Unemployment Rate Surges For Black And Hispanic Workers In January.
米1月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就労者数(NFP)が2023年1月以来の力強い伸びを達成しました。労働参加率が低水準で失業率は横ばい、平均時給は前月比と前年比で市場予想超えと、前月に続き労働市場の好調ぶりを示しました。しかし、家計調査の就業者数はNFPの大幅増に反し小幅減と2カ月連続で相反する結果となったほか、フルタイムの雇用は2カ月連続で減少。パートタイムが3カ月連続で増加するなか、不完全雇用率は2022年2月以来の高水準に並び、週当たり労働時間が2020年3月以来の水準に短縮するなど、詳細を見ると、強弱ミックスな結果となっています。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、今回、娯楽・宿泊は1.1万人増と増加トレンドを維持しつつ、2022年平均の8.3万人増を大幅に下回りました。そこに含まれる食品サービスは0.2万人減と2022年12月以来のマイナスに。米景気減速と裁量的支出の鈍化が影響したのか、あるいは悪天候が影響したのか、2月の結果が待たれます。なお、娯楽・宿泊は2020年2月の水準を回復していない3業種のうちの1つです。
チャート:娯楽・宿泊のうち、食品サービスの雇用は1月に減少
筆者がもうひとつ、注目する業種が専門サービスに含まれる派遣です。派遣は、労働市場の先行指標とされ、景気後退前に減少トレンドをたどる傾向があります。1月の結果を見ると、前月比3.9万人増と2022年3月以来の増加に。ただ、足元でITから配送、航空会社まで大規模なリストラが伝わるなか、このままプラス圏を維持できるかは不透明です。
チャート:派遣、2022年3月以来の増加に反転
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。
〇平均時給
平均時給は前月比0.6%上昇の34.55ド ル(約5,110円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.4%を超え、6カ月ぶりの力強い伸びに。2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.5%と市場予想の4.1%を超え4カ月ぶりの強い伸びを達成。前月分も4.1%から4.4%へ上方修正された。生産労働者・非管理職の前年同月比もは4.8%と、前月の4.3%を超え6カ月ぶりの強い伸びだった。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸びが0.6%以上だったのは13業種中で10業種で、前月の速報値ベースの8業種を上回り、賃上げ圧力の高止まりを確認した。今回の1位は小売(2.3%上昇)、続いて情報(1.2%上昇)、鉱業・伐採、公益、金融(0.9%上昇)、教育・健康と専門サービス(0.7%上方)、輸送・倉庫や卸売、建設(0.6%上昇)となった。一方で、その他サービスは0.5%上昇し、娯楽・宿泊は0.4%上昇、製造業は横ばいに終わった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:前年比ではインフレ目標値2%超えが目立ち、財部門はそろって強い伸びとなった半面、サービス業はNFPで増加を主導したヘルスケアを含む教育・健康を中心に平均時給の前年比4.5%以下が優勢。
〇労働参加率
労働参加率は前月通り62.5%と、2023年8ー9月と同じく2020年2月以来の水準を回復した2023年11月の62.8%から低下した。働き盛りの男性(25~54歳)をみると,全米の25~54歳が横ばいだった一方で、全米の25~34歳と白人で低下した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.2%、前月は89.2%、2023年9月は89.6%と2019年3月の水準と一致
・25~54歳(白人) 89.8%と2023年2月以来の低水準、前月は90.1%、2023年10月は90.5%と2020年2月(90.6%)以来の高水準
・25~34歳 89.2%、前月は89.4%、2023年7月は90.0%と2012年10月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.1%と2023年5月以来の低水準、前月は90.8%と2023年9月と同じく2019年11月以来の高水準、前月は90.4%
チャート:働き盛りの男性、全米の25-54歳以外は低下
働き盛りの女性は25~54歳で上昇した一方で、25~34歳が低下し前月と逆の展開となった。
・25~54歳 77.4%と3カ月ぶりの水準を回復、前月は77.1%、2023年4月は77.8%と統計開始以来で最高
・25~34歳 78.1%、前月は78.4%、2022年8月は78.8%と1997年のデータ公表以来で最高
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性と女性がそろって低下した
・男性 22.8%と8カ月ぶりの低水準、前月は23.0%、なお、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.0%、前月は16.1%、2023年11月は16.2%と2020年2月以来の高水準に並ぶ
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率、そろって低下
労働参加率を16~19歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、16-19歳のみ低下し2009年6月以来の高水準だった前月から後退した一方で、それ以外は上昇した。特に20~24歳は2020年2月以来の水準へ急伸した。
