U.S. Economy Sheds Jobs In September, But December Rate-hike Still In Sight.
米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比3.3万人減と、市場予想の10万人増に反する結果となった。ハリケーン“ハービー”と“イルマ”の打撃により、前月の16.9万人増(15.6万人増から上方修正)から悪化し、2010年9月以来の減少に転じている。米9月ADP全国雇用者数より、ハリケーンの爪痕を大きく残す内容だった。悪天候のため就業不能となった雇用者は147万人に及び、少なくとも1970年代後半から2番目の高水準を記録している。過去2ヵ月分は8月分が上方修正されたものの7月分は下方修正(18.9万人増→13.8万人増)、2ヵ月分で3.8万人の下方修正となる。7~9月期平均は9.1万人増まで伸びを縮小し、2016年の平均18.7万人増に遠く及ばず。年初来でも14.8万人増にとどまった。
NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比4.0万人減と、市場予想の11.7万人増を下回った。前月の16.4万人増(16.5万人増から下方修正)より大幅に下振れ。民間サービス業は4.9万人減と、前月の9.8万人増(9.5万人増から上方修正)から反転、2010年2月以来の減少となる。
セクター別動向では、7~8月の2位から教育・健康がトップに浮上した。2位は輸送・倉庫が入り、少なくとも年初来で初のトップ3圏内となる。ホリデー商戦を前に配送大手のUPSが9.5万人、フェデックスも8.0万人の臨時雇用を発表し、同セクターに寄与したようだ。また、足元でアマゾンが配送サービス参入を決定しており今後も堅調に伸びていくか注目される。8月に1位だった専門サービスは3位に転落した。なお、少なくとも1~7月までトップ3の常連だった娯楽・宿泊は11.1万人減と過去最大の減少幅を記録。ハリケーンの影響で娯楽施設の多いフロリダ州を中心に操業停止となり賃金が払われず、NFPの調査では減少としてカウントされたとみられる。ホリデー商戦前に大幅増となる傾向が強い小売は、オンラインへの移行に加えハリケーンの余波が響き、8ヵ月連続で減少した。詳細は、以下の通り。
(サービスの主な内訳)
・教育/健康 2.7万人増<前月は4.5万人増、6ヵ月平均は4.1万人増
(そのうち、ヘルスケア/社会福祉は1.3万人増<前月は2.1万人増、6ヵ月平均は3.3万人増)
・輸送/倉庫 2.2万人増>前月は0.8万人増、6ヵ月平均は1.1万人増
・専門サービス 1.3万人増<前月は4.3万人増、6ヵ月平均は4.0万人増
(そのうち、派遣は0.6万人増<前月は0.8万人増、6ヵ月平均は0.9万人増)
・金融 1.0万人増>前月は0.8万人増、6ヵ月平均は1.2万人増
・政府 0.7万人増>前月は0.5万人増、6ヵ月平均は0.4万人増
・卸売 0.7万人増>前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.5万人増
・公益 ±0万人=前月は±0人減、6ヵ月平均は±0人
・小売 0.3万人減>前月は0.7万人減、6ヵ月平均は0.7万人減
・その他サービス 0.5万人減<前月は0.4万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・情報 0.9万人減<前月は0.4万人減、6ヵ月平均は0.6万人減
・娯楽/宿泊 11.1万人減<前月は±0人、6ヵ月平均は1.2万人増
(そのうち食品サービスは0.9万人増、過去12ヵ月平均は2.4万人増)
財生産業は前月比0.9万人増と、前月の6.6万人増(7.0万人増から下方修正)を下回った。2ヵ月連続で増加している。ハリケーンの復興需要を一因に建設が2ヵ月連続で増加したほか、原油価格が50ドル台を回復する過程で鉱業も2ヵ月連続で増加した。ただし、製造業は減少に転じた。
(財生産業の内訳)
・建設 0.8万人増<前月は1.9万人増と6ヵ月ぶりの高水準、6ヵ月平均は0.7万人増
・鉱業/伐採 0.2万人増(石油・ガス採掘は0.2万人の増加)>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.5万人増
・製造業 0.1万人減<前月は4.1万人増、6ヵ月平均は1.9万人増
NFP、金融危機後の景気回復サイクルで初の減少に。
平均時給は前月比0.5%上昇の26.55ドル(約3,000円)と、市場予想の0.3%を上回った。8月の0.2%(0.1%から上方修正)も超えている。前年比では8月まで5ヵ月連続で2.5%の上昇にとどまったが、9月は2.9%上昇。市場予想の2.6%より加速し、2009年4月以来の力強さを遂げた2016年12月に並んだ。
週当たりの平均労働時間は34.4時間と、市場予想並びに前月と一致した。6~7月の34.5時間を下回ったままだ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.2時間と、8月と変わらず。7月の40.5時間から短縮し3月以来の低水準を保つ。
失業率は4.2%と、市場予想及び前月の4.4%を下回った。金融危機後以来で最低だっただけでなく、2001年2月以来の水準まで改善が進んだ。9月に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2017年見通しをも下回る。マーケットが注目する労働参加率は63.1%と、市場予想の62.8%だけでなく前月の62.9%も上回り、2014年3月の高水準に並んだ。なお労働参加率のボトムは2015年9〜10月の62.4%で、1977年9月以来の低水準だった。
失業者数は前月比33.1万人減と、4ヵ月ぶりに減少した。雇用者数は90.6万人増と、前月から大幅増加に反転、労働参加率が上昇しながら失業率を大幅低下させている。就業率は60.4%と前月の60.1%を超え、2009年1月以来の高水準を遂げた。
