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米5月雇用統計・NFPは大幅増も、労働参加率は低下し失業率は上昇

by • June 8, 2024 • Finance, Latest NewsComments Off3489

Jobs Report Blows Past Expectations While Unemployment Rises.

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を上回りました。ただし、労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率は上昇。平均時給は逆に市場予想を上回り、賃上げ圧力の高まりを確認。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が5月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、3月FOMCに続き「予想外に労働市場が弱まるならば、政策対応(利下げ)の用意がある」と発言するなか、労働市場はまだら模様と言えるでしょう。

FF先物市場は、米5月雇用統計・NFPの力強い伸びを素直に受け止め、発表前の9月利下げ開始、年内2回の予想を再び巻き戻し、11月か12月の利下げ開始、年1回の利下げ予想へ修正してきました。

画像;FF先物市場の反応

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(出所;Fedwatch)

結果を受け、7月利下げ開始を予想していた一部のエコノミストも見通しを後ずれ方向へ修正しています。シティグループは利下げ開始予想を従来の7月から9月へ、JPモルガン・チェースは7月から11月へ修正しました。一方で、米雇用統計前に利上げ開始予想を7月→9月に修正していたゴールドマン・サックスのチーフ・エコノミスト、ヤン・ハチウス氏は、9月利下げの予想を維持。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のニック・ティミラオス記者は、X(旧ツイッター)でNFPの力強さより、失業率の上昇を指摘、さらにFedは非対称的なアプローチを採用しており、弱い労働指標で利下げ前倒しは可能だが、強い労働市場は必ずしも利下げ先送りとはならず、むしろインフレ次第と伝えています。

ドル円は米5月雇用統計の結果を受け、一時157.08円まで上昇。しかし、その後は米10年債利回りの高止まりに反し、失業率の上昇もあって156円台半ばから後半での推移にとどまりました。米10年債利回りは一時4.436%へ上昇、米株は下落で反応しています。

日足チャート:ドル円は米5月雇用統計直後に157円に乗せ、156円後半でNY時間を終了、米10年債利回りは緑線(左軸)

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(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは、以下の通り。NFPと平均時給の伸び以外は、弱い材料が目立ちます。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが市場予想や前月を上回り、大幅増
・平均時給の伸び、前月比と前年同月比ともに市場予想以上、過去2カ月分も上方修正(インフレ抑制の観点ではネガティブ、購買力の観点でポジティブ)
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前月比と3ヵ月平均の前年同月比は伸び拡大

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFP、過去2カ月分1.5万人の下方修正
・週当たり労働時間、2020年4月以来の低水準近くへ戻す
・失業率、2022年1月以来の4%乗せ
・失業者のうち自発的離職者が減少、企業の雇用に対する慎重姿勢を示唆
・労働参加率は3ヵ月ぶりに低下
・就業率、3カ月ぶりの水準に低下
・不完全就業率は2021年11月以来の高水準を維持
・家計調査の就業者数、3カ月ぶりに減少
・フルタイムが減少、パートタイムと複数の職を持つ人々が増加

筆者としては、労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率が上昇した点が気掛かりです。また、就業率も低下し、フルタイムが減少するなかでパートタイムの増加を確認するなど、明らかに労働市場の質は低下していると言えます。NFPと平均時給は好調ながら、パートタイムの雇用増が一因と判断され、労働市場の調整は継続中と考えます。従って、6月FOMCで、パウエルFRB議長は「予想外の労働市場の弱まりでは、政策対応が適切」との文言を維持するとともに、利下げバイアスを保つでしょう。ただ、ドットプロットで示される年内利下げ示唆は、これまでの3回から1回に修正される余地がありそうです。

もっとも、8月に予定するNFPの年次基準改定の暫定値発表で、再び下方修正となってもおかしくありません。なお、2023年8月は、同年3月までの1年間が30.6万人下方修正されました。仮に8月までのインフレ指標と労働指標が弱含み、さらにNFPの年次基準改定で大幅に下方修正されるなら、ジャクソンホール会合での利下げ示唆、9月利下げのシナリオが意識されます。既にブルームバーグがNFPの下方修正について報じているだけに、注意が必要です。

