Market Sess Benchmark Rate Above 4% After The Surprisingly Strong CPI.
米8月消費者物価指数(CPI)は前月比0.1%上昇し、市場予想の0.1%の低下に反する結果となった。前月の横ばいからも上向きに転じている。原油価格が8月にかけ90ドルを割り込む過程で、エネルギーが2ヵ月連続で下落。一方で、食品や帰属家賃、自動車関連などが物価を押し上げた。
内訳を前月比でみると、エネルギー(全体の7.3%を占める)5.0%下落し、前月の7.6%に続き2カ月連続でマイナスに振れた。ガソリンも前月の7.7%下落から下げ幅を広げ10.1%の下落と、20年4月以来の下げ幅を記録。なお、ガソリン先物価格は8月31日に2.6ドル台を割り込み、ウクライナ侵攻前の水準に戻した。その他のエネルギーは高止まりし、電力など公益は2.1%上昇と前月の0.1%から加速。電力が1.5%と前月の1.6%に続き高止まりした上、ガスが3.6%上昇し、前月の3.5%の下落を打ち消した。
エネルギー以外では食品(全体の13.4%を占める)が前月比0.8%上昇、前月の1.1%を下回ったとはいえ高止まりを続けた。なお、コロナ禍で経済活動が停止した20年4月は1.4%上昇していた。詳細をみると、食費が同0.7%と前月の1.3%を下回った。ウクライナ情勢緊迫化の影響を受けつつもシリアル・パンが同1.3%の上昇と前月の1.8%に届かなかったほか、肉類・卵・魚は7月に続き同0.5%の上昇にとどまった。なお、肉類の高騰を背景にバイデン政権は1月3日、寡占状態の食肉加工業者の間で競争を推進すべく、独立業者を支援するため10億ドル投じると発表した。一方で、外食は同0.9%上昇、1981年3月以来の伸びとなった6月の水準へ戻した。
CPIコアは前月比0.6%上昇し、市場予想と前月の0.3%を上回り4~6月の伸びに並んだ。なお、21年6月は同0.9%と1982年6月以来の伸びへ加速していた。
チャート:CPIの費目別寄与、前月比はガソリンなどエネルギーが押し下げたものの食品とその他が上昇を主導
食品とエネルギー以外をみると、中古車を除き自動車関連の伸びが目立ち、自動車保険は8カ月連続でプラス、自動車メンテナンス/修繕は5カ月連続でプラスとなった。中古車のみ、2カ月連続でマイナスだった。その他、住宅価格の上昇や在庫不足を受け加速していた帰属家賃や家賃は、再び前月を上回った。季節的要因(春先に値上がりし、夏にかけて鈍化)を受けて、航空運賃は3カ月連続で下落も下げ幅を縮小し、宿泊はむしろ3カ月ぶりにプラスに転じた。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。
(上昇費目)
・自動車保険 1.3%の上昇、8ヵ月連続でプラス=前月は1.3%の上昇、20年7月以来の高い伸び
・自動車メンテナンス/修繕 1.7%の上昇、5ヵ月連続で上昇>前月は1.1%の上昇、6ガッツは2.0%と1974年9月以来の高い伸び
・医療サービス 0.8%の上昇し19年10月以来の高い伸びに並ぶ、14ヵ月連続でプラス>前月は0.4%上昇
・新車 0.8%の上昇、7ヵ月連続でプラス>前月は0.6%の上昇
・家賃 0.7%の上昇、プラスのトレンドを維持=前月は0.7%の上昇、6月は0.8%と1986年4月以来の高い伸びを維持
・帰属家賃 0.7%の上昇し1990年8月以来の高い伸びに並ぶ、上昇トレンドを維持>前月は0.6%の上昇
・住宅 0.7%の上昇、上昇トレンドを維持<前月は0.5%の上昇
・服飾 0.2%の上昇>前月は0.1%の下落、過去10ヵ月間で3回目の下落
・教育サービス 0.2%の上昇>前月は0.1%の低下
(横ばい、下落項目)
・航空運賃 4.6%の下落、3カ月連続でマイナス<前月は7.8%の下落
・宿泊 0.1%の上昇、3ヵ月ぶりにプラス>前月は2.7%の下落
・中古車 0.1%の下落、2ヵ月連続で下落>前月は0.4%の下落
・娯楽サービス 横ばい<前月は0.4%の上昇、7ヵ月連続で上昇
CPIは前年同月比で8.3%上昇し、市場予想の8.1%を上回った。前月の8.5%からは鈍化したが、高止まりを示す。CPIコアは前年同月比6.3%上昇、市場予想の6.1%並びに6~7月の5.9%から加速し3ヵ月ぶりに6%台に乗せた。
チャート:CPIの前年比、費目別の寄与など
