Unemployment Rate For Black Ticked Higher While For Hispanic Declined, Suggests Less Heat In Labor Market.
米9月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就労者数(NFP)が8カ月ぶりの高い伸びを記録しました。しかし、家計調査の就業者数と乖離が生じていました。また、労働参加率が2020年2月の水準を維持した事情から、失業率は2022年2月以来の水準で高止まりしたままに。労働参加率が正常化するにつれ、平均時給が再び鈍化するなど、労働市場ひっ迫が緩和されつつある様子をみせました。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、娯楽・宿泊は8月の19.4%→9月に28.6%へ上昇。食品・サービスも8月の6.3%→9月に18.1%へ上昇し、NFPを支えていました。なお、娯楽・宿泊は2020年2月の水準を回復していない3業種のうちの1つです。
チャート:NFPに占める娯楽・宿泊と食品・サービスの割合は上昇
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。
〇平均時給
平均時給は前月比0.2%上昇の33.8ド ル(約5,040円)と、市場予想の0.3%を下回った。前月と同率の伸びとなり19カ月連続で上昇したが、2022年3月以降で最も低い伸びを保つ。前年同月比も4.2%と、2021年6月以来の低い伸びとなった。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸び0.2%以上だったのは13業種中で6業種で、前月の速報値ベースと変わらず。今回の1位は前月とな軸その他サービス(1.0%上昇)で、2位も前月通りは建設と娯楽・宿泊のほか、輸送。倉庫、教育・サービス(0.5%上昇)が入った。6位は製造業(0.2%上昇)だった。一方で、前月と同じく製造業が横ばいだったほか、6業種が前月比マイナスとなり、こちらも8月と一致した。今回は公益(0.8%の下落)と金融(1.5%の下落)、鉱業・伐採(1.5%の下落)、情報(2.0%の下落、3カ月連続でマイナス)、卸売(2.2%の下落)、小売(2.6%の下落)と、全て前月と同じ業種が並んだ。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:平均時給の伸びは、労働参加率の改善につれ鈍化
〇労働参加率
労働参加率は前月通り62.8%と2020年2月の水準を維持したが、働き盛りの男性(25~54歳)をみると、白人の25~54歳以外は全て2020年2月の水準を上回っていた。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.6%と2019年3月の水準と一致、前月は89.3%
・25~54歳(白人) 90.5%と2020年2月(90.6%)以来の高水準
・25~34歳 89.7%、前月は89.5%、7月は90.0%と2012年10月以来の高水準、2020年2月は89.1%
・25~34歳(白人) 90.8%と2019年11月以来の高水準、前月は90.6%と2020年2月の水準に並ぶ
チャート:働き盛りの男性はそろって上昇、25~54歳は2020年1月以来、25~34歳は2012年10月以来の高水準
働き盛りの女性は、男性と反対に25~54歳と25~34歳がそろって低下した。
・25~54歳 77.4%、前月は77.6%、4月は77.8%と統計開始以来で最高
・25~34歳 78.3%、前月は78.5%と2022年8月以来(78.6%)高水準、当時は20年1月に並び過去最高
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性が改善し、女性は2020年2月以来の高水準近くを保った。
・男性 23.4%と8カ月ぶりの高水準、前月は23.1%、なお、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.2%と6月と同じく2020年2月以来の高水準、前月は16.1%
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率、男性が急回復をを続けるほか、女性が2020年2月以来の高水準に
労働参加率を16~24歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、16-19歳以外は上昇した。
・16~19歳 36.5%、前月は36.9%と4カ月ぶりの水準を回復、7月は35.7%と2021年6月以来の低水準
・20~24歳 71.4%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は71.2%、7月は70.6%と2022年11月以来の低水準
・55歳以上 38.8%と2022年11月以来の水準を維持、前月は38.8%
チャート:20~24歳、前月の0.6pt改善の71.5%
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が横ばいだった半面、前月比1.5%増の545.0万人と2カ月連続で増加した。男性が同4.7%減の236.4万人と4カ月連続で減少したものの、女性が同6.8%増の308.6万人と4カ月連続で増加し、男女差は4カ月連続で女性が男性を上回った。こちらにある通り、パートタイムが雇用の増加を主導した一方で、女性の働き盛りの労働参加率が低下するとともに、縁辺労働者も女性で増加が目立つ。
チャート:職を望む非労働力人口、20年1月以来の500万人割れとコロナ前の水準を回復
