Blockbuster Jobs Reoort Included Some Bad News : Unemployment Rose Among Black Workers And College Graduates.
米5月雇用統計・NFPは、こちらで紹介しましたように市場予想を超え、好調な結果となりました。その一方で、労働参加率につれて失業率は上昇。インフレ鈍化の面でポジティブながら、賃金圧力の減退も確認しております。
一方で、NFPに視点を戻し業種別寄与度をみると、3月まで雇用を主導していた娯楽・宿泊がNFPに占める比率は14.2%と4月に続き10%台を維持。そのうち、食品サービスも9.8%と3月までの6ヵ月平均値の19.0%から低下しました。娯楽・宿泊は2020年2月の水準を回復していない数少ない3業種の一角を占める割りに、寄与度が後退しています。オフィス空室率の上昇や景気減速懸念を受けた裁量的支出の鈍化を示唆するのか、注目されます。一方で、好調なNFPの結果が起業の増加を示唆している蓋然性を高めます。
チャート:食品サービスだけでなく、娯楽・宿泊の比率も低下
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通りです。
〇業種別の平均時給
平均時給は前月比0.3%上昇の33.44ド ル(約4,700円)と、市場予想の0.4%を下回った。前同月比は4.3%上昇、市場予想と前月の4.4%以下だった。労働参加率が62.7%と2020年2月以来の高水準だった結果につれ、賃上げ圧力も後退したとみられる。
業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸び0.3%以上だったのは13業種中で5業種で。前月の速報値ベースでの9業種を下回った。今回の1位は建設とその他サービス(0.4%上昇)で、3位は娯楽・宿泊、輸送・倉庫、教育・健康(0.3%上昇)だった。一方で、6業種は前月比マイナスとなり、前月のゼロを上回り3カ月ぶりの水準に増えた。卸売(1.0%下落)を始め、唯一雇用が減少した情報(0.9%下落)、鉱業・伐採(0.7%下落)、小売と金融(0.6%下落)、雇用が横ばいだった公益(0.1%下落)となった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:平均時給は、労働参加率が前月と変わらず高止まりながら再加速
〇労働参加率
労働参加率は62.7%と、前月の62.6%を超え2020年2月以来の高水準だった。しかし、働き盛りの男性(25~54歳)をみると、25~54歳と25~34歳含めは2020年2月の水準に並んだ前月から低下。白人の25~54歳のみ上昇していた。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.1%、前月は89.2%で20年2月の水準に並ぶ
・25~54歳(白人) 89.1%、前月は89.4%、22年3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 89.1%、前月は89.4%と3カ月連続で22年4月以来の高水準、なお22年4月は89.5%と19年11月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.1%、前月は90.2%、なお22年10月は90.4%と22年3月の90.5%に次ぐ高水準)、20年2月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、25~34歳の若い世代と非白人が上昇をけん引
働き盛りの女性(25~54歳)は、25~54歳と25~34歳そろって上昇した。
・25~54歳 77.6%と統計開始以来で最高、前月は77.5%、
・25~34歳 78.2%と22年8月以来の高水準を維持、当時は78.6%と20年1月に並び過去最高
65歳以上の高齢者の労働参加率、男性は低下したが女性は上昇した。
・男性 22.9%と2020年5月以来の低水準、前月は23.0%、22年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 15.9%、前月は16.0%と前月と変わらずで22年10月以来の高水準、なお22年10月は16.1%と2020年3月と同水準
労働参加率を55歳以上と16~24歳、20~24歳で分けてみると、5月の労働参加率の改善を主導したのは20~24歳と言えよう。
・16~19歳 36.8%と7カ月ぶりの低水準に並ぶ、前月は37.1%
・20~24歳 71.5%、前月は70.9%と5カ月ぶりの低水準
・55歳以上 38.4%、前月に並ぶ
チャート:20~24歳、前月の0.6pt改善の71.5%
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率の2020年2月以来の水準へ改善したものの、前月比3.9%増の547.7万人と、2カ月連続で増加した。男性が前月比20.0%増の290.2万人とコロナ禍で経済活動が停止した20年4月以来の大幅増となったためで、逆に女性は同9.7%減の257.5万人と3カ月ぶりに減少。結果、男性が4カ月ぶりに女性を上回った。
