

チャート:自発的離職者数の推移

(出所:Street Insights)

失業率が低下するなか、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比12.3万人減の238.8万人と、2カ月連続で減少した。失業者に占める失職者数の割合は前月の35.5%→34.2%へ低下し、7カ月連続で1位を維持。失職者のうち、完全解雇者(会社都合や非自発的な事情で雇用が終了し、求職活動を開始した失業者)が労働人口に占める割合は1.01%へ低下し、2021年10月以来の高水準だった2月の1.19%以下を保った。

新規参入者は前月比1.1万人減の76.1万人だった結果、失業者に占める割合は前月の10.9%で変わらず。労働市場への再参入者は同11.4万人減の212.3万人と、減少に反転。再参入者が失業者に占める割合は前月の31.7%→30.4%へ低下した。

レイオフ(一時解雇)は前月比15.3万人増の92.1万人。3カ月ぶりに90万人に乗せるなか、失業者に占めるレイオフの割合は前月の10.9%→13.2%へ上昇した。

チャート:失業者の割合は失職者トップを維持

(出所:Street Insights)

チャート:失職者数は2カ月連続で減少

(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合、2021年10月以来の高水準だった2月以下が続く

(出所:Street Insights)

チャート:レイオフは3カ月ぶりに90万人乗せ

(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように61.4%と、前月の61.5%を下回り2021年2月以来の低水準だった。

就業率は58.9%と、前月の59.0%を下回り2021年9月以来の59%割れとなった。

チャート:労働参加率、就業率ともに2021年以来の低水準

(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は7.9%、前月の8.1%を下回った一方で、パートタイムの雇用は増加した。

チャート:不完全雇用率、4カ月ぶりに8%割れ

(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前週の11.0週から10.5週へ小幅に短縮した。27週以上にわたる失業者の割合も前月の27.3%→25.5%へ低下。とはいえ、2021年12月以来の高水準近くを保つ。これらの数字を踏まえれば、労働参加率の低下は長期の失業者が職探しを断念し、労働市場から退出している可能性を示す。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合、高止まり

(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は、前月比7.18万人増の101.3万人。コロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人を上回ったままだ。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値から遠のく

(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

今回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、家計調査の就業者数は前月比8.7万人減と、NFPの2.3万人減と同じくマイナスだった。NFPが年初来で2回減少した反面、家計調査の就業者数は6回目の減少となる。

チャート:NFPと家計調査の就業者数の推移

(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比10.6万人減と年初来で6回目の減少となった。逆にパートタイム同13.8万人増と、2カ月連続で増加。複数の職を持つ者も同13.9万人増の869.3万人と増加した。

チャート:フルタイムは減少続くが、パートタイムは増加に反転

(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は2カ月連続で増加

(出所:Street Insights)

なお、NFPで下方修正が続く理由は、回答率の低迷が一因と考えられる。また、回答率の低迷に伴い、業績が堅調で、回答する余裕のある企業の偏りが出るリスクも見込まれ、WSJ紙もその点を問題視していた。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、コロナ禍を経て他指標と同様に回答率は芳しくない。

今年とコロナ禍直前の結果を比較すると、以下の通り。

・CES(事業所調査、NFPや平均時給など)→25年3月に42.6%、20年2月は59%
・CPS(家計調査、失業率や労働参加率など)→25年4月に68.1%、20年2月は82.3%
・雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)→25年3月に35.2%と、20年2月は56.4%

CPSは対面と電話での聞き取り調査により実施され、他と比較して高いとはいえ、それぞれ低迷したままだ。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは2025年1月から6万世帯→5.5万世帯へ削減した。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。なお、連邦政府職員削減の影響か、直近では更新が滞っている。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

(出所:Street Insights)

○米国生まれ、海外生まれの雇用動向

2024年の米大統領選でトランプ氏が勝利した理由は、不法入国者を含めた移民の急増だった。米議会予算局やサンフランシスコ連銀など、多くが移民の急増をめぐる影響を分析するように、コロナ禍後の足元の米労働市場にも大きな変化をもたらした。しかし、足元はトランプ政権の不法移民取り締まり強化に伴い、コロナ禍後の移民流入の増加分が巻き戻されつつある。そこで、海外生まれ(不法移民を含む)と米国生まれの雇用動向を確認してみた。

労働力人口(以下、全て季節調整前の数字)にうち、米国生まれは前月比39.3万人増と3カ月連続で増加した。逆に海外生まれは35.6万人減と4カ月連続で減少し、明暗が分かれた

チャート:米労働力人口(季節調整前)、米国生まれと海外生まれの比較

労働参加率も、まちまち。米国生まれは労働力人口が増加した結果、前月の61.0%→61.1%と7カ月ぶりの水準を回復した。逆に海外生まれは労働力人口が減少したように、前月の65.6%→65.5%へ低下した。これらは季節調整前の数字となる。季節調整済みの数字である全米の労働参加率が61.4%へ低下したが、海外生まれが押し下げたと言えよう。なお、海外生まれは通常、就労ビザを取得して入国した者が多いほか、家族に生活支援で頼れない事情もあり、労働参加率で米国生まれを上回る傾向が強い。

チャート:労働参加率、米国生まれと海外生まれの違い

就業率も、まちまち。米国生まれは前月の58.3%→58.2%と低下した。海外生まれは前月の63.3%→63.4%と小幅ながら改善。全米の就業率は58.9%と、2021年9月以来の59%割れを迎えたが、米国生まれが押し下げたことが分かる。

チャート:米国生まれと海外生まれの就業率

全米の失業率は4.1%と、前月の4.2%から低下した。米国生まれの失業率は労働参加率の上昇するなか前月の4.6%で変わらず。一方で、海外生まれは労働参加率が低下したにもかかわらず前月の3.6%→3.3%と2023年6月以来の低水準だった。いずれも、季節調整前の数字である。

チャート:米国生まれと海外生まれ、失業率の比較

米国生まれの労働参加率が上昇した一方、海外生まれは労働力人口そのものが減り、全体の参加率を押し下げた。それでも海外生まれの失業率・就業率はともに改善しており、移民取り締まり強化を受けて労働市場から退出する動きが、需給の逼迫よりも強く表れている可能性がある。

(カバー写真:wyliepoon/Flickr)

Comments

comments

Pin It

Related Posts

Comments are closed.