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比27.2万人増となり、市場予想の18.2万人増を上回った。前月の16.5万人増(17.5万人増から下方修正)を大きく超えた。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比22.9万人増と市場予想の17万人増を上回った。前月の15.8万人増(16.7万人増から下方修正)も超えた。民間サービス業は20.4万人増と、前月の15.8万人増(15.3万人増から下方修正)を上回った。

チャート:NFPは増加トレンドを維持し伸びも再加速、失業率は2022年1月以来の4%乗せ

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(出所:Street Insights)

3月分の0.5万人の下方修正(31.5万人増→31万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で1.5万人の下方修正に。2023年以降では、16回のうち速報値ベースで13回目の下方修正を迎えた。以前から筆者が指摘し2023年7月に入ってウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も記事で取り上げたように、NFPは労働市場を過大評価している可能性が引き続き意識される。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で10業種で増加し、速報値ベースで8業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は8カ月連続で教育・健康、次いで政府、娯楽・宿泊が続いた。その他、前月に減少した情報のみ横ばい。同じく前月に減少した専門サービス(派遣含む)は増加に転じた。

(サービスの主な内訳)

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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比2.5万人増と、増加に反転。業種別をみると、建設と鉱業・伐採が前月の横ばいから増加に転じた一方で、鉱業・伐採は2カ月連続で減少した。

(財生産業の内訳)

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の4.6%増→4.5%増と26ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は、小売の前月が下方修正されたため、10業種に。輸送・倉庫、専門サービス、情報、金融、公益、卸売、教育・健康、小売、政府となる。その他サービスが引き続きマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

財部門は前月の3.4%増→3.5%増と、こちらも伸びを広げつつ25ヵ月連続でプラス圏を守った。建設が前月の7.8%増→8.0%増と伸び拡大に寄与した一方で、製造業は前月は2カ月連続で1.4%増だった。鉱業・伐採は引き続きマイナスをたどった上、前月の6.9%減→7.5%減へ下げ幅を拡大した。

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.4%上昇の34.91ド ル(約5,480円)と、市場予想の0.3%並びに前月の0.2%を上回った。2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.1%、市場予想の3.9%並びに前月の4.0%(3.9%から上方修正)を超えた生産労働者・非管理職の前年同月比も4.2%と、2021年5月以来の低い伸びだった前月の4.1%を上回った

チャート:平均時給、生産部門・非管理職と合わせ前年比で2021年半ば以来の低い伸びから再加速

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想と前月と一致した。2020年3月以来の低水準だった1月の34.2時間を辛うじて上回ったが、2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けたままだ。財部門(製造業、鉱業、建設)が39.8時間と前月の39.7時間を超えたただし、引き続きコロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは3カ月連続で33.2時間と、前月の33.3時間を下回り4カ月ぶりの低い伸びだった。パートタイムの雇用増加が短縮の一因と言えよう。2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間はサービスが押し下げ再び短縮

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(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は就労者数の伸びが前月から大幅に拡大したほか労働時間が前月比横ばいだったため、前月比で0.2%増と前月の0.2%減から増加に転じた。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は前月比0.6%増と前月の0.1%増(修正値)を超え、2021年3月からの増加トレンドを継続した。一方で、前年同月比は5.4%増と、前月の5.6%増から鈍化。3カ月平均は前月の5.6%増で横ばいながら、前月の5.59%増から今回は5.6%増と再加速した。

チャート:民間部門の総賃金、高止まりが続く

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(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.0%と市場予想と前月の3.9%を上回り、2022年1月以来の4%乗せとなった労働参加率は前月まで2カ月連続で62.7%だったところ。62.5%と3ヵ月ぶりの低水準したものの、失業者数が前月比15.7万人増、就業者数が同40.8万人減となり、失業者を押し上げた

自発的離職者数は71.7万人と減少と2カ月連続で減少、2019年平均を下回った。自発的離職者数に占める失業者の割合は前月の12.0%から低下し10.8%、2021年9月以来の低水準だった。

チャート:自発的離職者数は2カ月連続で減少

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(出所:Street Insights)

