7237028356_c23750c1b5_c

1月ベージュブック:米中貿易協議・第1段階の合意を好感

by • January 22, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off2409

Beige Book:Business Contacts Welcome U.S.-China Phase One Deal.

米連邦準備制度理事会(FRB)が1月15日に公表したベージュブック(2019年11月半ばから2019年末)によると、米経済の拡大ペースは、前回11月に続き「緩慢(modest)」と表現された。対中追加関税第4弾が一部発動したものの、2019年12月13日にトランプ政権が米中閣僚貿易協議で成立した第1段階の合意を承認した結果、見通しは、前回の「ポジティブ」から「控え目ながら良好」へ切り替わった。米中貿易協議など不確実性をめぐるキーワードでは「中国」が増加したものの、米中貿易協議の進展など前向きな捉え方が前回より多くなったため。「不確実性(uncertainty)」、「関税(tariff)」の登場回数が減少したように、米中貿易協議・第1段階の合意が企業に楽観的な見方を与えたとみられる。NY地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。

<経済全般、見通しのセクション>

経済活動は、2019年末にかけての6週間において「緩慢に(modestly)」拡大した。ダラスとリッチモンドは平均を上回る成長を報告した一方、フィラデルフィアとカンザスシティは平均以下にとどまった。多くの地区連銀は、通商の不確実性が複数のビジネスで重しになっていると指摘。短期的見通しは、引き続き全米を通じ「控え目ながら良好(modestly favorable)」だった。

前回:経済活動は前回と同様に、10月から11月半ばにかけ「緩慢に(modestly)」拡大した。見通しは概して「ポジティブ」で、複数(some)の回答者は現状の成長ペースが来年も続くと見込んだ。

<個人消費>

個人消費は「緩慢からゆるやかなペース(modest to moderate pace)」で拡大し、一部の(a number of)地区連銀は前回より幾分の回復を指摘した。概して、年末主戦は「堅調(solid)」とされ、一部の(several)地区連銀はネット通販の重要性を指摘した。自動車販売は概して「ゆるやかに(moderately)」拡大したが、少数の(a handful)の地区連銀は「横ばい(flat)」だったと伝えた。観光・旅行は「まちまち(mixed)」で、東部沿岸沿いは伸びたものの、中西部と西部は「ほぼ変わらず(little changed)」だった。

前回:ほとんどの地区連銀では、個人消費が「安定的からゆるやかなペース(stable to moderately)」で伸び、一部(several)の地区連銀で自動車販売と観光が拡大した。

<製造業、非製造業の活動>

製造業活動は、ほとんどの地区連銀で前回から基本的に「横ばい(flat)」だった。非金融サービス部門の状況は「まちまち(mixed)」だったが、概して「緩慢に(modestly)」拡大した。輸送業の活動は全体的に「まちまち(mixed)」で、ほとんどが「弱い(weak)」から「横ばい(flat)」だった。

前回:製造業活動は、大半が横ばいを指摘したとはいえ、拡大を報告する地区連銀が前回より増えた。非製造業企業は「非常に明るく(quite positive)」、大半の地区連銀が「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」な成長を報告した。輸送業の活動は、地区連銀全体を通じ「まちまち(mixed)」だった。

<不動産市場>

住宅販売は広範にわたり「様々(varied)」だったが、賃貸住宅市場は「強まった(strengthen)」。複数の(some)地区連銀は、販売用の住宅在庫が低水準にあるため住宅販売を抑制していると指摘した。新築住宅建設は「緩慢に(modestly)」拡大した。商業不動産は、地区連銀によって非常に「変化に富んだ(varied)」。

前回:住宅販売は概して「横ばいから上向き(flat to up)」で、住宅建設は前回より広範囲で成長がみられた。非住宅部門の建設活動と賃貸動向は、引き続き「緩慢」なペースで拡大した。

<貸出需要>

銀行セクターは、融資動向につき「安定的からゆるやか(steady to moderately)な拡大」を報告した。

前回:銀行セクターは、融資動向につき引き続き拡大を指摘しつつ「わずかに鈍化した(slightly slowed)」と報告した。

<農業、エネルギー>

農業状況は、エネルギー部門と同様に「ほぼ変わらなかった(little changed)」

前回:農業状況は全体的に「ほぼ変わらず(little changed)」、天候と農産品価格によって抑制された。エネルギー部門は前回より「小幅ながら悪化(modestly deteriorated)」した。

