Black Labor Participation Rate Remains Flat, But Unemployment Rate Rises
米10月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、全米自動車労働組合(UAW)のストライキの影響もあって、非農業部門就労者数(NFP)が鈍化しました。また、家計調査の就業者数が減少に転じるなど乖離が生じています。その他、労働参加率が2020年2月以来の高水準だった8―9月期から低下したにもかかわらず、失業率は2022年1月以来の水準へ上昇。労働参加率が低下した半面、平均時給は前年比で鈍化トレンドをたどり、労働市場ひっ迫が緩和されつつある様子を確認しました。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、今回、娯楽・宿泊は1.5万人増と増加トレンドを維持したものの、2022年平均の8.8万人増を大幅に下回りました。とりわけ、そこに含まれる食品サービスは10月に0.8万人減と、8月に続き減少し、裁量支出の縮小を示唆しています。なお、娯楽・宿泊は2020年2月の水準を回復していない3業種のうちの1つです。
チャート:娯楽・宿泊のうち、食品サービスの雇用は8月に続き減少
チャート:9月の貯蓄率(グレー)は年初来で最低の3.4%、所得の伸びを上回る消費ペースだ仇に
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。
〇平均時給
平均時給は前月比0.2%上昇の34.0ド ル(約5,070円)と、市場予想の0.3%を下回った。前月の0.3%(0.2%から上方修正))にも届かず。20カ月連続で上昇しつつ。2022年3月以降で最も低い伸びだった。前年同月比は4.1%と、市場予想の4.0%を超えたが前月の4.2%を下回り、2021年6月以来の低い伸びとなった。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸び0.2%以上だったのは13業種中で11業種で、前月の速報値ベースの6業種を上回った。今回の1位は金融(1.4%上昇)、次いで情報(0.9%上昇)、3位は公益(0.7%上昇)、4位は卸売(0.6%上昇))、5位はその他サービスと建設(0.5%の上昇)、7位は輸送・倉庫(0.4%上昇)、8位は専門サービスと娯楽・宿泊(0.3%上昇)、10位は教育・健康(0.2%上昇)だった。このうち、金融と情報、その他サービス、輸送・倉庫は雇用が減少しており、退職金支払いで伸びが強まった可能性がある。その他、製造業は0.1%上昇。2業種が前月比マイナスとなり、小売(0.2%の下落)と鉱業・伐採(0.9%の下落)が入った。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:平均時給の伸びは、労働参加率が低下したにもかかわらず鈍化トレンドを維持
〇労働参加率
労働参加率は前月通り62.7%と2020年2月の水準を維持した8-9月から低下した。働き盛りの男性(25~54歳)をみると、軒並み低下した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.0%と2月以来の低水準、前月は89.6%と2019年3月の水準と一致
・25~54歳(白人) 90.3%、前月は90.5%と2020年2月(90.6%)以来の高水準
・25~34歳 89.1%と5カ月ぶりの低水準、前月は89.7%、7月は90.0%と2012年10月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.7%、前月は90.8%と2019年11月以来の高水準
チャート:働き盛りの男性はそろって低下
働き盛りの女性は男性と反対に25~54歳と25~34歳がそろって上昇、前月と逆の展開となり、25~34歳は1997年のデータ公表以来で最高を記録した。
・25~54歳 77.6、前月は77.4%と6カ月ぶりの低水準、4月は77.8%と統計開始以来で最高
・25~34歳 78.7%と1997年のデータ公表以来で最高、前月は78.3%
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性と女性がそろって低下した
・男性 23.1%、前月は23.4%と8カ月ぶりの高水準、なお、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.1%、前月は16.2%と6月と同じく2020年2月以来の高水準
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率、そろって低下
労働参加率を16~24歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、16-19歳以外は低下。16~19歳は2009年3月以来の水準へ急伸した。
・16~19歳 37.9%と2009年3月以来の高水準、前月は36.5%
・20~24歳 71.4%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は71.2%、7月は70.6%と2022年11月以来の低水準
・55歳以上 38.8%と2022年11月以来の水準を維持、前月は38.8%
チャート:16~19歳のみ上昇、2009年3月以来の高水準