自発的離職者数が2カ月連続で減少した一方で、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比1万人増の238万人とわずかながら2カ月連続で増加2021年11月以来の高水準近くへ切り返した。失職者数の割合は他の増加幅が大きかったため前月の36.3%→36.0%へ低下しつつ、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は1.05%(絵前月の1.045%→1.051%)と、2021年11月以来の高水準をつけた。その他、一時解雇者は前月の13.3%→12.6%と低下。今回、失業率を押し上げたのは再参入者と新規参入者で、それぞれ前月の29.5%→30.9%、前月の8.8%→9.5%へ上昇した。

チャート:失業者に占める失職者の割合は低下、再参入者や新規参入者の上昇

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(出所:Street Insights)

チャート:失職者は小幅ながら増加

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(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の比率は2021年11月以来の水準へ上昇、2019年平均も上回る

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(出所:Street Insights)

解雇者数の増加などが失業者数を押し上げるなか、サーム・ルール(失業率の直近3ヵ月移動平均と過去1年間での最低水準の差が0.5pt以上なら、1年以内に景気後退入りするとの説)を確認すると、5月は前月に続き0.37ポイントコロナ禍での景気回復局面で最高を記録を維持した。景気後退入りのサインとなる0.5%乗せに近づいた格好だ。

チャート:サーム・ルール(直近3カ月の移動平均と過去1年間の最低水準の差)、コロナ禍後の回復期で最高水準を維持

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(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように、前月まで2カ月連続で62.7%を経て62.5%と3ヵ月ぶりの水準に低下20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%を下回り続けた。

就業率は60.1%と前月の60.2%を下回り3ヵ月ぶりの低水準だった2カ月連続での低下は、2022年10-11月以来で初めてとなり2020年2月(61.1%)以下が続く。

チャート:労働参加率と就業率、そろって低下

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(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は2カ月連続で7.4%となり、2021年11月以来の高水準を維持した。家計調査でパートタイムが再び増加するなか、予防的利下げを行った2019年平均の7.2%を上回った。

チャート:不完全就業率、2021年11月以来の高水準を維持

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(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.7週から8.9週へわずかながら延びした。一方で、27週以上にわたる失業者の割合も20.7%と前月の19.6%から上昇し4カ月ぶりの高水準。労働者の再参入組の失業率が上昇しただけに、長期失業者の割合が増えたと言えよう。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合

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(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比9.4万人減と4カ月連続で減少し97.7万人。引き続き、コロナ前平均の2015‐19年の平均値を上回りつつ、2015ー19年平均に接近しつつある。コロナやインフルエンザの観戦者などが減少し病気が理由で働けない人々が減少した一方で、労働参加率の低下は懸念材料だ。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値に接近

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが27.2万人増に対し、家計調査の就業者数は40.8万人減と3カ月ぶりに減少、NFPの結果と乖離した

チャート:NFPと家計調査の就業者数の結果、3ヵ月ぶりに乖離

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比62.5万人減と大幅に減少に転じ、過去6カ月間で5回目のマイナスとなった。一方で、パートタイムは同28.6万人増と増加に転じ、過去6カ月間で幅に5回目の増加に。複数の職を持つ者は同1.6万人増と増加に転じた。引き続き、企業は需要低下を意識しフルタイムの雇用に慎重な様子が伺える。

チャート:フルタイムは過去6カ月間で5回目の減少、パートタイムは逆に5回目の増加

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(出所:Street Insights)

チャート:パートタイムの雇用者数は過去2番目の高水準

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は高止まりを継続

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下してきた。直近のデータをみると、CESは2024年3月に43.5%、雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は33.2%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか、2024年4月に69.7%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

これまで筆者は、複数の職を持つ者がNFPを押し上げた可能性を指摘していた。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるため(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。最近では、NFPを算出する上での起業・廃業モデルにも注目。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、2023年7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。

今回を振り返ると、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比23.1万人増と、前月の36.3万人増に続き増加。NFPを押し上げた可能性を示唆した。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増減(季調前)の推移

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(出所:Street Insights)

(カバー写真:World Relief Spokane/Flickr)

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