Unemployment Rates Rise For White, Hispanic, And The Group of Bachelor’s Degree And Higher.
米4月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を下回ったほか、労働参加率が横ばいながら失業率が上昇し、労働市場の減速を示唆しました。平均時給は前月比と前年比で市場予想以下となっただけでなく、鈍化トレンドを確認。とはいえ、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番記者、ニック・ティミラオス記者によれば「Fedの想定の範囲内」で、米株相場はゴルディロックス経済万歳といった様相です。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、裁量的支出動向を示す娯楽・宿泊は0.7万人増と4カ月連続で増加も、2023年平均の0.8万人増を小幅に下回りました。そこに含まれる食品サービスも0.7万人増と、3カ月連続で増加も2019年平均の2.6万人増以下に。なお、娯楽・宿泊は3月にようやく2020年2月の水準を回復し方と思いきや、修正もあって引き続き微減にとどまります。その他、政府は2023年平均で5.9万人増だったところ、4月は前月比0.8万人増と、NFPのうち上位を占めていた足元の流れから一転、2022年12月以来の低い伸びでした。
チャート:娯楽・宿泊と食品サービス、政府の雇用の伸び
筆者がもうひとつ、注目する業種が専門サービスに含まれる派遣です。派遣は、労働市場の先行指標とされ、景気後退前に減少トレンドをたどる傾向があります。4月の結果を見ると、前月比1.6万人減と2022年4月以降のマイナストレンドを維持。足元でITから配送、航空会社まで大規模なリストラを決定し効率性を引き上げ株価を押し上げているように、企業が雇用に慎重な様子が伺えます。
チャート:派遣、今年1月を除き2022年4月以降のマイナストレンドを維持
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。
〇平均時給
平均時給は前月比0.2%上昇の34.75ド ル(約5,280円)と、市場予想と前月の0.3%を下回った。ただし、2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は3.9%、市場予想の4.0%並びに前月の4.1%を下回り、2021年6月以来の4%割れを迎えた。生産労働者・非管理職の前年同月比も4.0%と、前月の4.2%を下回り、2021年5月以来の低い伸びだった。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸びが0.2%以上だったのは13業種中で9業種で、前月の速報値ベースの6業種を上回った。今回の1位は雇用が減少した鉱業・伐採で前月比2.0%となり退職金などを含めた分で上振れした可能性がある。そのほか卸売、公益、情報、建設、専門サービス、その他サービス、金融、小売が並んだ。一方で娯楽・宿泊のほかNFPで雇用をけん引した教育・健康が前月比0.1%にとどまったほか、製造業がマイナス、輸送・倉庫は横ばいだった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:前年比ではインフレ目標値2%超えが目立ち、財部門はそろって強い伸びとなった半面、サービス業はNFPで増加を主導したヘルスケアを含む教育・健康を中心に平均時給の前年比4.0%以下が優勢となった。
〇労働参加率
労働参加率は62.7%と前月と変わらず。しかし、働き盛りの男性(25~54歳)をみると,全米の結果に反し25~54歳と25~34歳は低下した。一方で、白人は25~54歳は横ばい、25~34歳は低下したが、季節調整前となるため単純比較できない場合がある。
・25~54歳 89.1%、前月は89.2%、2023年9月は89.6%と2019年3月の水準と一致
・25~54歳(白人) 90.1%と前月と変わらず、前月は90.1%、2023年10月は90.5%と2020年2月(90.6%)以来の高水準
・25~34歳 88.9%と2023年1月以来の89%割れ、前月は89.3%、2023年7月は90.0%と2012年10月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.7%、前月は91.0%と2019年3月以来の高水準
チャート:働き盛りの男性の労働参加率
働き盛りの女性はまちまちだった。
・25~54歳 78.0%と1997年のデータ公表以来で最高、前月は77.7%
