Job And Wage Growth More Than Expected, But Manufacturing Jobs Decline.
米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比20.1万人増となり、市場予想の19.4万人増を上回った。4ヵ月ぶりの低水準だった前月の14.7万人増(15.7万人増から上方修正)を超え、年初来で4回目の20万人超えを果たした。トランプ政権が3月23日から鉄鋼・アルミ関税を発動し、6月1日からは欧州連合(EU)、カナダ、メキシコも対象に含め、8月23日から残りの160億ドルと合わせ500億ドル相当の対中知財関税を実施するなか、NFPは改善。自動車関税や2,000億ドルの対中追加関税への懸念を残すも、金融危機から10年を経て景気拡大期の記録更新とともに堅調な増加ペースをたどる。6月分が1.6万人の上方修正(24.8万人増→20.8万人増)だったため、過去2ヵ月分は合計5.0万人の下方修正となった。6~8月の3ヵ月平均は18.5万人増で、2017年の平均値17.1万人増を上回ったままだ。
NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比20.4万人増と市場予想の19.1万人増を上回った。4ヵ月ぶりの低水準となった前月の15.3万人増(17.0万人増から下方修正)を超えている。民間サービス業は17.8万人増と、前月の11.7万人増(11.8万人増から下方修正)を上回った。
サービス部門のセクター別動向では、専門サービスが2ヵ月連続でトップに立ったほか、教育・健康も3位から上昇した、3位は卸売が入り、前月2位だった娯楽・宿泊は5位に転落している。減少は3セクターで、前月の4セクターを下回った。詳細は、以下の通り。
(サービスの主な内訳)
・専門サービス 5.3万人増>前月は3.7万人増、6ヵ月平均は4.8万人増
(そのうち、派遣は1.0万人増<前月は1.1万人増、6ヵ月平均は0.5万人増)
・教育・健康 5.3万人増>前月は4.1万人増、6ヵ月平均は4.5万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は4.1万人増>前月は3.5万人増、6ヵ月平均は3.5万人増)
・卸売 2.2万人増>前月は1.1万人増、6ヵ月平均は0.9万人増
・輸送・倉庫 2.0万人増>前月は10.7万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・娯楽・宿泊 1.7万人増<前月は3.2万人増、6ヵ月平均は2.1万人増
(そのうち食品サービスは1.8万人増=過去12ヵ月平均1.8万人増)
・その他サービス 1.3万人増>前月は1.2万人減、6ヵ月平均は0.8万人増
・金融 1.1万人増>前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.8万人増
・公益 ±0万人>前月は0.3万人減、6ヵ月平均は0.1万人減
・政府 0.3万人減>前月は0.6万人減、6ヵ月平均は0.3万人増
・小売 0.6万人減<前月は0.4万人増、6ヵ月平均は0.1万人減
・情報 0.6万人減<前月は0.1万人減、6ヵ月平均は0.1万人増
財生産業は前月比2.6万人増と、前月の3.6万人増(5.2万人増から上方修正)を下回り、5ヵ月ぶりの水準へ鈍化した。原油価格が70ドル手前での推移を続けるなか、鉱業は9ヵ月ぶりに減少した前月から増加に反転。建設は3ヵ月ぶりの水準を回復している。一方で、鉄鋼・アルミをはじめ追加関税措置の影響が懸念されるところ、製造業は2017年7月以来の減少を迎えた。
(財生産業の内訳)
・建設 2.3万人増>前月は1.8万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・鉱業・伐採 0.6万人増(石油・ガス採掘は700人の減少、2ヵ月連続でマイナス
>前月は±0万人、6ヵ月平均は0.5万人増
・製造業 0.3万人減<前月は1.8万人増、6ヵ月平均は1.8万人増
NFPは、年初来で4回目の20万人超え。
平均時給は、7月と同じく前月比0.4%上昇の27.16ドル(約2,990円)となった。前年比では市場予想と前月の2.7%増を超え、2.9%増と2009年4月以来の高い伸びを回復した。
週当たりの平均労働時間は34.5時間と、市場予想と前月に並んだ。逆に財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.6時間と、前月と変わらず。なお財部門は、4月に2006年7月以降で最高となる40.7時間を記録していた。
失業率は3.9%と前月と一致したが、2000年4月以来の水準となった5月の3.8%を上回る水準を保つ。6月に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2018年見通しにも届いていない。労働参加率は62.7%と、前月の62.9%を下回り3ヵ月ぶりの水準へ戻している。なお労働参加率のボトムは2015年9〜10月の62.4%で、1977年9月以来の低水準だった。