・16~19歳 36.5%と6カ月ぶりの低水準、前月は37.0%、2023年10月は37.9%と2009年6月(38.5%)以来の高水準
・20~24歳 72.7%と2020年2月以来の高水準、前月は71.3%
・55歳以上 38.5%、前月は38.4%と6カ月ぶりの低水準
チャート:16~19歳のみ低下、20~24歳は2020年2月以来の水準へ急伸
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が低水準を維持するなか、前月比2.2%増の579.3万人と2カ月連続で増加し、2022年4月以来の高水準だった。男性が同8.8%増の282.8万人と2カ月連続で大幅増を迎えるなか2023年5月以来の水準へ増加したほか、女性は同3.5%減の296.5万人と3カ月ぶりに減少した。
チャート:職を望む非労働力人口、男性が急増も女性は減少
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は女性が改善した一方で男性は低下するなど、まちまち。男性は前月の68.1%→67.9%と2023年1月の低水準に並んだ。女性は前月の57.1%→57.5%へ上昇し、2020年2月(57.9%)水準に迫った2023年8月の57.6%にやや近づいた。
チャート:男女別の労働参加率、男性が低下し女性が上昇するなど明暗分かれる
男女の失業率も女性で改善し男性は変わらずと、まちまちだった。労働参加率が低下したにもかかわらず、男性は前月の3.9%で変わらず、2023年7月以来の低水準を保った。女性は逆に労働参加率の上昇にもかかわらず、前月の3.6%→3.4%へ低下した。なお、女性は2023年1月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は横ばい、女性は低下
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、白人女性のみ改善し、ヒスパニック系男性で前月と変わらなかった以外は、全て上げ幅を縮小、あるいは下げ幅を拡大し、弱含みとなった。ヒスパニック系男性は前月と変わらず6.8%増、白人女性も前月の3.1%減→2.8%減に下げ幅を縮小させた。一方で、黒人男性が前月の11.6%増→8.1%増、黒人女性も前月の2.4%増→2.0%増、ヒスパニック系女性も前月の8.3%増→8.1%増と、そろって増加幅を縮小した。白人男性は前月の1.1%減→2.9%減となる。
チャート:男女別の就業者数の20年2月との比較、黒人の男女とヒスパニック系の女性が上げ幅縮小
人種別の週当たり賃金は2023年5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、まちまち。アジア系とヒスパニック系は上昇したが、白人は前月と変わらず。黒人は低下した。なお、データはアジア系を除き全て季節調整済みとなる。
・白人 62.1%と2カ月連続で2023年2月以来の低水準、前月は62.1%、2023年8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 63.3%と3カ月ぶりの低水準、前月は63.4%、2023年3月は64.0%と2008年8月の高水準に並ぶ
・ヒスパニック系 66.8%、前月は66.7%と7カ月ぶりの低水準、2023年7月は67.3%と2020年2月(67.8%)以来の高水準
・アジア系 64.5%、63.9%と2022年3月以来の低水準に並ぶ、2023年9月は65.7%と2012年12月の高水準に並ぶ、2020年2月は64.5%
・全米 62.5%、前月は62.5%、2023年11月は2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ
チャート:人種別の労働参加率、黒人は低下、白人は前月と変わらず、ヒスパニック系とアジア系が上昇
人種・男性別の労働参加率は、白人以外は低下も黒人とヒスパニック系は上昇。特にヒスパニック系は0.7ptと大幅に上昇した。
・白人 69.8%と2022年7月以来の低水準、前月は70.0%、前月の70.3%から低下、2020年3月は71.0%
・黒人 69.4%と2023年3月以来の高水準、前月は69.2%、なお2023年3月は70.2%と2010年3月(70.4%)以来の高水準
・ヒスパニック系 79.5%と4カ月ぶりの高水準、前月は78.8%、2023年7月は79.9%と2022年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%
チャート:人種・男性別、黒人とヒスパニック系で上昇
人種・女性別の労働参加率も、白人、黒人、ヒスパニック系の全てで低下した。特に、黒人女性が前月比0.4%ptと最も落ち込みが大きかった。
・白人 57.6%、前月は57.2%と2022年12月以来の低水準、2023年8月は57.9%と2020年2月以来の高水準(58.3%)
・黒人 62.9%と4カ月ぶりの低水準、前月は63.2%、2023年4月は63.9%と2009年7月(64.0%)以来の高水準
・ヒスパニック系 60.7%と2022年12月以来の低水準、前月は61.3%、2023年9月は61.9%と2020年2月以来の高水準(62.2%)
チャート:人種・女性別は、黒人とヒスパニック系で低下
人種別の失業率は、まちまち。労働参加率が横ばいだった白人と労働参加率が上昇したアジア系は失業率が低下した。しかし、労働参加率が低下した黒人は失業率が上昇。労働参加率が上昇したヒスパニック系は横ばいだった。
・白人 3.4%、前月は3.5%と2023年10月と同じく2021年11月以来の高水準、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.3%、前月は5.2%と8カ月ぶりの低水準、2023年4月は4.7%と過去最低
・アジア系 2.9%と4カ月ぶりの低水準、前月は3.1%、2023年7月は2.3%と2019年6月(2.0%)以来の低水準