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、まちまち。男性は前月の68.2%→68.3%と、2020年3月(68.5%)以来の高水準だった3月の68.4%に迫った。女性は2020年2月(57.9%)以来の水準へ切り上げた前月の57.7%→57.5%と鈍化した。
チャート:男女別の労働参加率、女性の改善が著しい
男女の失業率は労働参加率に沿った結果に。男性は労働参加率の上昇を受けて前月の4.0%→4.1%と2022年1月以来の水準へ上昇した。女性は労働参加率の低下を受けて前月の3.5%→3.4%へ低下した。なお、女性は4月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は22年1月以来の水準へ急伸、女性も小幅上昇
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人の男女とヒスパニック系の男女でプラスだった。前月に減少に転じた白人男性は今回もマイナスに。その他、白人女性もマイナス圏を維持した。詳細をみると、プラス圏のうち黒人男性のみ上げ幅を縮小した。黒人男性は前月の12.1%増→11.0%増と鈍化。ただし、黒人女性は前月の0.9%増→2.6%増と、ヒスパニック系の男性の伸びは前月の7.2%増→8.4%増、ヒスパニック系女性も前月の7.4%→8.5%増と、伸びを広げた。白人男性は前月の0.1%減→0.6%減とマイナス幅を拡大。白人女性は前月の2.2%減→2.3%減と下げ幅を小幅に広げた。
チャート:男女・人種別の就業者数の20年2月との比較、ヒスパニック系は増加トレンドにブレーキ
人種別の週当たり賃金は5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、前月と反対に白人を除き全て上昇(データは季節調整済み)。白人のみ前月から低下した。一方で、黒人を始め、ヒスパニック系、アジア系などそろって上昇した。
・白人 62.4%、前月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 62.9%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は62.6%と年初来で最低に並ぶ、3月は64.1%と2008年8月以来の高水準
・ヒスパニック系 67.3%、前月は67.1%、2020年2月は67.9%
・アジア系 65.7%と2010年4月以来の高水準、前月は65.6%、2020年2月は64.5%
・全米 62.8%と2020年2月(63.3%)以来の高水準を維持、前月も62.8%
チャート:人種別の労働参加率、白人以外は軒並み低下
人種・男性別では白人と黒人が上昇も、ヒスパニック系のみ著しく低下した。
・白人 70.3%と2022年10月以来の高水準を維持、前月は70.3%、2020年3月は71.0%
・黒人 68.6%と6カ月ぶりの水準を回復、前月は68.4%と5カ月ぶりの高水準、3月は70.5%と2009年1月以来の高水準
・ヒスパニック系 79.5%、前月は79.3%と4カ月ぶりの低水準、7月は79.9%と2020年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%
チャート:人種・男性別では白人が前月比横ばい、黒人とヒスパニック系は上昇
人種・女性別では、白人と黒人と低下した一方で、ヒスパニック系が上昇した。
・白人 57.9%、前月は58.0%と2020年2月以来の高水準(58.2%)
・黒人 62.6%と8カ月ぶりの低水準、前月は62.7%、3~4月は63.9%と2020年2月(63.9%)の水準に並ぶ
・ヒスパニック系 61.9%と2020年2月以来の高水準(62.2%)、前月は61.5%、2020年2月は62.2%
チャート:人種・女性別はヒスパニック系著しく改善した一方で、白人と黒人は低下
人種別の失業率は、黒人のみ上昇。黒人は労働参加率の改善に伴い、失業率は上昇した。一方で、労働参加率が上昇したヒスパニック系とアジア系は改善。労働参加率が低下した白人は前月通りだった。
・白人 3.4%と2022年1月以来の高水準で変わらず、前月は3.4%、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.7%、前月は5.3%と4カ月ぶりの水準へ低下、4月は4.7%と過去最低を更新
・アジア系 2.8%、前月は3.1%、7月は2.3%と2019年6月以来の低水準
・ヒスパニック系 4.6%、前月は4.9%と2022年1月以来の高水準、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・全米 3.8%と2022年2月以来の高水準を維持、前月は3.8%、なお4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率は労働参加率が低下した黒人以外、全て上昇
人種・男女別では以下の通り。労働参加率が改善した黒人男性で失業率が大幅に上昇したほか、労働参加率が前月通りだった白人男性も失業率が上昇。労働参加率が低下した白人女性、黒人女性は失業率が低下した。ヒスパニック系は男女ともに労働参加率が改善したにもかかわらず、失業率は低下した。
・白人男性 3.5%と2021年10月以来の水準へ上昇、前月は3.4%
・白人女性 2.8%、前月は2.9%と3カ月ぶりの水準へ上昇、6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 5.6%、前月は5.0%と4カ月ぶりの低水準、4月は4.5%と過去最低
