U.S. August Payrolls Surge: Rebound or Prelude to Broader Hiring?
米8月雇用統計は、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想の3倍上回る好結果となりました。しかも、過去2カ月分が上方修正。失業率は横ばいも、労働参加率が3カ月ぶりに改善しています。平均時給の前年比は労働参加率の上昇を一因に鈍化トレンドを維持しました。総合的に判断すると6-7月の弱さの反動という側面が強く、労働市場が再加速したとまでは言えそうにありません。
結果、FF先物市場での9月利上げ確率は前日の49.4%から一時60.4%と上昇。もっとも、ウォーシュFRB議長はジャクソン・ホール講演でインフレ重視の立場を強調し、ウォラーFRB理事もディスインフレを確認する状況で9月FOMCの利上げに慎重な姿勢を打ち出しており、9月FOMCをめぐっては9月11日発表の米8月CPI次第となりそうです。
画像:FF先物市場、9月利上げ織り込み度が再び上昇

(出所:Street Insights)
強い米8月雇用統計の結果を受けて、ドル円は上昇で反応し一時156.73円まで本日高値を更新。しかし、その後は平均時給の伸び鈍化を見直す動きがあったのか上げ幅を削る動きをみせるなど、乱高下しました。
チャート:ドル円、21時からのドル円の5分足、白線はDXY、緑線は米10年債利回り

(出所:Street Insights)
今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、全体的にポジティブが優勢です。
(労働市場にポジティブ)
・NFPが市場予想を大幅に上回る
・過去2カ月分は上方修正
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比で加速
・週当たり平均労働時間、改善
・労働参加率は改善
・就業率は改善
・不完全雇用率は低下
・家計調査の就業者数は大幅増
・フルタイムは年初来で2回目の増加
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・失業率は横ばい
・平均時給の伸び、前年同月比で鈍化トレンド維持
・長期失業者の割合は上昇
・完全解雇者の労働力人口に占める割合は上昇
以下は、今回の雇用統計の詳細。
〇非農業部門就労者数
米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比16.2万人増となり、市場予想の5.5万人増を大幅に上回った。前月は2.3万人減→2.1万人増に上方修正された。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比12.7万人増と市場予想の4.5万人増を上回った。前月の7.1万人増(3.0万人増から上方修正)を超えた。民間サービス業は同8.6万人増と、前月の4.2万人増(0.5万人増から上方修正)を上回った。

(出所:Street Insights)
チャート:民間就労者数、4カ月ぶりの高水準

(出所:Street Insights)
過去2カ月分は5.5万人の上方修正
・6月 2.0万人増→3.1万人増、1.1万人の上方修正
・7月 2.3万人減→2.1万人増、4.4万人の上方修正
チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

(出所:Street Insights)
サービス部門のセクター別動向は11業種中で9業種で増加、速報値ベースでの前月の7業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は過去2カ月間にわたり減少した娯楽・宿泊だった。続いて、7月に夏季休暇要因で公立学校の教員レイオフが押し下げた政府、そして教育・健康が並んだ。一方で2業種で減少し、金融は2カ月連続で減少、情報は減少に転じた。
(サービスの主な内訳)

(出所:Street Insights)
娯楽・宿泊は同6.2万人増となったが、6-7月に合計7.5万人減のマイナスを相殺するに至らなかった。娯楽・宿泊の今回の大幅増は、①W杯開催に伴う需要が一部寄与した可能性、②6-7月の減少の反動――が考えられる。
チャート:娯楽・宿泊は3カ月ぶりに増加

政府は同3.5万人増と、増加に反転。前月は州・地方政府のうち、地方政府の教育=公立学校が夏季休暇を受けて押し下げたが、今回は同セクターが4.2万人増と支えた。
チャート:政府は州・地方政府が改善し、政府は増加に反転

(出所:Street Insights)
財生産業は前月比4.1万人増と、6カ月連続で増加。業種別をみると、引き続き建設が伸びを主導したほか、製造業も3カ月連続で増加。鉱業・掘削は3カ月ぶりに増加に転じた。

(出所:Street Insights)
チャート:業種別、雇用の増減

(出所:Street Insights)
〇平均時給
平均時給は前月比0.3%上昇の37.75ドル(約5,890円)、市場予想と一致し前月の0.2%(0.1%から上方修正)を上回った。2021年2月以降の上昇トレンドを維持。前年同月比は3.1%と、市場予想の3.0%を上回ったとはいえ、前月の3.2%を下回った。2021年5月以来の低い伸びとなる。生産労働者・非管理職も同3.3%と前月と一致し、同じく2021年5月以来の低い伸びだった。
チャート:平均時給の前年比

