NYCB recorded a significant provision for loan losses, as the downturn in the U.S. commercial real estate proved detrimental.
※NYCBの商業不動産ローンの融資額をお詫びして訂正させて頂きます。
―BTFP終了後、NYCBが赤字決算を計上
米連邦準備制度理事会(FRB)は1月25日、声明で“銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)”を当初の予定通り、3月11日で終了させると発表しました。また、貸出金利の引き上げを決定。これまでは、翌年物のオーバーナイト・スワップ金利に0.1%上乗せした水準でしたが、窓口貸出金利(現在は5.5%)に設定しました。米利下げ期待を受け米金利が低下し5%を割り込むなか、銀行のBTFPで借入を行い、準備預金に移すという裁定取引を行っていたことが一因とされています。
チャート:BTFPの借入残高、裁定取引を背景に2023年秋以降に急増
BTFPと言えば2023年、シリコンバレー銀行が破綻して創設されました。あれからシグネチャー銀行、ファースト・リパブリックが続きましたが、その後は流動性問題が発生せず、お役目を終えた格好となります。
しかし、BTFP終了決定から約1週間を経て、再び金融業界に激震が走りました。ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が1月31日に発表した2023年10~12月期(Q4)決算は、予想外の2億5,200万ドルの赤字を計上。貸倒引当金を前期の6,200万ドルを大幅に上回る5億5,200万ドル積み増した結果、利益が吹き飛んだ格好です。さらに、SVB破綻後、資産1,000億ドル以上の米銀の資本規制が強化されるなか、配当を17セントから5セントへ引き下げました。
NYCBと言えば、破綻したシリコンバレー銀行を買収し、ファースト・リパリックを吸収したJ.P.モルガン・チェースと並び、勝ち組と目されてきました。しかし、シグネチャー銀行の買収により、資産が規制対象となる1,000億ドル超えとなっただけでなく、米商業不動産の焦げ付きが広がり、赤字決算を余儀なくされた格好です。結果、NYCBの株価は2月1日までに一時46.9%も急落し半減し、KBW地銀株指数もつれて一時11%も急落しました。
チャート:NYCBの株価、決算発表後に一時ほぼ半減
チャート:KBW地銀株指数、わずか2日間で一時11%も急落
―NYCB、シグネチャー銀行買収の功罪
NYCBのQ4決算内容を詳しくみてみましょう。総資産は1,163億ドルと、買収前の2022年末時点の901億ドルから29%増加しました。預金残高も813億6,500万ドルと、2022年末時点の587億2,100万ドルから39%増加。融資残高も846億1,900万ドルと、2022年末時点を22%上回っています。
一方で、米商業不動産向け融資は133億8,200万ドルと、2022年末から27%増加しました。貸出金総額の15%を占め、2022年末の12%を上回ります。同行は「多角的な商業銀行への戦略的シフトを示す」と説明しますが、今回の決算では、これが痛手となりました。しかも、不良債権額4億4,200万ドルのうち、米商業不動産ローンを含めた不動産ローンが3億6,300万ドルと、大半を占めます。これらの融資焦げ付きにより、貸倒引当金を5億5,200万ドル積み増するに至りました。
不良資産は総資産の0.38%、貸倒引当金は貸出金総額の1.17%となっています。それぞれ、2022年末の0.17%、0.57%から上昇しました。ただし、 普通株式Tier1 比率は9.10%と十分な資本を維持しているとされ、破綻リスクは現時点で低いと言えそうです。
NYCBの決算後、格付け会社ムーディーズは米商業不動産の悪化を加味し、NYCBとその子会社であるフラッグスター銀行に対し、格下げ見直しの対象にしたと発表しました。NYCBのニューヨークのオフィスビルと集合住宅用不動産の予期せぬ損失、収益の低迷、資本金の大幅な減少、企業部門への資金依存の高まりを反映したものだといいます。
―米商業不動産の悪化、あおぞら銀にも波及
NYCBの赤字決算をもたらし米商業不動産悪化の激震は、日本にも波及しています。あおぞら銀行は2月1日、2024年3月までの今期連結業績見通しで、15年ぶりに最終赤字に転落すると発表。米商業不動産向け融資の損失が背景にあり、貸倒引当金の積み増しにより今期の純損益が一転して280億円の赤字に陥る見通しだといいます。
米商業不動産はコロナ禍でリモートワークが普及するなか大打撃を被り、ムーディーズ・アナリティクスによれば、2023年Q4に米オフィス空室率は19.6%と、1979年にデータを公表して以来で過去最悪を記録しました。
ただ、不動産情報会社JLLによれば、NY市のオフィス空室率は同年Q3に4.1%と、約2年ぶりに低下したといいます。米金融機関を始め、アマゾンやナイキ、さらに在宅勤務の恩恵を受けたビデオ会議システム大手ズームまで企業がオフィス復帰を要請するなか、改善の兆しが見えています。
その半面、2022年3月から5.25%の利上げを受け米景気減速が懸念される状況。何より、不動産データ会社トレップによれば、今年の米商業不動産の借り換え規模は約5,406億ドルで、以降も2027年にかけ高水準が続くだけに、金融市場の不安材料であることは間違いありません。
チャート:米商業不動産ローン、満期を迎える規模
(カバー写真:Ross Sneddon /Unsplash)
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