<雇用と賃金>

雇用は、ほとんどの地区連銀で「安定的あるいは緩慢に拡大(steady to rising modestly)」した。ほとんどの地区連銀は広範に及ぶ人手不足が雇用の伸びの抑制要因と指摘、少数ながらビジネス拡大を阻害しているとの報告も上がった。数地区連銀は、専門職をはじめ技術職、管理職で「活発な(brisk)」な需要を指摘。一部の(a number of)地区連銀は、製造業部門での人員削減や採用カットを報告、また輸送部門やエネルギー部門でも、人員削減を「散発的に(scattered)」確認した。賃金の伸びはほぼ前回通り、ほとんどの地区連銀で「緩慢あるいはゆるやか(modest or moderate)」となり、年末にかけ散発的に最低賃金の引き上げがみられた。数地区連銀は企業が人手不足に対応するため福利厚生、インセンティブ、研修制度や自動化などを用いたと伝えた。

前回:雇用は米国の労働市場がひっ迫しながらも、全体的に「わずかに拡大し続けた(continued to rise slightly)」。一部の地区連銀は、専門職や技術サービス、ヘルスケアなどで「比較的力強い(relatively strong)」雇用増を確認した。製造業の雇用をめぐる報告は「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀は従業員の増加を指摘しつつ、その他は安定的な従業員数を伝え、1地区連銀はレイオフ実施の報告を上げた。小売と卸売は、散発的ながら雇用減を報告。地区連銀の大半は、労働市場が非常にひっ迫するなかで、引き続き特殊技能職の雇用が困難と指摘した。人手不足はほとんどの産業、いずれの技術レベルでも報告され、複数の回答者は空席により事業拡大が阻害されていると伝えた。引き続き、賃金の伸びは「ゆるやか(moderate)」だった。賃上げ圧力は、低技能職で「増大した(intensified)」。

米12月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)、17ヵ月連続で3%台を維持。

nfp-wage-19dec
(作成:My Big Apple NY)

<物価>

物価は期間中、仕入れ価格と同様に「緩慢なペース(modest pace)」で上昇し続けた。一部の地区連銀は小売価格の上昇ペースが「わずかに加速した(slightly faster)」と報告したが、「抑制されていた(subdued)」という。数地区連銀は複数のビジネス、ほぼ小売業、また建設で追加関税の負担を消費者に上乗せした。複数の地区連銀は、レストランが食料品価格の値上げ圧力に直面していると指摘。複数の製造業は「散発的に(scattered)」値下げを報告し、エネルギー部門でも同様だった。こうした地区連銀は、数ヵ月先も値上げが続くと予想した。

前回:物価上昇は、今回「緩慢(modest)」だった。製造業部門での仕入れ価格と販売価格をめぐる報告は「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀は価格の下振れを、その他は値上がりを指摘、少数からはほとんど変わらずから横ばいとの声が聞かれた。小売業者は価格上昇に言及、複数の地区連銀の回答者は関税を理由に挙げた。企業は、仕入れ価格を補填するために値上げを実施するほどの価格決定力に乏しいものの、少数の地区連銀は関税の影響を受けた企業が消費者負担を求め値上げに傾いていると報告した。サービス部門の価格は全体的に「横ばいから上向き(flat to up)」だった。エネルギーと鉄鋼の価格は「横ばいあるいは下落(flat to decline)」し、建設資材と農業価格はまちまちだった。全体的に、企業は概して今後価格が上昇すると見込んだ(firms generally expected higher prices going forward)。

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

●「緩慢」と表現した地区連銀、6行>前回は5行
NY:前回” ほぼ変わらずからゼロ成長“→今回”緩慢 “へ上方修正
クリーブランド:前回”緩慢“→今回据え置き
アトランタ:前回“緩慢”→今回据え置き
シカゴ:前回“わずかに拡大”→今回“緩慢”へ上方修正
ミネアポリス:前回“緩慢に改善”→今回“緩慢”へ修正
サンフランシスコ:前回”緩慢“→今回据え置き

