U.S. Job Growth Remains Solid, Fed Likely To Hike 75bp Again In July.
<本稿のサマリー>
米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、米新規失業保険申請件数や米6月チャレンジャー人員削減予定数に反し引き続き堅調な伸びを記録しました。筆者はNFPの鈍化を予想していましたが、労働市場は力強さを維持。不完全就業率は、過去最低を更新しました。一方で、新型コロナウイルス感染者の増加を一因に、労働参加率が低下しました。労働参加率が低下しつつも、平均時給は労働参加率が低下しつつ、前月比0.3%上昇し5月の伸び以下に。何より、前年同月比が3ヵ月連続で前月を下回り、賃金インフレがピークアウトした証左をひとつ増やしました。とはいえ、未だ高止まりしており、7月26~27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、引き続き75bpの利上げを続ける蓋然性が高いと言えます。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番記者で、6月13日の75bp利上げ観測気球を上げたニック・ティミラオス記者も、そのような記事を配信しておりました。
米6月雇用統計のポイントは、以下の通り。
(労働市場にポジティブ)
・NFPは堅調な伸びを維持
・不完全就業率は過去最低
・長期失業者の割合は、20年9月以来の低水準
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・過去2ヵ月分のNFPが下方修正
・失業率は前月と変わらず、労働参加率の低下が背景
・労働参加率は低下
・就業率は低下
・平均時給は、前年同月比で3ヵ月連続で前月以下(インフレ圧力鈍化という意味ではポジティブ)
・週当たり労働時間は、2ヵ月連続で低水準
米6月雇用統計の詳細は、以下の通り。
米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比37.2万人増となり、市場予想の27万人増を上回った。前月の38.4万人増(39.0万人増から下方修正)に届かなったとはいえ堅調なペースを維持し、18ヵ月連続で増加した。
4月分の6.8万人の下方修正(43.6万人増→36.8万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で7.4万人の下方修正となった。4~6月の3ヵ月平均は37.5万人増となった。経済正常化に合わせ、2021年平均の56.2万人増を3ヵ月連続で下回った。
就労者数は20年5月以降、今回で2,147万人の雇用を取り戻した。同年3~4月の記録的な減少(2,199万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと約52.4万人必要であり、数ヵ月で達成する公算が大きい。
チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと52.4万人程度に。ただし、来月にベンチマーク改定があるため、多少は修正される公算大
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比38.1万人増と市場予想の32.5万人増を上回った。前月の33.6万人増(33.3万人増から上方修正)を含め、18ヵ月連続で増加した。民間サービス業は33.3万人増、前月の27.8万人増(27.4万人増から上方修正)を下回った。
チャート:NFPは18ヵ月連続で増加、失業率は4ヵ月連続で20年2月以来の低水準
サービス部門のセクター別動向は、11業種中で前月通り10業種が増加した。今回最も雇用が増加した業種は教育/健康、2位は専門サービス、3位はこれまで6ヵ月連続でトップだった娯楽/宿泊が入った。一方で、政府のみ減少に転じた。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・教育/健康 9.6万人増、26ヵ月連続で増加>前月は5.7万人増、6ヵ月平均は6.7万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は7.8万人増、12ヵ月連続で増加>前月は3.8万人増、6ヵ月平均は5.0万人増)
・専門サービス 7.4万人増、14ヵ月連続で増加>前月は6.9万人増、6ヵ月平均は7.5万人増(そのうち派遣は0.5万人増、14ヵ月連続で増加<前月は1.1万人増、6ヵ月平均は1.2万人増)
・娯楽/宿泊 8.4万人増、17ヵ月連続で増加>前月は8.3万人増、6ヵ月平均は12.0万人増(そのうち食品サービスは6.6万人増<前月は6.8万人増、6ヵ月平均は7.2万人増)
・輸送/倉庫 3.6万人増と26ヵ月連続で増加<前月は5.9万人増、6ヵ月平均は4.6万人増
・情報 2.5万人増、20ヵ月連続で増加<前月は2.6万人増、6ヵ月平均は1.6万人増
・卸売 1.6万人増、23ヵ月連続で増加>前月は1.5万人増、6ヵ月平均は2.1万人増
・小売 1.5万人増、増加に反転>前月は4.4万人減、6ヵ月平均は3.0万人増
・その他サービス 0.2万人増、18ヵ月連続で増加<前月は1.3万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・公益 0.1万人増=前月は0.1万人増、6ヵ月平均は横ばい
・金融 0.1万人増、12ヵ月連続で増加<前月は1.4万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
―横ばいの業種
なし
―減少した業種
・政府 0.9万人減、8ヵ月ぶりに減少<前月は4.8万人増、6ヵ月平均は1.2万人増
財生産業は、前月比4.8万人増だった。前月の5.8万人増(6.6万人増から下方修正)を小幅に下回ったとはいえ、14ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が14ヵ月連続で増加した。建設は2ヵ月連続で増加。油価が足元景気後退懸念で100ドルを前後するものの、鉱業・伐採も小幅ながら5ヵ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 2.9万人増、14ヵ月連続で増加>前月は1.8万人増、6ヵ月平均は4.0万人増
・建設 1.3万人増、2ヵ月連続で増加<前月は3.4万人増、6ヵ月平均は3.4万人増
