Unemployment Among White And Hispanic Workers Increased While Labor Force Participation Rate For Them Declined.
米12月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就労者数(NFP)は力強い結果でした。労働参加率の低下を受けて失業率は横ばい、平均時給は前月比と前年比で市場予想超えと、表面上は明るいヘッドラインに包まれたものです。しかし、家計調査の就業者数やフルタイムの雇用の前月比での2020年4月以来の大幅な減少幅を記録し、不完全雇用率の上昇、週当たり労働時間の短縮など、NFPなどのヘッドラインに反し労働市場の減速を感じさせます。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、今回、娯楽・宿泊は4.0万人増と増加トレンドを維持しつつ、2022年平均の8.8万人増を大幅に下回りました。UAWや俳優のストライキが2023年11月に終了した効果もあって、そこに含まれる食品サービスは2.2万人増と2カ月連続で増加しました。なお、娯楽・宿泊は2020年2月の水準を回復していない3業種のうちの1つです。
チャート:娯楽・宿泊のうち、食品サービスの雇用は11月に回復
筆者がもうひとつ、注目する業種が専門サービスに含まれる派遣です。派遣は、労働市場の先行指標とされ、景気後退前に減少トレンドをたどる傾向があります。12月の結果を見ると、前月比3.3万人減と11カ月連続で減少。米12月ISM非製造業景況指数の雇用が2020年7月以来の水準に落ち込んだ動きと整合的と言えるでしょう。
チャート:派遣、11カ月連続で減少
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。
〇平均時給
平均時給は前月比0.4%上昇の34.27ド ル(約4,970円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.4%と並び、2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.1%と市場予想の3.9%を超え、2021年6月以来の低い伸びとなった前月の4.0%も上回った。一方で、生産労働者・非管理職の前年同月比は4.3%と、前月の4.4%を下回り同じく2021年6月以来の低い伸びだった。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸びが0.4%以上だったのは13業種中で8業種で、前月の速報値ベースの4業種を上回り、賃上げ圧力の高止まりを確認した。今回の1位は鉱業・伐採(1.5%上昇)、続いて情報、その他サービス、輸送・倉庫門(0.6%上昇)と、12月に雇用が減少した業種が並んだ。これは、退職金などの上乗せが一因と考えられよう。その他、専門サービスと製造業(0.5%上昇)、娯楽・宿泊(0.4%)となった。一方で、5業種は0.4%以下に。マイナスとなったのは公益で0.9%の低下と、2カ月続けてマイナスだった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:前年比ではインフレ目標値2%超えが目立つも、今回NFPで増加を主導したヘルスケアを含む教育・健康は伸び悩みが続く
〇労働参加率
労働参加率は前月通り62.5%と、2023年8ー9月と同じく、2020年2月以来の水準を回復した前月の62.8%から低下した。働き盛りの男性(25~54歳)をみると,25-54歳は低下した一方で、25-34歳は上昇したように、若い年齢で改善した一方で、中年以降で低下した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.2%、前月は89.3%、2023年9月は89.6%と2019年3月の水準と一致
・25~54歳(白人) 90.1%、前月は90.3%、2023年10月は90.5%と2020年2月(90.6%)以来の高水準
・25~34歳 89.4%、前月は89.2%、2023年7月は90.0%と2012年10月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.8%と2023年9月と同じく2019年11月以来の高水準、前月は90.4%
チャート:働き盛りの男性はそろって低下
働き盛りの女性も、男性と同様に25~54歳が低下した一方で、25~34歳が上昇した。
・25~54歳 77.1%、前月は77.3%、2023年4月は77.8%と統計開始以来で最高
・25~34歳 78.4%、前月は77.9%、2022年8月は78.8%と1997年のデータ公表以来で最高
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性と女性がそろって低下した
・男性 23.0%、前月は23.6%と11カ月ぶりの高水準、なお、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.1%、前月は16.2%と2020年2月以来の高水準に並ぶ
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率、そろって低下
労働参加率を16~19歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、16-19歳のみ上昇し2009年6月以来の高水準だった一方で、それ以外は低下した。
・16~19歳 38.3%と2009年6月以来の高水準、前月は37.5%
・20~24歳 71.6%と前月に続き2023年3月以来の高水準、2023年3月は72.0%と2020年2月以来の高水準
