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米8月雇用統計:就労者数は大幅鈍化、テーパリング開始は9月以降に

by • September 3, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2159

Job Growth Slows Sharply As Coronavirus Cases Surge.

<本稿のサマリー>

米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)はデルタ株の感染拡大が逆風となり、市場予想を大幅に下回り惨憺たる結果に終わった。デルタ株感染拡大を受け、7月27日に米疾病管理予防センター(CDC)がワクチン接種者にもマスク着用を要請し、NY市なども規制強化に努めるなか、感染への懸念から対面サービスを提供する業種を中心に雇用の伸び鈍化あるいは減少がみられた。

NFPの大幅減速に対し失業率が低下し賃上げ圧力を確認するなど改善がみられたものの、NFPの急減速を受けて、テーパリングの発表は9月21~22日開催の米連邦準公開市場委員会(FOMC)より、11月2~3日あるいは12月15~16日開催のFOMCにずれ込む公算が大きい

今回の結果を受け、米株の主要3指数はNY時間13時時点でダウとS&P500が小幅安となる一方、ナスダックは上昇するなどまちまちな展開を迎えている。米債市場は売りで反応(米債利回りは上昇)、ドルは売りが優勢となっている。今回のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

NFPの過去2ヵ月分が上方修正、7月の伸びは100万人を突破
平均時給は前月比と前年比ともに市場予想超え、さらに7月分が上方修正
失業率は5.2%、20年3月以来の低水準
・就業率は58.5%、20年3月以来の水準を回復
不完全就業率は8.8%、20年3月の水準に並ぶ
長期失業者の割合は39.3%と年初来で最低、失業期間の中央値なども軒並み改善

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

NFPは大幅減速、年初来で2番目に低い伸び
主要11業種のうち前月比横ばいだった鉱業・伐採以外、就労者数の伸びは前月以下(あるいは前月より弱い結果)
・デルタ株感染拡大を一因に、小売の就労者数は2ヵ月連続で減少
・娯楽/宿泊の伸びが横ばい、そのうち食品サービスはデルタ株感染拡大を受け8ヵ月ぶりに減少
・雇用の先行指標である派遣が3ヵ月ぶりに減少
・労働参加率は2ヵ月連続で61.7%、20年6月以降のレンジ61.4~61.7%を突破できず
週当たり労働時間は前月に続き34.7時間、財部門は39.9時間と前月以下
・サービスの週当たり労働時間は、3ヵ月連続で33.7時間
フルタイムが減少、パートタイムは増加し正社員へのシフトの流れ中断

米7月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比23.5万人増となり、市場予想の72.5万人増を大きく下回った。前月の105.3万人増(94.3万人増から上方修正)から急減速しつつ、8ヵ月連続で増加した。8月2日に成人人口における1回以上のワクチン接種率が70%を突破するものの、デルタ株の感染拡大が重石となった。

6月分の24万人の下方修正(93.8万人増→96.2万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で13.4万人の上方修正となった。6~8月の3ヵ月平均は75.0万人増と、コロナ禍前の2019年平均である16.8万人増を大幅に上回った水準を維持した。

20年5月以降、今回で1,703万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,236万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと533.3万人必要となる。

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと533.3万人増加する必要あり

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比24.3万人増と市場予想の61万人増を下回った。前月の79.8万人増(70.3万人増から上方修正)を含め、小幅ながら8ヵ月連続で増加した。民間サービス業は20.3万人増、前月の73.4万人増(65.9万人増から上方修正)を下回った。

チャート:NFPは8ヵ月連続で増加し、失業率も20年3月以来の水準に低下

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、政府を含め11業種中7種が増加した。今回最も雇用が増加した業種は専門サービス、続いて輸送・倉庫、その他サービスが入った。逆に、2~6月に6ヵ月連続で1位だった娯楽・宿泊は横ばいにとどまる。6~7月に2位だった政府は6ヵ月ぶりに減少したほか、小売は2ヵ月連続で減少。また、専門サービス内のサブカテゴリーであり、雇用の先行指標とされる派遣は4ヵ月ぶりに減少し、教育・健康に含まれるヘルスケアは7ヵ月ぶりに減少した。。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・専門サービス 7.4万人増、4ヵ月連続で増加<前月は7.9万人増、6ヵ月平均は4.5万人増(そのうち派遣は0.6万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は1.0万人増、6ヵ月平均は1.4万人減)
・輸送/倉庫 5.3万人増、4ヵ月連続で増加<前月は5.5万人増、6ヵ月平均は2.2万人増
・その他サービス 3.7万人増、8ヵ月連続で増加<前月は4.6万人増、6ヵ月平均は4.1万人増

・教育/健康 3.5万人増、7ヵ月連続で増加<前月は8.8万人増、6ヵ月平均は6.1万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は0.8万人減、7ヵ月ぶりに減少<前月は2.5万人増
・情報 1.7万人増、9ヵ月連続で増加>前月は2.1万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・金融 1.6万人増、6ヵ月連続で増加<前月は2.4万人減、6ヵ月平均は1.2万人増
・卸売 0.1万人増、13ヵ月連続で増加<前月は1.4万人増、6ヵ月平均は1.4万人増

―横ばいの業種

・娯楽/宿泊 横ばい、増加トレンドを7ヵ月で打ち止め<前月は41.5万人増、6ヵ月平均は28.1万人増(そのうち食品サービスは4.2万人減、8ヵ月ぶりに減少<前月は29.0万人増、6ヵ月平均は16.4万人増)