・25~34歳 77.9%と2023年6月以来の低水準、前月は78.0%、2022年8月は78.8%と1997年のデータ公表以来で最高
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性が著しく低下も女性は改善した。
・男性 23.0%、前月は23.5%と4カ月ぶりの水準を回復、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.1%、前月は16.0%、2月は16.3%と2020年2月以来の高水準
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率
労働参加率を16~19歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、20~24歳のみ上昇した。
・16~19歳 37.6%、前月は38.2%と2009年6月以来の高水準
・20~24歳 72.4%、前月は72.1%と2021年12月以来の水準を回復、1月は72.7%と2020年2月以来の高水準
・55歳以上 38.4%と4カ月ぶりの低水準、前月は38.6%と4カ月ぶりの水準を回復
チャート:16~19歳、20~24歳、55歳以上の労働参加率
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が前月横ばいだった半面、前月比3.6%増の563.7万人と3カ月ぶりに増加。男性が同6.7%増の271.7万人と3カ月ぶりに増加しただけでなく、女性も同1.0%増の292.0万人と増加に転じた。
チャート:職を望む非労働力人口
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は男性が低下した一方で女性が上昇した。男性は前月の68.0%→67.9%へ低下した。女性は前月の57.6%→57.7%へ上昇、2020年2月(58.0%)水準に迫った。
チャート:男女別の労働参加率
男女の失業率もまちまち。労働参加率が低下した男性は前月の3.7%→3.9%と、3カ月ぶりの水準へ戻した。女性は逆に労働参加率が上昇したものの3.8%、2-3月につけた2022年2月以来の高水準となる3.9%とから改善した。なお、女性は2023年1月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男女別の失業率
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、非白人の男女で伸びが拡大した。一方で、白人の男女は下げ幅を広げた。ただ、全て季節調整前の数字である点に留意しておきたい。
チャート:男女別の就業者数の20年2月との比較
人種別の週当たり賃金は2023年5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、まちまち。白人は横ばい、黒人は低下、ヒスパニック系とアジア系は上昇した。なお、データはアジア系を除き全て季節調整済みとなる。
・白人 62.3%と前月に続き2023年11月に並ぶ水準、2月まで3カ月連続で62.1%と2023年2月以来の低水準 2023年8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 63.2%、前月は63.6%、2月は63.7%と5カ月ぶりの水準を回復、2023年3月は64.0%と2008年8月の高水準に並ぶ
・ヒスパニック系 67.3%と2023年7月の水準に並び2020年2月(67.8%)以来の高水準、前月は66.8%と1月の水準へ戻す
・アジア系 64.7%と5カ月ぶりの水準を回復、前月は64.1%と2021年8月以来の水準へ低下、2023年9月は65.7%と2012年12月の高水準に並ぶ、2020年2月は64.5%
・全米 62.7%と2カ月連続で2023年11月の水準に並ぶ、2月まで3カ月連続で62.5%、2023年11月は2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ
チャート:人種別の労働参加率
人種・男性別の労働参加率は、白人とヒスパニック系が前月と変わらず、黒人は低下した。
・白人 69.8%と前月と変わらず 2月は69.6%と2021年2月以来の低水準、2020年3月は71.0%
・黒人 68.7%と6カ月ぶりの低水準、前月は69.6%、2月は69.8%と2023年3月以来の高水準、なお2023年3月は70.2%と2010年3月(70.4%)以来の高水準
