Serendipity–何かを探しているとき、偶然に異なる貴重なものにめぐり合う幸運。
いや、まさにこのレストランに出会ったのは、セレンディピティと言っても過言ではありません。上質なシルクの糸を交錯して織り成したかのような、極上のフュージョンをあなたに捧げてくれます。
その日の金曜日は、新しい上司に連れられた高級お寿司屋さんで、ランチだというのに飽食の限りを尽くしました。挙句に仕事上がり、ディナーの待ち合わせ場所にて、グルメな欧州系アメリカンの友人の顔をみた瞬間、思わず眉根を寄せて今日のディナーはキャンセルにしようと提案してしまったほど。しかし友人、笑みをたたえながらも、頑として首を振ってNO。さっそく私を引っ張ってタクシーを捕まえ、目的地にいざないます。
7thアベニューで降りてBarrow Stへ入っていってまもなく現れた、乳白色のドアを向こう側。そこがニューヨーカーの舌を虜にするレストランAnnisa です。キャンドルのライトがオフホワイトの壁を薄紅色に染め、長方形の間取りなのに曲線的な趣きが漂う。簡素ながらも洗練さが香る店内は、食事中もピンと背筋を伸ばすことのできる大人がふさわしい空間です。
↓インテリアで勝負することなく、光る機能美。
食事は、ここでゴタクを並べる必要のない品々ばかり。お寿司を詰め込んでいた私の胃袋に、すんなり入っていきました。脂っこい食べ物は遠慮したかったはずなのに選んだ前菜はあろうことか、Braised Wild Boar Belly。舌にとろりと溶けていきます。チャーシューを連想させつつ、それほどしつこくないんですね。リンゴがお口直しとして添えられているのが、ご愛敬なだけでなく、最適。こくまろな味がすーーーっと消えて、いつまでも新鮮にお肉のモチモチ感を堪能できます。
イノシシ肉よりも、魅惑的なのが蓮華に盛られたチョコトリュフのごときボウル。ウェイトレスさんのレクチャーなしには危険なこれ、蓮華から離して召し上がってはいけません。ぷちんと歯で皮を破ると、コンソメ風のスープが溢れ返ります。小龍包からヒントを得たと思われるこちら、味はイノシシ肉にこってりを譲っているので、あっさり風味です。
メインにいただいたMiso Marinated Sable、言葉を失うお味でした。名前のトップに「味噌」とあったので、油断していたところ・・・繊細さここに極まれり。味噌風味は申し訳程度で、銀だらが浸かる澄み切ったソースが、極上の味を映し出しております。カツオと昆布が醸し出すお出汁が上品なこと。私のなかで眠っていた味蕾の数々が、開花していくのを感じます・・。
↓写真からでも伝わってくる、このキラメキ。味わいの豊潤さを物語ります。
食事中、にうつつを抜かして友人との会話がおざなりになっていた私。友人が「Almost all the chefs at this restaurant are women」とタネを明かしたところで、現実に戻りました。なるほど、これで合点がいきましたよ。みずみずしさが響きわたる味わい、直線を感じせさない店内、そして押し付けがましいところのない店員さんの振る舞い・・・。レズビアン・シェフの匠がなせる技です。ちなみにAnnisaは、アラビア語で「若い女性」を意味するのですよ。
シェフのAnita Lo、チェリー・ガールではベスト・レズビアン・シェフの一人 に名を連ね、2001年には食通の愛読誌Food and Wine でべスト・ニューシェフの栄誉に輝きました。米国が誇るフード・ショーTop Chefでは、名人勝ち抜き戦であるTop Chef Masters にも出演したほど、その名をとどろかせています。そんな彼女が腕を振るう店ですから、Annisaは予約がなかなか取りづらくって有名。繊細さが光る至宝の味に、根強いファンが多いことは疑いようもありません。一流の味を一番探していないときに私、最上級のフュージョンに出会ってしまいました・・。
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