Black Unemployment Rate Hit 10-Month High Though Many Black Women Left Labor Market.
米6月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就業者数が2021年1月以降の増加トレンドで最小とはいえ、堅調なペースを維持しました。その一方で、労働参加率と失業率は横ばいを続け、インフレ鈍化の面でネガティブながら、平均時給も高止まりを続けていたものです。
一方で、NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、3月までNFPに占める割合が20%超えだった娯楽・宿泊が4月と5月に5.1%、8.5%へ低下した後、6月に10%と2桁に戻しました。ところが、娯楽・宿泊で最も雇用の伸びに寄与していた食品サービスが2020年12月以来初めて減少したようにマイナスに転じおり、これがNFPの伸び鈍化につながったといえそうです。た。オフィス空室率の上昇や景気減速懸念を受けた裁量的支出の鈍化を示唆するのか、注目されます。
チャート:食品サービスだけでなく、娯楽・宿泊の比率も低下
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は黒人を筆頭に、非白人の失業率が上昇するなど、明暗が分かれる内容となりました。詳細は、以下の通りです。
〇業種別の平均時給
平均時給は前月比0.4%上昇の33.58ド ル(約4,800円)と、市場予想の0.3%を上回った。前同月比は4.4%上昇、市場予想の4.2%を超え前月の4.4%(4.3%から上方修正)に並んだ。労働参加率が62.6%と4カ月連続で横ばいのなか、高止まりを維持。ただし、生産労働者・非管理部門の前年同月比は4.7%と、2021年6月以来の低い伸びだった。
業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸び0.4%以上だったのは13業種中で3業種で。前月の速報値ベースでの5業種を下回った。今回の1位は製造業(0.7%上昇)で、2位は卸売業(0.6%上昇)、娯楽・宿泊(0.4%上昇)と続いた。一方で、4業種は前月比マイナスとなり、前月の6業種を下回りつつマイナスの業種が出てくるようになった。5月に続き鉱業・伐採(0.3%下落)を始め、情報(0.2%下落)、小売(0.2%下落)、公益(0.2%下落)が2カ月連続で下落していた。これらのうち雇用が減少していたのは鉱業・伐採と小売、公益で、情報は横ばいだった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:平均時給は、労働参加率が4ヵ月連続で横ばいに合わせ、伸びも3カ月連続で4.4%
〇労働参加率
労働参加率は62.6%と4ヵ月連続で横ばいで、2020年3月の水準に並んだ。働き盛りの男性(25~54歳)をみると、25~54歳の白人で低下しつつ、他はそろって上昇した。特に25~54歳の全人種の男性は2020年2月の水準に並び、25~34歳の白人は2020年3月以来の高水準と一致した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.2%と20年2月の水準に並ぶ、前月は89.1%
・25~54歳(白人) 90.0%、前月まで2カ月連続で90.1%と22年3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 89.2%、前月は89.1%、4月まで89.4%と3カ月連続で22年4月以来の高水準、なお22年4月は89.5%と19年11月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.4%と22年10月に続き22年3月の90.5%に次ぐ高水準、前月は90.1%、20年2月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、25~54歳の白人以外はそろって上昇
働き盛りの女性(25~54歳)は3カ月連続で過去最高を更新したが、25~34歳は低下した。
・25~54歳 77.8%と統計開始以来で最高、前月は77.6%
・25~34歳 77.9%、前月は78.2%と22年8月以来の高水準、22年8月は78.6%と20年1月に並び過去最高
65歳以上の高齢者の労働参加率、前月に反し男性は上昇したが女性は低下した。
・男性 23.0%、前月は22.9%と2020年5月以来の低水準、22年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 15.5%と5カ月ぶりの低水準、前月は15.9%、4月は16.0%とで22年10月以来の高水準、なお22年10月は16.1%と2020年3月と同水準
労働参加率を16~24歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、全て低下していた。特に16~19歳は2022年7月以来、55歳以上は2021年3月以来の低水準だった。
・16~19歳 36.3%と22年7月以来の低水準、前月は36.8%
・20~24歳 71.0%と2カ月ぶりの低水準、前月は71.5%
・55歳以上 38.3%と21年3月以来の低水準、前月は38.3%
チャート:20~24歳、前月の0.6pt改善の71.5%
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が4ヵ月連続で横ばいのなか、前月比1.6%減の538.9万人と、3カ月ぶりに減少した。男性が同7.6%減の268.2万人と減少に転じた一方、女性は同5.1%増の270.7万人と増加に反転した。男女差は前月こそ男性が4ヵ月ぶりに女性を上回ったが、今回は男性が女性以下のトレンドに戻した。