・ヒスパニック系 79.8%と前月と変わらず2023年7月以来の水準を回復、2023年7月は79.9%と2022年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%
チャート:人種・男性別の労働参加率
人種・女性別の労働参加率はヒスパニック系が急伸、白人も改善した半面、黒人は低下した。
・白人 58.0%と2020年2月以来の高水準(58.3%)、前月は57.9%
・黒人 62.9%と4カ月ぶりの63%割れ、前月は63.0%、2023年4月は63.9%と2009年7月(64.0%)以来の高水準
・ヒスパニック系 61.8%と2023年9月(61.9%)に次ぎ2020年2月以来の高水準(62.2%)が迫る、前月は61.1%
チャート:人種・女性別の労働参加率
人種別の失業率は労働参加率に従って、まちまち。白人は労働参加率が横ばいだったが失業率は上昇、ヒスパニック系は労働参加率の著しい改善に伴い、失業率は上昇した。黒人は労働参加率につれ、失業率は低下した。
・白人 3.5%と5カ月ぶりの水準へ上昇、前月まで3カ月連続で3.4% 2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.6%と2月に水準へ戻す、前月は6.4%と2022年3月以来の水準へ急伸、2023年4月は4.7%と過去最低
・ヒスパニック系 4.8%、前月は4.5%と2023年7月以来の低水準 なお2022年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 2.8%、前月は2.5%と2022年9月以来の低水準、2023年7月は2.3%と2019年6月(2.0%)以来の低水準
・全米 3.9%と2月に並び2022年1月以来の高水準、前月は3.8% なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率
人種・男女別の失業率は、労働参加率次第でまちまち。労働参加率につれ黒人男女の失業率は低下したが、白人は労働参加率が横ばいだった男性は上昇、労働参加率が改善した女性で失業率は低下した。ヒスパニック系男性は労働参加率が横ばい、同女性は上昇でもそろっては失業率は低下したが、ここは白人男女と黒人男性と違って季節調整前の数字となる。
・白人男性 3.3%と3カ月ぶりの高水準、前月は2.9%と2023年1月以来の低水準、2022年12月は2.8%と2020年2月以来の低水準
・白人女性 3.1%、前月は3.2%と2021年11月以来の高水準を維持、2023年6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 5.2%と3カ月ぶりの低水準、前月は6.2%、2023年12月は4.6%と2023年4月につけた過去最低に並ぶ
・黒人女性 4.3%と7カ月ぶりの低水準、前月は5.4%、2023年4月は3.8%と過去最低
・ヒスパニック系男性 4.1%と5カ月ぶりの低水準、前月は4.2%、2022年9月は3.0%と2019年11月以来の低水準
・ヒスパニック系女性 4.2%と5カ月ぶりの低水準、前月は4.7%、2月は5.3%と2022年1月以来の高水準
チャート:人種・男女別の失業率
白人と黒人の失業率格差は大幅に4カ月ぶりに縮小。白人の失業率が上昇した一方で、黒人が労働参加率の低下に従って4カ月ぶりに下振れしたため、失業率格差は前月のと2022年8月以来の水準へ拡大した前月の3.0%ptから2.1%ptへ縮小した。
チャート:白人と黒人の失業率格差
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率はまちまちで、中卒と大卒以上が上昇し、高卒は低下した。
・中卒 46.8%、前月は46.3%と2023年4月以来の低水準 2023年11月は48.3%と2023年2月と並び過去最高
・高卒 56.7%と8カ月ぶりの低水準、前月は57.3%と、2023年11月は57.3%と2020年2月(58.3%)以来の高水準
・大卒以上 72.8%と6カ月ぶりの高水準、前月は72.4%、2023年8-9月は73.5%と2020年1月(73.7%)以来の高水準に並ぶ
・全米 62.7%と前月に続き2023年11月以来の水準を回復、2023年11月は62.8%と2022年2月(63.3%)以来の高水準
学歴別の失業率は労働参加率につれ中卒と大卒、大院卒で上昇した。
・中卒以下 6.0%、前月は4.9%と2023年1月以来の低水準 2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.0%と6カ月ぶりの低水準、前月は4.1%、2023年7月は3.3%と2000年4月以来の低水準に並ぶ
