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米5月雇用統計・NFPは大幅増、失業率は上昇も7月利上げ観測再燃

by • June 2, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off2481

May Flowers. U.S. Hiring Accelerated, And Market Now Expects July Rate-Hike.

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は市場予想を超え、好調な伸びを維持しました。一方で、労働参加率が改善したため失業率は2022年10月以来の水準へ上昇したほか、平均時給は前月比で伸びが鈍化するなど、賃上げ圧力の後退を確認しています。

結果を受け、米株高・米債安(利回りは上昇)・米ドル高の展開を迎えました。ドル円は発表直後、失業率の上昇や平均時給の鈍化(前月比ベース)を意識しいって来いの様相に。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が、Fed番記者であるニック・ティミラオス氏による署名記事として「6月利上げ見送値、7月追加利上げ余地あり」と報じたため、7月25~26日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%追加利上げ織り込み度が再度逆転、一時140.07円まで上昇しました。

チャート:ドル円5分足、いって来いを経て140.07円まで回復

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(出所:Tradingview)

米5月雇用統計を受けて、FF先物市場では6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では据え置きが74.7%と優勢なものの、7月25~26日開催のFOMCで利上げ織り込み度が再び逆転し53.5%へ上昇、前日の45.4%から上昇し据え置き観測を再び逆転しました。

チャート:FF先物市場では、7月FOMCでの追加利上げ予想が優勢に

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(作成:My Big Apple NY)

年内は7月FOMCの利上げでピークアウトし9月まで据え置きの後、11月の利下げ転換と12月の据え置きの計1回の利下げを織り込みます。

チャート:年内のFF金利織り込み度、利下げ転換予想は変わらず

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(作成:My Big Apple NY)

6月FOMCの約1週間後に当たる22日、パウエルFRB議長が上院銀行委員会の公聴会にて、半期に一度行う米金融政策に関するに証言を行います。6月FOMC後の会見内容と大きく変わる可能性は低いものの、タカ派的一時停止=Hawkish Pauseを強調するか、注目されます。

米5月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPは好調なペースで増加
・過去2ヵ月分のNFPが上方修正
・労働参加率は2020年2月以来の高水準
・「病気が理由で働けない」人々、コロナ前の平均以下

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・平均時給の伸びが鈍化(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・家計調査の就業者数がマイナスに
・失業率が2022年10月以来の水準へ上昇
・就業率は2020年2月以来の高水準から低下
・フルタイムの労働者が減少
・不完全就業率が上昇
・失業者に占める解雇者の割合が引き続き最大、自発的離職者数は減少(景気減速懸念から自発的離職者は減少)
・週当たり労働時間が短縮、2020年4月以来の低水準
・雇用増加の一因に、起業数の増加あり

米5月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比33.9万人増となり、市場予想の18.0万人増を上回った。前月の29.4万人増(25.3万人増から上方修正)を超え、5カ月ぶりの高い伸びに。2021年1月以降続く増加トレンドのなかで好調なペースを維持しつつ、2022年平均の40.1万人増は下回った。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比28.3万人増と市場予想の16.0万人増を上回った。前月の12.3万人増(23.0万人増から上方修正)を超え、29ヵ月連続で増加した。民間サービス業は25.7万人増と、前月の22.5万人増(19.7万人増から上方修正)を上回った

チャート:NFPは5カ月ぶりの高い伸び、失業率は2022年10月以来の水準へ上昇

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(作成:My Big Apple NY)

3月分の5.2万人の上方修正(16.5万人増→21.7万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で9.3万人の上方修正となった。

今回は過去2カ月分が大幅に上方修正されたが、前月に発表された2カ月分の修正幅が14.9万人減だったことを踏まえれば、引き続き下方修正に留意したい。2023年に入りNFPはご覧の通り、下方修正が大勢を占める。

チャート:年初来のNFPと、修正幅

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で8業種で増加し、前月の10業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は教育・健康、続いて専門サービス。一方で、公益は横ばいで、情報は減少した。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・教育/健康 9.7万人増と16ヵ月連続で増加、前月は8.5万人増、6ヵ月平均は8.3万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は7.5万人増と16カ月連続で増加、前月は6.9万人増、6ヵ月平均は6.7万人増)
・専門サービス 6.4万人増と6カ月連続で増加、前月は6.5万人増、6ヵ月平均は4.4万人増(そのうち派遣は0.8万人増と4カ月ぶりに増加、前月は0.7万人減、6ヵ月平均は0.8万人減)
・政府 5.6万人増と11カ月連続で増加、前月は4.1万人増、6ヵ月平均は5.6万人増