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が低下するなか、前月比1.4%減の537.3万人と3カ月ぶりに減少した。男性が同3.6%増の244.9万人と5カ月ぶりに増加した一方で、女性が同5.2%減の292.4万人と5カ月ぶりに減少。ただし、女性は5カ月連続で男性を上回った。
チャート:職を望む非労働力人口、20年1月以来の500万人割れとコロナ前の水準を回復
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、まちまち。男性は前月の68.3%→67.9%と9カ月ぶりの低水準だった。2020年3月(68.5%)以来の高水準だった3月の68.4%に迫った後、低下に転じた。女性は前月の57.5%→57.6%へ上昇、2020年2月(57.9%)以来の水準へ切り上げた8月の57.7%に迫った。
チャート:男女別の労働参加率、女性の改善が著しい
男女の失業率は、まちまち。男性は労働参加率が低下しながらも、前月の4.1%と変わらず、2022年1月以来の水準を保った。女性は労働参加率が上昇したこともあって、前月の3.4%→3.6%へ上昇し6カ月ぶりの水準をつけた。なお、女性は4月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は22年1月以来の水準へ急伸、女性も小幅上昇
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人とヒスパニック系の男女でプラスだった。白人男性は3カ月連続でマイナス、白人女性もマイナス圏を維持した。詳細をみると、プラス圏のうち黒人とヒスパニック系の女性のみ上げ幅を拡大し、特に黒人女性は2020年2月以降で最大となった。白人男性は前月と変わらずの下げ幅、白人女性は前月の2020年2月以降で最小の下げ幅だった。
チャート:男女・人種別の就業者数の20年2月との比較、ヒスパニック系は増加トレンドにブレーキ
人種別の週当たり賃金は5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、黒人を除き全て低下(データは季節調整済み)。黒人のみ、前月と変わらなかった。
・白人 62.3%と4カ月ぶりの低水準、前月は62.4%、8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 62.9%と前月と変わらず、3月は64.1%と2008年8月以来の高水準
・ヒスパニック系 66.9%と5カ月ぶりの低水準、前月は67.3%、2020年2月は67.9%
・アジア系 65.3%、前月は65.7%と2010年4月以来の高水準、2020年2月は64.5%
・全米 62.7%、8ー9月は62.8%と2020年2月(63.3%)以来の高水準を維持
チャート:人種別の労働参加率、黒人を除き全て低下
人種・男性別の労働参加率は、白人、黒人、ヒスパニック系の全てで低下した。
・白人 70.0%、前月は70.3%と2022年10月以来の高水準を維持、2020年3月は71.0%
・黒人 67.5%と2022年10月以来の低水準、前月は68.6%と6カ月ぶりの水準を回復、3月は70.5%と2009年1月以来の高水準
・ヒスパニック系 78.7%と2022年9月以来の低水準、前月は79.5%、7月は79.9%と2020年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%
チャート:人種・男性別では白人が前月比横ばい、黒人とヒスパニック系は上昇
人種・女性別の労働参加率は、黒人が急伸したものの、白人とヒスパニック系は低下した。
・白人 57.7%、前月は57.9%、8月は58.0%と2020年2月以来の高水準(58.2%)
・黒人 63.6%と5カ月ぶりの高水準、前月は62.6%、4~5月は63.9%と2020年2月(63.9%)の水準に並ぶ
・ヒスパニック系 61.2%と4カ月ぶりの低水準、61.9%と2020年2月以来の高水準(62.2%)、前月は61.5%、2020年2月は62.2%
チャート:人種・女性別はヒスパニック系著しく改善した一方で、白人と黒人は低下
人種別の失業率は、そろって上昇。黒人は労働参加率が前月横ばい、他は労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率が上昇した。
・白人 3.5%と2021年11月以来の高水準、前月は3.4%、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.8%、前月は5.7%、8月は5.3%と4カ月ぶりの水準へ低下、4月は4.7%と過去最低を更新
・アジア系 3.1%、前月は2.8%、7月は2.3%と2019年6月以来の低水準
・ヒスパニック系 4.8%、前月は4.6%、8月は4.9%と2022年1月以来の高水準、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・全米 3.9%と2022年1月以来の高水準、8-9月は3.8%、なお4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率は労働参加率が低下した黒人以外、全て上昇
人種・男女別では以下の通り。労働参加率が急伸した黒人女性が失業率もつれて2022年10月以来の高水準だった。一方で、労働参加率が低下した白人男性、黒人男性、ヒスパニック系男性のうち、白人男性と黒人男性の失業率は低下も、ヒスパニック系男性は上昇。同じく労働参加率が低下した白人女性は失業率が前月と変わらず、ヒスパニック系女性は低下した。
・白人男性 3.4%、前月は3.5%と2021年10月以来の水準へ上昇