・大卒 2.2%と2月の水準に並ぶ、前月は2.1% 2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒 2.3%と8カ月ぶりの高水準、前月は2.0%、2021年12月は1.2%と2000年4月の低水準に並ぶ
・全米 3.9%と2月と同じく2022年1月以来の高水準 前月は3.8%、2023年4月は3.4%と同年1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:学歴別の失業率
チャート:大卒以上は労働参加率につれ、失業率も上昇
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①NFPの増加の業種別では、裁量的支出の減速を示唆するためか娯楽・宿泊(食品サービス含む)は減速、足元でNFPの伸びを主導していた政府も1万人割れへ鈍化
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率、男性の間では全米でそろって低下、女性は25~34歳で低下。
③男女別の労働参加率は男性で低下し女性は改善も、失業率は男性が上昇し女性は低下。
④人種別では、まちまち。白人とヒスパニック系の女性は労働参加率が上昇した。黒人の男女は失業率が改善も、労働参加率の大幅低下が背景。白人男性は労働参加率が横ばいでも、失業率は上昇した。なお、ヒスパニック系の男女は季節調整前の数字、ヒスパニック系全般は季節調整済みの数字であるため、男女の結果と乖離が生じた可能性がある。
・労働参加率が上昇+失業率が低下→白人女性、ヒスパニック系女性
・労働参加率が横ばい+失業率が低下→ヒスパニック系男性
・労働参加率が横ばい+失業率が上昇→白人男性
・労働参加率が低下+失業率が低下→黒人の男女
⑤白人と黒人の失業率格差、白人の失業率が上昇し黒人が低下したため4カ月ぶりに縮小も、黒人の労働参加率が大幅低下が一因
⑥学歴別では中卒と大卒以上の労働参加率が改善した結果、これらの失業率も上昇、大学院卒の失業率は8カ月ぶりの高水準
ーーパウエルFRB議長は、5月FOMC後に記者会見で3月に質疑応答で言及した「予想外の労働市場が弱まれば、政策対応(利下げ)の用意がある」と発言しました。さらに「これまで二大目標のうち物価の安定に注力してきたが、インフレ率が前年比3%以下で推移するなか、雇用の最大化という、もう一つの目標に焦点を当てることが可能」と明言。表面上はインフレ率2%回帰に確信が持てるまで利下げを待つ姿勢を打ち出しつつ、労働市場次第で行動する姿勢を維持しています。
その理由は、やはり労働市場の減速が挙げられます。これまで人種別の失業率は黒人で目立っていましたが、今回はその黒人で失業率が著しく改善したものの、労働参加率が大幅低下した影響が大きい。つまり、黒人の間で仕事探しを断念した様子が伺えます。黒人層と言えば、バイデン氏率いる民主党の有力な支持基盤である点は、これまでお伝えした通りです。
さらに米4月雇用統計では、失業率は季節調整済みベースで白人とヒスパニック系にて上昇。特に白人男性は労働参加率が横ばいでも、失業率が3カ月ぶりの水準へ上昇しただけでなく2022~23年の平均値3.1%も上回りました。
男女別でみても、男性は労働参加率が低下するなかで失業率が上昇する半面、女性は労働参加率と失業率が改善するなど、労働市場の歪さを感じさせます。米4月雇用統計で失業者のうち解雇者が増加し、病気が理由で働けない人々が減少するなか、働く意欲のある非労働力人口が男女で増加していた点も留意すべきでしょう。
もうひとつ、大卒以上で労働参加率の改善につれ、失業率が上昇し、特に大学院卒の失業率は8カ月ぶりの高水準だった結果も気掛かりです。足元、リストラの波はテクノロジー関連から金融、自動車、放送業界など幅広く波及し、特にホワイトカラー即ち大卒以上の高学歴が対象となる状況。高学歴と言えば、黒人層と同じく民主党の支持基盤が多いとされ、2020年の米大統領選でも、CNNの出口調査ではバイデン氏に投票したとの回答は55%と、トランプ氏の40%を上回っていました。
もちろん、単月の結果だけで判断するのは時期尚早で、6月FOMCを占う上では米4月CPIや米5月雇用統計を見極める必要があるでしょう。
とはいえ、パウエルFRB議長は5月FOMC後の記者会見で、過去のFOMC議事要旨を確認できる通り、政治に配慮したことはないと断言していました。しかし、インフレ率が高止まりするなか、労働市場に示した配慮はボルカー時代とは異なると言えるのではないでしょうか。
(カバー写真:Elvert Barnes/Flickr)
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