●「ゆるやか」と表現した地区連銀、1行<前回2行
リッチモンド:前回“緩慢”→今回“ゆるやか”へ上方修正

●緩慢+ゆるやかと表現した地区連銀、1行=前回1行
ボストン:前回” 緩慢からゆるやか“→今回”据え置き

●その他 4行=前回は4行
フィラデルフィア:前回は“緩慢”→今回“鈍化からわずかな拡大”へ下方修正
セントルイス:前回は“まちまち、比較的横ばい”→今回“わずかに改善”へ上方修正
カンザスシティ:前回は“横ばい”→今回“わずかに拡大”へ上方修正
ダラス:前回“ゆるやか”→今回“堅調”へ上方修正

経済活動拡大ペースの表現は、「ゆるやか」が減少し「緩慢」が増加。

bb-20jan bb1-20jan

(作成:My Big Apple NY)

<全体のキーワード評価>

総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「力強い」や「緩慢」、また「弱い」が増加するなど、まちまちとなった。ただ「緩慢」も伸びており、全般的に経済活動は底堅いと言えよう。さらに、「不確実性」の文言は2019年10月分、11月分の4回から3回とわずかながら減少した。詳細は、以下の通り。

「増加した(increase)」→9回<前回は13回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→6回>前回は2回
「ポジティブ(positive)」→3回<5回
「ゆるやか(moderate)」→9回<前回は10回
「緩慢、控え目など(modest)」→24回>前回は17回
「弱い(weak)」→4回>前回は2回
「底堅い(solid)」→2回=前回は2回
「安定的(stable)」→1回<前回は4回
「不確実性(uncertain)」→3回<前回は4回

総括で「不確実性」をめぐる文言は3回と前回を下回ったように、地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は前回の22回から18回へ減少した。前回はボストン(2回)、NY(1回)、フィラデルフィア(2回)、クリーブランド(1回)、リッチモンド(4回)、アトランタ(1回)、セントルイス(3回)、ダラス(8回)、サンフランシスコ(1回)だった。

・ボストン 2回=前回は2 回
→(ソフトウェア、情報、テクノロジー・サービス)政治及びマクロ経済は引き続き不確実要因だが、多くの回答者は数四半期にかけ計画通り業務を遂行でき、かつ2019年の力強い需要が2020年に引き継がれると自信をみせた。
→(商業不動産)見通しは慎重だが、1人の回答者は2020年の大統領選をめぐる不確実性が、長期的な決断が手控えられビジネス活動を抑制しかねないと述べた。

・NY 1回=前回は1回
→(製造業・物流)製造業・輸送・卸売業者のうち複数は、関税や通商上、関連する不確実性のほか、最低賃金引き上げをめぐり、引き続き懸念を寄せた。

・フィラデルフィア 1回=前回は1回
→(製造業)しかしながら、下流部門の組立金属業者は不確実性について言及し続け、事業拡大を先送りあるいは中止し、顧客からの受注は少なくなった。

・クリーブランド 2回<前回は1回
→(総括)製造業活動は期間中に拡大しなかったが、2019年に工場が世界経済の減速と通商上の不確実性に合わせ調整した通り、縮小もしなかった。
→(製造業)一方で、その他の製造業者は現存する通商上の不確実性、産業活動の減速、そして典型的な季節的鈍化が需要抑制要因と指摘した。

・リッチモンド 4回=前回は4回
→(総括)企業向け融資は、複数の企業が不確実性を受け投資に躊躇する通り、緩慢だった。
→(製造業)多くの製造業者は、通商政策の不確実性を主な懸念材料に挙げた。
→(港湾・輸送)トラック配送業者は、政治的な選挙イヤーを迎え不確実性に懸念を表明したが、長期的な投資を続け、企業活動が堅調を維持すると楽観的な見方を寄せた。
→(非金融サービス)ワシントンD.C.にある数社は、潜在的な政府機関閉鎖やITコンサル・テレサービスの需要押し下げのほか、政治的不確実性に言及した。

・アトランタ 1回=前回は1回
→(建設・不動産)商業不動産の回答者は、リース・販売の活動が引き続き安定的だったと報告したが、複数の回答者は不確実性が懸念材料と指摘した。

・セントルイス 1回<前回は3回
→(雇用・賃金)アーカンソー、イリノイ、ミズーリの最低賃金が今年引き上げられるが、様々な職の賃金動向にどのような影響を与えるか不確実性があり、ミズーリの回答者のうち複数は少なくとも1ヵ月採用を先送りさせた。