・娯楽/宿泊 4.8万人増と29ヵ月連続で増加、前月は3.0万人増、6ヵ月平均は5.6万人増(そのうち食品サービスは3.3万人増、前月は2.2万人増、6ヵ月平均は4.1万人増)
・小売 1.2万人増と3カ月連続で増加、前月は1.0万人増、6ヵ月平均は1.7万人増
・輸送/倉庫 2.4万人増と3カ月連続で増加、前月は0.4万人増、6ヵ月平均は1.0万人増

・その他サービス 1.0万人増と16ヵ月連続で増加、前月は0.2万人増、6ヵ月平均は1.1万人増
・金融 1.0万人増と2カ月連続で増加、前月は2.5万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・卸売 0.1万人増と6カ月連続で増加、前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.5万人増

―横ばいの業種

・公益 横ばい、前月は0.2万人増、6ヵ月平均は横ばい

―減少した業種

・情報 0.9万人減と3カ月ぶりに減少、前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.8万人減

財生産業は前月比2.6万人増と、2カ月連続で増加した。業種別をみると、建設と鉱業・伐採が増加した一方で、製造業は減少に転じた。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・建設 2.5万人増、前月は1.3万人増、6ヵ月平均は1.6万人増
・鉱業/伐採 0.3万人増(石油・ガス採掘は280人増)と9カ月連続で増加、前月は0.5万人増、6ヵ月平均は0.3万人増
・製造業 0.2万人減と3月に続き減少、前月は1.0万人増、6ヵ月平均は0.3万人増

チャート:セクター別、就労者の増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の3.0%増→3.2%増と14ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は前月と変わらず、8業種。輸送・倉庫(16.9%増、31ヵ月連続)、専門サービス(7.5%増、21ヵ月連続)、情報(6.1%増、21ヵ月連続)、金融(2.9%増、20ヵ月連続)、公益(1.5%増、18ヵ月連続)、卸売(2.7%増、15カ月連続)、教育・健康(2.5%増、8カ月連続)、小売(0.2%増、4カ月連続)となる。このうち、卸売と公益、情報以外が前月を上回った。一方で、娯楽・宿泊を始めその他サービス、政府は引き続きマイナスをたどった。

財部門は2.3%増と前月の2.1%増を上回り、13ヵ月連続でプラス圏を守った。建設(4.2%増)が16ヵ月連続でプラスとなったほか、製造業(1.6%増)も12ヵ月連続で増加。鉱業・伐採のみ、6.3%減と20年2月以降で最も小幅な下げながらマイナス圏を保った。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.3%上昇の33.44ド ル(約4,700円)と、市場予想の0.4%を下回った。2021年7月以来の低い伸びに並ぶ。前月の0.4%(0.5%から下方修正)に届かなかったとはいえ、28カ月連続で上昇している。前年同月比は4.3%上昇、市場予想と一致しつつ前月の4.4%を下回った。生産労働者・非管理職の前年同月比は4月と変わらず5.0%上昇、2021年6月以来の5%割れに迫った。

チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想と前月の34.4時間を下回り、コロナ禍で経済活動が停止していた2020年4月以来の低水準だった。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた格好だ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は3カ月連続で39.9時間と、伸び悩み。引き続き、コロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは下方修正された前月に続き33.3時間と、経済活動が停止した2020年3月(32.9時間)以来の低い水準に並んだ。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向が続く

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(作成:My Big Apple NY)

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は労働時間が前月から短縮となったため、民間就労者数が増加したものの、前月比ほぼ横ばいとなった。平均時給の伸びが加速した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.3%増と増加トレンドを維持した。

失業率は3.7%と、市場予想の3.5%を上回り2022年10月以来の水準へ上昇した。1969年5月以来の低水準を記録した前月の3.4%を上回った。失業率の上昇は、失業者が前月比44.0万人増だったことが影響し、その規模は2010年11月以来で最大だった一方で、米景気減速が指摘されるなか、自発的離職者数は2カ月連続で減少し76.5万人、自発的離職者数に占める失業者の割合も12.6%で、そろって2021年12月以来の低水準だった。

チャート:自発的離職者数はカ月連続で増加

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(作成:My Big Apple NY)

解雇者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比13.5万人増の219.3万人と過去4カ月間で3回目の増加となった。結果を受け、解雇者数の割合は36.2%と前月の33.8%から大きく上昇し、2021年11月以来の高水準をつけた。さらに、一時解雇者の割合は12.7%と、自発的離職者の割合を2022年5月以降、初めて上回った

チャート:失業者に占める解雇者の比率、引き続きトップに

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(作成:My Big Apple NY)