・55歳以上 38.8%と前月と変わらず
チャート:16~19歳のみ上昇、2009年3月以来の高水準
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が低下したように、前月比6.1%増の567.1万人と大幅に3カ月ぶりに増加し、2022年10月以来の高水準だった。男性が同9.6%増の259.9万人と2023年1月以来の水準へ増加したほか、女性が同3.4%増の307.2万人と過去7カ月間で6回目の増加するなかで2022年10月以来の300万人乗せとなった。
チャート:職を望む非労働力人口、男女そろって増加
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、そろって低下。男性は前月の68.4%→68.1%と5カ月ぶりの低水準だった。女性も前月の57.4%→57.1%へ低下し、2020年2月(57.9%)水準に迫った2023年8月の57.6%から遠ざかった。
チャート:男女別の労働参加率、そろって低下
男女の失業率は労働参加率がそろって低下した一方で、まちまち。男性は働前月の4.0%→3.9%と5カ月ぶりの水準に低下した。女性は逆に労働参加率の低下にもかかわらず、前月の3.4%→3.6%へ上昇した。なお、女性は4月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は低下も、女性は上昇
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、黒人男性のみ増加し、それ以外は全て減少。黒人男性が11.6%増だった一方で、黒人女性(前月は4.2%減→2.4%増)、ヒスパニック系男性(8.7%増→6.8%増)、ヒスパニック系女性(9.1%→8.3%増)とそろって増加幅を縮小した。白人男性は前月の0.3%減→1.1%減とマイナス圏に転じた5カ月間で最大の下げ幅に。白人女性も2020年以降のマイナス圏のトレンドをたどるなかで、11カ月ぶりに大きな下げ幅となり、労働市場の減速を印象づけた。
5別の就業者数の20年2月との比較、黒人以外は全て減少
人種別の週当たり賃金は2023年5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、全て低下(データはアジア系を除き全て季節調整済み)した。特に、アジア系の前月比1・1%ptと落ち込みが最も大きかった。
・白人 62.1%と2023年2月以来の低水準、前月は62.3%、2023年8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 63.4%、前月は63.7%と8カ月ぶりの高水準、2023年3月は64.0%と2008年8月の高水準に並ぶ
・ヒスパニック系 66.7%と7カ月ぶりの低水準、前月は66.9%、2023年7月は67.3%と2020年2月(67.8%)以来の高水準
・アジア系 63.9%と2022年3月以来の低水準に並ぶ、前月は65.0%、2023年9月は65.7%と2012年12月の高水準に並ぶ、2020年2月は64.5%
・全米 62.5%、前月は62.8%と2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ
チャート:人種別の労働参加率、アジア系を除き全て上昇
人種・男性別の労働参加率は、白人、黒人、ヒスパニック系の全てで低下した。特に、ヒスパニック系が前月右飛0.4%ptと最も落ち込みが大きかった。
・白人 70.0%と10カ月ぶりの低水準、前月の70.3%から低下、2020年3月は71.0%
・黒人 69.2%、前月は69.3%と8カ月ぶりの高水準、2023年3月は70.2%と2010年3月(70.4%)以来の高水準
・ヒスパニック系 78.8%、前月は79.2%、2023年7月は79.9%と2022年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%
チャート:人種・男性別ではそろって低下、特にヒスパニック系の落ち込みが大きい
人種・女性別の労働参加率も、白人、黒人、ヒスパニック系の全てで低下した。特に、黒人女性が前月比0.4%ptと最も落ち込みが大きかった。
・白人 57.2%と2022年12月以来の低水準、前月は57.5%、2023年8月は57.9%と2020年2月以来の高水準(58.3%)
・黒人 63.2%、前月は63.6%、2023年4月は63.9%と2009年7月(64.0%)以来の高水準
・ヒスパニック系 61.3%、前月は61.5%、2023年9月は61.9%と2020年2月以来の高水準(62.2%)
チャート:人種・女性別も、そろって低下
人種別の失業率は、まちまち。労働参加率が全て低下したところ、白人とヒスパニック系が上昇した一方で、黒人とアジア系は低下した。
・白人 3.5%と2023年10月と同じく2021年11月以来の高水準、前月は3.3%、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.2%と8カ月ぶりの低水準、前月は5.8%、2023年4月は4.7%と過去最低
・アジア系 3.1%、前月は3.5%と2022年1月(3.6%)以来の高水準、2023年7月は2.3%と2019年6月(2.0%)以来の低水準
・ヒスパニック系 5.0%と2023年2月以来の高水準、前月は4.6%、なお2022年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・全米 3.7%、前月と変わらず、なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率は労働参加率が低下したアジア系のみ上昇、黒人は横ばい、白人とヒスパニック系は低下