・ダラス 6回<前回は8回
→(総括)見通しは概して改善し、通商上の不確実性減退が楽観度を高めた。
→(物価)複数の回答者は、貿易協議の合意をめぐる進展が将来の価格に対する不確実性を低下させたと指摘した。
→(製造業)精製所の稼働状況は安定的だが、精製所と化学関連業者は世界需要の低下や関税、通商上の不確実性などが利ザヤに下方圧力を与え続けたと報告した。
→(製造業)約3分の2の製造業者は今年、前年比で生産拡大を予想し、見通しをめぐる不確実性は特に年末にかけ減退した。
→(非金融サービス)見通しは改善したが、政治的な不確実性が引き続き懸念材料となった。
→(農業)USMCAの署名は農家にとって不確実性を低下させ、米中貿易協議の進展は楽観度を高めた。

<ドル高をめぐる表記>

ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では、2019年9月にサンフランシスコが指摘した程度で、今回もゼロ。なお、過去3年間でドル高を挙げた地区連銀は、2017年5月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)、2019年9月分(サンフランシスコ)など。

<中国>

中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で1回となる。これまでは2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月にわたりゼロだった。地区連銀別では2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月、7月、9月、10 月、11月に続き言及された。登場回数は前回の5回から7回へ増加した。前回11月分はクリーブランド(1回)、リッチモンド(1回)、シカゴ(2回)、ダラス(1回)だった。

・クリーブランド 1回=前回は1回
→(配送)配送業者の幹部は足元の減速につき、低い商品価格と追加関税が発動されている中国製品などの要因を挙げた。

・リッチモンド 1回=前回は1回
→(港湾・輸送)直近の週で、輸入と輸出の量はコモディティ次第で様々だった。例えば、港湾関連の回答者は、アジア向け大豆輸出が減少したと言及したが、中国との貿易協議(第1段階)合意後は出荷が拡大すると予想した。欧州向けの金属やハードウェアの輸出は減少したが、豚肉の輸出は力強かった。家具やその他コモディティの輸入は軟調だったが服飾の輸入は力強さを保った。引き続き通商政策への懸念がくすぶるものの、港湾関連の幹部は楽観的で、資本拡大計画に投資し続けた。

・シカゴ 3回>前回は2回
→(総括)中国との貿易協議をめぐる進展は、農家の見通しを押し上げた。
→(製造業)株式および債券の市場参加者はゆるやかな市場改善を指摘、金利低下、イールドカーブの安定、米貿易協議につきポジティブな進展があったと回答した。
→(農業)中国との貿易協議見通しは、農業従事者に楽観的な見方を与えた。

・ダラス 2回>前回は1回
→(製造業)化学関連業者は、中国との貿易協議の第1段階合意により一部プラスチックの関税を撤廃されるが、その他多くの製品に対しては引き続き賦課されるとの見方を寄せた。
→(農業)USMCAの署名は農家にとって不確実性を低下させ、米貿易協議の進展は楽観度を高めた。

――今回、ベージュブックの総括部分と地区連銀を合わせたキーワードの数はご覧の通り。米中貿易協議の第1段階合意につきトランプ大統領が承認したこともあり、555品目に対する追加関税第4弾も先送りされ、前回より楽観度が増したと考えられます。今回、見通しは「控え目ながら良好」とし前回の「ポジティブ」から修正されたとはいえ、企業マインドが低下したわけではなさそうです。地区連銀のなかで「不確実性」登場回数が7回と最多だったダラスも、そのうち4回は不確実性の後退について指摘していましたし。

bb-tariffs_china_uncertainty_20jan
(作成:My Big Apple NY)

その他、ダラスからは「約3分の2の製造業者は今年、前年比で生産拡大を予想し、見通しをめぐる不確実性は特に年末にかけ減退した」との回答が聞かれました。リッチモンドも、港湾関連業者の回答として「引き続き通商政策への懸念がくすぶるものの、港湾関連の幹部は楽観的で、資本拡大計画に投資し続けた」とまとめています。米中貿易協議・第1段階の合意がセンチメント改善に役立ったとみられ、米12月鉱工業生産で製造業が2ヵ月連続で上昇した結果と整合的です。2019年の成長は家計が支えてきましたが、設備投資が回復するか企業の底力が試されます。

(カバー写真:Ken Lund/Flickr)

Comments

comments

Pin It

Related Posts

Comments are closed.