チャート:職を望む非労働力人口、20年1月以来の500万人割れとコロナ前の水準を回復
〇病気が理由で働けなかった人々
「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比16.4万人減(過去6カ月間で5回目の減少)の92.1万人だった。コロナ後の平均値だけでなく、2015‐19年の平均値も下回り、労働参加率を支えた。
チャート:「病気が理由で働けない」とする人々、コロナ禍後の平均以下に
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、前月と変わらず。男性は68.1%と、20年3月(68.5%)以来の高水準だった前月の68.4%から低下した水準を保った。女性は57.3%と前月の57.1%を超え、20年2月(57.9%)以来の高水準を維持した。
チャート:男女別、労働参加率、3月は男性が改善を主導
男女の失業率は、そろって上昇し2022年11月以来の高水準となった。労働参加率が前月と変わらなかったにもかかわらず、男性は3.5%→3.7%、女性は1952年9月以来の低水準を記録した前月の3.3%→3.6%へ上昇した。
チャート:男女の失業率、そろって22年11月以来の高水準
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人男性を始めヒスパニック系男性、黒人女性とヒスパニック系女性がプラスだったほか、今回は白人男性が2022年7月以来、プラス圏を回復した。これで、マイナスは白人女性のみとなる。白人男性は0.1%増と、前月の横ばいからプラス転換。白人女性は2.9%減と、20年2月以降で最も小幅なマイナスとなった前月の2.5%減から下げ幅を広げた。その他、これまで雇用改善をリードしてきた黒人男性は9.2%増と、ピークをつけた3月の13.2%増から2カ月連続で低下。黒人女性も20年2月以降で最高だった前月の4.5%増から、3.0%増に伸びを狭めた。逆に、ヒスパニック系男性は前月の6.9%増→7.6%増、ヒスパニック系女性も前月の6.6%→7.6%増と大幅に改善し、それぞれ20年2月以来で最大の伸びを記録した。
チャート:男女・人種別の就業者数の20年2月との比較、マイナスは白人の性のみ
ヒスパニック系で就業者が堅調な一因として、他人種より賃金が低いためと考えられよう。人種別での週当たり平均賃金はヒスパニック系が762.8ルと、黒人の791.02ドル、白人の1,046.52ドルを下回っていた。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。
人種別の労働参加率は、白人以外で全て上昇。白人が20年3月以来の水準に並んだ前月と横ばいだった一方で、黒人とヒスパニック系、アジア系はそろって改善した。
・白人 62.3%と前月に続き2020年3月(62.6%)以来の水準を維持、20年2月は63.2%
・黒人 63.2%、前月は63.0%、3月は64.1%と2008年8月以来の高水準
・ヒスパニック系 66.9%と20年3月以来(66.9%)の水準に並ぶ、前月は66.8%、20年2月は68.0%
・アジア系 65.1%と22年8月(65.3%)以来の高水準で20年2月の64.5%超え、前月は64.9%
・全米 62.7%と20年2月(63.3%)以来の高水準、前月まで2カ月連続で62.6%と20年3月の水準に並ぶ
チャート:人種別の労働参加率、黒人が改善を主導
人種・男性別ではそろって上昇した。
・白人 70.2%と3月に続き22年12月以来の水準へ戻す、前月は70.1%、20年3月は71.0%
・黒人 68.2%、前月は67.8%と6カ月ぶりの低水準、3月は70.5%と2009年1月以来の高水準
・ヒスパニック系 79.5%と22年6月以来の高水準、前月は79.0%20年3月は79.9%
チャート:人種・男性別では、黒人を始めそろって改善
人種・女性別では、ヒスパニック系のみ上昇、白人と黒人は前月と変わらなかった。
・白人 57.5%と前月と同じく20年3月以来(57.6%)の高水準、20年2月は58.2%
・黒人 63.9%と前月と同じく20年2月(63.9%)の水準に並ぶ
・ヒスパニック系 61.1%、前月は61.0%と4カ月ぶりの低水準、2月は61.5%と20年2月以来(62.2%)の高水準
チャート:人種・女性別は白人と黒人が著しく改善
人種別の失業率は、ヒスパニック系を除き全て上昇した。特に労働参加率が上昇した黒人が過去最低から0.9ptも急伸したほか、同じく労働参加率の改善が顕著だったアジア系も小幅ながら上昇。白人は労働参加率が横ばいだったにもかかわらず0.2pt上昇した。一方で、ヒスパニック系のみ労働参加率が0.1ptと小幅に改善しながら0.4%ポイント低下した。
・白人 3.3%、前月は3.1%と3カ月ぶりの低水準、22年12月は3.0%と20年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.6%と3カ月ぶりの水準へ上昇(前月比での上昇幅は約11年ぶりで最大)、前月は4.7%と過去最低を更新
・ヒスパニック系 4.0%と6カ月ぶりの低水準、前月は4.4%、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 2.9%、前月は2カ月連続で2.8%、22年12月は2.4%と19年6月以来の低水準に並ぶ