人種・男女別では、労働参加率が低下したなかで黒人男性のみが低下し、黒人女性は横ばいとなった程度で、白人とヒスパニック系の男女は上昇した。特にヒスパニック系の男性は前月比1.1%ptと最も上昇幅が大きかった。
・白人男性 3.3%、前月は3.2%と4カ月ぶりの低水準
・白人女性 3.0%と2023年3月の高水準に並ぶ、前月は2.7%、2023年6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 4.6%と2023年4月につけた過去最低に並ぶ、前月は6.3%と2022年2月以来の高水準
・黒人女性 4.8%と前月と変わらず、2023年3月は4.3%と過去最低の2019年8月の4.2%に接近
・ヒスパニック系男性 5.0%と2023年2月(6.1%)以来の高水準、前月は3.9%
・ヒスパニック系女性 4.3%と5カ月ぶりの高水準、前月は3.8%
チャート:人種・男女別の失業率、黒人の男女以外は全て上昇
白人と黒人の失業率格差は縮小。白人の失業率が上昇した一方で、黒人が低下したため、失業率格差は前月の2.5%ptから、2023年4月につけた過去最低に並ぶ1.7%ptに並んだ。ただし、黒人の失業率の改善は労働参加率の大幅低下が大きく、健全な結果とは言い難い。
チャート:白人と黒人の失業率格差、3カ月ぶりに拡大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、全て低下。特に中卒が過去2カ月間に1.3%ptも改善していただけに0.8%ptと落ち込みが大きかった。さらに、大卒も0.4%pt低下したが、過去3カ月間で合計1.1%pt低下しており、弱さが目立った。
・中卒 47.5%、前月は48.3%と2023年2月と並び過去最高
・高卒 57.1%、前月は57.3%と2020年2月(58.3%)以来の高水準
・大卒以上 72.3%と2021年10月(71.9%)以来の低水準、前月は72.7%、2023年8-9月は73.5%と2020年1月(73.7%)以来の高水準に並ぶ
・全米 62.5%と2023年2月の低水準に並ぶ、前月は62.8%と2022年2月(63.3%)以来の高水準
学歴別の失業率は、まちまち。労働参加率が大幅低下した中卒で低下、高卒で小幅上昇、大卒と大学院卒は横ばいだった。なお、大卒以上は学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下された結果、2023年10月から債務返済が再開する。
・中卒以下 6.0%、前月は6.3%と2022年1月以来の高水準に並ぶ、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.2%と2022年8月(4.4%)以来の高水準に並ぶ、前月は4.1%、2023年7月は3.3%と2000年4月以来の低水準に並ぶ
・大卒 2.1%と3カ月連続で横ばい、2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 1.8%と前月と変わらず、2021年12月は1.%と2000年4 月の低水準に並ぶ
・全米 3.7%と前月と変わらず、2023年4月は3.4%と同年1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率は大卒のみ低下、中卒と大学院卒は上昇、高卒は横ばい
チャート:米景気減速が一因なのか、大卒の労働参加率は3カ月連続で大幅低下も失業率は横ばい
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①NFPのうち、専門サービスに含まれる派遣が11カ月連続で減少。派遣は、労働市場の先行指標とされる。
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率は、男性で全米と白人問わず25~54歳で低下した一方、25~34歳で改善。女性も同じく25~54歳が低下した一方で、25~34歳が上昇。
③働き盛りの25~54歳以外で労働参加率をみると、男性では16~24歳での上昇が目立った半面、高齢層は低下。男女そろって65歳以上は低下。
④男女別の労働参加率はそろって低下も、失業率は明暗が分かれ男性が横ばいも女性が上昇。
⑤人種別では、労働参加率は全て低下も、黒人男性での失業率の改善が際立ち、黒人女性で失業率は横ばいだった。一方で、白人とスパニック系の男女そろって、労働参加率の低下にもかかわらず失業率は上昇した。
・労働参加率が低下+失業率が低下→黒人男性
・労働参加率が低下+失業率が横ばい→白人男性
・労働参加率が低下+失業率は上昇→白人の男女、ヒスパニック系の男女
⑥学歴別ではまちまち。労働参加率が低下した中卒で失業率は低下した一方で、大学卒以上の失業率は横ばいにとどまった。
ーー以上、米11月雇用統計は全米自動車労働組合(UAW)や俳優のストライキ終了に支えられ、労働参加率の改善や失業率の低下を促しました。一転して、米12月雇用統計は労働参加率が低下するなか、白人やヒスパニック系の男女は失業率の上昇を確認し、労働市場の減速を感じさせます。何より、高スキル・高賃金の職が予想される大卒以上では、労働参加率が大幅低下したにもかかわらず、失業率は横ばい。景気減速の余波か、あるいは人工知能(AI)の導入の影響か、学生ローン返済が迫られる大卒以上の失業率の下げ渋りは、気掛かりです。米12月雇用統計・NFPが前月比21.6万人増だった半面、フルタイムの雇用が2020年4月以来の減少を記録したように、米景気は曲がり角に入ったと言えそうです。
(カバー写真:ChrisGoldNY/Flickr)
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