失業者数は前月比4.6万人減少したが、就労者数は42.3万人減少した。就労者の減少幅が失業者数の減少幅より大きかったものの、労働参加率が低下したため、失業率は上昇を回避した。就業率は60.3%と、2009年1月の低水準に並んだ前月の60.5%を下回った。
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.3%減の1億2,858万人と、減少に転じた。パートタイムは0.3%減の2,691万人と、過去6ヵ月間で5回目の減少となった。増減数ではフルタイムが44.4万人減、パートタイムは7.9万人減だった。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は、民間雇用者数が前月を下回っただけでなく平均労働時間も短縮したため、前月比で0.2%上昇しプラス圏を回復した。平均時給が強い伸びを示した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比で0.5%上昇、こちらは7ヵ月連続でプラスだった。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全失業率 採点-○
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は7.4%と、2001年4月以来の低水準を記録した。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は437.9万人と、前月の456.7万人から減少した。ムニューシン米財務長官候補が指名公聴会後に書簡で重視すると明らかにしたU-5すなわち縁辺労働者を含む失業率は4.7%と前月の4.8%から低下。なお5月は4.6%と、金融危機前の水準をつけた。
2)長期失業者 採点-○
失業期間の中央値は9.1週と、2008年5月以来の低水準だった6月の8.9週に接近した。平均失業期間も22.6週と、前月の23.2週から改善。2009年3月以来で最短を記録した6月の21.3週へ近づいた。27週以上にわたる失業者の割合は21.5%と、前月の22.7%から低下。2008年8月以来の20%割れを遂げた5月の19.4%ににじり寄った。
3)賃金 採点-△
今回は前月比0.4%の上昇と、5月と7月に続き年初来で最も強い伸びとなった。前年比は前月の2.7%の上昇を経て、2.9%へ上昇し2009年4月以来の高い伸びを記録。生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.3%上昇の22.73ドルと全従業員の伸び以下に。前年比も2.8%上昇し、全従業員の水準以下となる。ただし、5月に続き2009年以来の高水準に並んだ。なお、民間における生産・非管理職の割合は82.4%を占める。
平均時給、生産・非管理職の労働者が前年比で2009年7月以来の高水準に並ぶものの、全従業員以下に。
4)労働参加率 採点-△
労働参加率は62.7%と、前月まで2ヵ月間の62.9%から低下した。2014年3月以降で2番目の高水準だった2月の63.0%から遠ざかっている。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。軍人を除く労働人口は0.3%減の1億6,177万人と、4ヵ月ぶりに減少。非労働人口も0.7%増の9,629万人と、2ヵ月連続で増加した。
――米8月雇用統計・NFPは、20万人超えの水準へ戻しました。追加関税措置をものともせず、民間サービスは力強い内需を追い風に好調だった一方、財部門のうち製造業が約1年ぶりに減少しています。鉄鋼・アルミをはじめとした追加関税措置の影響なのか、真夏の夜の夢よろしく、9月には元の増加基調に戻すのか。6~7月分の下方修正も製造業が牽引いていただけに、要注意です。
その他に特筆すべき点は、やはり平均時給でしょう。労働市場の約8割を担う非管理職・生産労働者は管理職を含む全体の水準に届かなかったとはいえ、2009年以来の伸びを示しました。では、どのセクターが上昇を牽引したのでしょうか?気になる結果は、以下の通り。7月は小売、娯楽・宿泊、建設。その他サービス、専門サービスの5セクターで非管理職・生産労働者の平均時給伸びを上回っていました。今回は公益と鉱業が加わり、7セクターへ増えています。
労働市場が売り手市場となっているためか、失業者に占める自発的離職者数の割合も8月に14.0%と、2000年10月以来の高水準を遂げました。
今回、数少ないウィークポイントとしては、労働参加率が挙げられます。25~54歳の働き盛り世代の男性の労働参加率も、7月の90.0%→8月に89.7%へ低下。直近は90.4%まで回復したにも関わらず、再び下振れています。
労働市場の逼迫を再認識させる米8月雇用統計でしたが、働き盛りの男性における労働参加率の動向は、中間選挙にも影響を与えかねず。追加関税措置で製造業がコスト圧力に直面した結果、働き盛りの男性にしわ寄せがきているのか、見極めが必要です。
(カバー写真:City Year/Flickr)
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