チャート:職を望む非労働力人口、20年1月以来の500万人割れとコロナ前の水準を回復
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、3カ月連続で変わらず。男性は68.1%と、20年3月(68.5%)以来の高水準だった3月の68.4%から低下した水準を保った。女性も3カ月連続で57.3%と、20年2月(57.9%)以来の高水準を維持した。
チャート:男女別、労働参加率、3月は男性が改善を主導
男女の失業率は、まちまち。男性は3.7%と2022年11月以来の高水準と維持した。逆に女性は3.4%と、2022年11月以来の高水準だった前月の3.6%から低下。なお、4月は3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は22年11月以来の高水準を維持、女性は低下
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人とヒスパニック系の男性、黒人とヒスパニック系の女性がプラスだったほか、前月に続き白人男性がプラス圏を確保した。マイナスは白人女性のみとなる。しかし、問題は黒人の就業者数で、男性は2020年2月比で前月の9.2%増→8.9%増とピークをつけた3月の13.2%増から3カ月連続で減少した。女性は至っては0.3%増と2022年12月以来のマイナス圏が迫った。一方で、白人男性は前月の0.1%増→0.5%増と伸びを拡大、唯一マイナスの白人女性も前月の2.9%減→2.5%減と下げ幅を縮小。また、ヒスパニック系男性は前月の7.6%増→8.7%増、ヒスパニック系女性も前月の7.7%→8.0%増、それぞれ20年2月以来で最大の伸びを記録。黒人で就業者が減少した半面、白人とヒスパニック系で改善し明暗を分けた。
チャート:男女・人種別の就業者数の20年2月との比較、マイナスは白人の性のみ
黒人よりヒスパニック系で就業者が堅調な一因として、他人種より賃金が低いためと考えられよう。人種別での週当たり平均賃金はヒスパニック系が762.8ドルと、黒人の791.02ドル、白人の1,046.52ドルを下回っていた。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、黒人のみ低下(データは季節調整済み)。黒人は62.6%と前月の63.2%から0.6ポイントも急低下した結果、年初来で最低となった。また、2019年以降でみると、下げ幅はコロナ禍による直撃を受けた2020年3月の1.3ポイント、2023年4月の1.1ポイントに次ぐ大きさを記録した。一方で、白人の労働参加率は3カ月連続で2020年3月以来の水準に並んだ水準を維持。ヒスパニック系は2020年2月以来の水準を回復、アジア系は2021年11月以来の高水準とそれぞれ大幅に上昇した。
・白人 62.3%と3カ月連続で20年3月(62.6%)以来の水準を維持、20年2月は63.2%
・黒人 62.6%と年初来で最低、前月は63.2%、3月は64.1%と2008年8月以来の高水準
・ヒスパニック系 67.3%と22年2月以来の高水準、前月の66.9%、20年2月は67.9%
・アジア系 65.4%と2021年11月以来の高水準に並ぶ、前月は65.2%、20年2月は64.5%
・全米 62.6%で3カ月連続で横ばいで20年3月の水準に並ぶ、20年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率、黒人のみ低下
人種・男性別では白人とヒスパニック系が上昇も、黒人のみ低下。黒人は10カ月ぶりの水準に低下した。
・白人 70.3%と22年10月以来の水準へ戻す、前月は7021%、20年3月は71.0%
・黒人 68.0%、前月は68.2%、4月は6ヵ月ぶりの低水準、3月は70.5%と2009年1月以来の高水準
・ヒスパニック系 79.8%と20年6月以来の高水準、前月は79.5%、20年3月は79.9%、20年2月は80.8%
チャート:人種・男性別では、黒人以外で上昇
人種・女性別でも、白人とヒスパニック系が上昇した半面、黒人のみ低下。黒人は5月まで2カ月連続で2020年2月以来の水準に並んだものの、今回は6カ月ぶりの低水準だった。
・白人 57.6%と20年3月(57.6%)の水準に並ぶ、前月は57.5%、20年2月は58.2%
・黒人 62.9%と6ヵ月ぶりの低水準、前月と2カ月連続で63.9%と20年2月(63.9%)の水準に並ぶ
・ヒスパニック系 61.3%と4ヵ月ぶりの水準へ上昇、前月は61.1%、2月は61.5%と20年2月以来(62.2%)の高水準
チャート:人種・女性別は白人と黒人が著しく改善
人種別の失業率は白人のみ改善し、黒人を始め非白人は全て上昇した。特に労働参加率が著しく低下した黒人が前月比0.4ポイントも上昇、過去最低をつけた4月の4.7%から、たった2カ月で1.3ポイントも急伸し、2カ月間の上昇幅はコロナ禍を除けば2009年5月以来で最大となる。同じく、労働参加率の改善が顕著だったヒスパニック系とアジア系も上昇。白人のみ労働参加率が3カ月連続で横ばいのなか、0.2ポイント低下した。
・白人 3.1%、前月は3.3%、22年12月は3.0%と20年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 6.0%と22年8月以来の6%乗せ、過去2カ月間の上昇幅1.4ポイントは2009年5月以来で最大、前月は5.6%、4月は4.7%と過去最低を更新
・ヒスパニック系 4.3%、前月は4.0%と6カ月ぶりの低水準、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 3.2%と4ヵ月ぶりの水準へ上昇、前月は2.9%、22年12月は2.4%と19年6月以来の低水準に並ぶ
