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米6月雇用統計・NFPは堅調も、失業率は上昇し9月利下げ観測高まる

by • July 5, 2024 • Finance, Latest NewsComments Off6548

Job Growth Better Than Expected, But Unemployment Rate Ticks Up.

米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を上回りました。ただし、労働参加率の上昇を一因に、失業率は上昇。平均時給は前年比で市場予想以下となり、賃上げ圧力の交代を確認しています。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は9日に金融政策に関する半期に一度の議会証言に臨みますが、「労働市場は冷え込みつつある」、「予想外に労働市場が弱まれば、利下げを行う」といった従来のスタンスを維持するのでしょう。問題は、ハト派寄りへ軸足を強めるか否かです。

FF先物市場は、米6月雇用統計で失業率が上昇し、平均時給の伸び鈍化トレンドが再開した結果を素直に受け止め、9月利下げ開始の織り込み度が前日の73.6%→68.4%へ上昇。12月の追加利下げ確率も47.7%と、前日の46.4%を小幅に上回りました

画像;FF先物市場の反応

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(出所;Fedwatch)

ドル円は米6月雇用統計の結果を受け、一時160.33円まで本日安値を更新した後、161.30円台まで切り返したかと思いきや、再び失速する乱高下となりました(日本時間1時35分時点)。米10年債利回りは一時4.28%台まで低下、米株は日本時間1時35分時点でまちまち、ダウが下落、S&P500とナスダックは上昇しています。

5分足チャート:ドル円は米6月雇用統計後に乱高下、米10年債利回りは緑線(左軸)

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(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは、以下の通りで、弱い材料が目立ちます。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが市場予想や前月を上回る
・労働参加率は小幅改善

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFP、過去2カ月分は11.1万人の下方修正
・平均時給の伸び、前年同月比で鈍化(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前月比と3ヵ月平均の前年同月比は伸び鈍化
・週当たり労働時間、低迷続く
・失業率、2021年11月以来の高水準
・失業者のうち解雇者は高止まり、再参入者と新規参入者の失業が増加し企業の雇用に対する慎重姿勢を示唆
・米新規失業保険申請件数の継続受給者が増加する通り、失業者の長期化を確認
・不完全就業率は2021年11月以来の高水準を維持
・フルタイムの減少、パートタイムの増加傾向続く

今回の結果を受け、8月に予定するNFPの年次基準改定の暫定値発表で、再び下方修正となる可能性が濃厚となってきました。なお、2023年8月は、同年3月までの1年間が30.6万人下方修正に。仮に8月までのインフレ指標と労働指標が弱含み、さらにNFPの年次基準改定で大幅に下方修正されるなら、ジャクソンホール会合での利下げ示唆、9月利下げのシナリオが意識されます。既にブルームバーグがNFPの下方修正について報じているだけに、注意が必要です。

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比20.6万人増となり、市場予想の19.1万人増を上回っ。前月の21.8万人増(27.2万人増から下方修正)を小幅に下回った程度で、堅調なペースを維持した。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比13.6万人増と市場予想の16万人増を下回った。前月の19.3万人増(22.9万人増から下方修正)に届かず、2カ月ぶりに低い伸びとなった。民間サービス業は11.7万人増と、前月の18.1万人増(20.4万人増から下方修正)を下回った。

チャート:NFPは増加トレンドを維持、失業率は2021年11月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

4月分の5.7万人の下方修正(16.5万人増→10.8万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で11.1万人の下方修正に。2023年以降では、17回のうち速報値ベースで14回目の下方修正を迎えた。以前から筆者が指摘し2023年7月に入ってウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も記事で取り上げたように、NFPは労働市場を過大評価している可能性が引き続き意識される。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で9業種で増加し、速報値ベースでの前月の10業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は9カ月連続で教育・健康、次いで政府、その他サービスが並んだ。一方で、小売と専門サービスは減少に転じた。

(サービスの主な内訳)

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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比1.9万人増と、2カ月連続で増加。業種別をみると、建設が増加トレンドを維持したが、鉱業・伐採は横ばい、製造業に至っては3カ月ぶりに減少に転じた。

(財生産業の内訳)

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の4.6%増→4.7%増と27ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は10業種。輸送・倉庫、専門サービス、情報、金融、公益、卸売、教育・健康、小売、政府、娯楽・宿泊となる。その他サービスが引き続きマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

財部門は前月の3.5%増→3.6%増と、こちらも伸びを広げつつ26ヵ月連続でプラス圏を守った。建設が前月の7.9%増→8.3%増と伸び拡大に寄与した一方で、製造業は前月の1.4%増→1.3%増へ上げ幅を縮小。鉱業・伐採は引き続きマイナスをたどり、前月の7.3%減と変わらずだった。

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.3%上昇の30.05ド ル(約5,600円)と、市場予想と一致しつつ、前月の0.4%を下回った。2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は3.9%、市場予想と一致しつつも前月の4.1%以下となり、2021年6月以来の4%割れ生産労働者・非管理職の前年同月比も4.2%と、2021年5月以来の低い伸びだった前月の4.1%を上回った

チャート:平均時給、生産部門・非管理職と合わせ前年比で2021年半ば以来の低い伸び

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想と前月と一致した。2020年3月以来の低水準だった1月の34.2時間を辛うじて上回ったが、2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けたままだ。財部門(製造業、鉱業、建設)が40時間と2023年2月以来の水準に並んだただし、引き続きコロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは2カ月連続で33.2時間と、低迷が続く。2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下が続く。パートタイムの雇用増加が短縮の一因と言えよう。