・ヒスパニック系 5.0%と2023年2月以来の高水準を維持、前月は5.0%、なお2022年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・全米 3.7%と3カ月連続で変わらず、なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率、黒人で上昇
人種・男女別ではまちまちで、黒人とヒスパニック系で上昇した。労働参加率が上昇した黒人男性は失業率も上昇、黒人女性は労働参加率が低下も上昇した。ヒスパニック系も労働参加率が上昇した男性、労働参加率が低下した女性、そろって失業率は上昇。労働参加率が横ばいだった白人男性は失業率も変わらず。白人女性は労働参加率の上昇を受けても、失業率は低下した。
・白人男性 3.3%と前月と変わらず、2022年12月は2.8%と2020年2月以来の低水準
・白人女性 2.9%、前月は3.0%と2023年3月の高水準に並ぶ、2023年6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 5.3%、前月は4.6%と2023年4月につけた過去最低に並ぶ、2023年11月は6.3%と2022年2月以来の高水準
・黒人女性 4.8%、前月は4.4%、2023年4月は3.8%と過去最低
・ヒスパニック系男性 6.1%と2023年2月と並び2021年6月以来の高水準、前月は5.0%
・ヒスパニック系女性 4.7%と2023年1月以来の高水準、前月は4.3%
チャート:人種・男女別の失業率、黒人とヒスパニック系の男女がそろって上昇
白人と黒人の失業率格差は拡大。白人の失業率が上昇した一方で、黒人が低下したため、失業率格差は前月の2023年4月につけた過去最低に並ぶ1.7%ptから、1.9ptへ小幅拡大した。
チャート:白人と黒人の失業率格差、3カ月ぶりに拡大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、大卒以上で上昇。大卒以上は0.4ptも改善したが、中卒は過去2カ月で1.2%ptも落ち込んだ。
・中卒 47.1%、前月は47.5%、2023年11月は48.3%と2023年2月と並び過去最高
・高卒 57.0%、前月は57.1%、2023年11月は57.3%と2020年2月(58.3%)以来の高水準
・大卒以上 72.7%、前月は72.3%と2021年10月(71.9%)以来の低水準、2023年8-9月は73.5%と2020年1月(73.7%)以来の高水準に並ぶ
・全米 62.5%と2カ月連続で2023年2月の低水準に並ぶ、2023年11月は62.8%と2022年2月(63.3%)以来の高水準
学歴別の失業率は、まちまち。労働参加率が上昇した大卒院卒が上昇した一方で、大卒は横ばいだった。なお、大卒以上は学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下された結果、2023年10月から債務返済が再開する。労働参加率が低下した中卒は横ばい、労働参加率が低下した高卒は小幅上昇した。
・中卒以下 6.0%と前月と変わらず、前月は6.0%、2023年11月は6.3%と2022年1月以来の高水準に並ぶ、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.3%と2022年8月(4.4%)以来の高水準、前月は4.2%、2023年7月は3.3%と2000年4月以来の低水準に並ぶ
・大卒 2.1%と4カ月連続で横ばい、2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 2.0%と3カ月ぶりの水準へ上昇、前月は1.8%、2021年12月は1.%と2000年4 月の低水準に並ぶ
・全米 3.7%と3カ月連続で横ばい、2023年4月は3.4%と同年1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率、高卒と大学院卒が上昇、高卒は横ばい
チャート:米景気減速が一因なのか、大卒院卒の改善につれ失業率は上昇
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①NFPのうち食品サービスが2022年12月以来のマイナスを迎え、裁量的支出の鈍化を示唆か、大寒波の影響も。
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率は、全米の25~54歳が横ばいだった一方で、全米の25~34歳と白人で低下、特に白人の低下が顕著に。
③男女別の労働参加率はそろって男性で低下し女性が改善、失業率は男性は横ばいで女性は低下。
④人種別では、労働参加率の動向にかかわらず、黒人とヒスパニック系の男女で上昇した。
・労働参加率が上昇+失業率が低下→白人女性
・労働参加率が低下+失業率が横ばい→白人男性
・労働参加率と失業率が上昇→黒人男性、ヒスパニック系男性
・労働参加率が低下+失業率が上昇→黒人女性、ヒスパニック系女性
⑤学歴別ではまちまち。大卒以上は労働参加率が改善するなかで大学院卒以上の失業率が上昇。
ーー以上、米1月雇用統計はNFPがとんでもなく力強かった一方で、男性の労働参加率の低下が確認されたほか、人種や学歴別では非白人と大学院卒での失業率の上昇が確認できました。NFPの結果に反し、強弱まちまちで米労働市場は歪と言えるでしょう。シカゴ連銀総裁が米雇用統計後に労働時間の短縮を受け、「ヘッドラインの数字が示唆するほど統計は強くなかった」と述べたほか、オバマ政権でCEA委員長だったファーマン氏が年5回の利下げを予想する理由は、ここにありそうです。
(カバー写真:Daniel Foster/Flickr)
Comments
米1月雇用統計・NFPは1年ぶりの力強い伸び、年次改定も影響か Next Post:
NYCBが巨額の貸倒引当金を計上、米商業不動産の不況が痛手に