・全米 3.7%と22年10月以来の水準へ上昇、前月は3.4%と1月に続き1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率はヒスパニック系を除き全て上昇、特に黒人は過去最低から大幅に上昇
人種・男女別では以下の通りで、黒人の男女で上昇が顕著となったほか、白人も男女そろって上向き、ヒスパニック系のみ低下した。
チャート:人種、男女別の失業率
白人と黒人の失業率格差は大幅拡大。黒人の失業率の上昇幅が白人を上回ったため、失業率格差は2.3%ポイントと過去最低を更新した前月の1.6%ポイントを超えた。
チャート:白人と黒人の失業率格差、過去最低を更新
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、まちまち。中卒は3カ月連続で低下したが、高卒は3カ月連続で上昇、大卒は低下したが、大学院卒は改善した。
・中卒以下 45.7%と5カ月ぶりの低水準、前月は46.3%、2月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新
・高卒 56.8%と20年3月以来の水準を回復、前月は56.4%、22年1月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 73.1%、前月は73.3%と20年1月以来の高水準
・全米 62.7%、前月は62.6%と2カ月連続で2020年3月(62.7%)以来の高水準、20年2月は63.3%
学歴別の失業率は高卒を除きそろって上昇。労働参加率が低下したにもかかわらず、中卒以下は0.3ptも上昇したほか、労働参加率が低下したものの大卒は2022年7月以来の高水準だったほか、大学院卒も上昇。一方で、高卒は労働参加率が改善した一方で、前月と変わらずだった。
・中卒以下 5.7%と22年10月以来の水準へ上昇、前月は5.4%、22年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 3.9%と前月と変わらず、2月は3.6%と19年9月の低水準に並ぶ
・大卒 2.1%と22年7月以来の高水準、前月は1.9%、22年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 1.8%と3カ月ぶりの水準へ上昇、前月まで2カ月連続で1.7%、21年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準
・全米 3.7%と22年10月以来の水準へ上昇、前月は3.4%と1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率は中卒と大学院卒で低下、高卒は上昇、大卒は前月と変わらず
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①平均時給の上昇ペースは減速、政府を除く13業種のうち6業種が前月比でマイナス、3カ月ぶりの水準に増える。
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率は低下、ただし20~24歳が改善を主導。
③人種別では、黒人の労働参加率の改善が著しかったが逆に失業率の上振れを招く。白人は労働参加率が横ばいだったにもかかわらず失業率が上昇。ヒスパニック系は労働参加率改善でも失業率は低下したが、ヒスパニック系は人種別(正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指すが、便宜上、人種別とする)で最も低賃金で知られる。
④学歴別では、高卒以外で失業率が上昇。労働参加率が低下した中卒以下は失業率が0.3ptも上昇したほか、労働参加率が低下したにもかかわらず大卒は2022年7月以来の高水準で、大学院卒も上昇。
遂に黒人の労働参加率で改善が顕著となりつつ、失業率は弱含みました。白人や高学歴でも失業率が上昇しており、労働市場がいよいよ鈍化してきたと言えます。足元のNFPは起業の増加が一因と考えられる半面、Q1の商工ローンの貸出基準は46%と、コロナ禍を除けば2008年Q4以来の高水準で、起業数がこのまま増えるかは不透明です。さらに、貸出基準がピークアウトする過程で、失業率は時間差を伴って上昇する傾向もあります。
チャート:ITバブル崩壊と金融危機を振り返ると、貸出基準が頭打ちとなってから平均で7四半期後に失業率はピークアウト
サーム・ルール(失業率の3ヵ月平均と過去1年間での最低水準の差が0.5ポイント以上なら、1年以内に景気後退入りするとの説)に基づけば、5月までの失業率・3カ月平均は0.03%ポイントで、0.5%ptを大きく下回ります。ただし、1980年以降の景気後退局面では、プラスに転じてから平均7カ月後に0.5%ptを上回っていたことに留意しておきたい。2022年3月以降の利上げ幅が5%ptと急速だっただけに、労働市場の影響が時間差を伴いながら顕在化してもおかしくありません。
(カバー写真:Rob Milsom/Flickr)
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