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米9月雇用統計・NFPは8カ月ぶりの強い伸び、家計調査と明暗分かれる

by • October 6, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off3207

U.S. Payrolls  Soared, Unemployment Rate Unchaged, Wage Growth Slowed.

米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を大幅に上回り、市場を驚かせた。CNBCに出演したジェイソン・ファーマン元CEA委員長は、不法移民などを含め移民の増加が影響したかとの質問に対し、「需要と供給に好影響を与えている」と言及していた。ただ、家計調査で見た就業者数の伸びは大きく下回っており、明暗が分かれたかたちとなった。失業率と労働参加率は前月と変わらず、平均時給は労働s者が市場に復帰するなか、前月比と前年同月比そろって市場予想以下となり、前月に続き賃上げ圧力が緩やかに後退している実態を示唆。週当たり労働時間も、前月通りだった。

米9月雇用統計前、サンフランシスコ連銀総裁が10月5日に直近の米金利の急上昇をめぐり「1回分の利上げに相当する」と述べた上で追加利上げの必要性が低下したと言及し、シカゴ連銀総裁が「長期金利の上昇が失業率の急上昇や経済活動の急減速を引き起こすならば、FRBは調整を行うだろう」と発言するなか、FF先物市場は24年5月までの据え置き予想が優勢。ただし、11月と12月の利上げ織り込み度は前日から上昇した。なお、雇用統計後にCNBCに出演したゴールドマン・サックスのチーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏は11月FOMCの据え置きを予想していた。

画像;FF先物市場の反応(NY時間午後12時)

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(出所;Fedwatch)

米金融市場は米株安・米債安・ドル高で反応したが、前月と横ばいの失業率や平均時給の伸び鈍化に加え、家計調査での就労者数の大幅鈍化、フルタイムの3カ月連続の減少などの詳細が見直されたようで、NY時間12時には米株高に転じた。米10年債利回りも一時4.84%をつけたが、4.7%台へ戻した。

日足チャート:ドル円は、米9月雇用統計結果を受けて一時149.53円まで本日高値を更新

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(出所:TradingView)

米9月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが8カ月ぶりの高い伸び
・過去2カ月分は上方修正
・「病気が理由で働けない」人々、コロナ前の平均超えを維持

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・失業率は前月と変わらず、2022年2月以来の高水準
・労働参加率は前月と変わらず、2020年2月以来の水準を回復
・週当たり労働時間は前月と変わらず
・平均時給の伸びは、前月比と前年同月比そろって市場予想を下回る(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・労働市場の先行指標である派遣が8カ月連続で減少
・フルタイムの労働者が3カ月連続で減少、パートタイムは逆に3カ月連続で増加
・不完全雇用率は2022年5月以来の水準近くを維持

以下は、米9月雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比33.6万人増となり、市場予想の17.0万人増を大幅に上回った。前月の22.7万人(18.7万人増から上方修正)も超え、8カ月ぶりの強い伸びとなる。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比26.3万人増と市場予想の16.0万人増を上回った。前月の17.7万人増(17.9万人増から下方修正)も超え、7カ月ぶりの強い伸びに。民間サービス業は23.4万人増と、前月の13.0万人増(14.3万人増から下方修正)を上回った。

チャート:NFPは急増も、失業率は横ばい

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(出所:Street Insights)

7月分の7.9万人の上方修正(15.7万人増→23.6万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で11.9万人もの大幅な上方修正となった。以前から筆者が指摘し7月に入ってウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も記事で取り上げたように、NFPは労働市場を過大評価している可能性が意識されたが。今回は上方修正を迎えた。しかしながら、2022年以降、NFPは下方修正が優勢だ。

チャート:年初来のNFPと、修正幅

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で10業種で増加し、前月の速報値ベースの9業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は年末商戦を控える事情もあって娯楽・宿泊で、次いで政府、前月まで1位だった教育・健康は3位にランクダウンした。一方で情報は2カ月連続で減少した。

(サービスの主な内訳)
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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比2.9万人増と、6カ月連続で増加した。業種別をみると、建設が6カ月連続で増加したほか、製造業も2カ月連続で増加。鉱業・伐採は増加に転じた。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の3.4%増→3.6%増と18ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は前月と変わらず、8業種。輸送・倉庫、専門サービス、情報、金融、公益、卸売、教育・健康、小売となる。一方で、娯楽・宿泊を始めその他サービス、政府は引き続きマイナスをたどった。

財部門は2.8%増と前月の2.7%増を上回り、17ヵ月連続でプラス圏を守った。建設と製造業はプラスだったが、引き続き鉱業・伐採のみマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.2%上昇の33.8ド ル(約5,040円)と、市場予想の0.3%を下回った。前月と同率の伸びとなり19カ月連続で上昇したが、2022年3月以降で最も低い伸びを保つ。前年同月比も4.2%と、2021年6月以来の低い伸びとなった。生産労働者・非管理職の前年同月比は4.3%と、同じく2021年6月以来の低い伸びだった。

チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.4時間と、市場予想と前月と一致。コロナ禍で経済活動が停止していた2020年4月以来の水準に再び落ち込んだ前月の34.3時間を上回った。とはいえ、2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた。財部門(製造業、鉱業、建設)は前月分が下方修正されたため、6カ月連続で39.8時間に。引き続きコロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは7ヵ月連続で33.3時間と、経済活動が停止した2020年3月(32.9時間)以来の低い水準に並んだ。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間は、伸び悩みが続く

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(出所:Street Insights)

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は労働時間が前月と変わらなかったものの、就労者数の伸びが前月を超えたため、前月比で0.5%増と2カ月連続で増加した。平均時給の伸びが前月以下だったため、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は平均時給が引き続き上昇したため前月比0.7%増と増加トレンドを維持した。

〇失業率、労働参加率、就業率

失業率は3.8%と市場予想の3.7%を上回りつつ、前月と一致し2022年2月以来の高水準を維持した。労働参加率が前月と変わらなかったほか、失業者も前月比0.5万人増となった程度で、失業率は前月比で横ばいとなった。

米景気減速が指摘されるなか、自発的離職者数は2カ月連続で減少し79.7万人、自発的離職者数に占める失業者の割合も12.7%と、4カ月ぶりの低水準だった。

チャート:自発的離職者数は、3カ月ぶりに減少

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(出所:Street Insights)

自発的離職者数が減少した半面、解雇者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比4.8万人減の207.7万人と小幅に減少した。解雇者数の割合は前月の34.0%→33.2%に低下しつつ、失業者のシェアで1位を維持した。再参入者が増加したため前月の30.9%→32.6%と解雇者に迫った。一時解雇者は前月の12.6%→12.5%、新規参入者は前月の9.6%→9.1%へそれぞれ低下した

チャート:失業者に占める解雇者の比率は引き続きトップながら、再参入者が追撃

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(作成:My Big Apple NY)

労働参加率は62.8%と、前月と変わらず20年2月(63.4%)以来の水準を保った

就業率は2カ月連続で60.4%と、2020年2月(61.1%)以来の高水準に並んだ。就業者数が前月比8.6万人増と4カ月連続で増加した。

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比7.5万人増(年初来で5回目の増加)の117.9万人だった。コロナ後の平均値を引き続き下回ったが、2015‐19年の平均値を越え続けた。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々、コロナ禍後の平均以下に

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが33.6万人増に対し、家計調査の就労者数は8.6万人増と、そろって増加を示したものの4カ月ぶりに大きく乖離した。

チャート:NFPと家計調査の就業者数の結果、4カ月ぶりに乖離

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、パートタイムが前月比15.1万人増と3カ月連続で増加した。一因は、年末商戦の臨時採用が雇用を支えたためと考えられる。複数の職を持つ者も36.8万人増と過去4カ月間で3回目の増加となった。一方で、フルタイムは2.2万人減と3カ月連続で減少した。

チャート:パートタイムと複数の職を持つ労働者が増加

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は前月の減少を打ち消す増加幅に

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下をたどる。最新のデータによれば、CESは6月に41.6%、雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は31.9%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるため、回答率は足元で低下したとはいえ7月に70.2%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

以前からお伝えしたように、これまで筆者は、複数の職を持つ者がNFPを押し上げた可能性を指摘していた。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるためです(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。最近では、NFPを算出する上での起業・廃業モデルにも注目。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。

今回はというと、起業の増加による雇用増がNFPを支えたようにはみえない。これは、パートタイムの雇用と複数の職を持つ者の雇用の増加と整合的と言えよう。起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比11.9万人減と、5カ月ぶりのマイナスとなった。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増(季調前)は、9月は5カ月ぶりに減少

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(出所:Street Insights)

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全雇用率 採点-×
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は前月の7.1%→7.0%と2022年5月以来の水準近くを保った。家計調査で、パートタイムの雇用が3カ月連続で増加した結果と整合的だ。

チャート:不完全雇用率、10カ月ぶりの水準近くで高止まり

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(出所:Street Insights)

2)労働参加率 採点-△
労働参加率は前月と変わらず62.8%と、2020年2月以来の水準を維持。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。就業率も前月と変わらず60.4%だった

チャート:労働参加率と就業率、前月と変わらず

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(出所:Street Insights)

3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前月まで3カ月連続で8.7週を経て、9.2週へ延びた。27週以上にわたる失業者の割合は19.1%と、4カ月ぶりの水準へ上昇した前月の20.3%を下回った。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、再び低下

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(出所:Street Insights)

4)賃金 採点-×(インフレ抑制の観点では〇)
今回は前月比0.2%上昇し、2022年3月以降で最も低い伸びだった。前年比は4.2%と、2021年6月以来の低い伸びを保った。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.2%と、2022年2月以降で最も低い伸びだった。また、前年比は4.3%と、2021年6月以来の低い伸びだった。

(カバー写真:WOCinTech Chat/Flickr)

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