・鉱業/伐採 0.6万人増(石油・ガス採掘は1,800人増)、5ヵ月連続で増加=前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
チャート:セクター別、就労者の増減
チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の0.2%減→0.1%増とコロナ禍以降で初めてプラスに転換した。11業種中で当時の水準を上回るのは5業種で変わらず。輸送・倉庫(13.1%増、20ヵ月連続)、専門サービス(4.1%増、9ヵ月連続)、情報(3.6%増、7ヵ月連続)、小売(1.2%増、6ヵ月連続)、金融(0.9%増、5ヵ月連続)となる。財部門は前月の0.2%減→横ばいとマイナス圏から脱した。建設が2ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業が前月の0.1%減から0.1%増とコロナ禍以降で初めてプラス圏に反転。一方で、鉱業・伐採は8.9%減と引き続きマイナス圏をたどった。
(作成:My Big Apple NY)
平均時給は前月比0.3%上昇の32.08ドル(約4,330円)と、市場予想と一致した。前月の0.4%(0.3%から上方修正)に届かなかったとはいえ、17カ月連続で上昇したなかで2番目に小幅な伸びにとどまった。前年比は5.1%上昇し、市場予想の5.0%を超えた。高止まりしているとはいえ、前月の5.3%(5.2%から上方修正)に届かず、4~5月に続き3ヵ月連続で前月を下回り賃金インフレがピークアウトした可能性を示唆した。
チャート:平均時給は、前月比と前年同月比ともにピークアウトの兆し
週当たりの平均労働時間は34.5時間と下方修正された前月(速報値は34.6時間)と変わらなかったが、市場予想の34.6時間を下回った。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を15ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.9時間と、前月の40.0時間を下回り5ヵ月ぶりの低水準だった。コロナ禍で最高となった21年9月に並んだ前月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは前月通り33.5時間と前月と変わらず、20年4月以来の低水準を保った。雇用主が従業員の確保を狙い、就業時間の柔軟性を与えたため短縮したと考えられる。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が引き続き増加したため、週当たり労働時間が変わらずとも、前月比0.3%増だった。一方で、平均時給は伸びが引き続き伸びた結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.6%増だった。
失業率は4ヵ月連続で3.6%と20年2月以来の低水準だが、市場予想でありコロナ直前にあたる2020年2月の3.5%に届かなかった。新型コロナウイルス感染者が徐々に増加する過程でも離職者数が前月から増加したものの、失業者は3.8万人減と小幅に減少したほか労働参加率が低下したため、失業率の上昇を回避した。
チャート:自発的離職者数は前月比8.9%減の83.2万人と4ヵ月ぶりの水準へ戻す。つれて失業者に占める自発的離職者数の割合は14.0%と、4ヵ月ぶりの水準へ上昇。
労働参加率は62.2%と前月の62.3%を下回り、20年3月(62.7%)以来の高水準となった3月の62.4%以下が続いた。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比35.3万人減と、前月の増加を打ち消した。
就業率は59.9%と、前月の60.1%を下回り4ヵ月ぶりに60%を割り込んだ。コロナ感染拡大の20年2月の61.2%の回復から遠のいた。
コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は7.1%と前月の7.4%を下回った。新型コロナウイルス感染者が下げとまったものの、パンデミック下で最低を更新した。
コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は61.0万人と、コロナ禍で最低だった前月の45.5万人から増加した。労働参加率も、つれて低下に転じた。
チャート:職探しをしなかった労働者はパンデミック下で最低、労働参加率は再び上昇
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.1%減(15.2万人増)の1億3,265万人だった。パートタイムは同1.3%減(32.6万人減)の2,544万人と、2ヵ月連続で大幅に減少した。コロナ感染者の増加を一因に、パートタイム労働者が減少した可能性を示唆する。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.7%と、前月の7.1%から低下。1994年の統計開始以来で最低を更新した。
チャート:不完全就業率は過去最低を更新も、労働参加率と就業率は鈍化
2)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.5週と、3~4月の7.5週超えを維持。ただし27週以上にわたる失業者の割合は22.6%と前月の23.2%を下回り、1回目の失業保険給付上乗せが終了した2020年9月以来の低水準。一部の長期失業者が労働市場から退出した可能性を示唆する。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年9月以来の低水準
3)労働参加率 採点-×
労働参加率は62.2%と前月の62.3%を下回り、2020年3月以来(62.7%)の水準回復は未だ遠い。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
4)賃金 採点-△
今回は前月比0.3%上昇し、過去17カ月連続で上昇しなかで2番目に小幅な伸びにとどまった。前年比は5.1%と、3ヵ月連続で前月を下回った。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%と、前月と変わらず高い伸びを維持。前年比は6.4%の上昇と、前月に続き年初来で最も小幅な伸びにとどまった。
(カバー写真:Andreas Klinke Johannsen/Flickr)
Comments
米6月人員削減予定数は約1年半ぶりの高水準、米新規失業保険申請も増加 Next Post:
世界の指導者、安倍元首相に哀悼の意を表明