――経済正常化を受け、特に上昇した食品関連を除く費目の前年同月比で再加速が優勢。自動車保険(前月:7.4%→8.7%)を始め、宿泊(前月:1.2%上昇→4.1%上昇)、前月比でマイナスだった航空運賃(前月:27.7%上昇→33.4%上昇)や、中古車(前月:6.6%上昇→7.8%)も上向いたものです。新車のみ、小幅鈍化していました(前月:10.4%→10.1%)
チャート:経済活動の再開で上振れが目立った費目、再加速が優勢
CPIの13.7%を占める食品の前年同月比は、上昇が優勢。肉・魚・卵が5ヵ月連続で伸びが小幅鈍化(前月:10.9%→10.6%)のみで、他は右肩上がりを継続しました。ウクライナ侵攻による影響で引き続きシリアル・パン類(前月:15.0%→16.4%)の加速が際立つほか、食費(前月:13.1%→13.5%)や外食(前月:7.6%→8.0%)も伸びを広げています。
チャート:食費の費目全て、前年比で右肩上がりを継続
7.3%を占めるエネルギーは前年同月比で23.9%上昇し、前月の32.6%を下回りました。ガソリンが前月の44.0%から25.6%へ大幅減速したためで、むしろ電力・ガスは19.9%と、前月の18.9%を超え2001年1月以来の高い伸びでした。
チャート:食費に加え生活必需品のガソリンに加え、電力・ガス料金が家計を圧迫へ
物価が高止まりするなか、実質賃金の伸びを押し下げ続けました。7月の実質平均時給は前年同月比2.8%下落、17ヵ月連続でマイナスとなった。ただし、下落率は21年4月以来で最大でした6月の3.5%から、縮小を継続。生産労働者・非管理職も2.4%下落し、同じく21年4月以来の大きな下げ幅となった6月の3.1%から引き続き下げ幅を狭めました。
チャート:実質賃金の下落に加え、エネルギーや食品、家賃など生活必需品の値上げが消費の重石に
インフレ高止まりを示唆する米8月CPIの結果を受け、米10年債利回りは一時3.456%と約3カ月ぶりの水準へ上昇しました。ドル円は144.68円までドル高・円安が再加速したものの、NY時間午後12時時点で米長期金利と共に、その後は上げ渋っています。
FF先物市場では、9月20~21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で75bp利上げ確率が82%と前日の91%から低下。とはいえ、100bp利上げが浮上したためです。さらに、11月1~2日開催のFOMCでも75bpを予想、12月13~14日開催のFOMCの25bpと合わせFF金利誘導目標の4%超えを織り込んできました。
チャート:FF金利先物市場、9月FOMCは50bp利上げを有力視
2023年以降は依然として据え置きがやや優勢ながら、23年1~6月までに25bpの追加利上げとの確率でほぼ拮抗しています。9月FOMCの2023年末FF金利見通し・中央値が4%をどこまで超えてくるか、また2024年の米大統領選で利下げに旋回するのか、Fedのタカ派度が試されることでしょう。
チャート:11月まで75bp、12月に25bpの利上げを経て、23年は7月まで据え置きが若干優勢だが・・。
ジャクソン・ホール会合でパウエルFRB議長が「当面の間、引き締め寄りの政策が必要」と発言したように、金利を「より長く、より高く(higher for longer)」とどめる予想が広がりつつあります。
一方で、米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は1年先インフレが4.8%と8カ月ぶり低水準でした。また、市場が予想する期待インフレである米10年物ブレークイーブンインフレ率も足元は2.4%と上昇は一服。インフレ鈍化の兆しをみせています。
9月ベージュブック(地区連銀報告)では景気後退懸念や需要鈍化が指摘されていました。直近では、自動車メーカーのフォードのほか、通信大手ベライゾンやTモバイル、メディア大手ワーナー・ブラザーズ、金融機関ゴールドマン・サックスなど各社で人員削減が伝えられています。
米8月雇用統計が堅調な労働市場を表すなか、成長よりインフレを重視する姿勢を暫く続くのでしょうが、9月からは保有資産の圧縮ペースが950億ドルと2倍になります。サマーズ元財務長官が提唱する「失業率5%以下、CPI4%以上」で景気後退入りするシナリオが正しければ、Fedがどこまでの「痛み」に耐えられるのか、頭の体操をしていても損はないでしょう。
(カバー写真:James Cridland/Flickr)
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