チャート:週当たり平均労働時間、財が延びるもサービスが低迷続く

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(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は就労者数の伸びが前月を小幅に下回り労働時間が前月比横ばいだったところ、前月比で0.1%増と前月の0.2%増に続き増加した。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は前月比0.4%増と2カ月連続で増加した。なお、4月分は同0.1%減に下方修正されたため、2020年5月以降の増加トレンドに終止符を打っていた。前年同月比は5.1%増と、2021年3月以来の低い伸びだった。3カ月平均は前月の5.6%増で横ばいながら、前月の5.6%増から今回は5.3%増と鈍化した。

チャート:民間部門の総賃金、ゆるやかな鈍化トレンド再開

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(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は4.1%と市場予想と前月の4.0%を上回り、2021年11月以来の高水準だった労働参加率は前月の62.5%から62.6%へ小幅改善したため、失業率の上昇につながった。また、失業者数は前月比16.2万人増、就業者数の同11.6万人増を上回ったため、失業率を押し上げた。

自発的離職者数は75.2万人と3ヵ月ぶりに増加しつつ、2019年平均を下回った。自発的離職者数に占める失業者の割合は2021年9月以来の低水準だった前月の10.8%から、11.2%へ上昇した。

チャート:自発的離職者数は、3ヵ月ぶりに増加

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(出所:Street Insights)

自発的離職者数が2カ月連続で減少した一方で、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比2.2万人減の236.2万人と3ヵ月ぶりに減少、ただ2021年11月以来の高水準近くを保つ。失職者数の割合は他の増加幅が大きかったため前月の36.0%→35.1%へ低下しつつ、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は0.98%と、2021年11月以来の高水準をつけた前月の1.05%から低下した。その他、一時解雇者は前月の12.6%→12.1%へ低下。今回、失業率を押し上げたのは自発的離職者数のほか、再参入者と新規参入者で、それぞれ前月の30.9%→31.1%、前月の9.5%→10.5%へ上昇した。

チャート:失業者に占める失職者の割合は低下、再参入者や新規参入者の2カ月連続で上昇

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(出所:Street Insights)

チャート:失職者は小幅減も高止まり

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(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の比率は2021年11月以来の水準へ上昇した前月の1.01%から低下も、引き続き2019年平均を上回る

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(出所:Street Insights)

解雇者数の増加などが失業者数を押し上げるなか、サーム・ルール(失業率の直近3ヵ月移動平均と過去1年間での最低水準の差が0.5pt以上なら、1年以内に景気後退入りするとの説)を確認すると、6月は過去2カ月間の0.37ポイントを経て、0.43ポイントへ上昇しコロナ禍での景気回復局面で最高を記録した。景気後退入りのサインとなる0.5%乗せに近づいた格好だ。

チャート:サーム・ルール(直近3カ月の移動平均と過去1年間の最低水準の差)、コロナ禍後の回復期で最も0.5ptに近付く

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(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したように、前月の62.5%から62.6%へ小幅改善した20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%を下回り続けた。

就業率は前月と変わらず60.1%と、低水準を維持2020年2月(61.1%)以下が続く。

チャート:労働参加率は小幅改善、就業率は低水準を維持

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(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は2カ月連続で7.4%となり、2021年11月以来の高水準を維持した。家計調査でパートタイムが再び増加するなか、予防的利下げを行った2019年平均の7.2%を上回った。

チャート:不完全就業率、2021年11月以来の高水準を維持

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(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.9週から9.8週へ大幅に延び、がら延び。2022年2月以来の水準に長期化した。また、27週以上にわたる失業者の割合も22.2%と前月の20.7%から上昇し2022年5月以来の高水準に。米新規失業保険申請件数の継続受給者数の増加と、整合的だ。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合

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(出所:Street Insights)

チャート:米新規失業保険申請件数、足元で右肩上がり

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(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比0.4万人減と4カ月連続で減少し97.3万人。引き続き、コロナ前平均の2015‐19年の平均値を上回りつつ、2015ー19年平均に接近しつつある。コロナやインフルエンザの観戦者などが減少し病気が理由で働けない人々が減少した一方で、労働参加率は伸び悩みが続く

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値に接近

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが20.6万人増に対し、家計調査の就業者数は11.6万人増と増加に転じ、NFPの結果と整合的だった

チャート:NFPと家計調査の就業者数、6月はそろって増加

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比2.8万人減と、過去7カ月間で6回目のマイナスとなった。一方で、パートタイムは同5.0万人増となり、過去8カ月間で幅に7回目の増加に。複数の職を持つ者は同5.9万人減と減少に転じた。引き続き、企業は需要低下を意識しフルタイムの雇用に慎重な様子が伺える。

チャート:フルタイムは過去7カ月間で6回目の減少、パートタイムは逆に過去8カ月間で7回目の増加

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は6月に減少も、高止まりを継続

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下してきた。直近のデータをみると、CESは2024年3月に43.5%、雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は33.2%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか、2024年4月に69.7%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

これまで筆者は、複数の職を持つ者がNFPを押し上げた可能性を指摘していた。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるため(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。最近では、NFPを算出する上での起業・廃業モデルにも注目。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、2023年7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。

今回を振り返ると、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比5.9万人増と、前月の23.1万人増に続き増加。NFPをある程度、押し上げた可能性を示唆した。

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増減(季調前)の推移

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(出所:Street Insights)

(カバー写真:World Relief Spokane/Flickr)

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