・白人女性 2.8%と前月と変わらず、6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 5.3%、前月は5.6%、4月は4.5%と過去最低
・黒人女性 5.7%と2022年10月以来の高水準、前月は4.3%と6カ月ぶりの低水準
・ヒスパニック系男性 3.9%、前月は3.8%、8月は4.1%と5カ月ぶりの水準へ上昇
・ヒスパニック系女性 3.7%と5カ月ぶりの低水準、前月は4.2%
チャート:人種・男女別の失業率、黒人の男女以外は全て上昇
白人と黒人の失業率格差は、前月と変わらず。白人と黒人の失業率がそれぞれ上昇したため、失業率格差は前月通り2.3%だった。なお、過去最低は4月の1.6ポイント。
チャート:白人と黒人の失業率格差、3カ月ぶりに拡大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、まちまち。中卒から高卒は上昇したものの、大卒は低下した。
・中卒 47.9%と8カ月ぶりの高水準、前月は46.9%、2月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新
・高卒 56.9%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は56.8%、6月は57.0%と2022年1月以来の水準を回復、2020年3月は57.1%、2020年2月は58.3%
・大卒以上 72.8%、前月は73.5%と前月通りで2020年1月(73.7%)以来の高水準を維持
・全米 62.9%、8-9月は62.8%と2022年2月(63.3%)以来の水準を維持
学歴別の失業率は、まちまち。労働参加率が改善した中卒で上昇したが高卒は低下。労働参加率が低下した大卒は横ばい、大学院卒は上昇した、一なお、大卒以上は学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下された結果、10月から債務返済が再開する。
・中卒以下 5.8%と4カ月ぶりの高水準、前月は5.5%、7月は5.2%と6ヵ月ぶりの低水準、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.0%、前月は4.1%と2022年8月以来の高水準、7月は3.4%と2019年4月以来の低水準
・大卒 2.1%と前月と変わらず、2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 2.1%、前月は2.0%と4カ月ぶりの低水準、2021年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準
・全米 3.9%と2022年1月以来の高水準、8-9月は3.8%、前月は3.5%、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率は大卒のみ低下、中卒と大学院卒は上昇、高卒は横ばい
チャート:米景気減速が一因なのか、高賃金とされる大学院卒の労働参加率が低下も失業率は上昇
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①これまで、NFPの増加を主導してきた娯楽・宿泊のうち、食品サービスが8月に続き減少。裁量的支出の減速を示唆か。
②平均時給は前月比で2022年3月以降で初の4%割れが視野に、労働参加率が低下したにもかかわらず鈍化トレンドを維持。13業種中、2業種で前月比マイナスと、前月の6業種からは減少。雇用が減少した金融、情報、その他サービス、輸送・倉庫は退職金の支払いで伸びが強まった可能性を残す。
③働き盛りとされる25~54歳をみると、男性は全て低下したが、女性は改善。失業率は男性が横ばい、女性は上昇した。
④年齢別では、16~19歳の労働参加率が改善したが、その他は低下が目立つ。
⑤人種別では、失業率がそろって上昇。男女別の労働参加率と失業率は、まちまち。年末商戦を控え、黒人女性で労働参加率につれ失業率が上昇し、ヒスパニック系は労働参加率が低下するなかで失業率が上昇するなど、労働市場のひっ迫が解消されつつある可能性を示唆。
・労働参加率が上昇+失業率が上昇→黒人女性
・労働参加率が低下+失業率が上昇→ヒスパニック系男性
・労働参加率が低下+失業率は横ばい→白人女性
・労働参加率が低下+失業率が低下→白人男性、黒人男性、ヒスパニック系女性
⑤学歴別ではまちまち。労働参加率が中卒と高卒で上昇したが、大卒以上は低下。労働参加率の低下にもかかわらず大学院卒以上の失業率は上昇しており、卒業後という季節的要因が働く9月を除き、高学歴ほど失業率が上昇する傾向へ戻したかのようだ。
ーー以上、米10月雇用統計はUAWのストライキの影響があったとはいえ、労働市場の減速を確認する内容となりました。加えて、こちらで指摘したように、失業率の直近3カ月の移動平均は過去12カ月間の最低を0.33pt上回り、サーム・ルールに基づく景気後退入りの分岐点0.5ptに迫っています。また、米10月ISM製造業景況指数と非製造業景況指数を振り返っても、景気後退のサインが点灯しつつあります。パウエルFRB議長は、11月FOMC後の記者会見で「サイクルの終わりに近づいている」、「さらに引き上げるべきか」が現時点の問いだと発言し、利上げ打ち止めを示唆しましたが、景気減速の足音を意識したかのようです。
(カバー写真:WOCinTech Chat/Flickr)
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