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.7%増の1億2,669万人と、3ヵ月ぶりに増加した。パートタイムは0.3%増の2,765万人と、3ヵ月連続で増加。増減数では前月に続きフルタイムが93.5万人増、パートタイムは8.1万人増だった。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が減少したため週当たり平均労働時間が変わらなかったとはいえ、小幅に2ヵ月連続で低下した。平均時給は前月比で伸びが力強く、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比で0.4%上昇、前月からプラスに転じた。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全失業率 採点-○
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全失業率は8.3%と、2007年6月の低水準に並んだ。ようやく6~8月までの8.6%から改善した。不完全失業者は512.2万人と、前月の525.5万人から減少。ムニューシン米財務長官候補が指名公聴会後に書簡で重視すると明らかにしたU-5すなわち縁辺労働者を含む失業率は5.1%と前月の5.4%を下回り、少なくとも年初来で最低を更新した。
2)長期失業者 採点-×
失業期間の中央値は10.3週と、前月の10.5週から短縮した。ただし、2008年11月以来の10週割れを達成した6月の9.6週を上回る水準を保つ。平均失業期間は26.8週と、前月の24.4週から延び2016年10月以来の水準となった。2009年6月以来で最短だった4月の24.1週から、一段と遠のいた格好だ。27週以上にわたる失業者の割合は25.5%と前月の24.7%を上回り、約1年ぶりの高水準だった6月の25.9%を視野に入れた。なお、4月は22.6%と2009年1月につけた低水準に並んだ。
3)賃金 採点-△
今回は前月比0.5%上昇し前月の0.2%を超え、前年比は2.9%上昇し2009年4月以来で最高の伸びを遂げ5ヵ月連続で2.5%の上昇に幕を下ろした。生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.4%上昇の22.23ドルと伸び率は全従業員の0.5%に及ばず。前年比も2.5%の上昇にとどまり、全従業員の2.9%と乖離が広がった。非管理職・生産労働者の賃金は、2016年10月からの流れを引き継ぎ管理職を合わせた全体に追いつかない状況だ。
平均時給、前年比では引き続き生産・非管理職の労働者が管理職を含めた全体に及ばず。
(作成:My Big Apple NY)
4)労働参加率 採点-○
労働参加率は63.1%と、2014年3月に遂げた高水準に一致した。ただ、金融危機以前の水準である66%台は未だ遠い。 軍人を除く労働人口は0.4%増の1億6,115万人と、労働参加率が著しく改善したように3ヵ月連続で増加。非労働人口は0.4%減の9,442万人と前月から減少に転じた。
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番のニック・ティミラオス記者の署名記事で「雇用統計後も、Fedは年内利上げの道筋残す(Jobs Report Leaves Fed on Course to Raise Rates Again This Year)」と題した記事を配信。雇用統計・NFPこそ予想外に弱い数字にとどまったが、失業率をはじめ平均時給や労働参加率など全体的にみれば力強い内容で、12月12~13日開催のFOMCで予定通り利上げを行う見通しと伝えた。
JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストも、12月の利上げ見通しを変更せず。Fedは「12月までにあと2回の雇用統計を吟味する余裕を持つ」ほか、「失業率は2017年末見通しを下回った」ことから、賃上げ圧力が高まる可能性があるとの見方を示唆している。
——米9月雇用統計・NFPこそ衝撃的な数字でしたが、他は大幅な改善がみられます。失業率、就業率、労働参加率、平均時給、不完全失業率・・どれをとっても、8月から目覚ましい改善を遂げています。特に平均時給は、低インフレ環境から漸く脱却し賃上げ圧力が高まりつつあるかのようです。
一方で労働参加率、全体では約3年ぶりの高水準でしたが、働き盛り(25~54歳)の男性では88.6%と前月の88.4%を上回ったとはいえ、まだまだレンジ下限にとどまります。
労働参加率が特に大幅に改善した年齢層はというと、16~29歳、40~54歳が中心となっています。いわゆる「働き盛り」の30~39歳を比較すると、その顕著ぶりは目を見張ります。
16~19歳:9月→35.8%と3ヵ月ぶりの高水準、8月→35.2%
20~24歳:9月→72.1%と2009年8月以来の高水準、8月→71.6%
25~29歳:9月→82.4%と2009年7月以来の高水準、8月→81.7%
30~34歳:9月→82.5%と5ヵ月ぶりの高水準、8月→82.0%
35~39歳:9月→82.5%と5ヵ月ぶりの高水準、8月→82.0%
40~44歳:9月→83.5%と2010年5月以来の高水準、8月→82.4%
45~49歳:9月→82.4%と2012年10月以来の高水準、8月→82.0%
50~54歳:9月→79.0%と2012年5月以来の高水準、8月→78.6%
55歳以上:9月→40.1%、8月→40.2%と2013年9月以来の高水準
労働参加率では年齢別で歪が生じているとはいえ、平均時給の力強さは否定できません。今後も、上昇が加速していくのかインフレ動向と合わせ注目されます。
(カバー写真:tec_estromberg/Flickr)
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