(出所:Street Insights)
〇週当たり労働時間
週当たりの平均労働時間は前月まで4カ月連続で34.3時間を経て、34.4時間と2024年3月以来の高水準だった。財部門(製造業、鉱業、建設)は40.3時間と2023年1月以来の高水準。コロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間に並んだ。全体の労働者の約7割を占める民間サービスも33.3時間と、2025年4月以来の水準へ延びた。ただし、2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。
チャート:週当たり平均労働時間

(出所:Street Insights)
〇総労働投入時間、民間の総賃金
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は週当たり労働時間が延び、民間の就労者数も前月比で増加した結果、前月比0.4%上昇した。
民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は、前月比0.7%上昇と8カ月連続でプラス。前年同月比は4.3%増と、前月の同4.1%増を上回った。3カ月平均は4.2%増と、前月を上回った。
チャート:民間部門の総賃金、前年比で4%台を維持

(出所:Street Insights)
〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者
失業率は4.1%と、市場予想並びに前月と一致し、2024年12月以来の低水準を保った。四捨五入前では4.141%。労働参加率は61.6%と、2021年2月以来の低水準となった前月の61.4%から改善した。労働参加率の上昇は失業率に上昇圧力をかけやすいが、失業者数が前月比11.5万人増にとどまる一方、就業者数が同56.9万人増えたこともあり、失業率は4.1%で横ばいを維持した。
チャート:失業率の四捨五入前の推移

(出所:Street Insights)
自発的離職者数は前月比12.1万人増の91.4万人だった。失業者に占める自発的離職者数の割合は、前月の11.3%→13.1%へ上昇した。自発的離職者の増加は、労働者の転職意欲がやや持ち直した可能性を示す。
チャート:自発的離職者数の推移

(出所:Street Insights)
失業率が横ばいのところ、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比1.8万人増の240.6万人と、小幅に3カ月ぶりに増加した。失業者に占める失職者数の割合は前月の34.2%→34.4%へ上昇し、8カ月連続で1位を維持。失職者のうち、完全解雇者(会社都合や非自発的な事情で雇用が終了し、求職活動を開始した失業者)が労働人口に占める割合は1.05%へ上昇、とはいえ2021年10月以来の高水準だった2月の1.19%以下を保った。
新規参入者は前月比5.9万人減の70.2万人だった結果、失業者に占める割合は前月の10.9%→10.1%へ低下した。労働市場への再参入者は同1.4万人増の213.7万人と、小幅ながら増加に反転。再参入者が失業者に占める割合は前月の30.4%→30.5%へ小幅に上昇した。
レイオフ(一時解雇)は前月比8.2万人減の83.9万人。公立学校の夏季休暇に伴うレイオフがあった前月の反動で減少したとみられる。失業者に占めるレイオフの割合は前月の13.2%→12.0%へ低下した。
チャート:失業者の割合は失職者トップを維持

(出所:Street Insights)
チャート:失職者数は小幅に増加

(出所:Street Insights)
チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合、8月は上昇も2021年10月以来の高水準だった2月以下が続く

(出所:Street Insights)
チャート:レイオフは減少に転じ90万人割れ

(出所:Street Insights)
労働参加率は前述したように61.6%と、2021年2月以来の低水準だった前月の61.4%から改善した。
就業率は59.1%、2021年9月以来の59%割れとなった前月の58.9%から改善した。
チャート:労働参加率、就業率ともに2021年以来の低水準から改善

(出所:Street Insights)
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は7.7%、前月の7.9%を下回り2025年6月以来の低水準だった。パートタイムの雇用が減少した結果と整合的だ。
チャート:不完全雇用率、4カ月ぶりに8%割れ

(出所:Street Insights)
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前月の10.5週から11.4週へ延びた。27週以上にわたる失業者の割合も前月の25.5%→27.0%へ上昇。2021年12月以来で3番目の高水準だった。一部の長期失業者が労働市場に戻ってきた可能性を示唆する。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合、高止まり

(出所:Street Insights)
〇病気が理由で働けないとする人々
「病気が理由で働けない」とする人々は、前月比8.1万人減の93.2万人。コロナ前平均の2015‐19年の93万人に概ね並んだ。労働参加率改善の一因となったとしてもおかしくない。
チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値に接近

