Lincoln, An Inspiring Movie Like A Textbook.
今さらアカデミー賞受賞作品、奴隷制時代を背景とした「ジャンゴ、繋がれざる者」を観賞した後で「リンカーン」もチェックしてみました~。
南北戦争の戦況が北軍優勢に傾くなか、憲法上の奴隷制廃止を盛り込んだ「合衆国憲法修正第13条」の可決を目指すリンカーン大統領を中心に織り成す政治的折衝にスポットライトを当てたストーリー。天下分け目の決戦の舞台は米下院に移され、現代でいうロビイストの活躍を駆使しながらリンカーン大統領側が勝利を収めていく史実を淡々と追っております。
一部からは、2時間半の超大作に対し、タイトルは「修正第13条」とすべきとの声が聞かれるほど。なぜなら、リンカーン大統領が奴隷制廃止にこだわったかが投影されていないんですよね。物足りなさを感じた視聴者の方々も、多かったのではないでしょうか。
奴隷解放を30年もかけて主張したトミー・リー・ジョーンズ演じるタデウス・スティーブンス下院歳入委員会委員長の場合は、映画の終幕でオチがつくので言わずもがなですが・・。
執拗に奴隷解放を求めるタデウス、ボスでお馴染みトミーが熱演。
肝心のリンカーン大統領については、そこへ至るエピソードは説明されておりません。
短絡的に考えるなら、経済発展を遂げる上で工業化著しい北部に労働者が必要だったという非人道的な解釈をアメリカ史上最も偉大とされる大統領を主役に据える映画では避けたかったのかもしれません。
あるいは、ニューズウィーク誌で冷泉彰彦氏が指摘するように「原作本のクライマックスである『南北分裂直前の政局と奴隷制の是非』という大問題を映画の主要なエピソードに据えてしまっては、歴史として余りにも痛々しいものになってしまうと判断した」と見るのも、適切といえるでしょう。ミシシッピ州での「合衆国憲法修正第13条」批准完了は、この映画の公開後となる2013年2月まで待たなければならなかったですし・・。あくまで輝かしいアメリカの歴史の1ページとして描きたかったのであれば、奴隷制という極めて繊細な問題はあまり掘り起こしたくなかったとしても、おかしくないかと。
映画「ミシシッピ・バーニング」を思い出すまでもなく、人種差別の激しい州のひとつ。
もうひとつ誤解を恐れずにあえて邪推するなら、政治的配慮ですかねぇ。映画では奴隷という枕詞とセットとはいえ「解放」という言葉は、必ずしも都合のいい言葉ではありません。公開当時から、イスラエルとパレスチナ問題を連想させるとの記事も存在してましたしね。スピルバーグ監督自身がユダヤ人で名作「シンドラーのリスト」や「ミュンヘン」のメガホンを取った張本人なだけに、政治的に刺激を与えないよう注意せざるを得なかったのでは、なんて考えちゃいます。
映画ファンとして個人的に興味深かった点は、2つ。
まずは黒人という言葉の扱いの違いについて。映画「ジャンゴ、繋がれざる者」ではアメリカでは黒人蔑視用語の「ニガー」が113回登場し、恐らく近年の映画史上で最多を記録したのではないかと思われます。メディアや黒人人権運動団体を中心に、不適切だとして非難轟々と相成りました。一方で映画「リンカーン」では、学術用語「ネグロイド」から派生した「ニグロ」と表現していたため、特に問題視されず。その「ニグロ」という言葉は、今年になって米国勢局で人種を表す用語から削除された通り「ニガー」に近い侮蔑的表現であるのは、言うまでもありません。
もう1点は、ある俳優について。「リンカーン」と「ジャンゴ~」の双方の作品に出演していた方に気づかれましたでしょうか。はい、ドラマ「ザ・シールド-ルール無用の警察バッジ(The Shield)」でギャング専門犯罪組織タスクフォースの一員として出演していた、ウォルトン・ゴギンスです。
「ジャンゴ~」では、残虐領主の手先として最後の最後までジャンゴをなぶり続けていてましたが・・・「リンカーン」では、修正第13条にためらいながら賛成票を投じた、オハイオ州選出のクレイ・ホーキンス議員を演じてたんです!あはは、ハリウッド史のいたずらか運命なのか・・・大笑いしちゃいました。
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