―減少した業種

・公益 横ばい=前月は横ばい、6ヵ月平均は横ばい
・政府 24.0万人増、5ヵ月連続で増加>前月は16.9万人増、6ヵ月平均は8.1万人増
・小売 0.6万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は7.3万人増、6ヵ月平均は2.7万人増)

財生産業は、前月比4.0万人増となった。前月の5.4万人増(修正値)を下回ったが、4ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が4ヵ月連続で増加したほか、油価が2018年10月以来の高値達成後も堅調に推移するなか、鉱業・伐採も7ヵ月連続で増加した。一方で、建設は住宅市場の在庫ひっ迫と価格高騰で需要が低下するなか、再び減少した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・製造業 2.9万人増、4ヵ月連続で増加<前月は5.2万人増、6ヵ月平均は2.9万人増
・鉱業/伐採 0.6万人増(石油・ガス採掘は800人増)、5ヵ月連続で増加=前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.8万人増
・建設 0.3万人減、年初来で5回目の減少<前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.0万人増

チャート:8月のセクター別増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:どの業種も、20年3~4月の雇用喪失を回復できず

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.6%上昇の30.73ドル(約3,370円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.4%(0.3%から上方修正)を含め5ヵ月連続で上昇した。前年比は4.3%上昇し、市場予想の4.0%並びに7月の4.1%(4.0%から上方修正)を超え、5ヵ月ぶりの高い伸びとなり賃上げ圧力を確認した。

チャート:平均時給は力強く伸び、賃上げ圧力を示唆

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は下方修正された7月に続き34.7時間と、市場予想の34.8時間に届かず。需要拡大と人手不足が報じられながら、2006年以来の最長を記録した1月の35時間を5ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.9時間と、前月の40.0時間(修正値)から短縮した。新型コロナウイルス感染拡大直前の20年2月以来の水準に並んだ3月の40.2時間(修正値)に届かず。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは3ヵ月連続で33.7時間となり、2006年以降で最長を記録した1月の33.9時間以下が続く。

失業率は5.2%と、市場予想と一致し2020年3月以来の低水準となった。前月の5.4%から0.2ポイントの低下となる。失業者が31.8万人減少しただけでなく、就労者数が50.9万人増加していた。同時に、6月の失業率を押し上げた自発的離職者数は2ヵ月連続で減少していた。労働統計局によれば、引き続き一時解雇された労働者が「雇用されているが休職中」として扱われるなど正確に反映されていない場合があり、これを考慮すると失業率は5.5%だったという。

チャート:8月の自発的離職者数は2ヵ月連続で減少し失業者自体が減少したため割合も低下、デルタ株の感染拡大でオフィス復帰計画が延期した動きと整合的

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(出所:My Big Apple NY)

労働参加率は7月に続き61.7%で、市場予想の61.8%を下回った。ワクチンが普及する状況でも、労働参加率は20年6月以降、61.4~61.7%の狭いレンジにとどまり、コロナ感染拡大直前の20年2月の63.4%以下で推移し続けている。

就業率は58.5%と、前月の58.4%を上回った。20年3月以来の高水準だが、コロナ前の61.1%を下回ったままだ。

在宅勤務を行ったとする労働者の割合は13.4%と、コロナ禍で最低をつけた前月の13.2%をわずかながら上回った。やはり、デルタ株の感染拡大により新規感染者が急増し、アルファベットやアマゾン、ウェルズ・ファーゴなどオフィス復帰を計画していた企業が実施を先送りするなか、低下にブレーキが掛かった。

チャート:在宅勤務を行う労働者の割合

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(作成:My Big Apple NY)

コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は7月に158万人と、コロナ禍以降で最低となった前月から小幅に増加した。

チャート:職探しをしなかった非労働人口はほぼ横ばい、労働参加率も2ヵ月連続で61.7%

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(作成:My Big Apple NY)

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比微減の1億2,744万人だった。一方で、パートタイムは同1.7%増の2,578万人と前月から42.3万人増と、前月から増加に転じた。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月を大幅に下回る伸びだったが、平均労働時間が横ばいだったところ、前月比0.2%増と6ヵ月連続で増加した。平均時給が5ヵ月連続で上昇しただけでなく前月を上回った結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.8%増だった。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全就業率は8.8%と、前月の9.2%を下回り20年3月の水準に並んだ。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は、前月比9.9%減の446.8万人と3ヵ月連続で減少した。

チャート:不完全就業率と労働参加率はゆるやかに改善続く

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(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-〇
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均値は29.6週と、前月の29.5週から若干延びた。失業期間の中央値も14.7週と前月の15.2週から短縮し、20年6月以来の低水準。前月は、2012年1月以来の高水準(19.8週)に並んでいた。27週以上にわたる失業者の割合は37.4%と前月の39.3%を下回り、年初来で最低となった。共和党知事州で失業保険給付上乗せが撤廃され、長期失業者が労働市場に戻りつつあるようだ。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、7月に急低下

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(作成:My Big Apple NY)

3)労働参加率 採点-△
労働参加率は3ヵ月連続で61.7%。1973年1月以来の低水準だった20年4月の60.2%を上回った水準を保つが、20年6月以降、61.4~61.7%のレンジを維持。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

4)賃金 採点-〇
今回は前月比0.6%と5ヵ月連続で上昇し、前年比は4.3%と5ヵ月ぶりの高い伸びだった。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%上昇の25.99ドル前年比は4.8%の上昇と7月に続き2月以来の高い伸びとなっただけでなく、前年比は管理職を含めた全体を上回った。

(カバー写真:Rob Wall/Flickr)

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