(出所:Street Insights)
〇家計調査の就労者内訳
今回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、家計調査の就業者数は前月比56.9万人増と、NFPの16.2万人増を上回る好結果だった。NFPが年初来で5回増加した反面、家計調査の就業者数は2回目の増加となる。
チャート:NFPと家計調査の就業者数の推移

(出所:Street Insights)
家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比73.5万人増と年初来で2回目の増加となった。複数の職を持つ者も同11.2万人増の880.5万人と3カ月連続で増加した。逆にパートタイムは同22.3万人減と、3カ月ぶりに減少。不完全雇用率を踏まえれば、経済要因などでパートタイムを余儀なくされた人々がフルタイムに採用されたと考えられよう。
チャート:フルタイムは増加に転じ、パートタイムは逆に減少

(出所:Street Insights)
チャート:複数の職を持つ者は3カ月連続で増加

(出所:Street Insights)
なお、NFPで下方修正が続く理由は、回答率の低迷が一因と考えられる。また、回答率の低迷に伴い、業績が堅調で、回答する余裕のある企業の偏りが出るリスクも見込まれ、WSJ紙もその点を問題視していた。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、コロナ禍を経て他指標と同様に回答率は芳しくない。
今年とコロナ禍直前の結果を比較すると、以下の通り。
・CES(事業所調査、NFPや平均時給など)→25年3月に42.6%、20年2月は59%
・CPS(家計調査、失業率や労働参加率など)→25年4月に68.1%、20年2月は82.3%
・雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)→25年3月に35.2%と、20年2月は56.4%
CPSは対面と電話での聞き取り調査により実施され、他と比較して高いとはいえ、それぞれ低迷したままだ。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは2025年1月から6万世帯→5.5万世帯へ削減した。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。なお、連邦政府職員削減の影響か、直近では更新が滞っている。
チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

(出所:Street Insights)
○米国生まれ、海外生まれの雇用動向
2024年の米大統領選でトランプ氏の勝利を後押しした主要争点の一つが、不法入国者を含む移民の急増だった。米議会予算局やサンフランシスコ連銀など、多くが移民の急増をめぐる影響を分析するように、コロナ禍後の足元の米労働市場にも大きな変化をもたらした。しかし、足元はトランプ政権の不法移民取り締まり強化に伴い、コロナ禍後の移民流入の増加分が巻き戻されつつある。そこで、海外生まれ(不法移民を含む)と米国生まれの雇用動向を確認してみた。
労働力人口(以下、全て季節調整前の数字)のうち、米国生まれは前月比53.1万人減と4カ月ぶりに減少した。逆に海外生まれは34.4万人増と5カ月ぶりに増加し、明暗が分かれた。
チャート:米労働力人口(季節調整前)、米国生まれと海外生まれの比較

労働参加率も、まちまち。米国生まれは労働力人口が減少した結果、7カ月ぶりの水準を回復した前月の61.1%→60.9%に低下した。逆に海外生まれは労働力人口が増加したことに伴い、前月の65.5%→65.7%へ改善した。これらは季節調整前の数字となる。季節調整前ベースでは海外生まれの労働参加率が上昇する一方、米国生まれは低下した。なお、海外生まれには就労ビザで入国した人も多く、働くこと自体が滞在の前提となるケースがあるほか、家族による生活支援に頼りにくい事情などもあり、労働参加率で米国生まれを上回る傾向が強い。
チャート:労働参加率、米国生まれと海外生まれの違い

就業率も、まちまち。米国生まれは前月の58.2%→58.1%と低下した。海外生まれは前月の63.4%→63.5%と2カ月連続で上昇。全米の就業率は59.1%と2021年9月以来の59%割れを迎えた前月から改善したが、海外生まれが押し上げ方向に作用したと言えよう。
チャート:米国生まれと海外生まれの就業率

全米の失業率は4.1%と、前月と変わらず。米国生まれの失業率は、労働参加率が低下するなか4.6%で横ばいだった。一方で、海外生まれは労働参加率が上昇した影響で2023年6月以来の低水準だった前月の3.3%→3.4%へ上昇した。いずれも、季節調整前の数字である。
チャート:米国生まれと海外生まれ、失業率の比較

8月は海外生まれの労働参加率・就業率が改善する一方、米国生まれは低下した。7月に30万人超のハイチ人が一時的な在留・就労資格(TPS)を失ったことで雇用が押し下げられるとの懸念もあったが、少なくとも8月の家計調査を見る限り、その影響は限定的だったと言えよう。
(カバー写真:Steven Lilley/Flickr)
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