What Is The Main Focus Of Biden’s Democracy Summit?
就任演説で「民主主義が勝利した」と語ったバイデン大統領は、公約に掲げた通り12月9~10日に民主主義サミットをオンラインで主催します。国内では、17年8月の白人至上主義者による集会で抗議勢力との暴力事件に発展、さらに今年1月の国会議事堂襲撃事件が発生し、民主主義の立て直しを図る必要に迫られていました。国外では、人権問題を抱える中国、サイバー攻撃を通じた選挙妨害を続けるロシアなど、民主主義の勢力と対峙し、世界のリーダーである米国の復活を印象づける必要があったわけです。
さらに、2021年は世界中で少なくとも4件のクーデターが発生しました。民主化への移行を進めていたミャンマーを始めスーダン、マリ、ギニアでも軍部が政権を掌握。中東で“アラブの春”の発火点となったチュニジアでは、新型コロナウイルス感染拡大と経済低迷を受け首相が解任され、ハイチでは大統領が武装集団に暗殺され、政治混迷が深刻化しました。8月15日、イスラム過激主義タリバンによるカブール陥落は、世界に衝撃を与えたものです。
このような事情を踏まえれば、民主主義サミットの開催は絶好の機会のようにみえます。折しも、開催まで1ヵ月を切るなかバイデン政権と関係の深いフレッド・ハイアット論説委員が4月と8月に外交ボイコットを呼び掛けたワシントン・ポスト紙で、米国が外交ボイコットを行うと報じられました。オンラインで開催された米中首脳会談と関連性なしと伝えていましたが、語るに落ちるという言葉を思い出すのは筆者だけでしょうか?ちなみに、WP紙が外交ボイコットを報じた枠は論説欄でしたが、くだんのハイアット氏ではなく、ジョシュ・ロジン氏でした。こうなると、米中首脳会談やCOP26での米中共同声明での中国サポート(メタン排出削減参加を拒否した中国に、米中の枠組みでフォローするという展開)を踏まえ、民主主義サミット開催と合わせ中国に一定の理解を得るべくバイデン政権が配慮したとのではと邪推したくなります。
画像:さすが”長年の友”、手を振り合う姿も自然ですね!
(出所:Idrees Ali/Flickr)
ズバリ、今回の民主主義サミットの狙いはなんでしょうか?8月にホワイトハウスが公表した声明では「権威主義の抑制、腐敗防止、人権尊重の促進」を掲げます。中露を牽制すべく、民主主義を旗印に結束を呼び掛けようとする意図が透けてみえますね。第1回では、この3つの原則へのコミットメントと行動指針をめぐり協議する予定だとか。今回はオンライン形式ながら、1年後に予定する第2回では対面で開催し、コミットメントなどへの進展を共有する方針です。
とはいえ、目的につき曖昧模糊とした印象は拭えません。ただし、政治ニュースサイトのポリティコが入手した参加国・地域のリストをみると、その真意が読み取れます。108の国・地域が参加するなか、日本などG7諸国、インドなどクアッド、韓国やフィリピンに加え、台湾が挙がっていたのですよ。その陰で、民主主義サミットと銘打つだけに、中国やロシア、トルコなど権威主義的な国は外れていました。
出席を希望していた台湾をリストに加えたのは、双方の思惑の一致でしょう。中国は足元、台湾が米国との関係を強化するなかで牽制を強めています。台湾による環太平洋パートナーシップ(TPP)加盟申請直後の10月4日、防空識別圏に進入した中国軍の戦闘機などの数は過去最多ののべ56機に及びました。米国はこれに対応し10月15日、カナダと共に艦船で台湾海峡を通過する共同作戦を決行。さらに10月21日には、バイデン氏自ら「米国には台湾防衛の義務がある」と発言しました。ホワイトハウスのサキ報道官は「(1つの中国を認める)政策に変更はない」と事態の収束を図ったものの、この時に台湾を民主主義サミットのリストに加える方針を固めていても、おかしくありません。中国側としても米中首脳会談で台湾問題をめぐっては「一つの中国」政策を確認した後では、サミットを開催したところで現状維持に変わりないですよね?何より、感染者が増加しつつある中国で外国人が大勢で入国して、一段と状況が悪化すれば大問題です。
台湾の参加は、民主主義サミットのひとつの目玉となる可能性を示唆するほか、民主主義国家の団結の象徴と位置付けられ、米国には有益と考えられます。米国が台湾へのコミットを強めるなか、欧州議会代表団が11月に初めて公式に台湾を訪問するなど、欧州も関係強化に努めています。団長のグルックスマン欧州議会議員が、台湾は「孤立無援ではない」とエールを送るほど。米国にしてみれば、台湾海峡問題及びインド太平洋の枠組みに欧州を引き入れ、対中包囲網を強化し、中国に結束力を誇示する利点があるというものです。
画像:グルックスマン団長のツイートより
(出所:Twitter)
バイデン政権は民主主義サミットを控え、11月8日に主要7ヵ国(G7)での枠組みを通じ、2022年1月から5~10件の途上国向け大型インフラ事業支援を開始すると発表しました。その枠組みとは、6月開催のG7首脳会合で設立された“より良い世界の再建(B3W)”。一帯一路への対抗策として発足しただけに、中国の欠席裁判となる民主主義サミットでG7での協力体制を強調すると同時に、途上国への参画を促すと考えられます。
その他、今回の民主主義サミットでは、中国のインターネット統制強化を横目にインターネットの自由を推進する“インターネットの未来へ向けた同盟”の発足を目指す方針です。また、偽情報拡散防止を背景としたメディア・リテラシー改善のためのプログラムへの資金提供や、軍民両用技術の輸出規制などがバイデン政権内の議題に上がっています。
バイデン氏は6月のG7開催に合わせ行った首脳会談で、ジョンソン英首相と権威主義への対抗と民主主義の促進を目指す“新大西洋憲章”で合意しました。これは、1941年にルーズベルト米大統領とチャーチル英首相の間で交わされた大西洋憲章にちなむものです。当時は国際連合の設立につながる世界平和回復の基本原則となりましたが、ルーズベルト氏に自身を重ねるバイデン氏が果たして同じ功績を残すのか。民主主義サミットの成果が、一つの判断材料になることは間違いないでしょう。
(カバー写真:The White House/Flickr)
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