・全米 3.6%、前月は3.7%と22年10月以来の水準へ上昇、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率はヒスパニック系を除き全て上昇、特に黒人は過去最低から大幅に上昇
人種・男女別では以下の通りで、黒人の男女で上昇が顕著となったほか、ヒスパニック系女性も著しく上昇した。一方で、白人男女とヒスパニック系男性は低下した。
チャート:人種、男女別の失業率
白人と黒人の失業率格差は2カ月連続で大幅に拡大した。黒人の失業率の上昇幅が白人を上回ったため、失業率格差は2.9ポイントと、過去最低を更新した4月の1.6%ポイントから大きく上昇し、2022年8月以来で最大となった。
チャート:白人と黒人の失業率格差、2022年8月以来で最大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、そろって上昇した。米景気減速を懸念や金利上昇、高インフレを反映したのか、全ての学歴で労働参加率が上向いた。
・中卒以下 46.6%と4ヵ月ぶりの水準を回復、前月は45.7%、2月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新
・高卒 57.0%と22年1月以来の水準を回復、20年3月以来は57.1%、20年2月は58.3%
・大卒以上 73.4%と20年1月以来の高水準、前月は73.1%
・全米 62.6%と4ヵ月連続で横ばいで20年3月(62.7%)以来の高水準、20年2月は63.3%
学歴別の失業率はまちまち。労働参加率が改善した中卒で失業率は上昇した一方、高卒は横ばい。大卒以上も明暗が分かれ、大卒は学歴部門で唯一低下した半面、大学院卒は2022年8月以来の水準へ上昇した。バイデン政権の肝煎りの学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下されるなか、高額な学生ローン支払い負担を余儀なくされる大卒以上、特に大学院卒の失業率の悪化は懸念材料だ。
・中卒以下 6.0%と22年8月以来の水準へ上昇、前月は5.7%、22年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 3.9%と3カ月連続で変わらず、2月は3.6%と19年9月の低水準に並ぶ
・大卒 2.0%、前月は2.1%と22年7月以来の高水準、22年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 2.3%と2022年8月以来の高水準、前月は1.8%、21年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準
・全米 3.6%、前月は3.7%と22年10月以来の水準へ上昇、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率は大卒のみ低下、中卒と大学院卒は上昇、高卒は横ばい
チャート:米景気減速が一因なのか、高賃金とされる大学院卒の失業率は労働参加率に合わせ上昇
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①平均時給の上昇ペースは、前月比で上方修正された5月分と変わらず。業種別では5月より少なかったとはいえ、雇用が減少していた4業種で下落。前月比マイナスだった業種は小売や鉱業・伐採など金利上昇で需要減退が意識される業種のほか、公益と情報。
②働き盛りとされる25~54歳の男性(25~54歳)をみると、25~54歳の白人以外が低下し、他は上昇。その他男女の労働参加率を年齢別でみると、16~19歳、20~24歳、55歳以上の労働参加率は低下。男女別の労働参加率は3カ月連続で横ばいながら、女性のみ失業率は低下
③人種別では、黒人の労働参加率が低下した半面、失業率が2カ月連続で上昇し、失業率の上げ幅はコロナ禍を除き2009年5月以来で最大。一方で、白人は3カ月連続で労働参加率が横ばいだったものの、失業率は上振れを招く。白人は労働参加率が横ばいだったにもかかわらず失業率が0.2ポイントも低下。白人と黒人の失業率格差は2.9ポイントと、2022年8月以来で最大。その他、労働参加率の上昇もあって、ヒスパニック系とアジア系の失業率は上昇しており、非白人の失業率はそろって上昇していた。
④学歴別では貯蓄率の低下や高インフレ、金利上昇を米景気減速懸念を反映したのか、そろって労働参加率が改善した半面、中卒と大学院卒の失業率は低下、高卒は横ばい、大卒は低下とまちまちだった。
特に、③の人種別動向は懸念材料です。バイデン大統領は、声明で米6月雇用統計を受け「バイデノミクスが効果を発揮している」と自画自賛した上で、持続的な経済成長への自信を表明しました。しかし、実際には労働市場の「炭鉱のカナリア」である黒人の失業率が労働参加率の低下にもかかわらず上昇した上、ヒスパニック系やアジア系など民主党支持基盤で失業率が上昇していました。何より、黒人の失業率の上昇幅は2カ月間で1.3ポイントでしたが、1973年以降、同程度の上昇を記録した当時は、景気後退の最中、あるいは景気後退の前後で多くみられていました。
チャート:黒人の失業率、2カ月間で1.3ポイント超えの上昇幅は米景気後退の最中か、その前後で記録される場合が多い
今回、黒人の失業率の著しい上昇が米景気後退入りのサイン点灯という「炭鉱のカナリア」として機能するのでしょうか。少なくとも、米6月雇用統計後のドル・インデックスやドル円での急落は、米2年債利回りの5%割れに追随したというより、米景気後退を先取りしたかのようです。
(カバー写真:LinkedIn Sales Solutions/Unsplash)
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