労働参加率は62.7%、20年3月の水準に並んだ前月の62.6%を超え、コロナ感染拡大直前の20年2月以来(63.4%)以来の高水準だった。

就業率は60.3%、2020年2月(61.1%)以来の高水準だった前月の60.4%から低下した。就業者数が前月比31.0万人減だったことが響いた。

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比16.4万人減(過去6カ月間で5回目の減少)の92.1万人だった。コロナ後の平均値だけでなく、2015‐19年の平均値も下回り、労働参加率を支えた。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々、コロナ禍後の平均以下に

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(作成:My Big Apple NY)

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の数字を比較すると、今回はNFPが33.9万人増に対し、家計調査の就労者数は31.0万人減と正反対の結果となった。

チャート:NFPと家計調査の就労者数の結果は、正反対に

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(作成:My Big Apple NY)

回答率でみるなら、家計調査の就業者数は3カ月平均で70.9%と、NFPなどを含むCESの59.2%を上回るだけに、少なくともサンプルの偏りが少ないと考えられます。

チャート:回答率、家計の就業者数を調査するCPSは、CESや求人数などを対象とする雇用動態調査と比較して高水準

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(作成:My Big Apple NY)

家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、フルタイムが2.3万人減と5カ月ぶりに減少した。パートタイムは4カ月連続で減少した。複数の職を持つ者は、小幅ながら過去5カ月間で4回目の増加を迎え、NFPを小幅ながら支えたとみられる。

チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、フルタイムが3カ月連続で増加

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:フルタイムの雇用は、5カ月ぶりに減少

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:複数の職を持つ者は、過去5カ月間で4回目の増加

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(作成:My Big Apple NY)

ーー前回お伝えしたように、これまで筆者は、複数の職を持つ者がNFPを押し上げた可能性を指摘しておりました。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるためです(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。

しかし、前月と今月の結果を踏まえると起業の増加による雇用増もNFPの押し上げを担っていると考えられます、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると、前月比23.1万人増と2022年10月以来の高い伸びを記録した前月の37.8万人増に続き堅調でした。ここで大注目は、業種別で専門サービスが3.9万人増と、前月の13.3万人増に届かずとも堅調だった結果です。しかも、足元でテクノロジーがリストラを主導するなか、起業する人々が増加してもおかしくありません。実際、足元でNFPの増加幅を主導しているのは専門サービスでした。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増(季調前)は、4月に2022年10月以来の高水準

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(出所:My Big Apple NY)

チャート;専門サービスの起業・閉鎖調整ベースの雇用増減は、2022年4月以降で同年10月に次ぐ高水準

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(出所:My Big Apple NY)

さらに、荒っぽいことを承知で起業・閉鎖調整ベースの雇用増がNFP(季調前)比でどれほどだったかをみると34.1%と、前月の37.5%から低下しつつ高水準を維持しました。前月の2022年4月以降で最高だった1月の54.2%以下が続くとはいえ、2022年末以降、2019年の平均値の30%を上回る水準をたどっています。起業による雇用増加は決して悪いことではありませんが、IT企業のリストラによる副産物と想定され、米景気減速局面且つ米銀のQ1の銀行融資単調者調査で貸出基準と貸出金利引き上げの回答が46%とリセッションの前兆となる40%超えの状況下、こうした雇用増が続くかは不透明と言えるでしょう。

チャート:NFP(季調前)と起業・閉鎖調整ベース、22年3月をゼロとした累積の雇用増

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(作成;My Big Apple NY)

チャート:起業・閉鎖調整の雇用増、NFP比は4月に37.4%と、2022年末以降から2019年平均の30%超えを維持

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(作成:My Big Apple NY)

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-×
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.7%と前月の6.6%を上回った。なお、22年12月は1994年の統計開始以来で最低を更新し6.5%だった。

2)労働参加率 採点-〇
労働参加率は62.7%と、前月の62.6%から上昇し20年2月以来の高水準だった。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善

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(作成:My Big Apple NY)

3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.6週と前月の8.4週から延びた。27週以上にわたる失業者の割合は19.8%と、と、前月20.6%から低下した。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年8月以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

4)賃金 採点-×(インフレ抑制の観点では〇)
今回は前月比0.3%上昇し、前月の0.4%(0.5%から下方修正)を下回った。前年比は4.3%と、2021年7月以来の低い伸びに。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%と6カ月ぶりの強い伸びだったが、前年比は4月と変わらず5.0%上昇し、2021年6月以来の5%割れを視野に入れた状態を保った。

(カバー写真:WOCinTech Chat/Flickr)

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