・黒人女性 4.3%と6カ月ぶりの低水準、前月は4%
・ヒスパニック系男性 3.8%と、前月は4.1%と5カ月ぶりの水準へ上昇
・ヒスパニック系女性 4.2%、前月は4.6%と5カ月ぶりの水準へ上昇
チャート:人種・男女別の失業率、黒人の男女以外は全て上昇
白人と黒人の失業率格差は、3カ月ぶりに拡大。白人の失業率が横ばいだった一方で黒人の失業率が上昇したため、失業率格差は前月の1.9ポイント→2.3%へ拡大した。なお、過去最低は4月の1.6ポイント。
チャート:白人と黒人の失業率格差、3カ月ぶりに拡大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、まちまち。中卒は低下、高卒は上昇、大卒は横ばいだった。
・中卒 46.9%と3カ月ぶりの水準に低下、前月は47.6%、2月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新
・高卒 56.8%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は56.5%、6月は57.0%と2022年1月以来の水準を回復、2020年3月は57.1%、2020年2月は58.3%
・大卒以上 73.5%と前月通りで2020年1月(73.7%)以来の高水準を維持
・全米 62.8%と2022年2月(63.3%)以来の水準を維持、前月も62.8%
学歴別の失業率は、まちまち。労働参加率が改善した高卒だけでなく、労働参加率が低下した中卒も上昇した、一方で、労働参加率が横ばいだった大卒と大学院卒は低下した。なお、大卒以上は学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下された結果、10月から債務返済が再開する。
・中卒以下 5.5%、前月は5.4%、7月は5.2%と6ヵ月ぶりの低水準、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.1%と2022年8月以来の高水準、前月は3.8%、7月は2019年4月以来の低水準
・大卒 2.1%、前月は2.2%と2022年2月以来の高水準、2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 2.0%と4カ月ぶりの低水準、前月は2.8%と2021年7月以来の高水準、2021年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準
・全米 3.8%、前月は3.5%、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率は大卒のみ低下、中卒と大学院卒は上昇、高卒は横ばい
チャート:米景気減速が一因なのか、高賃金とされる大学院卒の失業率は労働参加率につれ上昇傾向
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①平均時給は前月比で2022年3月以降で最小の伸びを維持、労働参加率の高止まりに合わせ鈍化。さらに、13業種中、6業種で前月比マイナスとなり賃上げ圧力の後退を確認。
②働き盛りとされる25~54歳の男性(25~54歳)をみると、白人の25~54歳以外は全て2020年2月の水準を上回った。
③男女別の労働参加率が改善した男性で失業率は上昇、女性は労働参加率と失業率がそろって低下。米9月雇用統計で不完全雇用率が高止まりしフルタイムが3カ月連続で減少した一方で、パートタイムが3カ月連続で増加するなか、男性は労働参加率の上昇を受けて失業率が前月の4.0%→4.1%と2022年1月以来の水準へ上昇した。女性は労働参加率の低下を受けて失業率が前月の3.5%→3.4%へ低下した。
④人種・男女別では、黒人の失業率が上昇。特に黒人男性が労働参加率の改善と共に大きく上昇した。白人男性の労働参加率は前月と変わらなかったものの、失業率は上昇。労働参加率が低下した白人女性と黒人女性は失業率が低下。一方で、ヒスパニック系は男女ともに労働参加率が改善したにもかかわらず、失業率は低下した。
⑤学歴別ではまちまち。労働参加率が改善した高卒だけでなく、労働参加率が低下した中卒も上昇した、一方で、労働参加率が横ばいだった大卒と大学院卒は失業率が低下した。ただし、大学院卒以上の失業率の低下は夏休み明けの季節要因が見込まれ、2015年以降、8月から9月にかけて失業率は急低下する傾向がある。
チャート:大学院卒の失業率、9月に急低下
(出所:Street Insights)
米9月雇用統計の家計調査では、3カ月連続でパートタイムが増加した一方で、フルタイムが3カ月連続で減少したように、労働市場に過熱感はみられません。人種別をみても、黒人の労働参加率が改善するなかで失業率は弱含みました。また、ヒスパニック系は男女ともに労働参加率が改善するなかで失業率は低下したとはいえ、黒人が煽りを受けたようにみえます。いわば、景気減速あるいは景気後退の波が一部の分野ごとに訪れる半面、その他分野が堅調となるローリング・リセッションに見舞われているかのようです。
何より、全米自動車労働組合(UAW)によるストライキを受け、11月3日発表の米10月雇用統計は自動車・部品の押し下げが予想され、長引けば12月8日発表の米11月雇用統計にも影響が及びそうです。また、9月の雇用統計でみられたような臨時採用の効果が剥落する可能性が見込まれます。今後の経済指標とFed高官のスタンスを見極める必要がありますが、12月FOMCでの追加利上げを正当化するには現時点で不確実性が高いと言えるでしょう。
(カバー写真:WOCinTech Chat/Flickr)
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